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    国際平和の視点が足りぬ独立論―スコットランドと沖縄

    榊原 智・産経新聞論説委員 中東で過激派組織「イスラム国」に対する空爆作戦に参加している今のイギリスをみればウソのようにも思えるが、この国は先月、スコットランドの独立をめぐって揺れに揺れていた。 9月18日のスコットランド住民投票で独立は否決されたものの、英国のような主要国の一地域が、平和裏に分離独立する一歩手前までいったことは世界に波紋を広げた。日本でさえ、ごく少数とはいえ独立論者が存在する沖縄への影響が取り沙汰されたほどである。 「英国の成熟した民主主義」の証として称える声もあった。クリミアの分離に端を発したウクライナ・ロシア間の紛争を見るまでもなく、地域の分離独立をめぐってテロや内戦、外国との戦いが生じることに比べれば、英国とスコットランドが合意した住民投票ははるかにましな手段ではある。 けれども筆者は、今回の住民投票をみて、英国は衰えたという感が拭えなかった。スコットランドが独立する場合に生ずるであろう国際平和に対する負の影響への考慮、世界にどれほどの迷惑をかけるのかという視点が足りなかったように思われたからだ。国際平和の視点を欠いた振る舞いは、近現代の世界の歴史を左右してきたうちの一国である英国らしくない。 ある国民や地域の住民が、自分たちの利害を主として考え、行動するのは当然であり、批難はできない。けれども、そのことばかりを追い求め、自分たちの国、地域が果たしてきた世界に対する責任に思いが至らないというのでは、いささか身勝手ではないだろうか。 そして、このような国際平和に対する責任感の不足は、スコットランドのケース以上に、沖縄の独立論において一層強いように思われる。英国の弱体化は何をもたらすか 「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」の国名が表わすように、英国は、イングランドやスコットランドなどから成る連合体だ。スコットランドはもともと独立した王国であり、スコットランドを起源とするスチュアート朝のジェームズ1世が、1606年にイングランドの王位も兼ねたことで、イングランドとスコットランドは同君連合の関係となった。1707年にようやく、2つの王国が合併してグレートブリテン連合王国となった。 このような歴史的経緯があったことも一因となって、スコットランドが独立の是非を問う住民投票を求めた時―感心できない政治判断ではあったが―英保守党のキャメロン首相は受けて立ったのだろう。もし、スコットランドの独立が実現していれば、世界の秩序、国際平和にどんな影響が生じただろうか。 英国の国民総生産(GDP)は日本の6割程度、人口はほぼ半分だ。昔のような7つの海を支配する覇権国ではないものの、世界の秩序にとって楔(くさび)の役割を果たす主要国の一員である。 スコットランドのGDP、人口はそれぞれ、英国の1割弱だ。スコットランドが分離すれば、英国はほぼ同規模のフランスと比べ、明らかに小さな国となり、国際政治における力は低下する。 また、英国は自前の核戦力を維持できなくなったかもしれない。そうなれば存在感はさらに小さくなったであろう。 英国は、必要最小限の核戦力として、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)搭載原子力潜水艦を運用している。英原潜の母港は、スコットランド南西部のクライド海軍基地だけだが、スコットランド独立賛成派の多くは、核兵器反対や核搭載原潜の基地撤去を訴えていた。 独立したスコットランドが英原潜の母港の維持を拒否すれば、移転費は3兆数千億円に及ぶとされ、英国の財政が負担に耐えられるかは不透明だった。 英国が核戦力を放棄すればフランスとの間の政治力の格差は決定的になる。フランスと並ぶ西欧の核の一角が崩れることは、北大西洋条約機構(NATO)の安定や、「欧州」の世界に対する発言力の観点から、好ましい結果が出るとはとても思えない。 外交官や学者、マスコミがどんなにきれい事を言っても、国際社会の本質は残念ながら今も「ジャングル」である。他の核兵器国である米国やロシア、中国などの存在感が相対的に増すことにつながる。 現代世界の基本構造を考えてほしい。いろいろ勇み足をするものの、自由と民主主義を掲げる米国が、核戦力を含む巨大な軍事力を背景に、国際秩序の主たる担い手となっている。 であればこそ、石油・天然ガスなどエネルギー源や食料をはじめとするさまざま物資の自由貿易が可能になっている。「イスラム国」のような勢力が中東を席捲(せっけん)するのを放置すれば、日本が原油や天然ガスを輸入できるわけがない。今の国際秩序があればこそ、膨大な金融取引や情報の流通を支えるインフラ、法体系も整備され、機能し続けている。 ただし、米国一国だけではこの秩序は維持できない。政治、経済的には、ロシアを除く主要国首脳会議の参加国であるG7各国などが、軍事的には、大西洋においては北大西洋条約機構(NATO)、太平洋においては日米同盟などが、この秩序を支えている。 このような構造の中で、英国は重要な役割を果たしてきた。オバマ米大統領がスコットランド独立否決を受けた声明において、米英関係は「特別な関係」であり、「英国ほど重要な同盟国はない」と述べたのがその証だ。米英関係は、歴史、言語、海洋国家という幾重もの絆で結ばれた同盟関係であり、海洋国家と大陸国家の関係である米仏、米独関係では代替できない。 英国の政治的、軍事的な弱体化は、中長期的にみて、世界の秩序に遠心力を働かせるだろう。プーチン大統領のロシア、習近平国家主席の中国が、力を背景に国際秩序の変更に乗り出している今、イギリスを弱体化に導くスコットランド独立をもてはやす人々の気が知れない。 筆者の友人である戦略学者の奥山真司氏は、英国に滞在して、スコットランド住民投票をめぐる独立賛成派、反対派の論争をつぶさにみてきた。奥山氏によると、論争の多くは、スコットランド住民の経済的損得に費やされていたという。 安全保障も論じられはしたももの、英原潜の母港の問題にしても、クライド海軍基地を廃止することによる雇用喪失のデメリットが主として語られていたという。 日本とは第1次大戦では味方、第2次世界大戦では敵の関係にあったが、スコットランドを含む英国の国民は、2つの大戦を団結して戦い抜いたはずだ。その連帯の記憶も薄れたのだろう。 ソ連の脅威がなくなり、スコットランド独立賛成派は、経済的には欧州連合(EU)の、安全保障はNATOの下にそれぞれいれば大丈夫だと踏んだのだろう。北海油田の税収による社会福祉の向上も魅力的だったようだ。 生活、経済の問題は切実な問題だろう。しかし、世界の人々の暮らしの基盤をなす世界秩序、国際平和の維持に英国が果たしてきた役割、つまりはスコットランドの人々も英国民として果たしてきた国際的役割の重みについても、プライドをもって論じてほしかった。 英国のような主要国の国民、または地政学的に国際平和の行方に大きな影響を与える地域の住民は、自国や自分たちの地域の動向が、世界にどのような影響を与えるかまで考え抜いて、行く道を論じる責務がある。 この文脈においては、英国のスコットランド独立問題と、たとえばスペインのカタルーニャやバスク各自治州の独立問題とでは、世界における重みは異なる。スコットランドの独立は、われわれ日本人の生存に跳ね返ってくるかもしれないが、カタルーニャやバスクの問題はその度合いがはるかに小さい。沖縄だけの問題ではない「沖縄問題」 同様に、沖縄の問題は、決して沖縄県民だけの問題ではない。沖縄以外の日本国民にとっての重要事ではあるのは勿論だが、アジア・太平洋をはじめとする世界の人々の問題でもある。 スコットランド住民投票の直前の9月17日、内閣改造で新たに入閣した山口俊一沖縄北方担当相が、就任時の報道各社のインタビューで、沖縄独立論への見解を問われ、「今のところ全く現実味がない話だ」と答える場面があった。 山口氏の言いたかったことは、沖縄独立は現実味がない点、そして「(沖縄とスコットランドは)歴史的背景も置かれた状況も全く違う。あまり(スコットランド住民投票の)影響はない」という点にあったのは明らかだ。 ただ、山口氏が「もっと沖縄の世論としてあれば(政府も)ちょっと検討しないといけないが、今のところそういう話は聞いていない」と述べたのは、いかにも余計なことだった。時事通信のように「沖縄独立『世論高まれば検討』=現実味は否定-山口担当相」と報じるメディアもあった。 そもそも日本政府は、日本から一部の地域が独立することについて、憲法に規定がなく、また、憲法に基づく日本の法体系を排斥するものであって、認めないという立場をとっている。 1997年2月の衆院予算委員会で、大森政輔内閣法制局長官(当時)は「独立という言葉は法律的に申し上げますと、我が国の憲法をはじめとする法体系が排除され、現在の憲法秩序とは相いれない事態になる。言葉を換えますと、現行憲法下では適法にそのような行為はできないのではなかろうか」と答弁している。 菅義偉官房長官は、今回のスコットランド住民投票後の記者会見で、沖縄の独立論議について「日本では住民投票で帰属を決めることは歴史的になじまない」と述べた。 山口氏はもっと言葉を選ぶ必要があった。沖縄の世論が今後、独立に傾くことは考えにくいが、万々一そのような動きが出てきたとしても、日本国の政治家の最大の義務の1つは、領土を含む国の一体性を守り抜くことである。 日本の国務大臣は常に、沖縄独立など断固認めないと即座に語るのが当然ではないか。山口氏の発言は、戦後世代の日本の政治家の弱い面が現われたように思われる。国家意識が弱いことはいいことだという戦後の風潮が安倍内閣の閣僚にも及んでいるのだろうか。 もっと驚かされたのは、沖縄県知事選に出馬を予定している下地幹郎元郵政民営化担当相の発言だ。下地氏は8月26日、日本政府との基地問題交渉が決裂した場合、「琉球独立を問う住民投票をやる」と表明した。 下地氏はもともと自民党所属の衆院議員だったが、離党し、無所属などを経て国民新党の幹部となり、野田佳彦第3次改造内閣では閣僚を務めた。日本政府との基地問題の交渉を有利に導く方便として独立投票を持ち出したのかもしれないが、保守政党である自民、国民新の両党に所属し、入閣まで果たした政治家の発想としては残念すぎる。 沖縄にとって米軍基地の負担は避けて通れない課題であろう。しかし、「内地」が沖縄を犠牲にしているとの被害者意識をあまりに強調するのは、世界に対する責任を顧みないスコットランド独立派の議論に通ずるものがあると思わざるを得ない。 今や沖縄は、日本防衛の最前線となっている。急速に軍拡を進める中国が奪おうとしている尖閣諸島は沖縄県石垣市に属する。沖縄の米軍は、朝鮮半島有事、台湾海峡有事、尖閣など日本有事のいずれにもにらみを効かす。日米同盟の抑止力強化にも貢献している。 沖縄は、米軍基地があることでアジア太平洋の平和の要石の役割を果たしている。このような沖縄の安定こそ、アジア太平洋を火薬庫にしないための条件なのだ。 沖縄が独立することで要石の役割を放棄すればどうなるか。人類の歴史を見れば、地政学的価値のある地域(国)が、力の裏付けのない中立を保つことなど絵空事である。日本や米国が引くとしたら、日ならずして沖縄は中国に支配されることになるだろう。 スコットランドを失う場合の英国と同様に、沖縄を失った場合、日本の国際的地位は確実に下降する。これはとりもなおさず、アジア太平洋や世界の秩序、平和、経済などへの日本の発言力の低下を意味する。平和主義の日本が発言力を失うことが、国際平和の増進につながるわけもない。 沖縄を勢力下、支配下に置いた中国は、東シナ海を制すことになる。その海洋進出には拍車がかかり、日本のシーレーン(海上交通路)は脅かされ、日本の対中防衛線は、奄美大島から九州沖にかけての海域に下がることになる。日本に独立を尊ぶ気概が残っていれば、防衛費の大幅な増額が必要になるだろう。 負の影響を受けるのは、日本だけではない。米軍はグァムまでひくことになりかねない。台湾の現状維持は危うくなるし、米中角逐の「主戦場」である南シナ海においても―米国が直ちに敗退することはないにせよ―天秤は中国有利へ傾く。ベトナムやフィリピンは、自国の安全保障が一層厳しい状態になることを自覚せざるを得ないだろう。 さらに、中国国内で弾圧にさらされている人々にとってはどうだろうか。中国の国威が増すことが、ウイグルやチベットにおける圧制を和らげる方向に働くはずもない。 沖縄の独立は、沖縄自身のみならず、日本やアジア太平洋などの安全保障、人々の暮らしにも大きな負の影響をもたらしかねない。 日本国憲法でさえ、前文で「いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」としている。「国家」を「地域」と読み替えても同じことであろう。 沖縄には、自分たちがアジア太平洋地域、世界の平和に大きな責任をもっている存在であることを、プライドをもって自覚してほしいものである。基地問題にしても、被害者意識を振り回すのではなく、日本の、アジア太平洋地域の、そして世界の平和や秩序の維持に寄与しているという視点を持てないものか。そのような誇りある沖縄の主張を聞いてみたいものである。

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    スコットランドの独立否決で分離独立主義の幻想を増長と中国紙

    英スコットランドの最大都市グラスゴーで19日、独立否決の投票結果に英国旗を振って喜びを爆発させる住民(ロイター) 英国からの独立を否決したスコットランドの住民投票は、民族主義の台頭や国家体制のあり方をめぐり、国際社会に波紋を広げた。ドイツ紙は欧州各国内の分離独立派を念頭に、極端な民族主義が勢いづくことへの警戒感をあらわにし、米紙は安全保障の視点から「不可欠な同盟国」の安定化を歓迎。中国紙は台湾やチベット、新疆の独立機運に神経をとがらせ、「核心的利益」の死守を声高に叫んでいる。南ドイツ新聞(ドイツ) 偏狭なナショナリズムに警戒感 複雑な現代社会での国家存続には相互補完が欠かせない-。南ドイツ新聞は21日付社説で、スコットランドの独立否決を「多くの政治・経済的観点からみれば、合理的で正しかった」と評価した上、大衆迎合に傾きがちだった一部の独立賛成派の主張は「複雑な世界を矮小化(わいしょうか)している」と指摘。欧州連合(EU)内で頭をもたげる偏狭な民族主義とも重ね合わせ、その台頭に警鐘を鳴らした。 社説は、一部の民族主義者が独立運動で採用したのは「狭苦しい英国から逃れるため、新たな境界を引く」という「古い手段」だったと指摘する。これは「小さくなれば、簡単でよりよくなる」と訴え、EU離脱を掲げる英国独立党やフランスの極右勢力の主張と通じるものであり、耳当たりの良い「大衆迎合主義者の救世の方法」にすぎないと切り捨てる。 社説は、国際化した現代の世界では、民族の独自性を前面に押し出すだけで「国家を満たすことはできない」と強調する。単一民族による国家の運営が、地域の実情に即した決定を下せるメリットもあるが、金融や市場のシステムの事例が示すように、国家の存続には結局、EUのような広範な仕組みの一つとなって、足りない部分を相互補完することが欠かせない。その「補完性」こそが、欧州統合を貫く一つの基本的な考え方でもある。 社説は、この複雑な仕組みは「しばしば理解が難しく、人々は平易な言葉の影響を受けやすくなる」と指摘する。大衆迎合主義者は現実を「単純化」することで回答を提示しているようにみえるが、実際には物事を極端に矮小化することで、重要な現実から目を背けさせているとの見方だ。 欧州ではスペインやベルギーで分離独立派が勢いづき、反EU勢力の拡大も懸念される。社説は現実から目を背け、ことさらに民族主義をあおる偏狭なナショナリズムの広がりに「英国のみならず、欧州全体も警戒する必要がある」と強調している。(ベルリン 宮下日出男)ウォールストリート・ジャーナル(米国) 同盟国も「安堵のため息」 米紙ウォールストリート・ジャーナルの20、21日付社説は、独立が招きかねなかった経済面の危険性を理解するスコットランド人や英議会だけでなく、安全保障への影響を不安視していた米国などの同盟国も独立否決で「安堵(あんど)のため息をついた」と指摘した。長年、自由と安定の砦(とりで)となってきた英国が、スコットランド分離で縮小を余儀なくされることへの危機感は強く、これを払拭した否決を「スコットランド人の英知」と歓迎した。 社説は、英国を「大西洋世界の柱で、米国にとり、欠くことのできない同盟国」と位置付ける。その上で、中東ではイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」などの極端なイスラム主義が勃興し、ロシアがウクライナへの威嚇を続けている国際情勢を挙げ、「統一が保たれ、繁栄し、安定した英国は、西側諸国に恩恵をもたらす」と強調した。 また、社説は、世界の多くの地域で民族が独自の国家を形成しようとする「エスノナショナリズム」が広がっているとも指摘する。そうした集団の感情をプーチン露大統領のような非民主的な指導者らがかき立て、自らの目的達成に利用していると批判し、今回の独立否決は「歓迎されるべきエスノナショナリズムの拒絶だ」とした。 一方、米紙ニューヨーク・タイムズは20日付の社説で、独立が可決されていれば、英国の核戦力である潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の「トライデント」を搭載した原子力潜水艦がスコットランドを離れ、他の母港を探さなければならなかったと指摘。経済面でも、スコットランドが英ポンドを引き続き通貨とする道筋を探らねばならなかったはずで、「混乱と騒動に発展する可能性があった」と指摘した。 こうしたことから、「注意深い多数派にとって、統一(の維持)がもたらす実利を自治の魅力が押さえ込むことにはならなかった」とスコットランドの選択を分析した。(ワシントン 加納宏幸)環球時報(中国) 分離独立主義の幻想を増長 スコットランドの住民投票について、中国政府は「英国の内政問題」との立場で表向きには一貫している。だが、内心では欧州各地で高まる独立機運の波及に神経をとがらせており、独立否決という結果に安堵(あんど)したことは、25日付の中国共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時報(英語版)からも読み取れる。 環球時報は1面からの記事で、「台湾のいくつかの政治団体は、今回の投票を台湾が独立を要求する前例に挙げようとしている」と指摘した。中国国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官が記者会見で、「われわれは“1つの中国”を順守しており、一貫して台湾の独立に反対している」と述べ、台湾とスコットランドは「全く違う」と述べたことも改めて強調した。 だが、すでに“波紋”は台湾以外にも広がっている。チベット亡命政府があるインド北部ダラムサラの活動家らが運営するニュースサイトは「いつか必ずチベットの人々も同じことを行う」と宣言。亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議」のカーディル議長も「ウイグル族は同じ民主プロセスを用いることを願っている」と発言した。 もちろん、欧州の独立機運が「核心的利益」に波及することを中国政府は看過できない。政府系シンクタンク、中国社会科学院の専門家は環球時報に「スコットランドの住民投票は分離独立主義者の幻想を増長している」と述べ、この潮流を絶えず警戒するよう当局に促した。 また、ある評論家は「スコットランドの問題は主に資源の分配や経済発展の利権だ。そこには外国の干渉はないし、イデオロギーの衝突もない。しかし、中国はすべての問題に対処しなければならない」と憂えた。「中国は台湾やチベット自治区、新疆ウイグル自治区、香港で英国よりも複雑な問題に直面している」との分析は、習近平指導部の抑圧的な政策で「核心的利益」を取りまく状況が悪化していることを物語っている。(北京 川越一)

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    【安倍政権考】「自衛官の命」を守るためにも

     集団的自衛権の限定的な行使容認を柱とする1日の閣議決定をめぐって、奇妙な現象が起きている。災害派遣を除き自衛隊が果たしてきた役割に批判的 で、自衛隊を尊重したことがほとんどなかった人々や勢力が「自衛官の命」をにわかに心配するようになったのだ。彼らの大部分は左翼・リベラル派である。 14、15の両日に国会で開かれた集中審議もそうだった。集団的自衛権の行使容認に反対する議員たちが相次いで、安倍晋三首相(59)に、自衛官が亡くなるリスクを認めるよう迫った。 社民党は集団的自衛権反対を訴える党のポスターに「あの日から、パパは帰ってこなかった」と、大きく記した。 「おためごかし」という言葉は彼らの議論を表すのにぴったりだ。集団的自衛権の行使容認に反対する手段として使っているだけではないのか。首相にリスクを語らせ、反対の大宣伝に利用する底意があるとしたら、品性に欠ける振る舞いでもある。重い「服務の宣誓」 国会審議で、民主党の岡田克也前副総理(61)は「自衛官の生命のリスクを高めることと認めた上で、(自衛隊の任務拡大の)必要性を議論すべきだ」と論じた。共産党の小池晃氏(54)は「初の戦死者を出すかもしれない。集団的自衛権を命の重さの観点から掘り下げなければならない」と語った。社民党の吉田忠智党首(58)は「米国の戦争に自衛隊が参加して血を流すことになるのではないか」として、リスクを認めるよう首相に迫った。 危険が増すという視点ばかりを強調している。しかし、自衛隊は今までも、危険な任務に従事してきた。しかも、1日の閣議決定は、自衛隊の任務拡大の態勢を整える ことで抑止力を高めることをねらっている。「自衛官の命」にとって安全の方向に作用する面もある。そこもわきまえなければ不公平というものだろう。 これまで自衛隊と自衛官は、1日も怠らず、生命を賭して日本と日本国民を守ってきた。国際平和協力活動も行ってきた。イラク派遣では宿営地に迫撃砲弾が何 度も飛来している。自衛隊は警察予備隊時代からこれまでに、任務または訓練で1800人以上の殉職者を出している。国を守るため亡くなった尊い犠牲であ る。自衛官は全員が、「強い責任感をもって専心職務の遂行に当たり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえることを誓います」との「服務の宣誓」を行っている。 左翼・リベラル派には、自衛官がこのような誇りある宣誓をしていることへの尊敬、感謝の念が欠けている。そもそも、政府が自衛隊の安全、自衛官の命を守る手立てを講じようとするたびに、憲法9条を盾に妨げてきたのが、左翼・リベラル派だったのではなかったか。本当に心配するなら 自衛官の命の問題を論じるなと言うつもりはない。本当に心配するのであれば、左翼・リベラル派が「戦後平和主義」と称して、自衛隊に強いてきた手かせ足か せを外すことこそ論じてほしいものだ。世界の普通の民主主義国の軍隊と同様の権限と名誉、装備を自衛隊に与えることが、国の独立と平和、国民の生命財産の 確保につながり、自衛官の命を保護する近道にもなる。 安倍首相は、自身が自衛隊の最高指揮官であるとの自覚をしばしば強調する。隊員一人 一人に家族がいることも重々承知している。その首相が、集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障改革を進めている事実の重みを理解できない左翼・リベラル派とは、実に残念な人たちではないか。(論説委員 榊原智)

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    【安倍政権考】中国を抑止する「機雷掃海」

     集団的自衛権の行使容認をめぐる与党協議が大詰めを迎えている。安倍晋三首相(59)と公明党の山口那津男代表(61)は19日の党首会談で、早期の合意を目指すことで一致した。なお残る対立点の一つが、停戦前でも海上交通路(シーレーン)の機雷掃海活動を認めるかどうかだ。 公明党は反対し、政 府・自民党は、中東のペルシャ湾を事例集に挙げて必要だと主張している。もっとも、その意義はペルシャ湾でのオイルルート確保にとどまらない。中国や北朝 鮮が東・南シナ海や日本近海などで「機雷戦」を挑んでくることを牽制(けんせい)し、抑止することにもなる。公明党は、掃海活動が日本の平和に直結するこ とを理解し、容認へ転換すべきだ。集団的自衛権の対象から停戦前の掃海活動が外れていちばん喜ぶのは、公明党ではなく、中国や北朝鮮の軍部であるからだ。10万個超を保有か 山口氏は「敵対行為とみられて攻撃される。そこまでやるべきかは慎重に」と語っている。 しかし、日本が輸入する原油の8割は中東産だ。日本籍だけでなく、さまざまな国の船籍で、かつ外国人が乗組員のタンカーで運ばれてくる。ペルシャ湾、ホル ムズ海峡、インド洋、マラッカ海峡、南シナ海またはフィリピン周辺海域そして日本近海へ至るシーレーンを通ってくる。個別的自衛権では対処しきれない。 米海軍大学の『海軍大学レビュー』65号(2012年)には、中国近海における機雷戦を、専門家が検討した論文「機雷の脅威を検討する」が掲載され、12年の海上自衛隊の論文集『海幹校戦略研究』(2巻1号増刊)に翻訳・掲載されている。 それによると、湾岸戦争当時の1991年2月、イラクが敷設した1300個の機雷によって、米海軍はペルシャ湾のコントロールを一時的に失った。朝鮮戦争では、北朝鮮東岸の海域に3000個の機雷が敷設され、50年10月の国連軍の元山上陸作戦を妨害した。 ちなみに、占領軍の命令で吉田茂内閣が海上保安庁の特別掃海隊を派遣し、触雷で日本人に死者1人重軽傷者18人が出たのは、このときである。 論文は、中国海軍は、機雷が費用対効果の高い兵器であることを理解し、10万個以上の機雷を保有していると推定。航空機や潜水艦、駆逐艦だけでなく商船や漁船でもひそかに敷設できるとした。 中国海軍が機雷を敷設するケースとしては、台湾有事や南シナ海危機、朝鮮有事があげられた。グアム島近辺や東シナ海、西太平洋への敷設もありえるとした。 そして、米海軍の対機雷戦能力は限定的であるとして、日本や韓国の掃海能力の発揮が、シーレーンの確保に欠かせないとの認識を示した。「巻き込まれる」は間違い これが現実である。「米国の戦争に巻き込まれるから、機雷掃海は反対」と騒ぐのは間違っている。 日本にとって朝鮮有事や台湾有事は人ごとではない。避難する邦人を乗せた外国船を守るなら、機雷掃海も当然必要だ。シーレーンの安全確保も、通商国家の日本にとって死活的に重要だ。 また、南シナ海は、核ミサイル搭載の中国原潜が潜み、米海軍とにらみあう海である。世界の商業海運の半分が通過する大動脈でもある。「航行の自由」が何よりも求められる海域だ。 日本が積極的に掃海活動にあたる構えを示し、中国が機雷戦への誘惑にかられることを抑えることは日本の存立にかかわることである。(論説委員 榊原智)

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    【安倍政権考】「憲法改正」の時代 政党、重み踏まえ行動出来るか

     憲法改正手続きを定める国民投票法改正案が9日、衆院本会議で可決、参院へ送付された。今国会で成立する見通しで、現憲法施行67年目にして初め て、国民投票の実施へ前進した。日本が憲法改正という新しい選択肢を持つ時代に入る意義は大きい。 自民党の船田元(はじめ)憲法改正推進本部長(60)は 8日、「憲法改正原案をどう作っていくのか。いよいよ本丸に入っていく段階になる」と語った。憲法改正草案を持つ自民党だけでなく、「護憲」以外の政党 は、具体的な改正案をまとめ、合意形成を目指すべきだろう。緊急事態条項・環境権から 最初の国民投票は、2016年か17年になりそうだ。16年なら、参院選とのダブルか、衆参同日選とのトリプルも可能だ。緊急事態条項や環境権が問われ、憲法改正は実現するのではないか。 東日本大震災の際、民主党の菅直人政権は、関東大震災級の地震への備えだった災害対策基本法上の「災害緊急事態」の宣言を見送った。憲法に緊急事態の規定があれば政府の事前準備がきちんととられ、対応は違っていたかもしれない。 緊急事態条項は、国民と憲法秩序を守るものだ。西修駒沢大名誉教授(73)の調査では、1990年から2011年夏までに制定された99カ国の新憲法のすべてに緊急事態条項が備わっていた。 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故を経験した国民は、きちんとした説明さえあれば、緊急事態条項に賛成するだろう。環境権についても反対が多数を占めるとは思われない。 9条改正はどうか。本来なら真っ先に行われることが望ましい。普通の民主主義国と同様に、自衛隊を軍隊として位置付けなければ日本の安全保障上の欠陥は解消しないからである。 しかし、参院では9条改正に積極的な政党が3分の2以上を確保しておらず、最初の対象にはなりにくい。  「9条改正は国民が憲法改正に慣れた『慣熟運転』の段階で問うのが現実的だ」 自民党の船田氏は3日、都内で開かれた民間憲法臨調のフォーラムでこう述べた。そのうえで、最初の国民投票では緊急事態条項、環境権などの新しい人権を問う考えを示した。 これに対し同臨調の櫻井よしこ代表も「(改正の発議要件を緩和する)96条改正や緊急権など、9条以外から始めても姑息(こそく)ではない」と理解を示した。官公労の勧誘認めた欠陥 今回の国民投票法改正案には、公務員が憲法改正の是非を組織的に働きかける勧誘運動を認めた欠陥がある。自治労や日教組の猛烈な運動があれば、公務員の政治的中立など吹き飛んでしまう。 国民投票は主権者国民による最も高度な政治行為だ。公正さを保つため公務員の組織的勧誘運動には規制が必要だ。 また、国民投票の投票年齢に加え、選挙権年齢、成年年齢などを2年以内に「18歳以上」へ引き下げる検討も今後の課題である。 いずれも結論を急くべきだ。ただ、民主党や公明党が、これらの協議を理由に憲法改正原案の作成に踏み込まない恐れがある。それでは本末転倒になる。 国民投票法改正には賛成した両党だが、肝心の憲法改正では護憲政党と変わりがない。民主党は党内に強固な護憲派勢力を抱え、憲法改正に手を触れれば遠心力が働く。「加憲」を掲げる公明党にしても、9条絡みの議論を避けたい思惑がある。 しかし、政党は、憲法改正を政治日程に載せられる時代になった重みを踏まえて行動しなければならない。野党再編も、憲法改正への対応が結集軸の一つになることが期待される。(論説委員 榊原智)

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    【安倍政権考】国民投票法が「改憲阻止法」に

     自民党が民主党に譲歩することによって、憲法改正手続きを定めた国民投票法が、“改憲阻止法”の色彩を帯びようとしている。国民投票法の改正をめぐって、船田元(はじめ)自民党憲法改正推進本部長(60)ら自民、公明、民主3党の実務者は、公務員が組織的に改憲の賛否を働きかける「勧誘運動」を当面の間認める案で合意した。みんなの党も国会への共同提案に加わる方針だ。公務員労組に批判的な日本維新の会は難色を示して与党側と折衝中だが、今国会でこの改正案が成立する可能性がある。国民投票運動の公正さを損なう懸念も拭(ぬぐ)い去(さ)れない。自民党総裁の安倍晋三首相(59)は、それで構わないのだろうか。民主党に譲歩 公務員の組織的な「勧誘運動」は、選挙運動では認められていない。国民投票運動で容認されれば、全日本自治団体労働組合(自治労、約85万人)や全日本教職員組合(日教組、約26万人)などの公務員労組の多くが、猛烈な改憲反対闘争を展開するかもしれない。 公務員には政治的中立性が求められる。憲法改正の判断は、国民による最も高度な政治行為だ。特定の主義主張を背景とした公務員の組織運動が、国民の自由な判断を左右しようとする状態を認めていいとは思われない。 与党案には当初、公務員の組織的な「勧誘運動」を禁ずる条項があった。ところが、民主党を加えて改正案の国会提出をしようとする余り、与党は労働組合を支持団体とする民主党の主張に配慮して、この条項を削ったのだ。 「勧誘運動」の是非を検討することは国民投票法改正案の付則に書き込まれるが、「勧誘運動」は当面の間認めることになる。一度容認すれば禁止は政治的に至難の業となるのは明らかだ。 第1次安倍内閣当時の2007年、国民投票法が成立した。その過程で民主党は、衆議院と参議院でそれぞれ3分の2以上の賛成がなければ国民投票を実現できないのだから、自公民3党の協調が必要だと主張していた。 当時の自民党も譲歩を重ねた。民主党や公明党との協議の結果、国民投票法の公布から施行までの期間を、当初案の2年から3年へ延長し、衆参憲法審査会の憲法改正案の審査権限も3年間凍結した。 さらに、国民投票運動への公務員のかかわり方は、選挙運動よりも緩和することになり、施行後3年間で制度を整えることが宿題となった。総裁のハンドリングは? しかし、09年に政権をとってからも民主党はこの宿題を放置し、憲法問題にほとんど取り組まなかった。 国会法の改正によって、本来なら07年夏に動き出すべきだった衆参の憲法審査会は、民主党の「サボタージュ」で審査会規程の制定が見送られ、11年11月の始動まで放置されたのである。 10年5月に民主党出身の西岡武夫参院議院運営委員長(当時、のち参院議長)が筆者によるインタビューで、「憲法審査会が始動していない。いわば法律違反の状況で極めて遺憾だ。申し訳ない」と嘆いたほどだった。 民主党は自らを改憲政党に分類したことがあるが、実際には不誠実な態度を重ねてきた。党内有力勢力の護憲派に気兼ねしたのか、それとも「護憲」が本音なのか。 衆院は自民党、維新の会だけでも3分の2を優に上回る。参院では改憲政党が3分の2に達していないが、昨年7月の参院選の改選だけを見れば、自民、維新、分裂前のみんなの3党でちょうど3分の2をとっている。 なぜ自民党は、国民投票運動への悪影響を顧みず、民主党への配慮にこだわるのだろう。安倍総裁は、憲法改正をしたいのなら自分の党をもっとハンドリングした方がいいのではないか。(論説委員 榊原智)

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    【安倍政権考】日本とインドの深い関係

     安倍晋三首相(59)は1月25日から3日間の日程でインドを訪問し、シン首相(81)と会談した。安倍首相は現地で記者団に「インドとの安全保障関係が格段に強化される」と述べ、同月27日には、国家安全保障局(NSC)の谷内正太郎局長(70)がインドの国家安全保障顧問と初会談した。海上自衛隊とインド海軍は両国間や、米海軍も交えた3カ国の共同演習を実施する。 日印が安保協力を推進するのは、軍事的に台頭する中国が悩みのタネだからだ。地政学的にも、インドは、日本や中国と中東地域を結ぶ海上交通路(シーレーン)の真ん中に位置する。 インドとの関係は尖閣諸島の防衛に直結している。万一、尖閣をめぐって日中が衝突すれば、日本のシーレーンは中国潜水艦に脅かされる。米第7艦隊の役割は大きいが、インドの動向も重要だ。中国にとってもシーレーンは大切であり、日印協力が中国の無謀な軍事行動を抑止する効果を期待できるかもしれない。 日本は今後、インドに加え、米国、豪州とも協力してシーレーンの安全を保っていかねばならない。その点からも集団的自衛権の行使容認は欠かせない。独立に寄与 インドは親日国だ。天皇皇后両陛下の昨年のインドご訪問は温かく迎えられた。昭和天皇の崩御でインドは3日間の喪に服し、インド国会は広島原爆忌の8月6日に毎年黙祷(もくとう)を捧げている。 極東国際軍馬裁判(東京裁判)では、インドのパール判事が1948年、被告全員を無罪とする判決を書いた。49年には、首相だったネルーが日本の子供たちを励まそうとゾウのインディラを上野動物園に贈ってくれたエピソードもある。 親日の背景には、アジア解放を掲げた大東亜戦争がある。インドは47年にイギリスから独立したが、それに最も寄与した国は日本だった。 44年3月、ビルマ(現ミャンマー)方面の日本軍はインパール作戦を開始したが、インド国民軍(INA)6000人が加わっていた。多大な損害を出した無謀な戦いとの文脈で語られる作戦だが、「自由インド」「デリーへ」が合言葉のインド解放を目指す戦いでもあったと知る日本人は今、どれだけいるだろうか。 日本は、マレー・シンガポール攻略戦で捕虜にした英印軍の兵士に呼びかけ、INAの編成を図った。兵力4万5000人のINAを率いたのは自由インド仮政府首班になった独立運動家のチャンドラ・ボースで、日本はアンダマン、ニコバル両諸島を領土として贈った。 ボースは45年8月、飛行機事故で亡くなったが、インドでは独立の英雄として尊敬を集め、国会にはガンジー、ネルーと並んで肖像画がある。 戦後、イギリスはINA将兵を反逆罪で裁判にかけ、インド支配を強化しようとした。これに憤激したインドの民衆や兵士が反英闘争に立ち上がり、多くの死傷者を出しながら47年に独立を勝ち取った経緯がある。共に戦った歴史 INAと日本軍の共闘が、インド独立につながったことは、47年当時15歳だったシン首相も知っているだろう。 安倍首相は第1次内閣当時の2007年の訪印時に、コルカタ市内のチャンドラ・ボース記念館を視察している。一方、今回の日印共同声明、共同記者発表、首脳会談のブリーフィングでは日本とインド独立をめぐる歴史の話題は出ていない。 首脳外交の場で、今や安保面で連携する英米との過去の戦争を持ち出すのは得策でないのだろう。1つの外交判断だ。それでも日本人は、インドとの間に共に戦った貴重な歴史があることは覚えておいた方がいいように思う。(論説委員 榊原智)

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    【安倍政権考】「張り子のトラ」には負けられない

     安倍晋三首相(59)が安全保障の立て直しを進めている。12月4日に国家安全保障会議(日本版NSC)が発足。6日には特定秘密保護法が成立し13日に公布された。国家安全保障戦略や新しい防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画は17日に閣議決定の運びだ。 これらは突き詰めて言えば中国の軍事的台頭への備えである。国内総生産(GDP)が世界第2位になったとされてからの中国は自信過剰だ。本当は「張り子のトラ」なのだが、それを自覚するはずもなく、質に疑問があっても数は多い中途半端な軍事力をちらつかせて居丈高に振る舞う。厄介な隣人だ。 日本が防衛努力を怠ったり、国際法に基づく秩序や国の主権を守り抜く姿勢をとらなければどうなるか。「張り子のトラ」でもトラと化す。中国が、日本には闘志も根気もないと見なせば、日本の領土も、名誉も、経済的な権益も奪おうとさらに圧力をかけてくるだろう。軍事バランスの確保を 安倍政権の安全保障政策の方向性は間違っていない。今後は、自衛隊の増強はもちろん、領域警備態勢の充実、集団的自衛権の行使容認、武器輸出三原則の見直し、憲法改正による軍の保有などへ進まなければならない。日米同盟の強化と「核の傘」の維持は前提条件となる。 これらを着実に実行して中国との軍事バランスの確保に努めることが、平和への近道だ。 日本は中国に対抗する十分な国力を持ち続けることができる。内閣府の3年前の試算では、2030年の中国GDPは世界一で日本の4倍になるとされた。今ではこの試算通りに物事が進むのか疑わしい。中国経済の失速が取り沙汰されている。急速に進む少子高齢化や深刻な環境汚染は成長を阻害する。 中国要人やその親族は外国の国籍や永住権を取り、膨大な資金を海外へひそかに移しているとされる。自国の前途に自信がないのだろう。 仮に中国のGDPが日本の4倍になっても、日清戦争(1894~95年)のころに戻るだけだ。当時の清国の経済規模も日本の4倍だった。 明治の日本は単独で清国に対処して、独立を守った。現代の日本はもっと恵まれている。アジア回帰を掲げていても腰が定まらないオバマ政権ではあるが、圧倒的な力を持つ米国との同盟は、活用しがいのある財産だ。独立守る気概持て 日本人は、独立を守る気概を持ち、やるべきことをすればよいだけだ。日本の腰が定まらなければ、米国もぐらつく。東南アジア各国も中国の影響下に置かれるかもしれない。中国以外のすべての国が望まないことだろう。日本人には、アジア太平洋地域の平和を保つ国際的責任がある。 安倍首相は11日、国家安保戦略と新防衛大綱が「わが国の安全保障のありようを決定する歴史的文書になる」と語ったが、米国やアジア太平洋地域にとっても価値あるものとなるだろう。 中国は、軍事力のすべてを日本に向けることなどできない。中国軍は他の国々や中国国民自体の不満に備える役割がある。軍事的冒険主義をとれば、繁栄の基盤である経済が打撃を受け基盤が弱い共産党政権は存亡の危機を迎えるだろう。 中国は尖閣諸島を含む東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を一方的に設定したが、「中国軍はADIZをきちんと運用する能力に欠ける」(自衛隊幹部)ことが露呈した。油断は禁物だが、要するに「張り子のトラ」なのである。 備えをすれば、平和は保てる。(論説委員 榊原智)

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    【安倍政権考】出生率「2」を目指せ

     「平成50年 世界で輝く日本たれ」。中曽根康弘元首相(95)がこう揮毫(きごう)した書が表紙になっている提言がある。シンクタンク「世界平和研究所」(会長・中曽根氏)が10月に発表した創立25周年記念提言だ。25年後(平成50年、2038年)の日本が「輝いている国」であるために取り組むべき10の根本課題を説いている。 その筆頭に挙げられたのが、抜本的な少子化対策の遂行だ。経済界を中心に根強い移民受け入れ論を退け、「政治の強い意志」で、合計特殊出生率(女性が生涯に出産する子供の数)が人口維持に必要な「2」になるまで、対策を取り続けるよう訴えている。 安倍晋三首相(59)は、デフレからの脱却、外交・安全保障の立て直し、憲法改正と同等の重みを持たせて少子化対策に取り組んでいくべきだろう。国家存亡の危機 注目に値すると思われるので、提言を紹介したい。 平和研の佐藤謙理事長(69)によれば、中曽根氏は提言の草稿に繰り返し手を入れるなど非常に熱心だったという。日本の独立と繁栄を追求する思いに衰えはないようだ。 日本の人口は2010年に1億2800万人。国立社会保障・人口問題研究所の昨年の予測(中位推計)では38年に1億900万人、60年に8700万人、今からほぼ100年後の2110年に4300万人へ急減する。 これでは日本は「国家としての体裁をなさなくなって」(提言)しまう。国民の生活も成り立たない。経済協力開発機構(OECD)などの2050年のGDP予測では、「日本は第4位から第9位程度に後退」(提言)する。解決策にならない移民 提言は、「安価な労働力」としての移民受け入れは「外国人に失礼」であり、少子化対策としても有効でないと断じている。 欧州のように移民との摩擦が社会問題化し、移民の次世代が少子高齢化を加速させる恐れもある。途上国でも高齢化が急速に進み、移民を供給する余裕がなくなるという。2025年に日本の出生率が2になれば、今世紀後半に人口減少に歯止めがかかり、22世紀初頭でも1億人以上を、38年に2になれば8900万人から9900万人の水準を確保できると、提言はシミュレーションした。手をこまねいている場合とは雲泥の差だ。 具体策としては、育児世代への所得再配分、高校までの授業料無償化、非正規雇用の割合の低下、未婚率を引き下げていくことなどを挙げた。高齢者には納税などを通じ次世代を経済的に支える「日本という社会の親」だと自覚するよう、発想の転換を促している。 すべての前提として「子供は国の宝」というコンセンサスを形成し、出生率向上を目指す国民運動が必要だと訴えている。 子孫の世代を増やし、守っていくために大切な指摘だ。 だからこそ、提言は直接指摘していないが、世界平和研案、自民党案、産経新聞「国民の憲法」にあるように憲法を改正して、家族を保護し、重んじる条文を入れるべきなのだ。(論説委員 榊原智)

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    【安倍政権考】日本の平和に貢献する「イプシロン」

     宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した新型固体燃料ロケット「イプシロン」初号機の打ち上げが9月14日、成功した。小惑星探査機「はやぶさ」を積んだ「M(ミュー)5」ロケットの2006年の打ち上げ以来途絶えていた固体燃料ロケットが7年ぶりに復活したことになる。 宇宙開発を前進させる技術革新や小型衛星を比較的低コストで打ち上げる道を開いたことが意義とされる。ただ、意図せざる結果ではあるが、イプシロンが日本の平和に貢献していることも知っておいた方がいい。その証拠に、韓国や中国のメディアから、大陸間弾道ミサイル(ICBM)に転用可能ではないかと警戒する声が挙がっている。ICBM転用に警戒 共同通信によると、中国の国営中央テレビは14日、「イプシロンの技術は弾道ミサイル製造に転用できるため、軍用目的についての臆測を呼んでいる」と伝えた。韓国の有力紙「朝鮮日報」電子版も14日、「ICBMへ転用可能」と報じた。この電子版には、8月22日にも、イプシロンを日本の軍事大国化の一例とする記事が掲載された。 戦後、自国の平和を損なうほど過剰な「平和主義」をとってきた日本に対して、よくここまで言えるものだとは思う。日本にICBMを持つ意図はない。 そもそも政府は、憲法9条によって「性能上専(もっぱ)ら相手国国土の壊滅的な破壊のためにのみ用いられる、いわゆる攻撃的兵器を保有することは、直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることになるため、いかなる場合にも許されない。ICBM、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母の保有は許されない」(2013年版『防衛白書』)との立場をとっている。 防衛省自衛隊は、C4ISR(指揮・統制・通信・コンピューター・情報・警戒監視・偵察)や衛星防護の分野で、宇宙利用を進めているが、そこまでだ。 そんなことを百も承知の近隣諸国から警戒の声があがるのは、固体燃料ロケットの技術が、核兵器の運搬手段であるICBMや中距離弾道ミサイル(IRBM)などを開発するための中核的技術でもあるからだ。ロシアは戦略ロケット軍に配備していたICBMを、人工衛星打ち上げロケットへ商用転用している。侮られないための保険 宇宙ロケット、特に固体燃料ロケットの技術は、発射が迅速にできることなどから、弾道ミサイルと裏表の関係にある。筆者は、2013年1月5日の「安倍政権考 維持された核オプション」でも記したが、自前の技術に基づく平和利用のための原発は、核オプション-核武装するかどうかの選択の自由-を担保している。それと似た構図であり、固体燃料ロケットの技術は核オプションの構成要素でもある。 日本の固体燃料ロケットには長い歴史があり、イプシロンが初めてではない。1963年にはL(ラムダ)ロケットの最初の打ち上げに、70年にはLロケットで人工衛星の軌道投入に成功した。60年代後半以降、日本は核兵器およびその運搬手段であるICBMなどの製造能力を潜在的に持つ国だと見なされてきた。 イプシロンの安全保障上の意味合いは、核オプションを構成する固体燃料ロケット技術を日本が持ち続けることを意味する。そこで、近隣諸国がICBMを連想したのだが、これは日本にとって悪い話ではないかもしれない。 日本は非核兵器国であり、米国の核の傘に依存している。核の傘を日本へ真剣に差し掛けるよう米国に促すためにも、その他の核兵器国や非友好国が日本をこれ以上侮らないためにも、平和利用の原発・宇宙開発の副産物である核オプションという保険はあった方がよいだろう。(論説委員 榊原智)

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    【安倍政権考】韓国の反日ナショナリズムから「旭日旗」の名誉を守れ

     韓国の反日ナショナリズムは、常軌を逸するレベルに達したようだ。慰安婦をめぐる日本攻撃の舞台を米国へ広げているが、ここへきて、旭日旗を「戦犯旗」だと決めつけて敵視する動きも目立ってきた。 韓国のサッカー協会やメディアは、サッカーの応援などに旭日旗を用いること自体を問題視している。しかも、旭日旗敵視を、韓国外務省の報道官までが肯定する始末だ。しかし、旭日旗は、日の丸(日章旗)と並んで日本を象徴する旗だ。自衛隊も使用しており、スポーツの応援に使うのに問題はないはずだ。韓国の反日ナショナリズムによって、旭日旗の名誉が奪われることがあってはならない。日本の政府や要人は、韓国の無理押しにはっきりと反論すべきだろう。無理がある排斥理由 7月28日のサッカー東アジア・カップの男子日韓戦で、韓国応援団は歴史問題で日本を非難する横断幕を掲げた。日本サッカー協会は、国際サッカー連盟(FIFA)が禁ずる応援時の政治的主張に当たるとして、東アジアサッカー連盟に抗議文を提出した。 これに対し、韓国サッカー協会は日本のサポーターが旭日旗を振ったことが発端だと、反論にもならないような主張をしている。韓国サッカー協会は、旭日旗は「大韓民国の国民には歴史的な痛みを呼び起こす象徴」(7月31日付韓国紙「中央日報」日本語電子版)だとしている。 このような見方は韓国社会で広く認められているようだ。「朝鮮日報」(7月30日付日本語電子版)も旭日旗を「日本の軍国主義の象徴」と断じた。 朝、東から昇る太陽をかたどった旭日旗は外国人から「クールだ」とほめられることもある。日の丸とともに「日の本の国」を象徴し、縁起がよく元気が出るデザインだ。そういえば、朝日新聞の社旗も旭日旗の意匠の一部を使っている。 日本海軍の軍艦旗、日本陸軍の連隊旗も旭日旗の一種だった。大東亜戦争を含め、近代日本の戦いには旭日旗と日の丸が翩翻(へんぽん)とひるがえっていたが、それを理由に排斥するのは無理がありすぎる。韓国の反日ナショナリズムは日の丸も否定したいが、さすがに無理があるため旭日旗を狙い撃ちしているのではないか。 ナチス党のハーケンクロイツ旗と同列視する意見まで韓国にはある。独裁政党の党旗と、日本を象徴する旗の性格を混同するとは失礼な話だ。国際社会は受け入れ 自衛隊は旭日旗を堂々と使い、国際社会から受け入れられてきた実績がある。海上自衛隊の自衛艦旗(16条旭日旗)と陸上自衛隊の連隊の自衛隊旗(8条旭日旗)がそれにあたる。 海自の護衛艦が旭日旗を掲げるのは、軍艦と民間船舶を区別するために、軍艦旗を掲げる国際ルールにのっとったものだ。陸自の連隊旗は部隊の名誉と団結の象徴になっている。 大東亜戦争の相手だった米軍は、自衛隊が旭日旗を使うのに何のクレームもつけない。それどころか、友軍の旗として、ごく自然に敬意を表している。 旭日旗の敵視は韓国政府にも及んできた。韓国外務省報道官は1日の会見で「(旭日旗が)韓国国民と、過去に日本帝国主義の被害を受けた人々に、どのような意味を持つものか日本はよく分かっているのではないか」と述べた。 韓国外務省は国益を考える部門ではないのだろうか。韓国政府や韓国軍が反日ナショナリズムに同調し、旭日旗を排斥すればとうなるか。日韓の安全保障にとって重要な自衛隊と韓国軍の防衛協力・交流は停滞せざるを得ない。国旗に匹敵する旗を敵視する外国の政府や軍と、充実した協力などできるわけがないからだ。旭日旗の意味が分かっていないのは、韓国の方である。(論説委員 榊原智)

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    【安倍政権考】米中だけが「大国」なのか

     2013年の米中首脳会談で習主席は尖閣諸島への強い執着を見せたが、オバマ大統領は「日本は米国の同盟国だと認識する必要がある」「東シナ海で(挑発的な)行動をとるべきではない」と、中国の軍事的冒険を認めない姿勢を示した 米国のバラク・オバマ米大統領(51)と中国の習近平国家主席(60)は7、8日の首脳会談で尖閣諸島(沖縄県石垣市)の問題を長時間話し合った。また、習主席は米中関係について「新型の大国関係」を主張し、「太平洋には米中両大国を受け入れる十分な空間がある」と語った。米中2カ国で-つまりは日本抜きで-アジア太平洋の秩序、諸問題を仕切ろうという誘いだ。オバマ大統領は同調しなかったが、これほど日本の国益に反する構想もない。外国が領土論じる屈辱 米中首脳会談で習主席は尖閣諸島への強い執着を見せたが、オバマ大統領は「日本は米国の同盟国だと認識する必要がある」「東シナ海で(挑発的な)行動をとるべきではない」と、中国の軍事的冒険を認めない姿勢を示した。 安倍晋三首相(58)は13日、オバマ大統領と電話で会談し、米中首脳会談について「大統領が日本の立場を踏まえた上で対応していただいたことに謝意を表明する」と伝えた。 それでも米中会談は、日本にとって完全に満足できるものではない。日米地位協定は尖閣諸島の大正島と久場島に米軍の射爆撃場を設定している。こんな明白な事実があっても米国が日本の領有権をはっきり、中国に説かないのは解せない話だ。尖閣諸島をめぐる中国の主張はもちろん理不尽きわまりない。 外国の首脳同士が日本の領土をめぐる問題を長時間話し合うことは、本来、日本にとって恥ずかしく、危うい事態だと思った方がいい。戦前なら、こんなことをされるのは非力な小国や保護国、植民地化寸前の国だった。 現代では一国の単独防衛は考えられない。米国は重要な同盟国、友邦であり、日米同盟で安全を図るのは国策の基本だ。その点で今回のオバマ大統領の言動は歓迎できるが、日本の首脳がいない場で、日本の領土をめぐり外国の首脳が駆け引きすることに一喜一憂していていいものか。国力と責任の自覚を 2002年10月、ブッシュ米大統領(66)は中国の江沢民国家主席(86)との会談で、中国が北朝鮮の核開発を放置すれば「日本が核兵器を開発するのを止められなくなる」と説いた。そこには核保有国同士の大国意識が漂う。 ぼやぼやしていれば、米中両国が日本を格下に見て直接取引に走る恐れがある。日本にはこれを許さない十分な国力はあるが、意志と行動が足りない。日本は責任ある大国として、アジア太平洋の平和、秩序全般を作る主要なアクターとして行動した方がいい。ことさら胸を張らなくていいが、謙譲(けんじょう)の美徳が通用しないのが国際社会だ。 安倍首相は3月15日の記者会見で、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉参加について「日本は世界第3位の経済大国だ。重要なプレーヤーとして新たなルール作りをリードしていける」と語った。 このような姿勢を、経済からアジア太平洋の安全保障全般へ広げていくべきだろう。そうして初めて、米国と中国の直接取引を阻止し、平和を含む日本の国益を確保する前提条件が整う。 さまざまな方策があり得るが、根本策として、日本は米国と共に、軍事面で中国との勢力均衡をはかる努力を始めるべきだろう。防衛大綱改定や集団的自衛権の行使容認の問題にはこの観点が欠かせない。狭義の国土防衛だけを追求するのは愚かなことだ。 安倍首相の視野は経済を包含しつつそれを超えているだろう。ただ、多くの国民もそのような視野を持たなければ、日本の安全保障環境は改善しないだろう。 (政治部 榊原智)

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    【安倍政権考】来年末にも「改憲ダブル選挙」

     憲法96条改正問題が、夏の参院選の争点になった。すでに衆議院では改憲を志向する議員が4分の3以上を占めている。参院選の結果、改選・非改選合わせて 改憲派が3分の2以上の議席を占めれば、国会による憲法96条改正案の発議、そして国民投票の実施が、現実の政治課題にのぼるだろう。 安倍晋三首相(58)はどのような改憲スケジュールを描くだろうか。 憲政史上初めての国民投票の時期を予想すれば、早くて2014年12月、遅くとも15年9月になるのではないか。政治情勢次第では、国民投票に次期衆院選を合わせた「改憲ダブル選挙」になる可能性も十分にある。千載一遇の好機 安倍首相は4月23日の参院予算委員会で、「政治は現実でありますから、『3分の2』形成の上で96条改正は多くの議員の賛成を得られる。96条改正は国民の手に憲法を取り戻すことにつながっていく。自由民主党総裁としてチャレンジしていきたい。7月の参院選でも(公約に)堂々と掲げて戦うべきだ」と語った。 首相がこう強調するのは千載一遇の好機が訪れようとしているからだ。 自民党、日本(にっぽん)維新の会、みんなの党の憲法観や主張する改正内容には、実は異なる面がある。しかし3党は、「主権者国民」が判断を下す国民投票を実現しやすくする96条改正を目指す点では共通している「現実」があるのだ。 衆議院の定数480。3分の2ラインは320議席だ。昨年12月の衆院選の結果、憲法改正を唱える自民党、維新の会、みんなの党は計366議席で、衆院の76.2%。3分の2ラインどころか4分の3超を占める。 一方、参議院は定数242。3分の2ラインは162議席だ。非改選の改憲勢力は60議席。3分の2ラインに達するには参院選で、改憲勢力が102議席得ることが必要だ。昨年衆院選をもとに試算すると、自民党61議席など改憲勢力は計93議席を得る。 3分の2ラインまで9議席ほど足りないが、民主党にも改憲志向の議員が存在する。参院選後に憲法問題を大義名分にした新党結成など政界再編があれば、参院においても改憲勢力が3分の2ラインに達することは十分あり得る。 安倍内閣の高支持率を考えれば、自民党がもう少し多く議席を得るかしもれないし、今は後ろ向きな公明党が態度を豹変(ひょうへん)させる可能性もないわけではない。クリアすべき課題 安倍首相にとって参院選後の憲法に関する課題はもう一つある。それは集団的自衛権の行使容認のための憲法解釈の変更だ。その方向性は12月の新防衛大綱策定時に出るといわれている。96条改正の前に越えるべき大きな山といえる。 また、憲法改正案を発議する衆議院の正当性を確かなものとするため、衆院の定数是正・選挙制度改革の結論を出すことも、政治的に必要だ。 民主党政権下の「サボタージュ」で残された国民投票における3つの宿題も残っている。(1)投票権年齢の18歳以上への引き下げ(2)国民投票運動時の公務員の政治的行為のあり方(3)憲法改正以外への国民投票の拡大の是非-だ。 これらを処理した上で、96条改正の審議、発議が初めてできる。そして、国会の発議から「60日から180日以内」に国民投票の投票日が設定される。 これらの取り組みには、衆参とも任期中の同じ国会議員が当たることが望ましい。さらに、首相の自民党総裁任期が15年9月までであることを考えると、冒頭に指摘した時期に、私たちは初めての国民投票に足を運ぶことになるのではないか。これは、国民の手による新しい国づくり、世直しの第一歩になる。 (政治部 榊原智)

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    【安倍政権考】「日本のガッツ」示した首相訪米

     安倍晋三首相(58)は2月の訪米時のバラク・オバマ米国大統領(51)との首脳会談で、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉参加への政治的条件を整えるとともに、日米同盟強化の道筋を付ける成果を挙げた。これらはメディアにおいても、おおむね肯定的に報じられている。そして、安倍首相は今回の訪米でもう一つ、重要な仕事を果たしたことを忘れてはならない。それは、同盟国の首府において、安全保障・防衛面における日本のガッツを示してみせたことだ。「主権への挑戦容認せず」 安倍首相は2月22日夕(日本時間23日朝)、ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)で「ジャパン・イズ・バック」(日本は戻ってきた)と題する演説を行い、「日本は今も、これからも、2級国家にはなりません」と強調した。 尖閣諸島をめぐっては、「日本の主権下にある領土だということは、歴史的にも、法的にも明らかです。煎(せん)じ詰(つ)めたところ、1895年から1971年までの間、日本の主権に対する挑戦など、どこからも出てきておりません。今も、未来も、なんであれ挑戦を容認することなどできません。この点、わが国の決意に関し、どの国も判断ミスをすべきではありません。日米同盟の堅牢(けんろう)ぶりについて、誰も疑いを抱くべきではないということであります」と語った。 首相はこの演説をガッツポーズで締めくくった。 演説後の質疑応答で首相は、オバマ政権が尖閣を日米安保条約の第5条の対象に含む-米国の対日防衛義務の対象となる-ことを明確にしていることを評価した上で、次のようにも語った。 「基本的には、尖閣について、われわれは米国に『これをやってください、あれをやってください』というつもりはありません。この尖閣については、私たちは私たち自身の力によってしっかりとこの日本の国の領土を守っていく考えであります」尖閣対処への決意表明 首相は1月14日、北朝鮮の核実験を受けた電話会談で、オバマ大統領から「米国の核の傘により提供される拡大抑止を含め、日本に対する米国の防衛コミットメントは不動であることを明確に再確認したい」との発言も引き出している。対北朝鮮に限った発言ではもちろんない。 拡大抑止、安保条約第5条の対象との確約を得た上で、首相は、実際の尖閣をめぐる事態への対処を日本が行う決意を表明したわけだ。 ワシントンでの首相の発言は、中国政府と中国軍への明瞭なメッセージだ。彼らは「力の信奉者」であり、その行動をルール(国際法)順守へ改めさせるには、パワーバランスを日本側、つまりは日米に有利な状況へ引き戻す必要がある。 首相は2月28日の施政方針演説でも「国民の生命・財産、わが国の領土・領海・領空を断固として守り抜く決意であります」と語った。 首相が示したガッツは、パワーバランスを回復する努力を進めるに当たって欠かせない前提条件なのだ。世論は平和ぼけから脱しつつある。日本の弱点はむしろ、ふがいない「政治」や「霞が関」にあったからだ。日本の政治に冷静なリアリズムを支えるガッツがあれば、自衛隊や日米安全保障協力の強化の取り組みは、その効果を格段に増すことになる。 日本の首相の発言が意外だったのだろう。新華社は2月25日、「安倍首相の言う『戻る』とは、歴史の古い轍(わだち)への回帰を指すのかと、国際社会は警戒心を抱かずにはいられない」と反応した。そんな国際社会がどこにあるのかとも思うが、首相の発言は早くも効果が表れ始めたようだ。(政治部 榊原智)

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    【安倍政権考】衆院選-維持された核オプション

     昨年12月の第46回衆院選は、日本の安全保障にどんな影響をもたらしたと後年、言われるだろうか。再登板した安倍晋三首相(58)は、日米同盟の強化を目指している。 南西諸島方面の防衛強化、防衛予算の増額、集団的自衛権の行使の容認に踏み切れるかどうかも注目されている。しかし衆院選が日本の安全保障に与える影響はそれらにとどまらない。原発ゼロ、卒原発の流れが止まり、安全性に留意しつつ原発を再稼働させる方向になった。これは電力供給、つまりは経済、国民生活の観点から行われることだが、同時に、日本の核オプションが-少なくとも当面は-維持されたという、安全保障上大きな意味合いがあることを忘れてはならない。安全保障に欠かせない「核」 核オプションとは、核武装するかどうかの選択の自由を指す。そのためには、核兵器生産の能力、技術的基盤の保持が必要だ。そして、自前の技術に基づく平和利用のための原発の存在が核オプションを担保する。平和利用と軍事利用はコインの裏表の関係にある。ゆえに、核拡散防止条約(NPT、核防条約)体制で国際査察の対象となっているわけだ。 政府の防衛大綱は、安全保障について「現実に核兵器が存在する間は、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止は不可欠」だと記している。「拡大抑止」とは核の傘のことだ。政府は、日本の安全保障には核兵器、核抑止力が必要だと認め、それを米国の核の傘で充てている。安保体制の根幹は核の傘であり、これがあるからこそ日本は非核三原則、核兵器廃絶を唱えていられるし、尖閣諸島をめぐって中国と対峙(たいじ)できるのだ。 ただし、何らかの事情で、核の傘が破れたり、さしかけられなくなれば、自身では核を持たない日本には-ミサイル防衛(MD)は完全ではなく安心できないため-核攻撃を抑える術がなくなってしまう。21世紀の今も国際社会の本質は弱肉強食のジャングルだ。安全保障の基盤を失なえば日本の国際的地位、発言力はさらに落ち込むだろう。もし、中国や北朝鮮、ロシアに核脅迫されれば大混乱に陥り、相手の要求に譲歩を重ねる従属国に転落する。「最悪」ではあるが「想定外」として放っておいていい問題ではないだろう。 日本はNPT上の非核兵器国であり、非核三原則、原子力基本法によって核兵器の製造や保有、使用も自ら禁じている。ただし、国家存亡の危機のような場合、これらはいずれも正当な手続きで解除し得る制度のもとにあるのも事実だ。未来のための保険 筆者の「政権考」は本稿で70本目となる。1本目は、北朝鮮の核実験をきっかけにした中川昭一自民党政調会長(当時)の核論議発言に関する「安倍政権考 タブーではなかった『核論議』」(2006年11月9日)だった。 その中でも取り上げたが、中曽根康弘元首相(94)が会長を務めるシンクタンク「世界平和研究所」は、第1次安倍内閣の発足をにらみ発表した同年9月の提言で、「(政府は)将来における国際社会の大変動に備え、核問題の検討を行っていくべきだ」と主張している。中曽根氏は会見で、日本は非核兵器国としてNPT体制の強化に取り組むべきだとした上で、「日本は米国の核に頼っている。日米安保条約をやめさせられるなどの大変動がある場合に備え、研究する(べき)ものだ」とねらいを語った。 中曽根氏は真面目(まじめ)な政治家だ。核の傘の重要性をわきまえつつ、もしそれが破れたり失われるという安全保障上の難局にも政府、日本国民は備えなければならないとしているのだから。これは核オプションがあればこそ、の議論でもある。 日本の未来にとって核オプションは保険のようなものである。(政治部 榊原智)

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    【野田政権考】「尖閣防衛」の先にあるもの

     野田政権は、沖縄の無人島を舞台に日米の部隊が実働する離島奪還訓練の実施を見送った。「対中恐怖症」極まれり、といったところか。日本がなにがしかの配慮をすれば、中国はそれを理解して行動を自制する-ということが妄想に過ぎないことは、尖閣諸島をめぐる中国の対日姿勢をみれば分かりそうなものだが、野田佳彦首相(55)ら政府民主党の要路の方々は気づかないらしい。中国に誤ったメッセージ 訓練見送りは、中国への誤ったメッセージとなり、中長期的には対日姿勢がより強硬になる方向に作用するだろう。日本政府に、領土領海を必ず守るという気魄(きはく)、ガッツが相変わらず欠けていることを教えたからだ。戦前の日本を知る指導者が中国を率いていた間は-戦後の日本がいかに柔弱でも-今のような高圧的行動に出ることは少なかった。けれども今や戦前の貯金は尽きた。 日本に下手に手出しをすればやけどを負う、と中国に思わせることが平和への近道なのに、目先の安寧を求めて実働訓練すら控えるとあっては侮られるばかりだ。イギリスの宥和政策がナチスドイツを増長させ、戦争への道を開いたことや、中国は「水に落ちた犬は叩け」の、嵩(かさ)にかかってくるお国柄であることを思い出し方がいい。 今回計画された訓練が、陸上自衛隊と米海兵隊の合同だったことには意義があった。中国が尖閣を獲りにくる場合、日米安保を発動させない策を練ってくるだろうからだ。日米が合同演習を重ねていけば、中国の野心にブレーキをかける効果がある。国際社会への責任感も欠如 筆者は2004年、有事立法の必要性を唱えた先覚者である栗栖弘臣元統幕議長を取材したことがある。その際栗栖氏は、日米同盟維持を主張した上で次のように語った。 「敗戦後遺症は21世紀半ばには消える。日本はある程度の経済力と武力をもつ通常の国として、インド洋以東、西太平洋一帯の平和を維持する責任を担う国になるべきだろう。その点で、今の防衛論議は萎縮(いしゅく)している」 終戦100年まで、まだ30年余りあるが、栗栖氏の指摘はもっともだ。 尖閣など最近の防衛論議は、領土領海を守る文脈でのみ語られることが多く、国際社会とくにアジア太平洋地域の平和と安全に日本が役割を果たそうという責任感を示す議論は少ない。 中国の胡錦濤国家主席(69)は8日の中国共産党大会で「海洋強国」を目指すと宣言した。中国は、尖閣のある東シナ海とともに、ボルネオの油田地帯を控えた南シナ海の南沙諸島でも傍若無人に振る舞っている。 米国のオバマ政権は2011年11月ごろから、アジア太平洋の安全保障を最重視する姿勢に転じ、中国の軍事的膨張を押さえ込もうとするようになった。オバマ大統領(51)の再選により、この方針は継続されるだろうが、米国は国防費の捻出(ねんしゅつ)に苦しんでいる。 アジア太平洋地域の平和と安全は日本の国益にかなうものであり、日本は責任ある大国として行動すべき時期にきている。尖閣でもたもたしているようでは、米国も東南アジア各国も日本を信用できないだろう。尖閣の防衛強化を急ぎ、自分に降りかかる火の粉は早く払いのける必要がある。 その上で、南シナ海でも、米国、東南アジア各国と協力して有利な軍事バランスの実現に努めた方がよい。そのことがかえって戦火や紛争を抑制し、中国も含め経済的に繁栄する道となる。 さしあたり、日本は集団的自衛権の行使容認と防衛費の増額に踏み切る必要があるが、これらは衆院選後の新政権の課題となりそうだ。(政治部 榊原智)

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    【野田政権考】竹島に「防衛出動」しないなら…

     日本固有の領土である竹島(島根県隠岐の島町)は韓国に占領されているが、李明博(イ・ミョンバク)韓国大統領(70)が同島へ上陸を強行したことで、日本政府は竹島問題を国際司法裁判所(ICJ)へ単独提訴しようとするところまで前進した。しかしICJは相手国が同意しなければ裁判が成立しない。侵略国はさほどの痛みも感じないだろう。過去、巡視船への銃撃も 竹島は17世紀初頭から日本人が漁業などに使用してきた。日本政府は1905年1月の閣議決定で竹島を領土に編入したが、どの国からも抗議はなかった。竹島のアシカ漁を許可制にするなど、日本政府は大東亜戦争の敗戦まで、竹島統治を平穏に続けてきた。 米国務省は日本占領中、サンフランシスコ平和条約の草案を何度か作成したが、1949年11月の草案では、竹島は「朝鮮放棄」条項の対象だった。しかし、竹島領有の経緯をよく知っていた連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の意見で、米国務省は日本の領土であるとの判断へ修正し、49年12月以降の草案では「朝鮮放棄」条項から外すようになった。韓国政府は反発したが、1951年8月のラスク米国務次官補の韓国政府への書簡は竹島は日本領だとの認識を伝えている。51年9月8日に平和条約は調印、1952年4月28日に発効したが、国際社会は竹島を日本の領土だと認めていたことになる。 形勢不利な韓国は、日本が平和条約発効で再独立する以前の1952年1月18日、いわゆる李承晩ラインを一方的に宣言して竹島をその中に含め、日本漁船の理不尽な拿捕(だほ)を相次いで行った。日米両国は日本領との認識であり、日米合同委員会は1952年7月、竹島を米軍の爆撃訓練区域に指定している。海上保安庁と島根県は1953年6月、竹島に調査上陸し、韓国漁民を退去させ、領土標識を建ててもいる。 ところが53年7月、竹島に近づいた海保の巡視船が、竹島を占領した韓国側から銃撃される事態になった。これ以降、韓国の武装部隊が占領したままだ。1954年8月23日のケースでは、巡視船「おき」が約200発の銃撃を受けた。外交、経済面の制裁を 竹島を占領されたころの国会では、「竹島は完全なる日本領土である。何のために保安隊(注、陸自の前身)をつくつておるのだか、何のために(海上)警備隊(注、海自の前身)をつくつておるのだか(略)侵略されておることがはつきりわかつておるのだから、ちよつと行つてどんどんと2、3発やればいい」(1953年7月16日、衆院水産委員会での松田鐵蔵議員質問)、「日本の国土の中に外国兵が侵入して来て、これを占拠して(略)日本の国籍のある船(略)を攻撃するという事件が起きました。この事実を防衛庁の当局としてはこれはどうすればいいというお考えであるか」(1954年9月8日、参院外務委員会での団伊能議員質問)-といった自衛隊(保安隊、海上警備隊)出動に関する質問もあった。 竹島と北方領土の問題は侵略そのもので、本来なら自衛隊が防衛出動して侵略者を排除しなければならない深刻な事態だ。それを、大局的な判断、さまざまな事情から日本が自制しているのだが、国民は韓国とロシアがそれほど敵対的な行為をしていることは忘れない方がいい。 防衛出動を自制しているのだからなおさら、日本は外交、経済面のあらゆる手段を動員するべきだろう。ICJへの単独提訴でお茶を濁すのではなく、さしあたり日韓通貨スワップ協定の破棄くらいは行って日本の意志を示すべきだろう。それにしても、政治家や外務、財務、経産各省の官僚に、国土を取り戻す最前線で戦っている自覚があるのだろうか。民主、自民両党首選の候補者が、領土問題でどんな具体的主張をするのか、しないのかもよく見ていた方がいい。 (政治部 榊原智)

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    【野田政権考】奇妙な「大阪都」という言葉

     橋下徹大阪市長(43)=大阪維新の会代表=の掲げる「大阪都」構想の実現に向けた法案が、今国会で成立しそうだ。構想は、大阪府と政令指定都市の大阪市、堺市の二重行政を解消することが柱だ。ただし、民主、自民、公明、みんなの党、国民新の5党が合意したこの法案に「大阪府」を「大阪都」へ変更する規定は入っていない。そもそも、「都」は、天皇陛下がふだん住まわれている場所(行政区域)を指す。もし、自治体としての大阪が「都」を名乗るようなことになっていれば、日本の統治のあり方の筋道が立たなくなるところだった。日本の国柄 いろいろ欠陥がある今の憲法でさえ、国柄について最低限の規定はしている。 天皇は、名称自体が君主を意味する。行政府の長にすぎない首相は、決して大統領とも行政長官とも呼ばれず、「内閣総理大臣」と規定されている。閣僚は「国務大臣」だ。「君(君主)」と「臣」が対の概念であることは-漢字の知識があれば-容易にわかるだろう。 このように日本は共和制ではなく、立憲君主国の国柄であることは-学校で教えられなくても-明らかで、統治機構にもそれに応じた用語が使われている。 ちなみに、宮沢俊義東大教授(憲法学)のように「日本国憲法の天皇を君主であると見ることは理論上むつかしい」(『憲法』)とする説もあるが、日本語の文字の意味すら無視する奇妙な学説が出てくるところが、戦後日本の病んだ部分といえるだろう。君主の住まう地 君主国では、君主が普段住まうところ(行政区域)が首都、都であるのが自然だ。行政上、それ以外の重要都市を指す際の言葉ではないし、政府や国会の所在地を指す言葉でもない。もっとも、法律、政令の公布など天皇の国事行為、ご公務が滞れば、日本の国政は進まない仕組みになっており、政府や国会が皇居のそばにあるのは合理的で自然なことだ。 江戸時代も、政治を任されていた幕府のある江戸は「都」ではなく、あくまで京都が「都」だった。最近では、「首都機能移転」も当初は「首都移転」と言われていたが、やはり指摘が出て「首都機能移転」に改められている。 もちろん、「都」という字には、都会、大きな街という意味もある。統治機構に関する用語でなければ-大阪が「民都」と呼ばれるように-東京以外の都市に用いても差し支えない。一方、自治体の名称としての「都」は、国柄を尊重するべきである以上、皇居のある東京以外にはふさわしくないのだ。橋下氏のセンスは 橋下氏も今は「大阪都」という名称にこだわっていないようだ。与野党5党が法案について大筋合意した翌日の6月29日、「苦労して自治体の形を変えるというなら、東京都と混乱するんで都がだめなんだったら、名前は、本当は一番工夫しないといけないところ。民間の世界だったら、名前をつけるところに莫大(ばくだい)な金をかけて名前をつける。商品名、いろんなキャンペーンの名称だったり、センスないですねえ。このまま、大阪府のままだったら、世界に発信もできないじゃないですか」と、法案を酷評した。 そのうえで橋下氏は「都がだめだったら州くらいの名前でいい」と語っている。世間にアピールするうえで「大阪都」という用語は得だったのだろう。今や愛知県と名古屋市の「中京都」構想まである。 しかし今後は、国柄を尊重する、国の統治の筋道を踏まえて言葉を発信するセンスも磨いてほしいものだ。国柄を尊重する心があれば、そもそも「大阪都」のような言葉遣いはできないように思われる。 (政治部 榊原智)

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    【野田政権考】「震災対策」としての憲法改正

     自民党憲法改正推進本部(本部長・保利耕輔元文相)がまとめた憲法改正草案(4月27日公表)は「日本らしさ」がちりばめられ、政府の機能を「普通の民主主義国」の水準へ引き上げる手堅い内容になっている。自民「緊急事態」を新設 特記すべきは緊急事態に備える第9章を設けたことだ。現憲法は平時しか想定していない大きな欠陥がある。国民の生命財産を守るため一刻を争う対応が必要な緊急事態において、国の組織をどう迅速に、かつ機能的に動かすかの発想がまるでないのだ。65年間も現憲法で運営されてきた日本は危機を「想定外」とする国になってしまった。これではいけない。 東日本大震災を経た日本は、地震の活動期に入ったと懸念されている。首都直下型地震や阪神・中京圏を含む東海・東南海・南海の3連動地震が起きれば東日本大震災以上の災害になりかねない。東日本大震災では、現憲法の下でも存在する災害対策基本法の「緊急事態宣言」が活用されなかった。平和ぼけも極まれりだが、平素から政府が準備していなかったため使えなかったのだろう。これはもう憲法に緊急事態のシステムを組み込んで政治家や官僚、国民の意識を改め、震災や有事に備えた方がいい。国民多数の支持も集まるだろう。憲法改正が実現する最初のテーマは緊急事態になるのではないか。生命財産保護に直結 自民党憲法改正草案は「第9章 緊急事態」を新設した。有事や内乱、大規模災害の際、首相は緊急事態宣言を出す。これにより、内閣は法律と同等の緊急政令や財政支出、首長への指示を発して事態に対処できるようになる。 緊急事態宣言を政府が悪用しないよう安全装置もある。宣言自体や100日ごとの延長は国会承認が必要だ。緊急政令は国会の事後承認がなければ無効になる。宣言中の衆院解散は禁止だ。 閣僚や国会議員の大多数が死亡したり、公務に服せなくなった場合の備えなどが欠けているが、自民党改正草案は、憲法改正原案を作る際のすぐれたたたき台になる。 4月27日、自民党が改正草案を発表した会見で、朝日新聞の記者が「みんなの党の渡辺喜美代表や大阪市の橋下徹市長は憲法改正で統治機構を改め、『決められない政治』を変えたいという。自民党案は天皇陛下の(元首明記の)ような大きな問題では変わっているが、国の機構、国民生活がどう変わるのか見えにくい」と質問した。  国会の一院制に関する質問だったようだが表現を変えた方がよかったかもしれない。緊急事態の章の創設こそ、統治機構を改め、国民の生命財産の保護に直結するからだ。残念なのは、回答した谷垣禎一総裁(67)が緊急事態の章創設の意義を説かなかったことだ。熱意ない首相  衆参両院の憲法審査会はそれなりに審議が進むようになった。参院憲法審査会は緊急事態への対応を意識した「国家緊急権」などの小委員会を作る方向だが、まだ各党間の手続き中だ。衆院憲法審査会は、以前の憲法調査会ですませたはずの憲法の各章の論点整理の作業に入ってしまった。 野田佳彦首相(55)は、民主党憲法調査会の中野寛成会長(71)を衆院社会保障・税一体改革特別委員会の委員長に起用したことからわかるように、憲法改正に熱意はない。 谷垣氏は消費税や社会保障改革を論ずるのはもちろんとして、野田首相に対して、民主党も党としての憲法改正案をまとめるか、憲法に緊急事態条項を創設するよう協力を迫ってみたらどうだろう。谷垣、野田両氏にとって憲法問題は荷が重いとは思いたくない。(政治部 榊原智)

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    【野田政権考】外患を見ない沖縄2県紙

     沖縄で大きな影響力を持つ二大県紙の琉球新報と沖縄タイムスは、3月14日付朝刊1面のトップ記事で、同じニュースを取り上げた。在日米海軍の輸送ヘリと小型輸送機各1機が(3月)13日に-沖縄県などの自粛要請があったにもかかわらず-民間空港である石垣空港の使用を「強行」したというもので、総じて批判的なトーンだった。このヘリは中将の搭乗を意味する三つ星マークがついており、米第7艦隊司令官(スコット・スウィフト中将)の専用機だった。実は、司令官は東日本大震災の追悼式に出席後、艦隊へ帰還するため石垣空港でヘリに乗り替えたのだという。空港使用の自粛要請自体も疑問だが、そもそも第7艦隊の司令官が旗艦へ戻るのに、空港を使わせたくないというのは了見が狭すぎないか。震災追悼式からの帰途 第7艦隊はトモダチ作戦で救助・救援に奮闘してくれた。その縁で、司令官は3月11日、都内での政府主催の大震災1周年追悼式に出席。13日に厚木基地から輸送機C12で石垣空港へ飛び、司令官専用ヘリHH60に乗り換えた。米軍機の空港利用は待機を含め1時間15分だった。 日米地位協定の第5条は民間空港の使用を米軍に認めている。今回、米軍は事前に使用届を出していた。司令官の搭乗は公表されなかったが、艦隊行動の秘匿と軍要人の安全確保から当然だろう。 14日付朝刊の見出しはこうだ。 【琉球新報】「米軍が石垣空港使用」「自粛要請も強行」「08年以来 周辺で抗議集会」(以上1面)「『緊急』に疑問符」「米軍 石垣空港使用強行」「恒常化の懸念も」(以上2面)「米軍機石垣飛来 市上空旋回に怒り」「観光への影響懸念も」(以上社会面) 【沖縄タイムス】「米軍機、石垣空港使用」「県・市の自粛要請無視」「知事、緊急外使用に『遺憾』」(以上1面)「軍利用に拍車 市民警戒」「石垣に米機 一方で歓迎派も」(以上社会面) 沖縄タイムスは、市民有志でつくる八重山防衛協会のメンバーが「トモダチ作戦」に感謝する横断幕を掲げたことに触れたが、全体として米軍の空港使用に批判的なトーンだったことに変わりはない。琉球新報の歓迎の動きへの言及は沖縄タイムスよりそっけなかった。司令官搭乗の可能性は琉球新報だけが言及したが、トモダチ作戦と関連させる視点はなかった。 2紙が、司令官の大震災追悼式出席をキャッチしていたかどうかは分からないが、大震災1周年のこの時期、トモダチ作戦を思い出し、少しは寛容になってもよさそうなものだ。中国軍が喜ぶ? 国家間の同盟も、人と人との心の絆が基盤だ。あまりに狭量な態度は日米同盟深化に逆行し、沖縄県民を含む日本国民の安全を損なう方向へ作用しかねない。 沖縄県は緊急時以外の民間空港の使用自粛を米軍に求めてきた。仲井真弘多(ひろかず)知事(72)も2紙もこの自粛要請を破ったとして反発した。しかし、沖縄は今や国防の最前線となっている。その地域での同盟国軍への過度の制約は中国軍を喜ばせるだけだと思われる。 2紙は、3月16日に中国国家海洋局の海洋調査・監視船が尖閣周辺の領海に侵入したことは地味に報じるばかり。北朝鮮の長距離弾道ミサイルに備えた地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)配置には社説で、「南西諸島に新たな緊張を持ち込むことにならないか心配」(沖縄タイムス、3月20日付朝刊)「軍備増強のエスカレーションを招きかねない」(琉球新報、3月23日付朝刊)と懸念する。 身近に迫る外患は気にならないのだろうか。 (政治部 榊原智)

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    【野田政権考】国づくり分かち合う「18歳成人」

     野田内閣と民主党憲法調査会が、選挙権年齢を「18歳以上」へ、民法の成年(成人)年齢を18歳へ引き下げる検討を始めた。肝心の憲法改正論議を先送りするための逃げ道にしている疑いはある。しかし、国づくりの責任を若い世代と分かち合うことになる18歳選挙権、18歳成人自体は正しい方向だ。野田佳彦首相(54)は-同時に憲法改正論議に乗り出すべきなのはもちろんだが-18、19歳の若い世代を早期に大人の仲間に迎え入れるため、指導力を発揮してほしい。人口減少時代だからこそ憲法改正手続きを定めた国民投票法は投票権年齢を本則で18歳以上としたが、成人年齢や選挙権年齢などを引き下げる関連法の整備が前提となっている。この前提が整わなければ投票権年齢は20歳以上に据え置かれてしまう。 これからの日本を担う世代は、一昨年まで世界第2位の経済大国の座を保ってきた世代よりも、刺激的だが厳しい道を歩むことになるだろう。 厚生労働省が1月30日に公表した将来人口推計(中位推計)は、2010年に1億2806万人だった人口が半世紀後の2060年には32.3%減って8674万人になると予想する。同年の高齢者(65歳以上)は総人口の39.9%にもなるという。 人口減少にはいい面があるし、健康寿命が世界一の日本は高齢者の定義を「75歳以上」にして経済・社会活動に携わる人を増やせる。それでも、人口減少が、繁栄の基盤である経済規模を小さくする要素であることに変わりはない。 独立と繁栄のため日本国民は、これまでとは違う国家社会の運営、生活設計をしなければならない-憲法改正が欠かせないわけである-。創意工夫とたゆまぬ努力は一層必要になるのだ。 そんな時代だからこそ、18歳と19歳の世代(およそ240万人)を大人に迎え入れて自覚を促し、国づくりに若い活力を注ぎ込むという大局的見地に立つ方がいい。ローン契約のトラブルなどの懸念はいかにも過保護で小さい話だ。 法務省の2009年資料では英独仏など141カ国が18歳成人だ。東日本大震災であれほど整然と我慢強い行動をとった日本人が外国人に劣るわけではあるまい。 法制審議会の民法成年年齢部会最終報告書(2009年7月29日)は「18歳をもって『大人』として扱うことは、若年者が将来の国づくり中心であるという国としての強い決意を示すことにつながる」と記したが、その通りだ。 少年法の適用年齢を20歳未満から18歳未満へ引き下げることも欠かせない。犯罪を抑止して国民の暮らしの安全を高め、また大人としての権利と責任をまっとうさせる上でも18歳、19歳の犯罪者は刑事裁判で処罰されなければならない。憲法審査会で議論を 政府は2月半ばに事務次官らによる「年齢条項の見直しに関する検討委員会」を開き、具体的検討に入るが、藤村修官房長官(62)は1月26日の記者会見で「十分、慎重に検討していく」と、のんきな発言をした。輿石東民主党幹事長(75)にいたっては26日の会見で「党内では話題に上がったことはあっても、本格的な議論はしていないので、そう簡単に(選挙権年齢引き下げの)結論は出ないでしょ」と語った。 しかし、民主党は(1)18歳成年(2)18歳選挙権(3)少年法適用は18歳未満-を柱とする「成年年齢引き下げ関連法案」を、2000年に参院へ、2005年に衆院へ提出していたではないか。 また、政府と民主党憲法調査会だけでなく、衆参両院の憲法審査会の場でこそ-憲法改正をめぐる論議と平行して-検討を急ぐべきだ。それが、野田首相に本当にやる気があるかをはかるリトマス試験紙になる。(政治部 榊原智)

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    【野田政権考】皇統の生命線は「男系の継承」

     野田内閣は「女性宮家」創設の検討に入ったが、野田佳彦首相(54)は頼りない。神話からの系譜が続く皇統は、初代の神武天皇から第125代の天皇陛下(今上(きんじょう)天皇)まで、男性皇族の血脈(=父方の系統に天皇をもつ男系)で皇位が伝わってきた点に特徴がある。この伝統は「万世一系」と呼ばれ、日本の国柄の美質として尊ばれてきた。皇統の生命線、大原則といえる男系の継承が「女性宮家」によって否定される恐れがあるのだ。謙虚に歴史を学べ 「女性宮家」の創設で女系のお子が皇位継承権を持つことになれば、「女系天皇」を容認することになる。文化的背景の異なる外国の王室はいざ知らず、日本では女系の継承で現皇統は失われる。「女系天皇」の父の系統の新王朝になってしまう。 国民統合の象徴のはずの皇位の正統性をめぐって国内に対立が生まれ、皇室を中心とする日本の結束を嫌う内外の一部勢力は喜ぶことになるだろう。 秋篠宮殿下(46)のご長男、悠仁(ひさひと)さま(5)の世代に、他の男性皇族がおられない問題の解決策は他にある。 旧11宮家の男系男子の皇籍復帰をお願いするのが、皇室の伝統を踏まえた方策だ。敗戦後の混乱や占領軍の圧力がなければ皇族でおられたはずの方々だ。今は市井に暮らしていても、悠仁さまが今世紀後半の長い期間、皇位におられるであろうから、皇籍に復帰される方々が威厳を取り戻す時間は十分ある。 旧皇族男子の系統(=男系)が、皇族に復帰した例は複数ある。「寛平(かんぴょう)の治(ち)」を称(たた)えられた第59代宇多(うだ)天皇(在位887~897年)もそうだ。 古代や江戸時代の話だからといって軽視するのは自国の歴史をおとしめるものだ。千年以上前の出来事も同じ皇統のこととして、参考にできる古くからの国柄なのだから。 伝統を基盤とする皇室については、現代の浅い価値観だけで考えてはいけない。謙虚に歴史や伝統を学び、過去から現代、そして未来の日本人に恥じない答えを出すよう努めてほしい。 明治の大法政家の井上毅(こわし、1844~1895年)や元勲の伊藤博文(1841~1909年)はそのような立場で、一部にあった「女系天皇」容認論を退け、国の肇(はじ)めからの伝統に沿った男系の継承の大原則を尊重した明治の皇室典範を実現した。これを覆(くつがえ)せるほど現代人は賢いのだろうか。首相の不見識 藤村修官房長官(62)は11月25日の記者会見で「国家の基本に関わる事項」として、「安定的な皇位の継承の維持」を検討すると発表した。 一方、野田首相は12月1日の記者会見で、「皇室活動の安定性」つまり皇族のご公務という問題意識は示したものの、はるかに大切な皇位継承について説くことはなかった。 また、秋篠宮殿下は11月30日のご会見で、今後の皇室のあり方について「私もしくは皇太子殿下の意見を聞いてもらうことがあってよいと思っております」とおっしゃられたが、首相は「国民的議論」しか言及していない。立憲君主制のもとで行政府を預かる内閣総理大「臣」として、不見識ではないか。 不見識といえば、民主党の樽床(たるとこ)伸二幹事長代行(52)は11月25日の会見で、「個人的には現在の天皇制度を是認する立場だ」と述べたが、「是認」という言葉遣いは要人の会見として適切ではない。 舛添要一新党改革代表(63)は12月2日の会見で、「男女平等なんだから」と述べ、「女系天皇」に道を開く形の「女性宮家」に賛同した。 世襲の伝統に基づく皇位継承に、一般国民の「男女平等」がなぜ関係するのだろう。舛添氏は「女性天皇」という言葉が出てこず、「女性の王様、というか女王様」などと述べ、記者団から「女性天皇ですね」と助け舟を出された。軽い印象は否めない。 (政治部 榊原智)

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    【野田政権考】対韓外交 「邦人救出」はどうした

     玄葉光一郎外相(47)と前原誠司民主党政策調査会長(49)が今月(10月)、相次いで韓国を訪問した。日韓の経済連携協定(EPA)の交渉促進などを話し合ったとされるが物足りない。 たとえば、朝鮮半島有事の際に、自衛隊の輸送機や艦船を韓国に派遣して邦人を救出できるよう韓国政府の同意を取り付けておく課題は、まともに議論もされなかった。万一の時は「想定外だった」といいわけするつもりだろうか。野田佳彦首相(54)は18日から訪韓するが、「朝鮮王室儀軌」などの図書の引き渡しで表面的な友好を演出しているだけでは外交とはいえない。日本は北の「敵国」  自衛隊による在韓邦人救出の問題に言及したのは菅直人前首相(65)だった。首相在任中の2010年12月、「民間機(での輸送)が危なくなった場合に、自衛隊機で救出するルールができていない。韓国との間で相談を始めたい」と表明したのだ。在韓邦人は長期滞在者・永住者が2万9000人、旅行者が毎日約9000人で、合わせて約3万8000人になる。  朝鮮有事とは休戦中の朝鮮戦争の再開を指す。いわば第2次朝鮮戦争だ。韓国と日本には今も朝鮮戦争時の国連軍(朝鮮国連軍)がいる。沖縄の米海兵隊普天間基地など7つの在日米軍基地は朝鮮国連軍の指定基地だ。  日本は米英仏豪など8カ国と国連軍地位協定を結び、不幸にして朝鮮戦争が再開すれば日本に国連軍が出入りする。日本の国連軍への協力がビルトインされているわけだ。  北東アジアの安全保障のために必要な仕組みだが、北朝鮮から見れば日本は文字通りの敵国だ。なおさら、有事の際は在韓邦人を避難させなければならない。  在韓日本国大使館のホームページにある「安全マニュアル」を見てほしい。この中の「緊急事態対処マニュアル」には、韓国政府の「戦争・テロ等、非常時国民行動要領」が添付されている。この行動要領は空襲や砲撃に加え、ミサイルや核兵器、生物兵器、化学兵器による攻撃時に、韓国民がとるべき対応を説明している。 民主党政権も、東日本大震災で危機管理の大切さは学んだはずだ。「千年に一度」の津波を伴う震災に備えるなら、避難が遅れて取り残される在韓邦人救出の手立ても整えておくのが当然だろう。 自衛隊の派遣準備をしておくには、韓国政府の事前の同意を得ることと、自衛隊法改正が必要だ。現行法では「安全が確保」されている時しか自衛隊の邦人輸送を認めていない。しかも、自衛隊は空港や港湾にたどり着いた邦人を連れて帰ることしかできない。自民党は2010年6月、空港や港湾までの経路で邦人を自衛隊が警護できるようにする自衛隊法改正案を国会提出した。だが、民主党は顧みなかったが、なぜなのだろうか。首脳会談で話し合え  菅氏は韓国政府との交渉を唱えたものの本気ではなく、協議は実現しなかった。韓国政府が自衛隊のオペレーションを嫌っているので諦めたようだ。日韓両国は1994年から防衛交流を進めてきたが、今なお自国民の救出さえ受け入れられないのでは、友好国だと言われても疑わしい限りだ。どんな信頼醸成をしてきたのだろう。いざ有事の際に韓国政府から容認されてもだめだ。危機対応には事前の備えが必要なのは当然ではないか。  玄葉氏は6日の李明博(イ・ミョンバク)韓国大統領(69)との会談で「日韓両国は『近くて近い国』からK-POPや韓国映画などが日本のお茶の間に入ってくるさらに身近な存在となっている」と語った。  自国民の救出の手立ても認めない隣国の指導者に、よくこんな浮ついたことが言えたものだ。それとも、邦人救出の手立てを整える問題意識がないのかもしれない。前原氏にしても突如、慰安婦基金構想を打ち出したが、韓国側の反日傾向を強め、日韓関係に混乱のタネをまくだけだ。  竹島問題や邦人救出など相手国が取り上げることを嫌う事柄に取り組まない政治家しか日本国民が養っていないとすれば悲劇だ。  2012年の韓国大統領選では革新系が勝つ可能性もある。保守系の李政権の間に話し合った方が得策だ。野田首相は自衛隊法改正を表明するとともに、訪韓時の李大統領との首脳会談で率直に邦人救出問題での協力を求めるべきだ。歴史問題で位負けして、自国民の安全をないがしろにするのは愚の骨頂だからだ。 (政治部 榊原智)

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    【野田政権考】党より国の危機管理

     野田佳彦首相(54)は、菅政権では反主流派として干されてきた小沢一郎元代表(69)と鳩山由紀夫元首相(64)のグループを取り込むため「派閥均衡」人事を行った。「反小沢」「親小沢」をめぐる稚拙な争いに歯止めをかけ、党分裂を防ごうとするものだが、党内基盤が弱い首相の政治行動としては極めて正しい。「党の危機管理」は国家国民のために権力を振るうための前提だからだ。 しかし、当たり前のことだが、本当に重要なのは首相がどんな政治を実行するかだ。野田首相は地味な「政権管理人」に堕す恐れがある。ねらいを絞って政策を遂行しなければ活路が開けるはずもない。保守政治家を自認するなら「国の危機管理」に取り組んだらどうか。政策に熱意あるのか 民主党政権になって3人目のたらい回しの首相だけに、2011年度第3次補正予算成立後に衆院解散・総選挙に踏み切るのが筋だ。しかし、今の民主党では勝てるはずもない。だから解散からは逃避するのだろう。だったら、なおさら政策で勝負するしかないではないか。 民主党執行部の顔ぶれは、新首相にとって「お友達」からはおよそかけ離れている。選挙の公認権と党の資金を含む党運営の実権を握る輿石東幹事長(75)は、日教組のドンで小沢氏の盟友だ。政権の命運を握る「ねじれ国会」を舵取りするのは鳩山氏の側近、平野博文国会対策委員長(64)だ。 さらに、前原誠司政策調査会長(49)には政策の事前承認権まで与えられた。輿石、平野両氏へのバランスを考え、反小沢勢力では最大規模の前原グループに配慮したものだ。 野田首相にとって、政治的に長く対立してきた小沢氏に党運営の実権を渡すリスクを冒すことも、民主党代表選で野田氏を押しのけようと土壇場で立候補し、外国人献金問題などで自滅した前原氏に政策を任せることも、気持ちのいいことではあるまい。 「党の危機管理」のため人事では現実主義に徹した首相だが、肝心の政策に取り組む熱意があるかといえば、心許ない。 8月27日朝、野田氏は首相官邸にほど近いホテルで、政策発表会見を行った。最優先課題は「2つの危機」の克服だとして、原発事故と世界経済危機を挙げて5分ほど説明したが、記者団との質疑には応じず、「すいません。営業活動があるので」と述べてさっさと退席してしまった。 「営業活動」とは国会議員への投票の働きかけを指すのだろう。質疑は陣営若手の近藤洋介衆院議員(46)と蓮舫前行政刷新担当相(42)が行ったが十分なものになるはずもなく、記者団は野田氏の姿勢にあきれかえった。震災対策と中国への備えを 野田首相の政策に盛り込まれた危機意識は、「国の危機管理」の面からは物足りない。 原発事故の対処では、原発事故の速やかな収束▽福島の再生▽東日本大震災の復旧・復興の加速▽エネルギー制約の早期克服-を掲げた。ここには、原発事故と大震災で不備が明らかになった危機管理態勢を抜本的に見直す視点はない。 さらに、東日本大震災と類似する貞観地震(869年)があった9世紀と同様に、現代日本が地震の活動期に入ったのかもしれないという危機意識も見あたらない。貞観地震の9年後に関東地方で震災(878年)、さらにその9年後に東海、東南海、南海地震の3連動とみられる仁和(にんな)大地震(887年)が発生している。貞観地震の前年には今の兵庫県で大地震(868年)が起きている。 9世紀と似た連動地震が起きる万一に備え、早急に国を挙げた対策をとらなくてよいのだろうか。こういうことは首相が号令をかけなければ進むものではないのだ。 財源は心配ない。東日本大震災の復興費と合わせ、日本銀行が直接引き受けする「震災復興・防災国債」で調達すればいい。自国通貨を持たず、外債に頼って立ち往生したギリシャと、国債のほとんどが内国債で、経常収支は黒字、国債が市場で世界有数の信任を得ている日本では事情がまったく違うのだ。絶好の機会を失ってはならない。デフレ対策にもなるではないか。 民主党代表選のさなか、尖閣諸島周辺の領海に中国の漁業監視船2隻が入り込んできたが、野田首相も含めどの候補も抗議の声をあげず、台頭する中国にどう向き合っていくかという外交・安全保障上の構想を国民に説かなかった。 米国は国債発行上限問題で国防費の減額を迫られている。野田首相は2012年度予算で防衛費を明らかな増勢へ転じる決断を下すべきだ。中国の野心を抑えなければ、わが国は近い将来、一層の負担や不利益、屈辱に直面することになる。それを防ぐのも、大事な危機克服だと思うのだが。 (政治部 榊原智)

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    【菅政権考】「誰が原発を防衛するのか」

     北朝鮮の弾道ミサイルが降ってくる恐れはあっても、特殊部隊や武装工作員が原子力発電所を奇襲してくることは決してないと民主党政権、防衛省・自衛隊、警察庁は思っているのだろうか。多額の予算をかけてミサイル防衛(MD)システムを整備するのは正しい。だが、原発に対する軍事攻撃に予算と自衛隊の兵員を割いて備えようとしないちぐはぐさは実に奇妙だ。 東京電力福島第1原子力発電所の事故は、大規模な放射能漏れが起きれば国家が大混乱に陥ることを、世界中の国家やテロリスト集団に知らしめた。少人数のテロリストなら警察の「原子力関連施設警戒隊」で撃退できるだろう。しかし、高度な軍事訓練を受け、軽迫撃砲や対戦車火器で武装した数十人規模の特殊部隊がやってくれば、かなうはずがない。原発内部へ敵がひとたび侵入すれば、破壊による大規模な放射能漏れも、原発を「人質」にわが国を脅迫することも思いのままだ。自衛隊が加わった原発防衛・警備へ態勢を改める必要がある。検討始めた自民党 破壊、占拠された際のダメージを考えれば原発は極めて重要な防衛対象だ。 韓国の古里原発では4月13日、韓国軍制服組トップの韓民求合同参謀本部議長が主管して、北朝鮮の武装工作員が原発爆破を目的に侵入したとの想定で、韓国軍などが演習を行っている(朝鮮日報オンライン日本語版、4月14日)。5月18日には蔚珍原発で、陸軍特殊部隊員を侵入役とする抜き打ちの「防衛態勢点検」が実施されたという(毎日新聞6月2日付朝刊)。韓国が、福島の事故に触発されたのは明らかだ。 菅直人首相(64)が「脱原発」を唱えても、わが国の原発はその必要性から、少なくとも当面、または長期にわたって、存在し続けるだろう。自然災害だけでなく、攻撃から守る措置を講ずるのが、国家と国民に対する責任だ。 自民党は動き始めている。自民党政務調査会(石破茂政調会長(54))が今津寛国防部会長(64)の問題提起を受け、「原発警備に関する検討会」(座長・浜田靖一元防衛相(55))を設置した。自衛隊の原発防衛を可能にする自衛隊法改正案の検討を進めている。自衛隊法81条の2で規定する「警護出動」の対象に原子力関連施設を加える方向だ。7月1日と13日には非公開の会合を開いた。 一方、防衛省・自衛隊から原発防衛の声はあがっていない。北沢俊美防衛相(73)は6月4日、シンガポールでの国際会議で、自衛隊が原発「事故」に対処するロボットを将来保有し、国際支援も行う考えを示した。結構な話だが、「攻撃」に対処する本業はどこへ行ったのか。縦割りと予算・人員が壁 防衛省関係者は、民主党の閣僚、要人の無関心同然の態度に加え、「原発警備は警察の縄張りだから防衛省・自衛隊はためらっている」と解説する。警察の手に負えなくなって初めて自衛隊が投入される仕切りのようだ。 縦割り意識による警察への遠慮と、自衛隊法に原発防衛、警護の規定がないことで「防衛省・自衛隊は全国の原発の詳細な実態も知らない」(関係者)という。本来なら、軍事攻撃からの原発の抗堪性強化の助言をしなければならないのだ。 国内に原発は54基あり、沿岸部のおよそ24カ所に固まって存在している。警察は各原発に、多くて数十人の「原子力関連施設警戒隊」を配備し、海上保安庁と警備にあたっている。主要火器はサブマシンガン程度だ。 石川県警と愛知県警対テロ特殊部隊(SAT)は2010年11月、志賀原発(石川県志賀町)で対テロ訓練を行った。外国の武装工作員3人を銃撃戦の末制圧する想定だった。 要するに、警察の警備は、テロリスト対策であって特殊部隊レベルの襲撃には対応していないのだ。装備を強化しても、警察が軍の特殊部隊に対抗するのは至難の業だ。 今年3月31日には、福島第2原発のゲートを突破した街宣車が約10分間、構内を走り回って逃走した。その後容疑者は逮捕されたが、これが本当の襲撃だったらどうなっていたか。 原発は人里離れた海辺にある。自衛隊が駆けつけるまで敵が侵入を待つはずもない。陸自の精鋭「特殊作戦群」(千葉県・習志野駐屯地)の投入も当然だが、同時多発の攻撃があり得る中で、自衛隊部隊の常駐は欠かせない。警備は、警察や民間警備会社との協力も必要だ。 24時間3交代で原発を守るのに各1個中隊(約200人)が必要として、陸自で約1万人の兵員がいる。ただし今の自衛隊は人員も予算も足りない。南西方面の防衛強化など任務が増すばかりで一兵、1円の余裕もないからだ。自衛隊の増員と予算増へ舵を切るのが賢明というものだ。 (政治部 榊原智)

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    【菅政権考】憲法論議の「障害物」は?

     「一度に2つ、3つのことができない人はリーダーになるべきではない」。自民党の伊吹文明元幹事長(73)が、東日本大震災と福島第1原発事故の対応に手いっぱいで、外交や経済をおざなりにしている菅直人首相(64)をこう批判した。これは、憲法論議をめぐって煮え切らない民主党にもあてはめていいだろう。憲法問題や憲法改正原案を審議する参院憲法審査会の規程制定に賛成したものの、民主党の参院執行部は震災や原発事故を理由に、肝心の審査会委員の選任に前向きではないからだ。2つの動き 民主党は2007年の国民投票法の衆院採決が強行採決だったことを理由に、「与野党間の信頼関係がなくなった」として憲法への取り組みを怠り、07年の参院選以降は党憲法調査会も廃止していた。ところが今年5月に入って憲法問題で2つの動きを見せた。 1つは、5月10日の党常任幹事会で党憲法調査会を復活させ、会長に前原誠司前外相(49)を充てたことだ。 さらに、参院憲法審査会の審査会規程に賛成した(5月18日の本会議で可決)。これで衆参各院の審査会規程が出そろった。 一見、民主党が憲法問題に積極的になったかのように見える。共産党は「前原氏会長で改憲大連立狙う。民・自中心に議論始める態勢づくり」(5月11日付「しんぶん赤旗」)と警戒をあらわにしている。 前原氏は24日昼、衆院第1議員会館の自室で、当選1回の民主党衆院議員5、6人と憲法について意見交換した。 「私たち1回生の多くは保守系だ。党内の空気は変わったと思います」との出席者の声に前原氏は聞き入った。 民主党の保守系議員は「昨年の武器輸出三原則見直しは『当然やるべし』という声が9割だった。憲法論議だって意外とスルスルいくんじゃないか」と語る。 定住外国人に対する地方選挙権(参政権)付与への賛成論者で、法律が禁ずる在日韓国人からの献金を受け取っていた問題で外相を辞任した前原氏が保守政治家といえるのかはさておき、前原氏が憲法論議に前向きなのは間違いない。 民主党の憲法調査会や衆院憲法調査会の幹部を長く務めながら、実際のところは憲法改正にブレーキをかける「遅滞戦術」をとってきたとさえ思える枝野幸男官房長官(46)と仙谷由人官房副長官(65)が政府入りしていることも、憲法論議を進める上ではプラスかもしれない。果たして本気か ただ、前原氏が登場しても民主党の本気度は疑わしい。 「憲法は大変大きな問題で落ち着いた時にしっかり議論するべきだ。大震災、原発問題が収束していない状況下で、落ち着いた議論ができるのかを考えると、なかなか難しいのかなと」 25日の記者会見で、参院憲法審査会の委員選任をするのか問われた民主党の羽田雄一郎参院国対委員長(43)はこう述べ、否定的な考えを示した。 さらに羽田氏は、衆院側と協議を進める考えを示しながらも「野党との協議も大変ハードルが高くなっている。そういう中で進めていくのがいいのか、党内議論もしっかりしながら進めていきたい」と述べた。国会での与野党対決ムードを委員選任に消極的な理由に挙げたのだ。 審査会始動を願う民主党の衆院若手は「障害がある。ずばり、輿石東(こしいし・あずま)参院議員会長(75)だ。民主党が参院で審査会委員を選ぶのかは、あの人にかかっているが、なかなか動かない。(説得は)前原さんの役目だ」と語る。 参院のドンの輿石氏は旧社会党出身で日教組の政治団体「日本民主教育政治連盟」会長だ。憲法改正を望んでいないのは明らかだ。岡田克也幹事長(57)も憲法論議にとりたてて熱意があるわけではない。民主党には、衆院の内閣不信任案や参院の首相問責決議案の採決で社民党を敵に回したくない事情もある。 自民、民主、みんな、国民新、たちあがれ日本など各党の有志国会議員は6月7日、憲法96条改正推進議員連盟を結成する。 改憲案の発議要件を「衆参両院の各3分の2以上の賛成」から「両院の各過半数」へ緩和することを目指す。自民党は100人以上が参加の予定だが、焦点は民主党議員の参加規模だ。多ければ「審査会委員選任の呼び水」(自民党中堅)になる。 内政にも外交にも閉塞感が漂っている。戦後体制は行き詰まっており、現行憲法に手を触れないままいくら改革を叫んでも世直しは成功しない。民主党が憲法審査会の始動にストップをかけ続けるとしたら、「主権者」の国民投票の権利を封印するのと同じだ。そのような政党が「民主党」を名乗るのは悪い冗談になってしまう。 (政治部 榊原智)

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    【菅政権考】大連立より与野党の「復興審議会」を

     関東大震災での山本権兵衛(1852~1933年)内閣の対応と比べ、菅直人内閣のなんと劣ることか。東日本大震災の被災地の人々が立ち上がるには、復興の大方針と計画を早く示す必要がある。街や産業をどうよみがえらせるかの青写真なしに、施設や家屋、産業の整備は進まない。 被災した人々もどこでどのように暮らしを立て直すか決めかねてしまう。しかし菅直人首相(64)や実質的な官房長官の仙谷由人官房副長官(65)、岡田克也民主党幹事長(57)は、復興に向けた与野党結集の態勢を今も構築できないでいる。野党トップを入れる 関東大震災での山本内閣の対応は決然としたものだった。 1923年(大正12年)9月1日昼に起きた関東大震災で、下町を中心に東京には焼け野原が広がった。 東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城、静岡、山梨の1都6県に被害は及び、死者・行方不明者は10万5千人以上。家屋の全焼38万1千戸、全半壊17万4千で、被災者は実に340万5千人。戦後最大の天災である東日本大震災を上回る。当時の日本の国力を考えれば、どれほど巨大な災厄だったろうか。 「首相不在」中の震災でもあった。直前の同年8月24日に加藤友三郎首相(1861~1923年)がガンのため在職中に病没し、内田康哉(1865~1936年)外相が首相臨時代理に就いた。同29日に山本権兵衛元首相に組閣の大命降下があり、震災当日は山本はまだ組閣構想中だった。 翌2日夜、東京・赤坂離宮の「萩の茶屋」で、ロウソクの灯りの下で親任式が行われ、山本内閣は発足した。 内田職務執行内閣は2日、臨時震災救護事務局を設けるなど救援に懸命だった。山本内閣はこれを引き継ぐとともに、内相の後藤新平(1857~1929年)がその日から復興計画づくりに着手した。 関東大震災から18日後の23年9月19日、山本首相が総裁で、委員は国務大臣待遇を受ける「帝都復興審議会」を設けた。後藤ら閣僚、渋沢栄一(1840~1931年)ら財界人、伊東巳代治(1857~1934年)ら枢密顧問官に加え、野党・立憲政友会総裁の高橋是清(1854~1936年)や野党・憲政会総裁の加藤高明(1860~1926年)、それに貴族院の最大会派「研究会」の幹部らが加わっている。 政党内閣ではなかった山本内閣は、議会勢力を議論の土俵に乗せたのだ。ようやく有識者会議 震災から26日後の同月27日には、後藤が総裁の「帝都復興院」が設立された。これに先立ち、震災からわずか1週間後の同月8日には、後藤の命を受けた内務省都市計画局が復興計画の第1案をまとめている。 同月12日の帝都復興の詔書は、東京を単に復旧するのではなく、復興する方針を打ち出した。政府は、大規模な区画整理や拡幅の大きい道路の建設などで災害に強い近代都市に生まれ変わらせようとしたのだ。 一方、菅首相は4月11日をめどに有識者や地元自治体の代表らでつくる「復興構想会議」(議長・五百旗頭真防衛大学校長(67))をつくる意向だ。東日本大震災から1カ月の節目を意識した設置なのだろう。構想会議は復興策を提言する組織で成果が期待されるが、これだけでは足りないだろう。 何よりも先に、責任をもって復興計画を実務的に策定する「帝都復興院」や、オールジャパンで構成する「帝都復興審議会」に相当した組織の発足が望まれる。今の衆参両院がねじれ状態である以上、復興計画と復興予算の実現のため、復興に限って与野党が結集する態勢が必要だ。 今回の「復興構想会議」は「帝都復興審議会」たり得ず、むしろ「帝都復興院」の傘下で有識者や各官庁の幹部で構成した「帝都復興院評議会」に似ている。 大連立構想は、菅首相の退陣の是非をめぐり、いったん暗礁に乗り上げたようだ。それでも、「帝都復興審議会」のような超党派の組織を作れば協調態勢はとれる。 大連立は強力な批判勢力が議会から消え失せることを意味する。望ましくはないことだが、大連立をするとしても、中曽根康弘元首相(92)が指摘した期限付きか、一定期間後に衆院解散・総選挙を行う約束を伴っていなければならない。それに欠ける大連立は日本の政治にも復興自体にもマイナスに働くだろう。(政治部 榊原智)

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    【菅政権考】「北朝鮮崩壊」に備えているか

     南西諸島防衛に加えて、「北朝鮮崩壊」を含む朝鮮半島危機にも備えなければならない段階にきている。万一の場合に、菅直人首相(64)が率いる民主党政権や各政党に、きちんと対応する能力があるのかどうか。不安は募るばかりだ。ゲーツ発言の真意は 米国のゲーツ国防長官(67)は16日、米下院軍事委員会の公聴会で米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設について「今春終わりごろまでの解決を望んでいる」と述べた。 これに対し菅首相は17日、首相官邸で記者団に「期限を切るということではありませんが、昨年5月28日の日米合意を踏まえて、沖縄の皆さんに誠心誠意理解を求めていくことは変わりません」と述べ、今春を期限とはしない考えを改めて示した。 民主党政権内には、春の大型連休中の日米外務・防衛首脳会談(2プラス2)や6月の首相の米国訪問と、普天間問題の決着の切り離しを米国は容認しているとの見方が広がっている。今回の発言にしてもゲーツ氏が「沖縄(との協議)がどうなるか明確にならないと海兵隊のグアム移転を前に進められない」と議会に説明した方に重点があるとみているようだ。 これにはゲーツ氏が1月13日、防衛省で行った北沢俊美防衛相(72)との会談後の共同記者会見で、普天間移設について「日本の国内事情が非常に複雑だと米国は理解している。日本側の指導に従って、それに関しての行動をとる」と繰り返したことが背景にある。 民主党外交安全保障調査会事務局長の長島昭久衆院議員(49)はツイッターで次のようにつぶやいた。 「(ゲーツ氏発言の)背景には、朝鮮半島情勢の緊迫化と中国の動向があることは間違いない」(1月14日) 「ようやく普天間移設と同盟深化のプロセスを切り離した菅政権の努力も認めてやってはいかかでしょうか?」「我々にとって貴重な『時間』を手に入れたということです。もちろん無限ではありませんが」(いずれも1月15日)米韓演習のシナリオ 米統合参謀本部が今月8日に公表した「国家軍事戦略」は北朝鮮について「核能力や潜在的に不安定な権力継承は地域の安定や国際社会の核不拡散努力に悪影響を与える危険性がある」と指摘した。 米軍制服組トップのマレン統合参謀本部議長(64)は昨年12月8日、韓国軍の韓民求(ハン・ミング)合同参謀本部議長とソウルで会談し「日米韓3国合同軍事演習」の必要性を訴えた。異例の要請であり、日韓とも及び腰だが、両国の難しい歴史的関係を知る米軍部があえて持ち出したのは、よほど危機感を持っているからだろう。 今月18日から米韓合同軍事演習が始まった。米空母や両軍の20万人以上の兵員が参加する大規模なものだ。北朝鮮に核、生物、化学兵器といった大量破壊兵器を使用させないよう米韓両軍が対処するシナリオが新たに入った。 北朝鮮は韓国正面の38度線に大量の兵力を貼り付けているが、中朝国境はがら空きも同然だ。 ある自衛隊幹部は「金正日(キムジョンイル)総書記(69)でさえ権力掌握に長期間かかった。後継者の三男、正恩(ジョンウン)氏(29)は若すぎるし、父親の体調からみても時間が足りず権力継承はうまくいかない。このままでは北に中国の傀儡(かいらい)政権が生まれ、中国軍が38度線までを支配下におくのではないか。安全保障環境が激変する」と懸念する。 南西方面での対応すらおぼつかない日本は、中国の一層大きな軍事的圧力にさらされかねない。 北朝鮮の混乱や崩壊があれば、北による大量破壊兵器の使用や拡散を防ぐため、もう一つは北が中国の完全な影響下に入ることを防ぐため、米韓軍は38度線以北に進攻するだろう。米海兵隊も重要な役割を果たすことになる。 起きてほしくはないこととはいえ、邦人救出や弾道ミサイルからの国民の防護、難民対策、工作員の制圧、核攻撃の恫喝(どうかつ)への腹構えなど備えるべき課題は多いが、日本の危機感は薄い。かろうじて防衛省で、自衛隊の米軍への洋上補給が可能な範囲を、領海だけでなく公海へ拡大する周辺事態法の改正論が出てきた。朝鮮有事や中台有事の際、日米同盟を維持する上でも現周辺事態法は役立たずだからだが、崩壊間際の菅民主党政権では何もできそうにない。(政治部 榊原智)

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    【菅政権考】 皇室への敬愛欠く「蛤(はまぐり)の変」

     民主党の中井洽(ひろし)衆院予算委員長(68)が11月29日の議会開設120年記念式典で、秋篠宮ご夫妻に対し「早く座れよ。こっちも座れないじゃないか」と非礼な発言をした問題で、衆院へ懲罰動議が出る事態となった。 皇室への理解と敬愛の念が不十分な言動は、残念ながら中井氏以外の政治家にも時に見受けられる。特に、民主党が中井氏の非礼な発言を頑(かたく)なに否定し、擁護に走ったことは相当な問題だ。何事にも責任をとらない党の体質が、皇族にかかわる問題でも現れてしまった。礼節こそが、人と禽獣(きんじゅう)を区別するものではなかったか。日本の政治家の劣化はいつやむのだろうか。礼節わきまえず 「この国会は『蛤(はまぐり)の変』で終わることに。情けない」 中井氏への懲罰動議が出た1日夜、公明党幹部はこう嘆いた。 ベテラン議員の中井氏は、名前の「洽(ひろし)」が難読で、「蛤」に似ているため、政界では「なかい・はまぐり」というニックネームがついている。ある意味大物の証明なのだが、これと、幕末の1864年に会津・薩摩両藩と長州藩が京都御所をめぐって戦った「蛤御門の変」をもじっての嘆きだ。 新党改革の舛添要一代表(62)は2日、「天下国家の大きな所から議論すべきで、(式典での中井氏の)やじや(逢沢一郎自民党国対委員長(56)の)携帯電話の音が国会会期末の争点になる(ことで懲罰合戦になった)のは、日本が終わった感じがする」と語った。 その通りだが、厳粛であるべき国会の式典での、皇族への非礼な言動を等閑視していいことにはならない。 「辞譲(じじょう)の心は礼の端(たん)なり」(「孟子」) 古の中国の聖人はよい言葉を残してくれた。へりくだって譲る心が礼の芽生えである-という意味だ。議員が席に座りたいからといって、両陛下を起立してお待ちになっていた秋篠宮ご夫妻に暴言を吐くのは、実に対照的だ。 1日の参院議院運営委員会理事会で、自民党理事は、中井氏には発言以外にも不適切な振る舞いがあったと報告した。 「中井氏は、天皇皇后両陛下、秋篠宮同妃両殿下のお迎えに際しても、一人(モーニング姿ではなく)平服で、お迎え前にもポケットに手を入れ、周りの民主党委員長と雑談していた。秋篠宮同妃両殿下の議場ご入場の際も1人着席のまま、数秒後に立つ対応だった…」 中井氏は1日、発言について「隣の人としゃべっただけ。『(着席されるよう)宮様に伝えていないのかね』と言った」と、秋篠宮ご夫妻を気遣ったのだと主張した。しかし、問題発言を耳にしたと語る議員は、水野賢一・みんなの党幹事長代理(44)ら何人もいる。終始無関心な菅首相 尖閣ビデオ映像の流出には烈火のごとく怒った菅直人首相(64)も、中井氏の問題には何の関心も示さない。さすが、国旗国歌法の衆院採決で反対しただけはある。 平成21年11月に天皇陛下ご臨席で開かれた「ご在位20年記念式典」の最中に、当時、副総理兼財務相だった菅首相が「首を何度も何度もこっくりこっくりとし、居眠りをしていた」(自民党の木村太郎衆院議員(45)の質問主意書)疑惑が指摘されたこともあった。このときの政府答弁書は居眠りを否定も肯定もしていない…。 小沢一郎元代表(68)も、昨年、天皇陛下の中国要人とのご会見を強引に実現した。 礼節をわきまえない人たちが「政治主導」など行っていいものか。民主党にも「式次第がそう(=ご着席)なっていたからといって、秋篠宮様が天皇皇后両陛下を立ってお待ちになる判断をされたのだから、僕ら(国会議員)も従わないといけない」(参院幹部)との常識ある議員もいるが、執行部では少数派だ。 他にも議員の劣化の例があると明らかにしたのは皮肉にも中井氏だった。釈明の際、「僕が言うと怒られるが、秋篠宮さまが(議場に)お入りになってから遅刻した奴が10数人いたぞ」と語ったのだ。 また、議会開設記念式典に出席しなかった国会議員は共産党の15人を含め、全体の半数近い330人超に及んだ。 このようなことが、「日本国の象徴」と明治以来の議会政治の歩みをないがしろにすると思わないのだから、事は深刻だ。(政治部 榊原智)

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    【菅政権考】「張り子のトラ」に位負けの愚

     尖閣(せんかく)諸島沖の中国漁船衝突事件(尖閣事件)をめぐる菅直人首相(64)、仙谷由人官房長官(64)ら民主党政権の対応はいかにも弱腰だ。中華人民共和国を過大評価して「位負け」に陥っている。対中恐怖症は自民党政権にもあったが、度合いは強まるばかりで今や広く国内に蔓延(まんえん)している。 両国の国力と国情、国際的位置を考えれば、中国の暴走を押さえ込み、平和を保つことはできる。日本の政治家と国民がしっかりすればいいだけの話だ。現代中国は、末期の清国のような「張り子のトラ」だと思った方がいい。長崎事件を想起 今回の尖閣事件では、民主党内からさえ、1895年の日清戦争後の「三国干渉に匹敵する国難だ」との声が出ているが、むしろ1886年の長崎清国水兵事件を思い起こさせる。 「眠れる獅子」と言われた清国の北洋艦隊は排水量7000トンのドイツ製新鋭戦艦「定遠」「鎮遠」を持ち、3000トン級の艦しかない日本海軍をはるかに上回るとみられていた。  1886年8月、「定遠」「鎮遠」を含む4隻の北洋艦隊の軍艦が、修理のためと称して日本政府の許可なしに長崎に寄港した。 このこと自体、典型的な示威行動だが、上陸した数百人の清国水兵は長崎の花街などで乱暴狼藉(ろうぜき)を働き、日本の警察官と衝突、双方に死傷者が出た。 中国に贖罪(しょくざい)意識を持つ日本人は仙谷氏を筆頭に依然多いが、今と同様、中国が居丈高な時期もあったのだ。 明治の日本人が偉いのは、国造りの中で陸海軍の整備を怠らなかった点だ。1894~95年の日清戦争では北洋艦隊を打ち負かして、「鎮遠」などを拿捕(だほ)している。 10月18日の参院決算委員会で、自民党の丸山和也参院議員(64)は、仙谷氏との衝撃的なやり取りを明かした。仙谷氏の歴史的迷言 中国人船長釈放の直後に仙谷氏と電話した際、丸山氏が「日本が中国の属国になる」と憂慮を伝えたのに対し、仙谷氏は「属国化は今に始まったことではない」と語ったという。本当なら政治リーダー失格の歴史的迷言だ。 民主党政権は中国漁船衝突時のビデオ画像の報道、国民への公開をためらっている。中国政府が怖いのだ。野党でも、たちあがれ日本の与謝野馨・共同代表(72)が27日、「終わった事件の余波を拡大する方向で動いてはいけない」と公開に反対した。こんな事なかれ主義が中国を増長させてきたことに気づかないのか。真相を各国や、言論の自由のない中国国民に伝えていくことこそが、結局は日中関係を安定させていく。日本に十分ある国力 日中のGDP(国内総生産)は今年逆転するという。4~6月期の名目GDPで日本(1兆2883億ドル)は中国(1兆3396億ドル)を下回った。 けれども、中国の1人当たりGDPはチュニジアやアルバニアなど後発の開発途上国の水準だ。中国も演算速度世界一のスパコンを開発しているが、全体として技術力は日本が圧倒的に上だ。統計上の疑問もあるが、GDPがほぼ同じとしても中身は違う。 共産党が支配する中国は、自由も民主主義もない。それを求める政治犯がノーベル平和賞を受賞すると、党と政府は金切り声で反発する。富は資本主義国以上に偏在し、法治国家でもない。環境悪化は進み、あと15年ほどで深刻な高齢化社会を迎える。 日本は問題をいろいろ抱えてはいるが、自由と民主主義が定着した立憲君主制の国として、社会の安定度は世界でもなお高い。1億人規模の人口と十分に大きなGDP、営々と投資してきた社会インフラ、技術力がある。これほどの国が南西方面で、「大きな後発発展途上国」である中国の脅威に対抗できないなら、それはもう日本人のやる気の問題だ。 しかも、中国は日本だけに全力を向けてくるのではない。インドも、ベトナムも、ロシアも、米国も、台湾も相手にゲームを展開している。 加えて、日清戦争前とは違って今は、鳩山前政権が傷を負わせたものの、日米同盟もある。集団的自衛権の行使を認め、「子ども手当」の予算の半分でも防衛力整備に回せば、子供たちの世代に、今よりはるかに平和な日本と東アジアを引き継げる。 核抑止と情報面の協力を除けば、尖閣諸島防衛は日本が当たればいい。さしあたり、外国人の不法上陸によるトラブルを防ぐためにも、尖閣を自衛隊の演習地とし、陸自の部隊を交代制で、切れ目なく派遣したらどうだろう。(政治部 榊原智)

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    【菅政権考】「首相に向かない」菅、小沢コンビ

     民主党代表選で菅直人首相(63)が小沢一郎元幹事長(68)に勝利した。内閣改造と党役員人事では論功行賞が行われ、民主党の反小沢勢力はわが世の春を謳歌(おうか)している。それでも、菅政権が、衆参ねじれ国会を乗り切るのは至難のわざだ。菅か小沢か、反小沢か親小沢かをめぐって、権力闘争はなお続くだろう。だが、そもそも首相と小沢氏は「中原に鹿を逐(お)う」に値する識見を持っているのか。鈍感な2人 民の健やかな暮らしを支えることが、為政者にとって最重要事であることは言うまでもない。だからこそ、首相と小沢氏は党代表選の政見に「国民の生活が第一。」のスローガンを掲げたのだろう。 そうであっても、政治には、生活とは一見なんの関係もなさそうだが、実に重要な事柄もある。そういった分野について政治家に見識や覚悟があるかどうかは、その種の特別な案件が実際の課題になるか、または選挙の論戦の際でもなければなかなか分からない。 今回の民主党代表選は、首相と小沢氏という2人の実力者が、国土と主権の保全に鈍感であることを示してしまった。 尖閣諸島海域で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突を繰り返し逃走したのが9月7日。巡視船は翌8日、この中国漁船を停船させ、船長を公務執行妨害の疑いで逮捕し、船を回航した。中国政府はこれに反発し、さまざまな「抗議」や嫌がらせを始めた。中国メディアは巡視船の方が衝突したと誤った情報を流した。 代表選まっただ中の出来事だったが、素早く立ち上がり、政府を支援する動きを公然と示した民主党議員はベテランから新人にいたるまでほぼ皆無だった。与党時代の自民党であれば、少なくとも何人かの国会議員が声を挙げただろう。 日本の立場を発信できる機会が十分すぎるほど与えられていた首相も小沢氏も、その立場を使うことはなかった。 首相は8日夕、報道各社のインタビューでこの問題を問われたが、第一声は「まあこれは、わが国の法律について、まあ厳正に対応していくと。そういうことだと思ってます」だけ。記者団が「中国に対しては一歩も退かないおつもりですか」と“お膳立て”しても、首相は「あの、法律についての対応。それをきちんとやっていくということです」と繰り返した。「ゆっくり楽しんで」 同じ日の夜、首相官邸の大ホールで は、自衛隊の高級幹部を集めた首相主催の懇親会が開かれた。首相は「国民の期待を大事にして、一層奮闘をお願いしたい」とは語ったが、こうものたまった。 「私が最高司令官でありますので、最後までどうぞ、最高司令官として主催の懇親会ですので、今日はゆっくり楽しんでください」 自衛隊の将官たちは内心、ずっこけたろう。 小沢氏も次期首相候補の自覚があれば、尖閣問題についての主張を展開してもよさそうだが、8日の記者会見で言及することはなかった。あれだけ毎年、大訪中団を率いて中国の首脳部と握手してきた小沢氏だ。少しくらいモノを言っても壊れない信頼関係はないのだろうか。 首相と小沢氏は、9日に札幌で立会演説会を開いたが、外交安全保障の話はゼロ。10日に民主党国会議員有志が主催した2人の公開討論会でも尖閣の話題は一切なかった。 国家の3要素は領土・国民・主権といわれる。尖閣諸島は日本が実効支配しており両国間の領土問題では決してないが、日本の領土、主権が脅かされている重大事であるのに変わりはない。 このような問題への首相と小沢氏の「沈黙」を、中国は「与しやすし」とみて、対日政策立案の参考にしているに違いない。 首相と小沢氏が語らねばならないのは(1)確固たる尖閣諸島保有の意志(2)尖閣が日米安全保障条約の発動の対象であること(3)日本国民に理解と協力を呼びかける-の3点だったはずだ。 那覇地検は24日、尖閣衝突事件で逮捕した中国人船長を処分保留で釈放すると突如発表した。このような中国への屈服は、一地検がくだせる決定ではない。外遊中の菅首相と前原誠司外相、留守居役の仙谷由人官房長官らの政治判断による「指揮権発動」に決まっている。 国の主権と領土を守る気概を喪失し、法治主義を放棄した首相と閣僚たちは、廟堂に座る資格がないのではないか。(政治部 榊原智)

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    【菅政権考】旗を立てない民主・保守系議員たち

     民主党にも保守系の国会議員がいないわけではない。鳩山由紀夫前首相(63)と菅直人首相(63)の両政権は、旧社会党が復活したかと思わせる「進歩的」な政策を推進し、民主党の保守系議員たちは不満を募らせてきた。9月14日の党代表選は、政策面の左傾化に歯止めをかけ得る機会だが、保守系議員たちは大きな声をあげるには至っていない。まるで旧社会党 戦後日本では長く政界の対立軸は「保守」と「革新」とされてきたが、旧ソ連崩壊も相俟って、旧社会党や共産党に代表される革新勢力が退潮し、この構図は忘れ去られた。 平成に入って自民党への対抗政党として登場したのが「二大政党による政権交代」を唱える新進党、ついで民主党だった。 民主党には、革新勢力の中軸だった日教組や自治労が支援する旧社会党議員や旧社会党職員が流れ込み、今も党内で勢力を保っている。 それでも民主党は「革新政党」ならぬ「改革政党」と見られ、自民党にあきたらないか、選挙区などの事情で自民党から出馬できない保守系の候補者が、民主党から相次いで当選してきた。 鳩山政権が取り組んだ米軍普天間飛行場の県外・国外移設や永住外国人への地方参政権(選挙権)付与、親子別姓を意味する選択的夫婦別姓、東アジア共同体構想はどれも実現しなかったが、往年の革新勢力に属した「進歩的文化人」らが知ったら大歓迎したであろう政策だ。 菅政権も同様だ。菅首相は旧社会民主連合出身、実力者の仙谷由人官房長官(64)は旧社会党出身。自虐史観に染まっているようで、日本の朝鮮統治を一方的に断罪する日韓併合100年に伴う首相談話を発表した。 終戦の日に靖国神社を参拝する菅内閣の閣僚は皆無で、朝鮮学校の授業料無償化は近く発表されそうだ。閣僚の靖国参拝ゼロ 鳩山政権で検討が進み、菅政権で発表された政府の男女共同参画会議(議長・仙谷氏)の答申(7月)は、選択的夫婦別姓制度導入とともに、多様な生き方を可能にする社会制度の実現を理由に「世帯単位の制度・慣行から個人単位の制度・慣行への移行」を唱えた。 さほど注目されなかったが、家族を軽視し、国民を個人単位へ分解して政府が管理しようとする社会主義的発想が色濃く反映している。 これらの政策に、民主党の保守系議員らは表立った行動を控えてきた。外国人参政権問題で、小沢執行部の「弾圧」を恐れる少数の若手が密かに集まっていた程度だ。 民主党の動かない「保守」の典型が、次世代リーダーの1人で、約30人のグループを率いる野田佳彦財務相(53)=衆院当選5回=だろう。 野田氏は、2005年の内閣への質問主意書では「『A級戦犯』と呼ばれる人たちの名誉は回復されている」と主張していた。父は自衛官でもある。 野田氏は、仙谷氏が主導した日韓併合をめぐる菅首相談話について、周囲に懸念を表明していた。しかし、最終的には閣議決定に淡々と応じている。終戦の日の靖国神社参拝も行わなかった。新たな動き 一方で野田氏は17日、自身を財務相に起用し、「脱小沢」路線を掲げる菅首相の再選支持を表明した。党内政局を優先し、保守ののろしをあげる機会を生かさなかったように見える。菅首相再選を支持するにしても、政策面ではっきりともの申す選択肢はあったはずだ。 新たな動きも出ている。12~13日、文豪、森鴎外ゆかりの旅館「鴎外荘」(東京・池之端)に民主党保守系の中堅・若手約20人が集結。衆院当選4回の松原仁国会対策副委員長(54)と牧義夫衆院環境委員長(52)を共同代表とする勉強会「日本国研究会」を結成し、識者から安全保障問題の講義を受けた。 会合では、菅首相談話への批判が相次ぎ、代表選候補者に見解をただすことを確認した。党内では「松原氏らは菅首相を支持しないだろう」(中堅)とみられている。 民主党政権発足後、初めての保守系議員の「発信」だが、菅首相の対抗馬が出たとしても、松原氏らの政策志向と重なる保証はどこにもない。民主党代表選で保守の旗が立つ日は来るのだろうか。(政治部 榊原智)

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    【菅政権考】短命につながる「3つの過ち」

     菅直人首相(63)、仙谷由人官房長官(64)、枝野幸男民主党幹事長(46)の政権を主導する「新トロイカ」は、7月11日の参院選で大敗してから、3つの大きな過ちを犯した。菅首相は、自ら好んで短命政権の道を歩んでいるようにもみえる。民意軽視の無責任内閣 1つ目の過ちは、参院で過半数割れしたにもかかわらず、誰も責任を取っていないことだ。枝野氏が辞任すると小沢一郎前幹事長(68)の勢力が勢いづき、9月5日の党代表選で菅首相が再選できないと恐れているのか。 「国民重視」を強調する人たちにもかかわらず、党内の政敵にしか目が向いていないことは、参院選の審判を無視された国民がすでに敏感に感じ取っているだろう。国民のしらけた気持ちは分からないのか。 2007年7月29日の参院選で大敗したが続投し、わずか1カ月半後の9月12日に退陣した自民党の安倍晋三元首相(55)のケースが思い起こされる。 衆院選のような首相指名に直結する選挙ではないが、敗れた政権・政党が何らけじめをつけないのは、有権者の審判に抗(あらが)っているとしか言いようがない。 民意を無視した居座りと世論は感じ、民主党政権の印象は悪化する。このままでは、次の衆院選で民主党は手痛いしっぺ返しを受けるに違いない。争点の「消費税」撤回 2つ目は、菅政権の独自かつ最大の政治目標だった「消費税を含む税制改革案の2010年度内の策定」先送りを表明したことだ。 前回の参院選直前の07年6月2日、民主党代表代行だった菅首相は党の会合で「どんな土俵で戦うのか。これが選挙の結果を左右する第1の要素だ」と強調した。争点を設定した方が有利だ-という考え方は正しい。04年参院選と07年参院選は、民主党が年金問題を争点に据えて勝利し、05年衆院選は自民党が郵政民営化を争点にして圧勝した。 菅首相が今回参院選の争点を消費税にしようとしたのは明らかだが、準備不足、説明力不足だった。批判を浴びて怯(ひる)み、最後は枝野幹事長が「税の問題は争点でない」と言い出す始末だった。こんな胆力のなさでは国民が共感するはずもない。ある課題を争点として定着させ、支持を集めるには「この政治家、政党は政治生命をかけて、この政策をやりたいのだな」と国民に納得させなくてはならない。 首相にも枝野幹事長にも信念はなかったのか、7月13日には「必ずしも当初想定していた期限にこだわらない」(枝野氏)として、税制改革案の年度内策定という野心的目標をひっこめた。これではいかにも迫力を欠く。「首相としてやりたいこと」をトーンダウンさせたのだ。 いったい、菅首相は党代表選で何を旗印に戦うのか。「なぜ菅直人が首相でなくてはならないのか」を説明し切れるのか。毎年のように首相が交代するのはまずいというだけでは情けない。「脱小沢」まで放棄か 3つ目は、「脱小沢」路線までも修正しようとしていることだ。 6月3日の民主党代表選の出馬会見で「小沢氏は、しばらく静かにしていた方がいい」と言い放った首相だったが、7月13日には小沢氏との会談を望んでいると表明。14日には、小沢氏との会談が実現すれば、自身の消費税発言をおわびするとまで言い出した。 V字回復した政権発足当初の高支持率を生んだのが、「脱小沢」路線だったことをすっかり忘れたようだ。 菅首相は今年の元日、東京・深沢の小沢邸での新年会に駆けつけ、乾杯の音頭をとった。それが、政権をとる際には手のひらを返して排除し、参院選で負けると再び接近を図る。ご都合主義も甚だしいが、皮肉にも、15日には東京検察第1審査会が、小沢氏の資金管理団体の07年分収支報告書をめぐる政治資金規正法違反事件で、小沢氏に対して「不起訴不当」の議決を行った。菅首相はどう動くのか。「政治とカネ」の問題に正面から取り組まなければ、ますます民心は離れるだろう。(政治部 榊原智)

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    【菅政権考】「菅コール」なき脱小沢内閣

     菅直人首相(63)は、高い内閣支持率で船出した。民主党惨敗が予想された7月の参院選は、一転して民主党が勝利するとみられ、自民党は茫然(ぼうぜん)自失の感がある。菅首相は「脱小沢」路線で人気を博しつつ、7月11日投開票の参院選で与党過半数を維持することで、長期政権をねらっている。ただ、菅首相は明らかに準備不足で登板した。また、急遽(きゅうきょ)行われた民主党代表選の過程で、党内からも、世論からも「菅コール」、菅直人待望論は湧(わ)き起こらなかった。これらのことを、菅首相と側近たちは肝に銘じた方がいいだろう。驚異の支持率42ポイント増 共同通信社の世論調査(6月8、9日調査)によると、菅内閣の支持率は61.5%。鳩山内閣末期(5月)の支持率が19.1%だったから、実に42.4ポイントも上昇した。 鳩山政権当時、暗い顔で参院選の審判を待っていた民主党議員たちは「一刻も早く選挙を」と、今やえびす顔だ。 民主党のV字回復は、「政治とカネ」の問題を抱えた小沢一郎前幹事長(68)と、米軍普天間飛行場移設問題などで言動がぶれ、「政治とカネ」の問題もあった鳩山由紀夫前首相(63)の2人が退場したのが最大の要因だ。 菅首相や枝野幸男幹事長(46)が人事や党運営で小沢色を排除し、風通しのよい党を取り戻そうとしていることも好感を呼んでいる。 要は、小沢氏のおかげで支持率が上がっているのだが、それだけで世論の支持が続くわけがない。 国会での4日の首相指名選挙から内閣発足まで4日間もかかった「人事」の遅れ、財政再建くらいしか目につかない「政策」の地味さ、郵政改革法案と参院選日程に関して国民新党の亀井静香代表(73)の閣僚辞任を招いた「政治日程」決定をめぐる稚拙(ちせつ)さ…。これらは、菅首相と側近たちが準備不足のまま政権の座についたことを意味する。行革なき消費税増税? 安全保障、外交の経験不足や国家観の欠如、外国人参政権推進など、菅首相には不安がつきまとうが、他にも3つの問題点を指摘できる。 1つは、菅首相が権力を使って「本当にやりたいこと」が、はっきりしない点だ。「菅コール」が起きなかった最大の原因でもある。改革を叫びつつ実際は漫然たる「政権管理人」になれば、支持率は減っていく。 消費税増税にだけは使命感があるようだが、副総理・財務相時代に財務官僚に洗脳されたのかと疑ってしまう。 消費税増税がいずれ避けられないとしても行政改革が前提だ。民主党は昨夏の衆院選で、徹底したムダの排除を約束して政権を得たはずだ。しかし、やったことはお茶の間ショーのような「事業仕分け」ぐらい。最低限必要な、国家公務員の総人件費2割削減は手つかずで、官公労に支援された民主党の限界を示している。 仙谷由人官房長官(64)と枝野氏の両氏は鳩山内閣の行政刷新担当相でありながら、十分な実績を出せなかった。菅首相はこの2人と新トロイカを組んだが、果たして行革ができるのだろうか。 2つ目は、「脱小沢」路線で「小沢氏登場前の民主党に戻す」(前原グループ幹部)ことにはマイナス面もある、という点だ。 「小沢支配」は民主党内に息苦しさをもたらし、党政策調査会廃止は議員の政策力を育てず、党を素人集団のままとする問題があった。しかし、党の方針を迅速に決定し、団結して政権を支える習慣を民主党にもたらす面もあった。 政党や政府は、政治力の足りない人物が要職についても十分に働けない組織だ。そのうえ、大学のサークルのような以前の民主党に戻れば、菅政権は混乱するだろう。 3つ目は、小沢氏支持の議員たちの反感が膨らんでいる点だ。菅首相は鳩山グループまで人事で冷遇している。小沢氏が、検察審査会という「強敵」の議決を政治的にしのぐことができれば、9月の民主党代表選で小沢、鳩山両グループが結びつき、菅首相が強力な対抗馬に敗れる事態もありえる。(政治部 榊原智)

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    【鳩山政権考】法律も公約も認めぬ「民主」党

     民主党は、国民投票法の制定に伴う改正国会法で設置された衆参の憲法審査会を2年9カ月にわたって始動させず、国会を違法状態に置いている。また、鳩山由紀夫首相(63)(民主党代表)は昨年、衆院選のための集会や主要6党の党首討論会で、米軍普天間飛行場について「最低でも県外移設」を目指すとした発言を公約ではないと言い張っている。法律で決まったことを立法府の中で守らず、党首が約束したことを公約と認めないことで、民主党は日本の民主主義の基盤を掘り崩しているのではないか。これではまるで「非民主化党」だ。民主党のサボタージュ 2007年5月、憲法改正手続きを定めた国民投票法と改正国会法が成立した。国民投票法の施行は、民主党や公明党の要求でほぼ3年後の10年5月18日になったが、憲法論議の場となる憲法審査会は、改正国会法によって07年8月の臨時国会で法的には設置された。 しかし、護憲派の共産、社民両党の抵抗に加え、民主党のサボタージュが続き、衆参両院の憲法審査会は委員の選任さえ行われず、憲法をめぐる論議は今も始まっていない。もし、子ども手当法があるのに手当の支給が始まらなかったら、法律違反だとして世間は大騒ぎになるだろう。 憲法審査会の問題も同じことだ。護憲的気分が今も漂うメディアは大きく取り上げないが、立法府自身が違法状態にあるのは無責任の極みだ。 民主党の小沢一郎幹事長(67)は4月26日の記者会見で、憲法審査会について問われ、「衆議院(には審査会の運用を定める審査会規程)ができて、参議院ができていない事情を私は詳しくは存じておりません」と、ひとごとのように語った。内閣で法令解釈を担当する枝野幸男行政刷新相(45)も4月30日の会見で、憲法審査会が始動していない点について「国会で判断していただくことだ。一義的に違法で問題がある状況ではないと思っている」とそっけなく語った。 民主党は、国民投票法と改正国会法の採決の際、反対したが、だからといって法律を無視していいわけではない。多数決で決まったことを守るのが民主主義の基本だ。守るつもりがないなら、民主党は与党になったのだから、国民投票法と改正国会法を廃止するか改正すればよい。だが、党内や連立の団結を損なうせいか、サボタージュを決め込んでいる。実に卑怯(ひきよう)ではないか。 鳩山首相は、これまでのことを国民に謝罪し、審査会を早期に動かして日本を法治国家に復帰させなくてはならない。首相が自身を憲法改正論者だと思っているならなおさらのことだ。発言は「公約」でない!? 一方、鳩山首相は昨年7月、衆院選応援のための沖縄県沖縄市での集会で「『最低でも県外』の方向で積極的に行動したい。沖縄の過剰な基地負担をこのまま維持するのは、納得がいかない」と述べた。さらに、衆院選公示前日の主要6党首の討論会でも「私どもは(政権をとっても)基本的な立場を変えるつもりはありません。一番いいのは海外に移設されることが望ましい。最低でも県外移設が期待される」と語っている。 だが、首相は今月4日、県内移設へ方針転換を表明した。記者団から「公約を覆したことの政治責任」を問われ、次のように釈明した。「公約という言い方はあれです。公約は選挙の時の党の考え方ということになります。党としては、という発言ではなくて、私自身の代表としての発言ということであります」 衆院選時の党幹事長だった岡田克也外相(56)もすでに昨年11月の衆院予算委員会で、「公約と(鳩山首相の)選挙中の発言とはイコールではない。公約というのはマニフェスト(政権公約)だ」と述べ、鳩山首相と同じ言い訳をしている。 首相も岡田氏も、民主主義を理解しているのだろうか。衆院選関連の集会や討論会で、公党の代表が語ったことが広義の意味での公約でないなら、有権者は何を信じて投票すればいいのか。マニフェストだけが公約というなら、民主党の代表や幹部は選挙演説や討論会への出席を自粛したらどうだろう。(政治部 榊原智)

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    【鳩山政権考】言葉を粗末にする政治家たち

     鳩山由紀夫首相(63)から、ついに「命がけ」発言が飛び出した。首相は3月31日、谷垣禎一(さだかず)自民党総裁(65)との党首討論で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題について「命がけで、体当たりで行動する」と語った。意気込みを示したつもりだろうが、軽い言動が問題視されている折だけに、もう少し言葉を選んだ方がいい。「言葉のインフレ」は、国民の民主党、ひいては政治への信頼を損なうからだ。ヘリウム入りの風船 鳩山首相は野党時代の2003年、メルマガで「秘書が犯した罪は政治家が罰を受けるべきだ」と強調していた。ところが首相就任後、偽装献金事件で自身の秘書(事件当時)が起訴されても、責任をとろうとせず、国会で平身低頭するだけだ。 このような人は、本物の命どころか「政治生命」をかける気もないと見るのが順当だ。 実際、首相は3月9日、報道陣から普天間の移設先を5月末までに日米合意できなかった場合の対応を問われたが、「進退をかけるとか、そういう野党の挑発に乗るつもりはまったくありません」と述べた。31日の党首討論でも、谷垣氏が退陣か解散総選挙を迫ったが、首相は応じなかった。 「命(いのち)」をめぐって首相は、信じられない演説もしている。1月29日の衆参本会議での施政方針演説の冒頭、首相は「いのちを守りたい」と強調し、24回も連呼した。この演説で、阪神大震災の悲劇を持ち出して「いのちを守る」決意を示したが、平成22年度予算は「事業仕分け」の判定に沿って、学校耐震化の予算を大幅に削っている。 首相の言葉はヘリウムガス入りの風船のようだ。空にのぼって漂いうせるか、いつの間にかしぼんでしまう。 民主党の小沢一郎幹事長(67)の言葉も、時にわけがわからない。東京地検特捜部の捜査を「民主主義を危うくする」と罵(ののし)ったかと思えば、不起訴処分の見通しが立つと「公平公正な捜査だ」と言い出す。 その「公正な捜査」の結果、元秘書の石川知裕(ともひろ)衆院議員(36)らが逮捕、起訴されても、小沢氏は国会の場で説明責任を果たそうとはしない。 首相も小沢氏も言葉を粗末にしている。とても「言霊(ことだま)の幸(さきわ)う国」(言葉の力が幸せをもたらす国)の政治家とは思えない。浜田国松の覚悟 「速記録を調べて私が軍を侮辱する言葉があるなら割腹(かっぷく)して君に謝罪する。なかったら君が割腹せよ」 これは、第70回帝国議会が開かれていた1937年1月、衆院本会議で、立憲政友会の浜田国松(くにまつ)前衆院議長=当時(68)=が、寺内寿一(ひさいち)陸相(陸軍大臣)=当時(57)=に迫った言葉だ。 浜田氏は衆院での演説で、2・26事件(1936年)や国民の支持を背景に軍部が、政治への影響力を強めていたことを痛烈に批判した。これに寺内陸相が「(軍人を)侮辱されるがごとく聞こえた」と反発し、応酬となり、議場は大混乱、議会は停会となった。 当時の広田弘毅(こうき)内閣が倒れるまでにいたったが、「割腹問答(腹切り問答)」といわれるこの事件は、政党政治家の自らの言葉への覚悟を示す出来事でもあった。当時、軍部を議場で戒めるのは、今の民主党で小沢氏を批判するのとは比べものにならない勇気を必要としただろう。 政府・民主党は3月31日、7月の参院選のためのマニフェスト(政権公約)づくりに着手した。しかし、首相や小沢氏が「言論の府」の先輩である浜田氏をみならって、言葉を大切にしなければ、どんなマニフェストができても国民は信用しない。参院選では民主党に厳しい審判を下すだろう。(政治部 榊原智)

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    【鳩山政権考】参院選で「保守の旗」は立つか

     国民新党代表の亀井静香郵政改革・金融相(73)は24日の記者会見で、夏の参院選で、「本格保守」を党のスローガンに掲げることを明らかにした。民主党が進める永住外国人への地方参政権(選挙権)付与と選択的夫婦別姓導入に国民新党が反対することで、勢いが振るわない自民党を尻目に、保守票の受け皿になろうというものだ。巨大な「リベラル政党」民主党の政権を、「本格保守」を称する小粒な国民新党が連立で支える奇妙な構図といえる。さりとて、自民党が「保守政党」として二大政党の一翼を担っていく見通しも立たない中、参院選に向け、保守をキーワードとする新党結成の模索が始まるのではないか。リベラルと保守の連立とは 「外国人参政権と夫婦別姓は、国民新党が反対しているからこそ実現していない。うちが賛成に回ったら、この国会で一瞬にして成立しちゃう。政治的にそういう力学だ」 亀井氏は24日の会見で、「本格保守」を唱える党ポスターを披露し、こう語った。外国人参政権と夫婦別姓を阻止したいなら国民新党に投票してほしい、というわけだ。 民主、社民、国民新の3党連立政権は、亀井氏も参加する党首クラスの「基本政策閣僚委員会」が了承しなければ、法案を閣議に提出しない仕組みだ。 亀井氏は、外国人参政権法案と選択的夫婦別姓導入のための民法改正案について「うちが反対している限り、絶対に日の目をみない。熱望している方にはご愁傷さまといいたい。(実現には)国民新党が消えていく以外にない」とも述べたが、あながち間違いではない。 ベテランの亀井氏は政策決定で民主党を引きずり回しているが、報道各社の世論調査の政党支持率は低空飛行を続けている。郵政問題は重要とはいえ、国民の関心は以前と比べれば薄れた。保守票の取り込みは国民新党の回生策なのだ。 もっとも、亀井氏は昨年の衆院選の際、毎日新聞の候補者アンケートで、憲法9条改正の賛否と、集団的自衛権の行使を禁じた政府の憲法解釈の見直しの是非を問われたが、いずれも無回答だった。保守派の条件の一つともいえる熱心な憲法改正論者とまでは言い難い。 民主党は左翼的、リベラル志向の法案をちらつかせて左派の票やリベラル票も集める。一方、連立内での国民新党の異論を許容し、保守票も連立内(の国民新党)に取り込む-こんな戦術を、小沢一郎幹事長(67)率いる民主党はとっているのかもしれない。 ただし、参院選の結果次第では、国民新党は「拒否権」を失ってしまう。参院選で民主党が単独過半数を得れば、国民新党の力は大きく低下し、リベラル法案に異論を唱えても、参院選後の民主党は応じない可能性もある。保守になりきれない自民党 自民党は1月24日の党大会で、「保守政党」と自己規定する新綱領を決定した。けれども、加藤紘一元幹事長(70)の側近だった谷垣禎一総裁(64)、国会対策畑を長く歩んだ大島理森(ただもり)幹事長(63)、大東亜戦争(太平洋戦争)を侵略だったとし、首相の靖国神社参拝に難色を示す石破茂政調会長(53)たちが、「保守政党」を引っ張っていく信条を持っているとは思えない。 安倍晋三元首相(55)は、保守系議員グループ「創生『日本』」の会長だが、保守系議員らは自民党自体の主導権を握っていない。「今さら政権投げ出しの安倍氏でもないだろう」との世間の見方をはね返すのも難しい。 舛添要一前厚生労働相(61)は2005年の自民党新憲法草案のとりまとめで、日本の歴史や伝統、文化など国柄に言及した憲法前文案を退け、担当した中曽根康弘元首相(91)を激怒させた人物だ。 自民党を離党した渡辺喜美元行政改革担当相(57)のみんなの党は支持を伸ばしているが、公務員制度改革という「反官僚」のワンイシュー政党だ。自身が出馬した衆院選で新党をつくらなかった平沼赳夫元経済産業相(70)の存在感も落ちた。 かえって、地方の政治家など新しい勢力が「保守の旗」を掲げて国政に挑むチャンスが増している。(政治部 榊原智)

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    【鳩山政権考】「高杉晋作」がいない民主党

     小沢一郎民主党幹事長(67)の政治資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる疑惑は、政権を担う器量を持つ民主党幹部がいないことも浮き彫りにしたようだ。モノ言わぬ党幹部 東京地検特捜部は小沢氏側近の石川知裕容疑者(36)=衆院議員=らを逮捕し、小沢氏の個人事務所も家宅捜索を受けた。それでも、民主党には自浄能力を発揮しようと動く幹部は今のところ見あたらない。小沢氏が怖くて仕方がないせいなのか、静けさを保つ反小沢、非小沢系民主党議員のリーダーたちには「黙ってじっとしていれば検察や世論が小沢氏を退治してくれる」という小狡(こずる)い底意がありありと感じられる。 しかし、国民の多くが小沢氏の疑惑を「おかしい」と思っている今この時に、モノも言えないような胆力なき民主党の幹部たちに、まともな政権運営ができるのだろうか。 もともとの小沢氏側近議員たちが小沢氏を守ろうとして、検察当局との「全面戦争」(森裕子参院議員)を叫ぶのはいかにも異様だが、分からないでもない。徒党を組んで敵勢力と争う政党政治家の本能のようなものだ。自己保身のにおい しかし、鳩山由紀夫首相(62)を含む非小沢系、また、反小沢系の幹部たちは何に遠慮しているのか。 小沢氏は1月16日、首相の了承を得て、党大会で幹事長続投を宣言したが、反小沢系のリーダー格である民主党「7奉行」の1人(衆院議員)は次のように語った。 「党内と世論は乖離(かいり)している。小沢さんには進退を自分で判断してほしいし、そうしないなら、参院議員が取り組めばいい」 正直な発言だが、自己保身のにおいが漂う。夏の参院選を控え、世間の評判を気にせざるを得ない参院議員が突き上げればよく、自分は火中のクリは拾わない、というわけだ。 小沢氏に批判的な別の中堅幹部(衆院議員)は「小沢がいなくなれば、党の評判は良くなって、参院選は勝てる。でも自分は静かにしている」と語った。 2人とも、いずれ民主党を担うと思われている議員だ。政治に計算はつきものだが、そればかりでいいのだろうか。功山寺挙兵 山口県下関市に功山寺(こうざんじ)という寺がある。 藩士ではない武士や庶民で編成された長州奇兵隊の創設者、高杉晋作が今から145年前の1865年1月12日(新暦)、この寺で兵を挙げ、長州藩の政権を握っていた江戸幕府への恭順派を一掃した。「功山寺挙兵」「回天義挙」という。 功山寺には亡命していた尊攘(そんじょう)派公卿(くぎょう)の三条実美(さんじょうさねとみ)らがいた。幕府の第1次長州征伐への屈服後、長州藩を牛耳った幕府恭順派が、これら亡命公卿の移送に動いたことで、高杉の挙兵となった。圧倒的な兵力(2000人)を握る藩に対する挙兵は無謀とされ、高杉は自身が創設した奇兵隊にも協力を断られたが、駆けつけた伊藤俊輔(伊藤博文)ら84人で立ち上がった。死を覚悟して自分の墓碑銘まで作っていた高杉は三条らに、「これより長州男児の肝っ玉をごらんに入れ申す」と告げて行動に移った。 戦いは成功し、長州藩は再び倒幕へ舵を切った。功山寺挙兵がなければ、明治維新は何年も遅れたろう。それどころか明治維新は起きずに幕府が延命し、日本は植民地に転落していたかもしれない。 それほど重要な歴史的出来事は、当時25歳だった高杉一人の決意がもたらした。 現代の政治家はもちろん、物理的暴力を振るってはならず、言葉の力で戦うべきだ。しかし、高杉の勇気と比べ、小沢氏におびえながら、その転落を願う民主党幹部の計算高さはいかにも卑小だ。 民主党に小沢氏を擁護する幹部がいてもいいが、「高杉」や「伊藤」はいなくていいのか。 これで「明治維新に匹敵する大改革」(菅直人副総理・財務相)を唱えるのだから恐れ入る。(政治部 榊原智)

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    【鳩山政権考】戦争している国との基地交渉

     米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)の移設見直し問題が、日米同盟関係を危機にさらしている。日本は、戦争を継続中の国と基地交渉をしていることを忘れない方がいい。アフガニスタンなどで戦争中の米国の要人の迫力と、「友愛外交」を唱える極楽トンボのような日本のリーダーとでは土台役者が違う。鳩山由紀夫首相(62)や岡田克也外相(56)のおろおろした姿は本当に情けない。このありさまではいずれ、米政府に屈服する形で問題は収拾されるのではないか。それでも米国の日本への軽侮と不信は残り、日本国民の生活の基盤である安全保障環境は損なわれたままとなる。その傷を癒すには、かなりの歳月が必要だ。その責任を鳩山政権はどうとるつもりか。 鳩山内閣発足を翌週に控えた9月11日、鳩山氏の外交ブレーンとされる寺島実郎(じつろう)・日本総合研究所会長(62)は講演で「戦後64年たち、独立国に外国の軍隊が駐留しているのは不自然だという世界の常識に返るべきだ。東アジアに軍事的空白をつくらない形で、在日米軍基地の段階的縮小と日米地位協定の改定を実現していくべきだ」と述べた。問題意識は正しくても 自国の領土から外国軍である米軍の駐留部隊を縮小、撤退させ、米軍基地周辺の国民に安寧な生活をもたらしたいという鳩山氏らの問題意識自体はまっとうだ。 しかし、鳩山氏や岡田氏が決定的に間違っているのは、中露、朝鮮半島など日本を取り巻く国がこの20年以上、核兵器の開発・高度化も含め軍拡を続けてきたのに、日本は一方的軍縮を続け、軍事バランスが悪化してきたのを理解していない点だ。国の独立と国民の生命財産を守るため、現状を正す決意を併せ持っていないから、基地問題もにっちもさっちも行かなくなっている。 「日本の防衛力がGDP(国内総生産)の1%で済んでいるのは、誰のおかげかお忘れか」 10月20日、来日した米国のロバート・ゲーツ国防長官(66)が、普天間問題を協議した10月20日の北沢俊美防衛相(71)との会談で投げつけた言葉だ。 これに対して「第2の敗戦だ」と悔しがる防衛省内の声もあったが、封印された。 日本は、米国の世界戦略のために欠かせない基地を提供している。北朝鮮の核開発、拉致問題では、米国は日本に背信的な行動を時にとってもいる。それでも「守ってもらっている」側は弱いのだ。戦後平和主義こそが問題 米国は「日本は一喝すれば引き下がる」と思っている。今までの対米交渉がそうだったし、今度の普天間問題もそうなりつつある。 米国は戦時中なのだ。たとえば、アフガン戦争は9年目だ。バラク・オバマ大統領(48)は来夏までに米兵3万人の増派を決定した。アフガンでの米兵の戦死者は930人を超え、1000人に達するのも時間の問題だ。沖縄の海兵隊員もアフガンに赴いている。 若者が命がけで戦っている国に、基地周辺の住民の被害だけを持ち出しても大きな効果はない。理由はどうあれ、戦争中の米国が、洋上での給油活動さえやめる「同盟国」から、「政権交代したから基地の移転先を変えてくれ」と言われて、納得するだろうか。 米国を振り向かせたいなら、日米の役割分担を見直すことだ。東アジアの安定のため、日本が集団的自衛権の行使や自衛隊の抜本的増強に踏み切ることが必要ではないか。耐えられないほどの額の資金提供という選択肢もあるだろうが、これは貢納(こうのう)であり、国民の自尊心と国の道義の水準を傷つける。 なぜ、沖縄を含む日本にいまなお、これほどの米軍基地があるのか。それは、戦後平和主義のせいでもある。大東亜戦争(太平洋戦争)に敗れ、日本国民は自主防衛の努力を放棄した。戦死者を覚悟してでも「東洋平和」、今風に言えば「アジア太平洋地域の平和と安定」を守る役割を担うことを忌避(きひ)し続けている。 沖縄県民に同情を寄せてやまない鳩山氏、岡田氏ら戦後平和主義を信奉する人々こそが、基地返還、縮小を妨げている。 国民が目を覚まし、国際基準と国力に応じた軍隊を持つ普通の民主主義国になるよう歩み出さなければ、いつまでたっても米国に「基地移転のお願い」をして蹴(け)り飛ばされ、青い顔をするのがオチだ。(政治部 榊原智)

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    【鳩山政権考】「キングメーカー小沢」の標的は

     民主党の小沢一郎幹事長(67)が政治改革を旗印に、自民党を支えてきた集票システムの破壊に乗り出している。民主党には今回の政権交代を「民主主義革命」(菅直人副総理・国家戦略担当相(63))と位置づける向きもある。小沢氏は自民党レジームを突き崩し、“反革命”の牙を抜こうとしているようだ。今やキングメーカーとして政府・与党を圧する小沢氏だが、自民党への攻勢は急で、戦いの手を抜かない小沢流を見せつけている。小沢一頭体制 「これは革命だ」 小沢氏は11月4日夜、東京・赤坂のレストラン「ロウリーズ・ザ・プライムリブ東京」で、民主党の中堅幹部と会食した際、民主党が打ち出した新しい陳情処理のルールについて、こう語った。 自民党でも福田康夫元首相(73)が道路特定財源の一般財源化や公務員制度改革を「静かなる革命」と呼んだ例があったが、「革命」という言葉の使用は、小沢氏が保守の心情にこだわらない政治家であることを示唆している。ただ、小沢氏が陳情の新ルールを重大視していることは伝わってくる。 民主党が所属議員を政務三役(閣僚、副大臣、政務官)に送り込んだ各省庁は、予算編成などでの国会議員や地方自治体、業界団体の直接の陳情は原則受け付けない。陳情は小沢氏が率いる民主党幹事長室に窓口を一本化し、ここで優先順位をつけて副幹事長らが各省庁の政務三役へつなぐ、という仕組みだ。 この新ルールを発表した2日の記者会見で、小沢氏は、自民党時代の族議員による政官癒着、利益誘導型政治を排除し、自治体や業界団体関係者の「霞ケ関詣で」を一掃できる-と強調した。 自民党議員が、各省庁への陳情をつなぐことで票と政治資金を集めてきたシステムは否定される。自民党と省庁、自民党と自治体、自民党と業界団体、省庁と自治体の関係は切断される。自民党寄りだった業界団体、自治体はいや応なく民主党、それも「小沢幹事長室」に頼ることになる。 小沢氏に近い民主党衆院議員は2日、「これで自民党をつぶす」と豪語した。 小沢氏は、自民党を支持してきた日本歯科医師会の幹部と会談し、民主党への接近を許すなど業界団体切り崩しを進めている。日本医師連盟、JA全中(全国農業協同組合中央会)なども政治的中立を表明した。小沢氏の唱える企業・団体献金の廃止は、実現すれば自民党への兵糧攻めとなる。 標的は自民党にとどまらない。陳情の新ルールによって民主党議員と省庁のパイプは太くならず、陳情を握る「小沢一頭体制」の強化が進んでいくだろう。批判皆無の民主党 小沢氏は今、非常に居心地のよいポジションにいる。西松建設事件で自身の公設秘書が逮捕、起訴され、民主党代表と首相の座を放棄し、入閣もままならなくなって得られた状況だ。 国会で野党の追及にさらされることはない。「政府の鳩山、党の小沢」と仕切ったことで首相の意向をいちいち仰がずに自民党との戦いに専念できる。民主党の役員会に鳩山由紀夫首相(62)が出席するのはまれだ。 2日の記者会見で小沢氏は「僕は政策論はやらない。私は党務の方ですから、そういう類(たぐい)のことを発言する立場ではない」と語った。鳩山内閣が失政を行っても、小沢氏が直接責任を問われることはない。 キングメーカーにとってこれらは好都合だ。鳩山首相が失脚したとしても、安全圏にいる小沢氏がポスト鳩山を指名することになる。政権の表の顔は変わっても小沢一頭体制は続いていく。 国会論議の活性化を唱える小沢氏が、政権党の幹事長でありながら衆院本会議で首相の所信表明演説への代表質問を見送っても許されることにもなる。 9月16日に鳩山内閣が発足してから、民主党の国会議員が報道陣の前で公然と、小沢氏を名指しで批判した例は寡聞にして知らない。政権交代の熱気が冷めやらず、また内閣支持率が高水準を保っているからでもあろうが、最高実力者への批判皆無の政党が「民主党」を名乗っているのは奇妙な感じもする。 風通しの悪さは党の脆(もろ)さを招く。団結はもちろん大事だが、過ぎたるは及ばざるが如し、ではなかろうか。(政治部 榊原智)

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    【鳩山政権考】チベットなき東アジア共同体

     米国訪問中の鳩山由紀夫首相(62)は、中国の胡錦濤(こ・きんとう)国家主席(66)や米国のバラク・オバマ大統領(48)と相次いで会談、国連総会や国連気候変動首脳会合で演説するなど、鳩山首相は華々しい外交デビューを飾った。報道各社や世論の受け止めは総じて好意的で、国内政治的には成功したと言っていい。平野博文官房長官(60)は9月24日の記者会見で「全体的には鳩山外交は、順調にデビューしたと私自身感じている」と胸を張った。だがこの訪米が、鳩山首相や民主党の外交・安全保障の分野における危うさを浮き彫りにしたことは否めない。 日中首脳会談で、首相は「日中両国がお互いの違いを乗り越えて信頼関係を構築し、それを軸に東アジア全体の共同体を構築していきたい」と、「東アジア共同体」形成を提案した。 中国政府に友愛精神? 首相は日中会談後、記者団に「自分の描いている友愛関係に基づく国際関係を申し上げた」と語った。 ただ会談で首相は、胡氏がチベット問題を持ち出したのに対し「当然、内政の問題と理解している」と応じ、「それだけに、対話を通じて見事に解決していただくことを期待したい」と伝えた。 首相は野党時代、インド亡命中のチベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ14世が来日するたびに会談し、中国側は不快感を示してきた経緯がある。その首相にしては、会談での発言は中国政府への「友愛」に傾いているようだ。チベット同様、中国政府の弾圧にあえぐウイグルの人々への言及もなかった。胡氏は会談後、首相の甘さに笑いが止まらなかったのではないか。 経済的な利害問題なら日中両国が互いに乗り越える努力を払えばいいが、人権・人道問題は、民主主義の日本が譲ることはない。共産党治下の中国に乗り越える努力を強く促すべきだ。チベット、ウイグル問題を等閑視し、東アジア共同体を語るのは「友愛外交」とも矛盾しないか。対中外交のカードを手放すことでもある。 ワシントン体制の轍(てつ)を踏むな そもそも「東アジア共同体」は、場合によっては日本の安全を損ないかねない構想だ。 首相は民主党代表として月刊誌「Voice」9月号へ寄せた論文で「『友愛』が導くもう一つの国家目標は『東アジア共同体』の創造であろう」「アジア太平洋地域に恒久的で普遍的な経済社会協力及び集団安全保障の制度が確立されることを念願」していると強調した。 「アジア」「共同体」という言葉は魅力的に響く。けれども、国連を見ても分かるように、国際的な機構、多国間の外交的な枠組みに、戦争などの紛争防止や解決を期待できないことに気づくべきだ。 歴史の教訓もある。日本は大正期の1921年に4カ国条約(日米英仏)を、22年に海軍軍縮条約(日米英仏伊)と9カ国条約(日中米英仏伊蘭、ベルギー、ポルトガル)を結んだ。4カ国条約は太平洋での領土、権益の相互尊重を、9カ国条約は中国の門戸開放・機会均等・主権尊重の原則を確認。これをワシントン体制と呼ぶが、戦後の日米同盟に匹敵する日英同盟は解消された。多国間の枠組みの中で日本の孤立化は始まった。 国家、国民の安全保障は、自国の防衛努力と大国間の同盟でしか担保されないことや、日本にとっての脅威は大陸勢力であるロシア、中国、北朝鮮であることをわきまえた方がいい。 首相がオバマ米大統領と「日米同盟は安全保障の基軸」だと確認し、岡田克也外相(56)はクリントン米国務長官(61)に「30年、50年たっても持続可能な、深みのある日米関係を構築したい」と語ったのは正しい。首相が米軍基地をめぐって、自民党の歴代首相が示さなかった問題意識を持っていることは一定の評価ができる。 けれども今回の訪米で、首相は日米同盟を強化していく具体的方向性を示すことはなかった。これでは首相の追い求める「対等な日米関係」はおぼつかない。 (政治部 榊原智)

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    【麻生政権考】「急がば回れ、憲法改正」

     皮肉なことに、憲法が争点となっていない今回の衆議院議員選挙が将来、憲法改正への道を開いた選挙になったと言われるようになるかもしれない。党内に“護憲”勢力を抱え憲法問題に消極的な民主党は、“護憲”政党の社民党と連立政権を作る予定で、憲法問題はストップするというのが大方の予想だ。だが、中期的には、今回の衆院選は憲法改正の環境を整える側面がありそうなのだ。定数削減の効果 民主党の衆院選の政権公約(マニフェスト)は憲法について「(民主党は憲法問題を)慎重かつ積極的に検討していきます」としている。悪い国会答弁の見本のようで、この党が憲法を改正したいのかどうかも分からない。 だが、保守系の地方議員や有識者らでつくる「日本国民フォーラム」(代表・米田建三帝京平成大教授)の平田文昭事務局長(49)は次のように指摘する。 「自民党や民主党の衆院選のマニフェストに盛り込まれている国会議員の定数削減が、憲法改正につながっていく。衆参両院で、憲法改正原案の発議に必要な3分の2以上の勢力を形成しやすくなる効果がある」 衆院議員の総定数は480、参院議員は242だ。 自民党はマニフェストで「次回の総選挙から衆院議員総定数の1割以上を削減」 「10年後には衆参両院議員総定数の3割以上の削減を目指す」とした。民主党は「衆院の比例定数を80削減する。参院は選挙制度の抜本的改革の中で、衆院に準じて削減する」ことを掲げた。 民主党と連立する社民党は、衆院比例定数80削減に反対だ。しかし、どの党が政権党になっても、いずれ税金や社会保険料の負担増は避けられない。「政治」は国民に身を削る姿勢を示さねばならず、国会はいやいやでも、まとまった数の定数削減を行うことになるだろう。 また、民主党はマニフェストに盛り込んではいないが、岡田克也幹事長(56)は8月13日の記者会見で、現在は20歳以上の選挙権年齢や成人年齢の引き下げについて「政権交代が実現すれば、早急に作業を進めていきたい」と、必要な法整備に取り組む考えを示した。 憲法改正のための国民投票法は本則で、投票権年齢を18歳以上としている。だが、選挙権年齢や成人年齢が引き下げられるまでは、投票権年齢を20歳以上に据え置く条件付きだ。岡田氏の言う通りに進めば、これも環境整備となる。自公連立の解消 一方、自民党は麻生太郎首相(68)の指示で、マニフェストに同盟国米国をねらう弾道ミサイルの迎撃と米国艦艇の防護のため「安全保障上の必要な手当て」を行うと記した。政府の憲法解釈を変更し、これまで禁じてきた集団的自衛権の行使に、一部だが踏み切ることを意味する。 ただ、自民党はマニフェストに憲法解釈の変更という直截(ちょくさい)的な表現は採らなかった。筆者は7月31日のマニフェスト発表時の記者会見で、麻生首相に「集団的自衛権の憲法解釈を変更するという意味でいいのか」と質問したが、首相は明確な返答を避けた。これでは憲法が争点になるはずもない。 このような中途半端な対応は、自民党内に慎重論があるのに加え、公明党との連立が原因となっている。自民党は、国会対策上の理由で公明党、選挙対策上の理由で公明党・創価学会の支援に頼ってきたため、彼らが嫌う憲法改正、憲法解釈変更に踏み切れなかったわけだ。 東アジアの安全保障情勢を考慮するだけでも憲法改正、せめて集団的自衛権の行使にかかわる解釈改憲は急務と思われるが、自民党は正面から国民や公明党・創価学会を説得する努力を怠ってきたのだ。 国民投票法は凍結期間の3年を終えて来年5月18日に施行され、当選する衆院議員らは憲法問題に、いや応なく向き合うよう迫られる。 野党間で「連立野党」などは存在しない。衆院選の結果、自公両党が下野すれば連立関係は解消となる。自民党にとっては、立党の精神に立ち返って、憲法についてはっきりした主張を行うチャンスとなる。2大政党の片方の憲法問題への意識が高まるとしたら、民主党政権ができても永久ではない以上、憲法改正にとって前進とならないか。(政治部 榊原智)

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    【麻生政権考】衆院選 自民党が下野する理由

     8月30日投開票の衆議院議員選挙を経て、鳩山由紀夫代表(62)が首班の民主党を中心とした連立政権の誕生がほぼ確実な情勢だ。麻生太郎首相(68)率いる自民党が1955年の結党以来初めて第一党ではなくなり、公明党を加えても過半数を得られずに下野を迫られているのは多くの理由がある。その大きな要因のひとつは、2007年参院選での安倍晋三元首相(54)の場合と同様に、選挙の争点設定を怠った点にある。麻生首相と自民党は、民主党の仕掛けた「政権交代」の土俵で、同党マニフェスト(政権公約)と政権担当能力を批判をするしかなくなっているが、これでは相手方の宣伝をしているようなものではないか。争点設定に失敗 筆者は07年9月27日付EX「福田政権考」(政権交代の跫音(あしおと)が聞こえる)で、こう指摘した。《党総裁選での福田首相と麻生前幹事長の論戦を見る限り、両氏どちらからも「首相として、これを成し遂げたい」という政策面での明確なメッセージが伝わってこなかった。これでは、次の衆院解散・総選挙は「政権交代の是非(ぜひ)」が最大の争点となり、野党・民主党はとてつもないアドバンテージを得る。与野党が入れ替わる本当の政権交代の跫音が聞こえてきたように思えてならない。(中略)国政選挙の争点設定は、与野党が必死になるべき重要事だ。(中略)状況対応型、調整型の政権運営だけでは、「政権交代」という争点を打ち出せる民主党の勢いを止めることは難しい》 郵政民営化の是非を問うた05年衆院選とは異なり、内政面で自民党は民主党に変革イメージを譲り渡してしまった。 鳩山氏は民主党マニフェストで自民党政治を「コンクリートの建物には巨額の税金を注ぎ込む」と決めつけ、「コンクリートではなく、人間を大事にする政治をしたい」と主張した。ハコモノ政治から社会保障重視への転換をうたったものだ。 ハコモノ建設と世界有数の長寿化の両方を実現した自民党には反論もあるだろうが、民主党の主張は、冷戦終結や少子高齢化による「右肩上がり経済の終わり」に適応しようとするものといえなくもない。 麻生首相は世界的な経済危機への対応に取り組んできた。ただ景気対策は誰が首相であっても行うもので「やって当たり前」と見られてしまう。せめて09年度補正予算の編成前なら争点にできたかもしれないが、成立後の今では遅い。 中学卒業まで1人あたり年31万2000円を支給する民主党の「子ども手当」は、財源問題を伴うバラマキ策だが、対象は約1000万世帯に及ぶ。景気後退による収入減に泣く子育て世帯はこぞって投票するだろう。共同体、国家の構成員を増やす少子化対策として、保守を名乗る自民党が採ってもおかしくない政策だったが、硬直化した予算配分を壊せない同党は発想できなかった。公明党がブレーキ 民主党大会に国旗・国歌が登場しないことが象徴するように、民主党の最大の問題点は「国家忌避症」だ。これが教育や外交・安全保障政策に歪(ゆが)みをもたらす。中国の急速な軍拡と北朝鮮の核・ミサイル開発を見れば、安全保障の構造改革が必要なのは明らかだが、民主党はほとんど関心がないようだ。麻生自民党が果敢に行動していれば、民主党のこの弱点を衝(つ)くことは可能だったろう。 その典型が、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認するかどうかだ。自民党は、衆院選マニフェストで米国に向かう弾道ミサイルの迎撃と、弾道ミサイル防衛で連携する米国艦船の防護などが可能になるよう「必要な安全保障上の手当てを行う」としたが、解釈変更の明記がなく、インパクトは今一つだ。 今年4月の北朝鮮の弾道ミサイルの発射を機に、麻生首相は行使容認という憲法解釈変更に踏み切ればよかった。大論争が起きたろうが世論を説得し、これを争点に解散して、国民に信を問うてもよかった。 それをしなかったのは、首相や自民党執行部の意識の問題がある。それと同時に、集団的自衛権の行使に反対する公明党の存在がブレーキになっている。採るべき安全保障政策と公明党・創価学会の選挙協力を天秤(てんびん)にかけ、肝心の選挙に敗れそうな皮肉な構図になっていないか。(政治部 榊原智)

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    【麻生政権考】尊重すべき天皇の国事行為

     天皇陛下と皇后陛下が3日から17日までの日程でカナダと米ハワイ州を訪問されている中、陛下の外国訪問中に衆院解散が可能かどうかが論じられている。解散は天皇の国事行為(憲法第7条)だが、麻生太郎首相(68)や河村建夫(たけお)官房長官(66)は皇太子殿下が代行されるため問題はないとの認識を表明した。だが、外国訪問でご不在中の解散は、天皇陛下を軽んじるものと受け取られかねない。解散のタイミングを図ることは所詮(しょせん)、権力闘争の一つにすぎないからだ。 権威は歴史に由来するところが大きい。私たちの世代もまた未来からみて歴史を紡(つむ)ぐ存在だ。過去の日本人が歴代の天皇を重んじてきたように、麻生首相を含む現代の国民にも、国民統合の象徴である天皇の権威を大切にし、培っていく責務がある。それが日本の長期的な安定にもつながっていく。この辺りの感覚の不足が、多くの現役政治家の言動を軽いものと感じさせる一因になっている。詔書による解散 衆院の解散の段取りはおおむね次の通りだ。《全閣僚が署名して解散を閣議決定し、解散詔書(しょうしょ)の原案を宮中に運ぶ。天皇陛下の御名御璽(ぎょめいぎょじ)(ご署名とご印)をいただいた後、首相官邸で首相が副署(ふくしょ)(署名)し、衆院議長へ伝達される。紫の袱紗(ふくさ)に包まれた解散詔書(写し)は衆院本会議場へ運ばれ、議長が「日本国憲法第7条により衆議院を解散する」と記された詔書を朗読して、解散される》 詔書は天皇の命令を伝える公文書で、現在では国事行為に関して発せられる。外国訪問中の天皇陛下から詔書をいただくことは、もとよりできない。 麻生首相は2日、「天皇陛下の外遊中、国事行為の代行は皇太子殿下がなさると法律で決められている。法律上、何ら問題はない」と述べた。政府が6月22日、皇太子殿下に国事行為を臨時代行していただくことを閣議決定したのを踏まえての発言だ。 法的にはそうなのだろうが、国事行為代行の規定は、緊急の際のものとして運用した方がよい。現憲法下で衆院は20回解散されたが、天皇陛下の外国ご訪問中の例はない。森喜朗氏(71)が当時の首相だった2000年6月2日の解散は、陛下の欧州ご訪問からの帰国翌日だった。象徴の重み 天皇は「この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」(憲法第4条)が、天皇の役割を「儀礼にすぎない」と軽視するのは子供並みの発想だ。 歴史学者の津田左右吉(そうきち)や憲法学者の美濃部達吉らと並び、戦後の天皇論の有力な論客だった思想家の葦津珍彦(あしづ・うずひこ)は著書「日本の君主制」(神社新報社)で、象徴天皇について「主権者たる国民とは、目に見えない統一的存在であり、目に見える個々の国民は、統治される国民である。天皇が“国民統合の象徴”といわれるのは、この目に見えない一つの国民の姿を、目に見える姿で現すのは、ただ天皇御一人に限られるという意味」だと指摘した。 相は、党内の政敵や対立政党との闘争を経てその地位を勝ち取る。そのような事情から、政治家は政府の運営に不可欠ではあるものの、君主と比べ国民統合の象徴にふさわしくないのはやむを得ない。現憲法でも首相は内閣総理「大臣」であり、国会の指名に基づき、立憲君主である天皇から任命される。 象徴天皇を考えるうえでも、日本の憲政を考えるうえでも、政治家は天皇陛下の権威を尊重するべきだろう。 自民党の町村信孝(のぶたか)前官房長官(64)は2日、「陛下が親善の目的を達成できる国内環境を作って差し上げるのが、政治家の義務だ。海外で公務に励んでおられる陛下が国内のことでご心配されることがあってはならない」と述べ、天皇陛下の外国ご訪問中の解散は望ましくないとの考えを示した。早期解散牽制(けんせい)の思惑があったとしても、見識ある発言だ。 麻生首相が天皇陛下の外国ご訪問中に衆院解散に打って出る可能性は低くなりつつあるが、陛下ご不在時の解散を首相が自由に行えるかのような言動は慎んだ方がよいのではないか。(政治部 榊原智)

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    【麻生政権考】安全保障は争点になるか

     麻生太郎首相(68)は10日、次期衆院選の自民党マニフェスト(政権公約)を作る党プロジェクトチーム(PT)の幹部らに、外交安全保障を争点に据えるよう指示した。ただ、民主党の安保面の無策ぶりを非難するだけだとしたら実にもったいない。新しい安保政策を国民に問ういい機会だからだ。折しも自民党国防部会は安保政策の提言をまとめた。これを首相とPTがマニフェストにどれだけ取り入れるかで、真剣さが分かる。 民主党も、少なくとも今の北東アジア情勢に、外交努力に加え安保面でどう対処するのか具体策を示すべきだ。そうしなければ、いざ政権をとったとき困るのは民主党自身と国民になる。きな臭い北東アジア 日本の周辺は今もきな臭い。北朝鮮は近年、核実験やミサイル発射を繰り返している。朝鮮半島の国が単独で日本本土を攻撃できるようになったのは有史以来初めてだろう。中国は航空母艦建造に走るなど海空軍や核戦力の軍拡を進めている。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所は2008年の中国の軍事費は849億ドル(約8兆3500億円)で世界第2位と発表した。 台湾海峡の軍事バランスが崩れ、台湾が中国に併呑(へいどん)されれば尖閣(せんかく)諸島どころか沖縄本島まで脅威にさらされる。中国が海上交通路を制したり、対米核戦力の強化を進めれば、日本に対しさらに傍若無人(ぼうじゃくぶじん)になるだろう。 自民党政務調査会の国防部会は11日、麻生首相(党総裁)に「提言・新防衛計画の大綱について」を提出した。年末の防衛大綱改定に向け、安保政策の改革を求めるものだ。提言は2003(平成15)年度予算以来の防衛費と防衛力の縮減(軍縮)方針の撤回を求めた。この7年間、日本以外のアジア諸国やロシアは軍備増強を続け、自衛隊が相対的に弱体化しているためだ。 また提言は、米国をねらう弾道ミサイルの迎撃など4類型について、政府の憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を認めるよう求めた。 さらに注目されたのは「敵ミサイル基地攻撃能力の保有」だ。他に日本への弾道ミサイルなどの攻撃を防ぐ手段がない場合に攻撃を限定するという専守防衛の枠内のオプションだ。内政面では改革姿勢が足りないとみられている自民党だが、安保面は担当部門が真剣に政策を考えている。財務省も民主も熱意なし ただ、自民党マニフェストPTの中心メンバーである菅義偉(すが・よしひで)座長(60)、石原伸晃(のぶてる)幹事長代理(52)、船田元(はじめ)総務会長代理(55)、園田博之政調会長代理(67)、佐藤昭郎(あきお)参院筆頭副幹事長(66)はいずれも安保政策には疎(うと)い。細田博之幹事長(65)ら党執行部も同様だ。「この期(ご)に及んで、まだこれか」 自民党国防部会の幹部は政府の経済財政運営の指針「骨太の方針2009」の素案(9日付)を見てあきれかえった。防衛、安保の独立の項目はなく「防災・治安等」の中で「鳥獣被害対策の着実な推進」などと並んで「北朝鮮によるミサイル発射等安全保障情勢に対処するため、防衛計画の大綱の修正等を検討し、効率的な防衛力の整備を推進する」と書かれただけだったのだ。景気対策の補正予算は大盤振る舞いした財務省だが、防衛費増は考えていないようだ。 また、公明党は敵基地攻撃論に拒否反応を示し、防衛費増にも関心はない。 民主党はさらに心許(もと)ない。安保通の前原誠司(まえはら・せいじ)副代表(47)は6月7日付東京新聞のインタビューで、敵基地攻撃に関する党内論議について「やっていない。起きたことへの対症療法の議論はしているが、戦略的なビジョンや系統だった議論はできていない」と残念がっている。 岡田克也(かつや)幹事長(55)は5月29日の会見で、敵基地攻撃論について「あまり短絡的な議論はしない方がいい。冷静に議論することが必要な場合はあるかもしれませんが」と語った。今こそ議論する時ではないのか。(政治部 榊原智)

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    【麻生政権考】鳩山、岡田両氏は果たして「保守」か

     民主党の小沢一郎代表(66)の辞任表明で、鳩山由紀夫幹事長(62)と岡田克也副代表(55)が5月16日、両院議員総会で次期代表の座を争うことになった。「親小沢」の鳩山氏か「反小沢」の岡田氏か。2人はこのような構図で見られるのを嫌っているが、党内の人間関係を重視して民主党や自民党の党首選が報じられるのは今に始まったことではないし、議員たちの意識に沿ったものでもある。ただ、両氏の政見がどんなものかは知っておきたい。次期代表は衆院選後に首相になる可能性があるだけになおさらだ。代表選ではあまり触れられないだろう分野をスケッチしてみた。「悲願」の外国人選挙権 両氏はともに自民党(竹下派)出身のせいか、しばしば保守系政治家に数えられる。だが、そうは思えない面もある。 典型は、定住外国人への地方選挙権付与の推進だ。付与派の急先鋒(せんぽう)である岡田氏は2008年に民主党有志の「在日韓国人をはじめとする永住外国人住民の法的地位向上を推進する議員連盟」を結成して会長に就任。外国人地方選挙権は「党の長年の課題で悲願」との考えだ。 岡田氏は08年8月、民放ラジオで「グローバル化で最も発展していく地域はアジアだ。その果実を日本がしっかり得られるようにしていかなければ。そのためには国をもっと開かなきゃいけない。人・モノ・カネの自由化だ」と語った。  東アジアは経済発展となお残る冷戦構造が矛盾をはらむ地域であるのに、いささか経済に偏しているようだ。 鳩山氏もこの議連のメンバーだ。今年4月17日、鳩山氏は「ニコニコ動画」に出演し「日本列島は日本人だけの所有物じゃない」などと付与を唱えた。4月24日の会見では「まさに愛のテーマだ」とまで語っている。 両氏は、国政選挙への世襲立候補の制限に積極的だ。岡田氏は党政治改革本部長として党の改革案をまとめた。鳩山氏は明治時代の衆院議長だった曾祖父、和夫(1856~1911年)以来の4世だが、代々の東京の選挙区ではなく北海道から出ており、世襲ではないと自認している。 鳩山氏は、自主憲法制定を唱えた鳩山一郎元首相(1883~1959年)の孫で、自身も憲法改正論者だ。2005年には「新憲法試案」(PHP)を出版した。自身の改憲案を世に問うた政治家は珍しい。近年では自民党の山崎拓(やまさき・たく)元副総裁(72)の新憲法試案、愛知和男元防衛庁長官(71)の平成憲法愛知私案、それに中曽根康弘元首相(90)の世界平和研究所憲法改正試案くらいだ。 鳩山氏は試案で、皇室は政治的安定の基礎として、天皇を元首と明記。さらに自衛軍の保持を打ち出した。一方で「女系天皇」を認め、東アジア共同体の将来的な創立などを想定し日本の主権の国際組織への部分的移譲に言及している。温暖化対策が影響? まじめで頑固であるがゆえに「原理主義者」と呼ばれる岡田氏が外国人地方参政権以上に力を入れているのが、地球温暖化対策だ。党の対策本部長として温室効果ガス排出を1990年比で2020年までに「25%」削減する数値目標のある地球温暖化対策基本法案の作成を主導した。 ただ、もともと省エネの優等生だった日本企業には一層の削減は厳しい。連合内には「岡田首相が登場して本気で対策を進めれば日本企業が弱体化する」(関係者)との懸念がある。これが、代表選で連合系の議員が鳩山氏支持に回る例が多いことの一因、との指摘もある。 岡田氏は民主党の核軍縮促進議員連盟の会長として、「北東アジア非核地帯構想」も推進している。日本の非核三原則を韓国、北朝鮮に拡大し、3国で非核兵器地帯条約を締結、米中露の3核保有国に北東アジア3国への核攻撃や威嚇を禁ずる構想だ。岡田氏は日米同盟やミサイル防衛(MD)を肯定するが、これらと非核地帯条約を組み合わせて日本の安全を守れると考えているのだろうか。(政治部 榊原智)

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    【麻生政権考】「平和ぼけ」では核ミサイルが落ちる

     北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射が、国民の生命の保全を真剣に考えない「政治」の姿を改めて浮き彫りにした。確かに日本政府は、イージス艦や地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を展開、国連安全保障理事会を舞台とした外交で北朝鮮を非難する議長声明採択にこぎつけた。制裁も準備中だ。核開発を進める北朝鮮の弾道ミサイルが「安全保障上にも極めて大きな問題がある」=河村建夫(たけお)官房長官(66)=と認識しているから、そうしているのだろう。だがそれでも、麻生太郎首相(68)ら政治家や政府は、国民保護や核抑止の面で、怠けていると思わざるを得ない。無防備な家族の頭上に核ミサイル-なんてことは、ごめん被りたいのだが。都市の耐核化が急務 麻生首相は発射当日の4月5日午後、「国民の安全が一番の問題だと思っています。いろいろシミュレーションもやったが、そういった経験は今後に生かしていかなければならない」と語った。首相のこの思いに偽りはないだろう。ただそれなら、もっとやるべきことがある。 腑に落ちぬ点は多い。 政府はミサイル防衛(MD)に、すでに支出した7000億円を含め1兆円以上の巨費を投じる予定だ。これは敵国のミサイルが日本に着弾する恐れがあるとみていることを意味する。しかし国民保護の態勢整備は遅れている。攻撃を受けた際に国民1人ひとりがどう動けばいいのか、私たちは教えられていない。学校や職場、地域で全国民に真っ先に伝えるべきではないのか。 今回使用が見送られたが、大地震や有事用の全国瞬時警報システム(J-ALERT=Jアラート)も不十分だ。2009年度補正予算で整備を進めるというが、受信システムのある自治体は今のところたった15.7%だ。この警報は主に防災行政無線で住民に伝えるというが、発想が古すぎないか。 例えば、携帯電話をなぜ活用しないのか。輻輳(ふくそう)の問題もあるだろうが、携帯や車のカーナビなど情報端末をJアラートに直結させたらいい。 核爆発対策の権威、高田純札幌医科大学教授(放射線防護学)や優れた軍学者の兵頭二十八(ひょうどう・にそはち)氏が必要性を訴えている都市の「耐核化」も未着手だ。最大の人災といえる核災害だ。日頃は地下駐車場や公共・商業施設として使用し、イザとなれば国民が待避する待避壕(ごう)(防空壕)の整備はしなくてよいのか。 筆者による2007年7月5日付EXの「安倍政権考」(不思議な「非核武装国」)でも触れたが、広島の原爆投下の際、爆心地から170メートルの建物の地下室にいた当時47歳の男性が、爆風や熱線、放射線から遮断され、ほぼ無傷で脱出し、80歳代の長命を保った例がある。 費用がかかると懸念の向きもあるかもしれないが、麻生内閣は景気対策のため総額10兆円超の過去最大の09年度補正予算を編成するという。貴重な予算を国民保護のための公共事業に回せないのか。 国防はなにも防衛省・自衛隊の専売特許ではない。国土交通省や総務省、内閣府、自治体も国民を守る最前線を担っていると自覚してもらいたい。危険な賭け 日本はすでに北朝鮮が実戦配備する射程1300キロのノドンミサイルの脅威にさらされている。ノドン以上の脅威は中国とロシアの核弾頭搭載弾道ミサイルだ。 MDがあれば万事安心というわけではない。日本の迎撃ミサイルの弾数は防衛秘密だろうが、敵国が飽和攻撃で多くの弾道ミサイルを撃てば弾数が尽きて丸裸になる。いったいどうするのか。 こんなことは起きないから備えなくていいというならMDも自衛隊も、核廃絶運動もいらない理屈になる。 米国がソ連と冷戦で対峙(たいじ)できたのは核抑止力を持っていたからだ。先の大戦で米国は一般市民が暮らす広島、長崎に原爆を投下した。当時、日本が原爆とその運搬手段を持っていれば、米国は投下をためらったろう。 米国の核抑止力に頼るのが日本の防衛政策の基本だが、米国民の頭上に核を降らせられる国を相手に、米国が日本を守るかどうかは危うい賭けだ。日本の「政治」はこの問題を直視しようとしない。米国に対し、どのような場合に、日本のために核を使用してもらいたいのか安全保障当局の対話で要求したこともないのではないか。 自民党4役の1人は4月5日、与党北朝鮮ミサイル問題対策本部で非難声明を出した後、記者団に「内閣支持率が3割台に回復するかどうかだ」と述べ、“平和ぼけ”ぶりをさらけ出した。政治のレベルを示す、まことに正直な発言だった。(政治部 榊原智)

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    【麻生政権考】小沢民主 もう一つの説明責任

     民主党の小沢一郎代表(66)は西松建設の違法献金事件で、党内外から説明責任を果たすよう求められている。だが説明するべきことは「政治とカネ」にとどまらない。小沢氏の安全保障政策をめぐる発言には曖昧(あいまい)さがつきまとうだけに、次期衆院選前に有権者に説明を行う必要がある。景気対策や社会保障に有権者の関心が向かうのは自然だが、国民生活の土台をなす安全保障について分かりやすく語るのは、政権交代を目指す政党と党首の最低限の義務だ。民主党は、海賊対処法案(海賊新法)へ賛成の態度すらいまだに決められない。西松事件の展開で小沢氏が党首を辞することになったとしても、そのことで安保政策はどうなるのか、民主党は説明しなければならない。「第7艦隊」発言の矛盾 小沢氏は2月24日、遊説先の奈良県香芝(かしば)市内で「軍事戦略的に米国の極東におけるプレゼンス(存在)は第7艦隊だけで十分だ。後は日本が極東での役割を担っていくことで話がつく」と語った。翌25日には大阪市内で「安全保障の面で日本が役割を負担していけば、米軍の役割はそれだけ少なくなる。自分たちできちんとやる決意を持てば、米軍は出動部隊を日本という前線に置いている必要はない」と述べた。 これらは(1)(日本有事を含む)極東地域の有事の際には、専守防衛にとどまらず日本の域外でも軍事行動をとることも想定し、自衛隊を増強する(2)在日米軍を撤退させ、沖縄などの基地負担を軽減していく-と受け取れる内容だった。 波紋が広がった2月27日、小沢氏は横浜市内での記者会見で「他国の有事に(自衛隊が)参加することはありえない」「在日米軍の役割のうち、日本防衛に関する部分はできる限り日本が役割を果たし米国の負担が軽くなれば、在日米軍も少なくなるというごく当たり前の話をしただけだ」と語った。 矛盾していないか。自衛隊の役割を専守防衛という「盾」に限ったままで、日本防衛のために矛(ほこ)の役割(=日本を侵略する周辺国への攻撃)を果たす在日米軍(海兵隊、空軍)に代替できると小沢氏は考えているのか。矛として駐留部隊は不要で、米第7艦隊だけで足りると考える根拠も示していない。 在日米軍は中国や北朝鮮、ロシアに睨(にら)みをきかせ、遠く中東、アフガニスタンまで出撃しているが、この機能をどうしたいのかもよく分からない。 小沢氏が明瞭(めいりよう)な説明を行わない、または行えないとすれば、政権担当能力に疑問符がつく。国民とのコミュニケーション力に問題がある麻生太郎首相(68)に匹敵する能力不足を示すものとなる。政府・与党も米国依存症 ただ、小沢発言は政府・与党側の安全保障面での米国依存症による思考停止をさらけ出す役割も果たした。 海賊対策のためのソマリア沖への海上自衛隊派遣は、民主党の長島昭久衆院議員(47)が昨年10月の衆院テロ防止特別委員会で提案したのがきっかけだ。言論の府の一員として面目躍如たるものがある。その長島氏は自身のブログで、小沢発言について「舌足らずな面は否めない。米国、アジア諸国、(日本)国民に無用な混乱と不安を与えたのは誠に残念」と断ったうえで、次のよう書いた。「ただし、このロジックでしか、我が国の『自立』はあり得ないし、在日米軍の削減はあり得ない、というのは紛れもない事実ではないか」 外国の軍隊が大規模に駐留するのが望ましくないのは言うまでもない。外国の軍隊よりも自国の軍隊の方が信頼できるのは当たり前だ。小沢発言への政治家たちの反応で欠けているのは、このような問題意識だ。 長島氏は、2007年3月23日の衆院本会議で、日米同盟を重視する立場から、安倍内閣の麻生外相(当時)へこう質問したこともブログで披露している。 「米軍再編という千載一遇(せんざいいちぐう)のチャンスに、政府は有事のリスクを我が国も引き受け、日米の相互補完的な役割を分担し合うように同盟を再編して平時の基地負担を減らそうという努力を怠った。戦後レジームからの脱却というなら、対米関係から実行に移していただきたい」(政治部 榊原智)

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    【麻生政権考】廉恥心(れんちしん)なき「保守」はありえるか

     財務・金融担当相として麻生政権を支えた中川昭一(しょういち)氏(55)が先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)をめぐる失態で辞任に追い込まれた。一連の経過をみると、ただちには辞任しなかった中川氏は、廉恥心(=恥を知る心)を持ち合わせていなかったと言われても仕方がない。世界に醜態が知れ渡り、日本の名誉と国益を損ねたにもかかわらず、麻生太郎首相(68)も中川氏も当初は、財務・金融担当相の続投が可能だと踏んだ。2人とも保守系政治家のリーダー格とされるが、いったい、恥の感覚に乏しい「保守」などありえるのだろうか。次期衆院選への悪影響を懸念する自民党議員から「鉄砲どころか、前から大砲を撃たれた」と非難される事態だが、廉恥心や潔(いさぎよ)さの欠如は一層深刻だ。「保守」は総崩れ 安倍晋三元首相(54)の政権放り出し、中山成彬(なりあき)前国土交通相(65)の失言による辞任、切り札として登場した麻生首相に対する内閣支持率の急落…。保守系政治家はここ数年檜(ひのき)舞台に上がっては自滅してきた。中川氏が“仲間入り”したことで、政界における「保守」は総崩れの状態となった。次期衆院選前に自民党総裁選があっても「保守系」候補の姿はないだろう。 中川氏には、「保守」の信条を持つ政治家からも批判が出ている。元民主党衆院議員の松沢成文(まつざわ・しげふみ)神奈川県知事(50)も17日、「一言で言えば日本の恥。国際的な信頼を著しくおとしめた国益に反する行為だ」と語った。 政府や中川氏は失態の理由として風邪薬の服用をあげ、飲酒ではないと説明する。ただ映像を見る限り、「酔っぱらっていたとしか思えない」=赤松正雄公明党衆院議員(63)のブログ=と多くの国民は思ったろう。 恥を知る姿勢は、どんな立場の政治家にも必要だが、日本の伝統的な価値観を尊重する「保守」にはとりわけ重要なはずだ。 新渡戸稲造(にとべ・いなぞう)(1862~1933年)は著書「武士道」の第8章「名誉」の中で「廉恥心は少年の教育において養成せらるべき最初の徳の一つであった。『笑われるぞ』『体面を汚すぞ』『恥ずかしくないか』等は、非を犯せる少年に対して正しき行動を促すための最後の訴えであった」と説いている。浜口雄幸(はまぐち・おさち)との落差 この廉恥心は責任感に裏打ちされるものだ。筆者は国会中継を聞いていて、涙がこぼれたことが一度だけある。 《(1930年の金解禁に取り組んだ浜口雄幸首相=1870~1931年=と井上準之助(じゅんのすけ)蔵相=1869~1932年=を描いた城山(しろやま)三郎著の)「男子の本懐(ほんかい)」にこういう一節があります。 金解禁などで、総理が国民に訴える。そのときに、当時はテレビはありませんでしたからね、中継もない。ラジオを通じて、ビラを通じて国民に訴える。その文章を書くのに、斎戒沐浴(もくよく)して、そうして正座をして、真夏にモーニング姿で机に向かって浜口総理は書かれたそうであります。 「浜口は一戸一戸の前に立って訴えかける思いで書いた。このため、暑い盛りに、モーニング姿で向かった」「ビラの末尾には、毛筆による署名を入れる。凸版用のその字を書くため、モーニング姿の浜口は、白いひげの盛り上がった口もとをとがらせ、気に入りの文字ができるまで、何枚も何枚も書き続けた」 政治家の国民に対する公約というのはこういうものだろうと思うのです》 1987年12月10日の衆院予算委員会の税制論争で、伊藤茂氏(80)が当時の竹下登首相(1924~2000年)に質問した際の指摘だ。 浜口首相の姿勢と、中川氏の「酩酊(めいてい)状態」にはとてつもない落差がある。説得力を失う 財務相には国会質問が集中する。中川氏も国会の日は早朝の午前4時には財務省から資料を届けさせ、5時前から答弁に備え準備に取り組んでいたが、失態でこの努力もムダになった。 中川氏は自民党の議連「真・保守政策研究会」の会長として人権擁護法案反対や対馬問題、東シナ海のガス田問題などに取り組んできた。だが、廉恥心と責任感を欠いた行動で一度(ひとたび)失敗すれば、信頼を失うどころか国民から軽侮(けいぶ)を受け、言葉に説得力を失う。後進の政治家は肝に銘じるべきだ。(政治部 榊原智)

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    【麻生政権考】「分かっちゃいない? 自民党」

     麻生太郎首相(68)の指示で自民党が国会議員の定数削減など国会改革、国会リストラ策の検討に乗り出すことになった。次期衆院選での党マニフェスト(政権公約)への盛り込みが念頭にある。国会改革、国会リストラ策の話は、苦戦が予想される衆院選に向け反転攻勢をとるために、小泉純一郎元首相(67)が麻生首相に行った助言から始まったものだ。だが、首相の指示も自民党幹部らの反応も中途半端で、国民が評価するような結論は出そうにない雰囲気だ。麻生自民党は、国政選挙での争点設定の大切さや、国民の党への厳しい視線を本当のところは分かっていないようだ。こんなノンビリぶりでは、行き着く先は政権交代になりかねない。「思い切っていけ」 通常国会初日の5日、国会議事堂2階の自民党控室で、笹川堯(たかし)総務会長(73)らと雑談に興じていた小泉氏は、居合わせた麻生首相にこう語った。「選挙は守りに入ったらダメだ。攻めの姿勢がなければならない。18日の党大会で一院制や国会議員の定数半減くらい(首相が)言ってもいい」 小泉氏は首相の背中を「思い切っていけ!」と叩いて励ました。 そばにいた若手衆院議員は「冗談かと思った」が、小泉氏は本気だった。16日の自民党有志の「衆参両院統合一院制議連」(会長・衛藤征士郎元防衛庁長官)の総会に出席し、「自民党が衆参を統合する原動力になってくれ。マニフェストにできるよう議論してほしい。微力だが私もお手伝いする」とぶちあげた。 衛藤氏(67)は、小泉氏に呼応し、衆参議員の定数の合計が722であるのを踏まえ、(1)衆参を合併し約3割削減して定数500の国民議会を創設(2)都道府県単位の大選挙区制(3)憲法改正が必要なため2019年1月以降の選挙で実施-の試案を提示した。 国会議員が痛みを感じるリストラ策で、憲法問題を避ける小沢民主党を改憲論議に引きずり込むきっかけにもなる提案だろう。 小泉氏らの動きは、麻生首相が思い切った国会改革を唱える応援団になるはずだった。「検討してほしい」 麻生首相は18日の自民党大会で「政治改革が必要だ。国会の制度やあり方を見直さなければならない。衆参で似通う選挙制度の見直しも必要だ。党内で議論を進めていただきたい」と演説した。 さらに首相は翌19日、「衆参の選挙制度や定数を議論してくれ。議員歳費(の削減)も含め検討を」と党役員会で指示した。 一応、国会改革に乗り出した形だが、「検討を指示」どまりでは、小泉氏が助言したような「攻めの姿勢」にはならない。国民や党内にインパクトを与えられないからだ。 首相を支えるべき細田博之幹事長(64)でさえ、19日の記者会見で、定数削減について「衆院小選挙区を今の300から280なんて言ったら大混乱だから難しい」と、大胆さとはほど遠い発言をしている。首相自身も、一院制の検討は否定した。 いったい首相は何をしたかったのか。党大会でただ言ってみただけなのか。 どうせなら首相は、党大会という絶好の発信の場で、党内や永田町がハチの巣をつついたようになる大胆な国会リストラ案を国民に約束すればおもしろかった。それを反対派と戦ってマニフェストに盛り込む「麻生劇場」を開幕するくらいの気概を示せばどうなったろう。 各種の世論調査で「民主党中心の政権」を望む声が多くなったのはなぜか。さまざまな出来事の積み重ねの結果、国民は、自民党が自ら血を流す覚悟でもろもろの改革に取り組む政党だと信用しなくなったからだ。 大胆な国会のリストラは、政党助成金の返納や廃止と組み合わせれば、国民の信を取り戻すきっかけになるかもしれないのに勿体(もったい)ないことをしたものだ。(政治部 榊原智)