検索ワード:流通/22件ヒットしました

  • Thumbnail

    テーマ

    「引っ越し難民」もアマゾンのせい?

    「何千もの小売業者を倒産に追いやっている」。米インターネット通販最大手、アマゾンについて、トランプ大統領の「口撃」が止まらない。日本でもアマゾンの台頭でさまざまなサービスが打撃を受けて久しいが、この春急増した「引っ越し難民」の背景にもアマゾンの影響があるという。なぜか。

  • Thumbnail

    記事

    空前の「引っ越し難民」はなぜ社会問題化したのか

    野尻俊明(流通経済大学学長) 最近、引っ越しをめぐる問題がにわかにクローズアップされている。今年は3月末、4月初旬に引っ越しを業者に依頼しても応じてもらえず、希望の時期に予定していた引っ越しができない「引っ越し難民」が発生するのではないか、との懸念が高まった。 各種マスコミでも、利用者や引っ越し事業者を取材して警鐘を鳴らしており、ますます危機感が強まりつつある。実際、2月27日の石井啓一国交相の定例会見で「引っ越し難民」を取り上げ、引っ越し事業者に適切な対応を求める、という異例の表明をしている。  ところで、昨年は「宅配便クライシス」という言葉が生み出され、ネット通販の急激な普及に伴う宅配貨物の急増に宅配便のシステムが追いつかず、「物流の危機」として大きな社会問題となった。今日では、物流は社会的インフラの一つとして認知され、市民生活に不可欠のサービスとなっているが、国民一般の物流に対する認識は多くが旧態依然と言える。  このおよそ50年間、わが国ではトラック運送事業の発展で常に物流の供給過多の状況が続き、必要な時にいつでも低価格(運賃)で高質なサービスが入手できるという時代が続いてきた。しかしながら、現在のわが国の物流の実情は従来と状況が一変している。 実は、これまで3月に物流ニーズの急激な高まりで物流の供給がタイトになり、混乱を来したことは経験済みであった。2014年3月に翌月からの消費増税を控えて「駆け込み需要」の発生により、物流が混乱し引っ越しサービスにまで大きな影響を及ぼす事態が生じていた。 これを機に、企業の中には人事異動の時期をずらしたり、計画を事前に作り引っ越し事業者と打ち合わせをするなど、分散化の対応を取ってきている。しかしながら、今年はかつてないほどの危機が叫ばれている。この背景にはさまざまな事情があるが、大きな理由は引っ越し需要の「繁閑の極端な格差」と「人手不足」の問題であるといえる。(画像:istock) この両者は切っても切り離せない関係にあるが、まず前者については、例年3月には通常月の約2・5倍の引っ越し需要があるという極端な波動の存在である。4月に新年度、新学年が一斉にスタートするという社会慣行の中で、引っ越し事業者は経営的に苦しみ抜いてきた。 特に、今日の引っ越しは主として「引っ越し専業者」がサービスを提供しており、かつてのように一般的なトラック運送事業者が繁忙期だけ引っ越しサービスを提供するというケースは少なくなっている。利用者が引っ越し運送に付随する各種サービス(エアコンの取り付け、各種手続きの代行等)を求めるという傾向があり、引っ越し作業には多くのノウハウと熟練を保有する作業員が必要とされることも要因の一つと言える。利便性を追求する時代は終わり 次に後者については、周知の通りである。わが国においては少子高齢化の影響もあり、ほとんどの産業分野で人手不足が顕著になっているが、物流分野は依然、労働集約的な部分が多く、人手不足の深刻度が極めて高くなっている。ちなみに、直近のトラックドライバーの有効求人倍率は2・74倍となっている。物流産業においては労働条件の改善が急務とされているが、労働者の労働時間は一般産業の2割増し、賃金は2割減といわれている。 現在、働き方改革、生産性向上を目指す動きを官民挙げて取り組んでいるが、その成果はまだ未知数といえる。人手不足対策としての外国人労働力の活用についても、宅配、引っ越しは高質のサービスレベルを要求されること、また個人宅への配達等があるため容易に進んではいない。 また、政府においては、物流分野の長時間労働問題にメスを入れ実態調査を行うとともに、総労働時間規制の強化を打ち出している。具体的には、物流事業者においては時間外労働(残業)時間の厳格化の徹底を図りつつあり、この結果サービスの時間的柔軟性は限定的となり、一層ひっ迫の度合いを深めている。残念ながら、これらの二つの大きな課題に対しては、即効的に効果を出すことのできる解決策は見いだせていない。 さらにもう一つ、近年の新たな事情を付け加えるとすれば、ネット社会の出現ということがある。今やインターネット経由がすべてに当たり前の時代となったが、引っ越しサービスにおいても同様であり、ネット上での申し込みが多数利用されている。引っ越しサービスの比較サイトはあまた存在し、利用者はワンクリックで申し込みができるという利便を享受している。 事業者サイドにおいても、直接現地へ赴いての見積もりの手間が省ける等のメリットが出ている。しかし、利用者の中には手軽にネット上で複数の引っ越し事業者へ申し込みをしたものの、解約を忘れる(しない)という事態がしばしば生じるなど、各種の混乱が続いている。 こうした事態を受け、国土交通省では今年6月から現行の標準引っ越し運送約款を改正して、当日、前日、前々日のキャンセル料金を高くすることにより、解決を図ろうとしている。一方、引っ越し事業者については全日本トラック協会が「引っ越し優良事業者認定制度」を創設している。(画像:istock) これは一定の条件をクリアした事業者を優良事業者として認定、「引越安心マーク」を付与して、利用者に安心して引っ越しサービスを提供できる事業者の情報を提供しようというものである。 最後に、繰り返しになるが引っ越しなどの物流サービスがいつでも容易に手に入る時代は過ぎ去った。このことを認識した上で、物流への関心と情報の収集に一層努めてほしいと願っている。

  • Thumbnail

    記事

    「引っ越し難民クライシス」は逆にチャンスである

    片山修(経済ジャーナリスト、経営評論家) 「物流危機」は昨年、ヤマト運輸の労働組合が荷受量の抑制を訴えたのを機に一気に浮上した。危機は、いまや宅配業者だけでなく、日本郵便や引っ越し業者にまで波及、拡大している。宅配業者は宅配ドライバー不足が決定的なうえ、宅配時の不在問題もあって、長時間労働が常態化するなど疲弊が深刻だ。このままでは宅配ビジネスが成り立たないという苦境の中で、業者は一斉値上げに踏み切った。 例えば、ヤマト運輸は、個人向け宅配料金の値上げに加え、法人向けの値上げを交渉した結果、6割の大口顧客が値上げに応じた。平均値上げ幅は15%以上に及んだ。宅配便急増の最大要因といわれたアマゾンも4割超の値上げを受け入れたとされる。日本郵便も3月、宅配便「ゆうパック」の個人向け料金を平均12%引き上げた。 その余波というべきか、宅配業者の宅配ドライバーの労働条件や賃金改善に伴って、一部の引っ越し業者のドライバーが宅配業者に移籍した。その結果、引っ越し業者は人手不足に拍車がかかったといわれている。なにしろ、3~4月の異動期は年間引っ越し件数の約3割が集中する。ドライバーや作業員不足から、希望時期に引っ越しがかなわない「引っ越し難民」続出が懸念されているのだ。 その対策の一環として、日本通運やヤマトホールディングスなど引っ越し大手は、単身者向け引っ越し料金の値上げに踏み切った。それとともにアルバイトの人件費をアップする計画だ。でないと人手が集まらないからだ。 しかし、いくら宅配業者や引っ越し業者が値上げなど対策に乗り出しても、物流危機の抜本的な問題解決にはつながらない。というのは、今後もEC(電子商取引)市場の拡大は確実なことに加え、引っ越し時期の分散には限界がある。加えて、人口減少社会のなかでドライバー不足はますます深刻化する。果たして、問題解決の糸口はあるのだろうか。 求められるのは最先端技術を使った新時代型物流網の構築だ。スマート物流の実現である。つまり、衛星利用測位システム(GPS)やインターネット、モノのインターネット(IoT)、ビッグデータ、人工知能(AI)など、最先端技術を活用した物流革命の推進である。物流危機の解消はこれしかない。2018年3月、東京都目黒区にあるアマゾンジャパン本社が入るビル(奥) 具体例を見てみよう。例えば、ドローン(小型無人機)や無人運転車の利用によって配送の無人化が模索されている。日本郵便は2016年からドローンを使った郵便物輸送の実証実験に取り組んでいる。今年3月には都心公道において、将来の無人走行を想定して自動運転車による輸送の実証実験を行った。 ヤマト運輸はDeNAと組み、自動運転の実用化に向けて、神奈川県で「ロボネコヤマト」プロジェクトの実証実験を行っている。顧客が場所と時間を指定すると、自動運転車で配送する仕組みだ。現在はドライバーが乗車するが、将来的には自動運転を取り入れるという。また、国土交通省は18年度中に高速道路の長距離輸送の効率化を目指し、後続隊列無人走行の実証実験を開始する予定だ。引っ越し業界も「危機こそチャンス」 物流業者だけでなく、荷主側のアマゾンなどの通販業者も知恵を絞っている。サイバー空間で、いくら大量の注文を受け付けても、モノを届けられなければ事業は成立しない。アマゾンやヨドバシカメラなど、EC事業者は自社配送網構築に取り組んでいる。現に、アマゾンは、米国などでドローンによる配達の実証実験を行うなど、自社配送網の構築に余念がない。楽天もこの1月、2年以内に自社配送網を構築する方針を明らかにした。 その点、オフィス用品通販大手のアスクルは、すでに配送全体の約6割を自前配送網で賄っている。「業界でもっとも物流システムが進んでいるのは、間違いなくわが社だと思います」と、アスクルの岩田彰一郎社長は自負する。効率的な配送網のカギはAIだ。 例えば、アスクルの個人向け通販「ロハコ」では、「ハッピーオンタイム」というサービスを提供中だが、AIを活用して、消費者が1時間ごとに配送時間を指定できるシステムを構築しているのである。通常、配送業者のドライバーは、決められた担当地域の地図を記憶し、荷札と比較して効率的な荷物の積み込み順や配送ルートを考える。しかし、「ハッピーオンタイム」では、システムが配送ルートと時間を計算し、消費者の希望する時間をさらに30分間に絞り込んでメールで伝える。 到着時間は、システム上では秒単位で予測されており、前後15分の余裕をもって消費者に知らせる仕組みだ。コンピューターによるルート設定やAIによる予定と実績の差分分析を行い、到着時間の予測精度は従来比25%改善。通常約2割といわれる不在率を約2%に抑えている。 同社は、ドライバーの動きをリストセンサーで分析し、研究に生かす取り組みも行っている。ベテランと新人では、ドライバーの動きは大きく異なる。配送車を停めてから荷物を届けるまでに時間がかかる場合もある。配送ルートの気象情報、従業員の経験、荷物の重量、配送地域など、すべてをデータとして取り込み、AIで分析する。今後、BtoB(企業間取引)にも応用する考えだ。 さらに、物流センターでは、EC世界初となるピッキングロボットをはじめ、多くのロボットを導入している。最終的には、荷物を持ち上げてトラックの中に運び、積み込みまで行うロボットを視野に入れる。「いろんなロボットを検討している段階なんです。われわれの最終的な目的は、AIやロボットを物流センターや配送網に実装して、お客さま価値を上げることです」と、岩田氏はいう。ニトリのグループ会社「ホームロジスティクス」が運営する西日本通販発送センター。倉庫内を無人搬送ロボット「バトラー」が走り回る=2017年12月(沢野貴信撮影)「危機こそチャンス」とは、よくいわれることだが、物流危機は従来式のアナログな物流を、最先端技術を活用したスマート物流へと進化させる大きなチャンスと見るべきだろう。引っ越し業界でも、引っ越し需要の予測精度向上に、AIのアルゴリズムを活用するなど、最先端技術を活用した業務改善の動きがある。 今後、スマート物流網が急速に進んでいくのは間違いない。近い将来、AIの活用が業界の競争力を左右することになるだろう。

  • Thumbnail

    記事

    新幹線チケット下落も招いた「引っ越し難民」急増のウラ事情

    加谷珪一(経済評論家) 今年の春は、引っ越しに大きな異変が起こっている。希望通りの日程で引っ越しができないという、いわゆる「引っ越し難民」の問題である。例年、この時期は転勤や入学などで引っ越しが集中する。だが、日程を調整しても、引っ越しができないというほどの事態になったのは今年が初めてだと考えられる。 全日本トラック協会が発表した引っ越し混雑予想カレンダーによると、3月24日から4月8日にかけてが混雑のピークとなっており、この期間については、見積もりを依頼しても事業者から断られるケースが続出している。仮に引っ越しが出来ても、例年の数倍という高額料金が請求されることもあるようだ。 引っ越し事業者が予約を断ったり、高額の料金を請求しているのは、配送に携わるドライバーを十分に確保できないからである。1月時点における「自動車運転の職業」の有効求人倍率は3倍を超えており、ドライバーの確保が極めて難しくなっている。 ドライバーの求人には特別な事情もある。サービス残業の横行で批判を浴びた宅配事業者が、長時間残業対策としてドライバーを大量に採用。短期ではなく長期の契約や正社員への登用も進めたことから、期間限定で引っ越し事業に従事するドライバーの数が減少しているのだ。これが引っ越し事業者の人手不足に拍車をかけた。 だが、足りないのはドライバーだけではない。梱包などを行う作業要員の確保にも苦労している。以前なら、皆が長時間労働をこなして何とか乗り切っていたはずだが、労働時間管理の厳格化からそれも難しくなった。結果として、もっとも注文が多い時期であるにもかかわらず、引っ越し事業者は顧客の注文を断る状況となっている。 この影響は、別の業界にも及んでいる。引っ越し集中期間での転居をあきらめ、時期をシフトする人が増加したことから、新幹線の乗客数が減少。金券ショップにおける新幹線のチケット価格が下落している。人の移動が同じ時期に集中していたことがよく分かる話だ。※写真はイメージ(iStock) 整理すると、これほどの状況に陥った直接的な原因は、宅配再配達問題をきっかけとしたドライバー不足や、働き方改革に伴う残業時間規制ということになるだろう。だが、この問題にはもっと根源的な理由が存在している。それは、若年層労働力の絶対的な不足である。 日本における15歳以上、35歳未満の人口は過去20年間で3割近くも減少した。引っ越しに限らず、サービス業の現場では常に人が足りず、若年層労働者をつなぎとめておくことが難しくなっている。待遇が良くない業種や仕事がきつい業種はその傾向がさらに顕著である。解決策はマッチング・サービス こうした年齢層の偏りは、高齢化に伴って発生しているものだが、困ったことに、この状況は一時的なものではない。今後、日本は本格的な人口減少時代を迎えるが、今後、20~30年にわたって中核労働者の減少が続くと予想されている。このまま何もしなければ、同じような状況が長期にわたって継続することになるだろう。 では、こうした事態に対して社会はどのように対応すればよいのだろうか。これは需給のアンバランスが原因なので、問題を根本的に解決するには、需要を減らすか、供給を増やすしかない。 まず需要の面では、年度末に集中する人事異動を分散化させる必要がある。 諸外国でもカレンダーイヤーに合わせて人が動くという部分は大きいが、日本よりも四半期決算が重視されており、事業転換が必ずしも年度単位とは限らない。四半期ごとの事業見直しがもっと一般的になれば、経営もスピーディになり、引っ越しの分散化も実現できる。 もうひとつは採用の分散化である。大学の卒業時期を分散化させる取り組みは以前から行われてきたが、企業の4月一斉入社がなくならない限り、大学や学生にできることは限られている。一定期間内ならいつ入社してもよいという柔軟な採用条件を示す企業も増えているが、まだまだ少数派だろう。 この二つの話は相互に関係している。事業サイクルの見直しが進めば、採用も柔軟になってくるはずであり、結果として異動の時期も分散化することが可能だ。 一方、供給面における改革をすぐに実施するのは難しい。長期的には自動運転化といった解決策があり得るが、実施までにはかなりの時間がかかる。 短期間で実現可能な方策としては、引っ越しをしたい個人と、自営業のトラック・ドライバーをマッチングするサービスが有力である。つまり自動車配車アプリ「ウーバー」などに代表されるシェアリング・サービスの引っ越し版である。※写真はイメージ(iStock) すでにいくつかの事業者が、アプリを使ったマッチング・サービスを開始している。場合によっては、企業の人事部が各種サービスを調査し、社員に利用を促していくといった措置も必要となるだろう。 引っ越し難民の問題は人口減少を背景としており、この業界だけにとどまる話ではない。いずれ他の業界でも同じようなトラブルが発生する可能性が高い。 供給不足でサービスの実施が阻害されるような状況が続くと、経済成長にもマイナスの影響が出る。人手不足によって業務に支障が出るリスクについて、社会全体としてもっと認識を共有していく必要があるだろう。

  • Thumbnail

    記事

    ドローンで東電とゼンリンが組んだワケ

    が、本格ビジネスはまだまだと言ったところ。そんな中、ドローン用途の中で最大のビジネス規模と目される「流通用途」に、東京電力とゼンリンが「『ドローン・ハイウェイ構想』に基づく提携発表」で名乗りを上げた。そんなドローンの現状をレポートする。 ドローンハイウェイ構想を出したのは、Amazon。2015年に飛行機、ヘリコプターが飛ぶことが認められていない低空域を区分けした提案をしたことにはじまる。200フィート(約61m)以下を、空撮、測量など、現在すでに実用化されているドローンで使い、200〜400フィート(約122m)を流通用のドローンが使うとしたもの。このドローンの速度を60ノット(時速111km)としたために、ハイウェイと呼称されている。同じハイウェイでも、トラックによる高速道路輸送とはニュアンスが異なる。 クロネコヤマトが悲鳴を上げているAmazonの流通サービス。これを「無人」で動くドローンに肩代わりさせ、現在のサービスを維持することを考えてのことだ。流通と書いたのは、個人宅への配送だけでなく、長距離トラック輸送も考慮してのことである。 今回の、ゼンリンと東電の「ドローン・ハイウェイ構想」のために業務提携の発表を聞いた瞬間、「上手い着眼点だ」と思った。ドローンの利点、欠点は多々あるが、一番の欠点は、「墜落の可能性」があることだ。となると、空を自由に飛ぶのではなく、空の道を作った方がいい。自由度は制限されるが、その分、安全も高くなる。その空の道が「ドローン・ハイウェイ」だ。「ドローン・ハイウェイ」が満たすべき要素は幾つもあるが、大きくは3つだ。 ①全国にネットワーク化されること。 ➁ドローン・ハイウェイの下は空き地が多く、できる限り人の出入りが少なく入り込めないようなところ。 ③そして、万が一墜落した場合、回収が容易であること。バッテリーチャージ、もしくは雨、強風時の避難ができる様なスペース、施設が適度な間隔であることだ。高速道路で言うと、基本200m間隔で非常電話と共に設置さている非常駐車路側避難帯、もしくはパーキングエリア(基本15km毎の設置)、サービスエリア(基本50km毎)に似たモノと思えばいい。ちなみに鉄塔の間隔は、600m以下が基本だ。 全国的に張り巡らした送電線を、このドローン・ハイウェイに活かそうというのが今回のゼンリンと東電の考えだ。最終的に、どのようになるのかは不明だが、今回の提携での話は大枠は高圧電線。街中の電信柱&配電線ではなく、鉄塔&送電線である。東京で言うと区部のような密集住宅地ではなく、郊外の町を考えてもらった方がいい。 送電線、鉄塔の下は、立ち入り禁止になっている場合が多く、ドローンにとっては、絶好のエスケープゾーンと言える。鉄塔の間はそれなりにあるが、航空機と同じように、トラブル=即墜落と言うわけではなし、墜落しか手がない場合でも、操縦者は軟着陸するように、あらゆる手段を講じるはずだ。そう考えると、飛行場よりはるかに数が多い上、航路の真下の鉄塔の存在が、どれ程有利かは、ご理解頂けると思う。(iStock) 要するに、送電線に沿いドローンを飛ばすと、万が一下に落ちた場合でも被害は最小限に抑えられるはずだというのが、今回の構想だ。また鉄塔以外に、送電線ネットワークには変電所がある。ここが高速でいうパーキングエリア、つまり中継基地にと考えられている。整備、電気の補給などに使える。そして鉄塔の下などのスペースは非常駐車帯というわけで緊急避難場所にすることも可能だ。 さらに付け加えると、送電線に沿うということは、ハッキリとした目標物があるため、非常に操縦しやすい。これは人間が操縦する場合でも、AIの自動操縦、いずれの場合でも有利に進む。そう考えると、細部、市街地の対応は未定未完ながら、ドローン・ハイウェイとしてはかなりリーズナブルなイメージとなる。 東電では、この構想の後、都市部の配電線でドローンで使うことを考えているという。やはり都市部での墜落は、緑地での墜落よりはるかにこわい。が、逆に都市部はビルが多いことも事実。使われていないビルの屋上、コンビニの屋根を使うなど、平屋根とのコンビネーションで対応できる気もする。またエスケープゾーンだけでなく、ドローンの機体もなるべく軽くし、重い荷物ではなく荷物を小分けにするなど、墜ちにくいルールを作ることも必要である。課題が多く送電線での成功を受けた形で行われると思われる。 東電が設備なら、ゼンリンは空路等の空の3Dマップ航路地図を作るのが役目だ。どこをどう飛行すると最もいいのかを3Dマップ化するのだ。ただ3Dマップは、座標の組み合わせはもとより、鉄塔等の電力インフラ情報で書かれており、現在のような地図帳という形ではなく、座標データーとしての供給になるという。 天候の変化は仕方がないとしても、地形的な特長のために発生する風の癖風や降雨などの気象情報は極力盛り込みたいという。書くと簡単そうだが、軽いドローンへの風の影響は大きいため、ゼンリンは、人間でいうと「経験と予想」といった、非常に重要な役割を担当することになる。即日配送サービスは維持できるのか? このところ、ヤマト運輸の配送問題が大きく取り上げられているが、もしドローンが使用可能になるとどこが変わるのだろうか。現状と変わるところはいくつもあると思うが、その内の代表的なものを以下に書く。 まずは、長距離の自動輸送だ。最終的にはAI付きドローンに託されることになると思うが、宅急便の営業所から営業所、もしくはユーザーの所へダイレクトに運ぶことになるだろう。集積センターなどは不要で、このトラックを逃すと、翌日出発、なんてこともなくなる。音の問題がクリアできれば、24時間配達となる時代となるかもしれない。 次は、主には都会での話し。都会の配達時間でロスがで多いのは、上下移動だ。エレベーター設置の法強制はないが、建設省(当時)長寿社会対応住宅設計指針には、「6階以上の高層住宅にはエレベーターを設置するとともに、できる限り3~5階の中層住宅等にもエレベーターを設ける」とある。 ただ低層階のマンション、アパートなどでは、設けていない所もまだ多くある。昇り降りの繰り返しは疲れるし、時間も掛かる。しかも、配送先の住人が不在の場合、完全な時間ロスとなる。ドローンは上下に強いので、ビルからビルへ、マンション密集エリアの配送、特に古いアパートが多いエリアなどはかなり楽になると思う。 ただし問題もある。ルールの確定だ。郵便ポストのような、配送ポストが全家庭に行き渡るのは、まだまだだろうし、ドローン配送が実施可能になった時、どのような形で受け取るのかが大きなポイントとなる。案外、ユーザーからの電話でドローンが発進。この時、何らかの形でユーザー認証されるので、その場での受取印はなし。荷物につけられた固有の8桁コードなど入れれば受け取り終了など、簡略にルール化できる可能性もある。ドローンの特性を活かし、皆が気持ちよく使えるルールができることを願う。 近未来の世界を描いたSF映画には、多くエアカーが出てくる。どんなに便利になっても都市部には人口が集中する。となると地上の移動では渋滞が避けられない。地下は設備を作るのに莫大な投資が必要。そうなると空を飛ばすのが一番というわけだ。高度5mと10mでは交差しないので、地上だけに比べ、何倍もの人をさばくことができる。 現在の空を飛んでいるのは、ロケット、ミサイル、飛行機、ヘリコプター、そして鳥だが、ロケット、ミサイルは毎日は飛ばないので置いておく。次に鳥は体が小さいので、群れでない限り、人間本位の言い方をさせてもらうと、人間への影響はほぼ少ない。2018年3月、ドローンを使い運ばれた荷物を受け取る大分県佐伯市の住民 飛行機、ヘリコプター、飛行船に関しては、航空法が適用されている。同法施行規則第174条で、「飛行中動力装置のみが停止した場合に地上又は水上の人又は物件に危険を及ぼすことなく着陸できる高度」か、市街地上空では「水平距離600m範囲内のもっとも高い障害物の上端から300m」、その他では「地上又は水上の人又は物件から150m」のうち、いずれか高いものとされている。こうなると高層ビルが乱立する東京は大変。例えば634mの東京スカイツリーのある押上にスカイツリーのような見上げる、そんな高いビルはないが、この近辺では934m以上でないとダメということになる。 そんな中、ドローンが注目されたのは、今使われていない低空域を使うからだ。どこからどこまでかは、飛行機と異なり国をまたぐことがないため、各国の法律に従うことになる。人が乗ることはできないが、この高さだといろいろなことができる。ドローンが「空の産業革命」と呼ばれるのは、その利便性の故だ。 ただ現在の所、すごいと思うレベルには達していないため、「産業革命」と言われても感覚的にずれているとお思いの人も多いと思うが、ドローンハイウェイなどができてくると変わったなぁと思われるはずだ。 ドローンの長所はいくつもあるが、一番大きな点は、ホバリング(空中静止)ができる点だ。そしてノビシロが大きい点も挙げられる。どんな所でも荷物の受け渡しができるし、写真撮影などもしやすい。 ホバリングほどではないが、小回りが利くことも長所として上げられる。インフラ点検などで、人だと入っていけないような所、入るにはいろいろな装備を用意しなければならない所でも入っていけるのも大きなメリットで、効率的にインフラの点検ができるのも、小回りが利いてこの性能があってこそである。物理ネットワークを持つということ またノビシロが大きいため、今後もドローンはどんどん進化して行くと考えられる。バッテリーの進化で航続距離をのばし、プロペラの改良、モーターの改良で、飛行効率ももっとよくなるとされている。またAIによる完全無人飛行の可能性もある。今、挙げたのはよく言われている可能性だが、ノビシロの幅はすごくが大きくいため、いろいろなことができる様になると考えられている。 次に短所だが、一番の短所は墜落の可能性があることだ。地球には重力があるので、この可能性は回避できない。その他、突風に弱い、雨に弱いなどの欠点があるが、いずれの場合も最悪の事態は墜落となる。 また、本格的に使われるようになると、騒音も問題になると思われる。「ドローン」という名前は「雄バチの羽音がドローンのプロペラが回転する風切り音に似ている」ことから来ていると言われているが、まあ静かとは言えない。赤ちゃんなら起きてしまうだろう。近くで数台飛行していたら、クレームになるのではと思われる。 今、ドローンが使われているのは、「写真撮影」「測量」「建物、インフラの点検」「農薬散布などの農業サポート」が主だ。しかし、これらはドローンに期待されている分野の一部でしかない。「配送」「救急医療」「災害対応」「警備」等々。今以上に大きな分野での使用が期待されているのがドローンだ。2020年にはオリンピックで「警備」がクローズアップされるだろう。私などは、自分のちょい後ろを付いて廻るドローンが欲しい。手ブラで歩けるし、買い物だってラクラクだ。 最近、どっと増えているのが「ドローン学校」だ。クルマで言うと、第二種大型免許(業務用の大型トラック)の教習所のようなもの。ただし国家免許はないので、あくまでも学校で学びましたということだが、操縦は経験がモノを言う分野であり、業界ニーズは高いと聞く。 さらに視点を拡げると、国際規格競争もある。経産省が宇宙航空研究開発機構と協力して衝突防止技術や自動管制システムを開発し、2025年を目標に国際規格を策定しに行くと報道されたのは、2017年2月。その実用化テストに、今回の提携は大きな役割を担うのではないかと思われる。ただ、ドローンは軍事技術の側面を持つため、この話がそのまま進むのかは疑問符が付く様に思う。 いろいろ書いたが、一度、ドローンハイウェイが整備されてしまうと、日本は手放せなくなってしまうだろう。特に災害が多い日本ではそうだ。よく被災地には復興のために、善意の救援物資が集まるが、上手く使われていないという報道は枚挙に暇がない状態だ。ドローンは荷物を少量ずつ、運ぶのが鉄則。つまり現場のニーズにより、少量ずつモノを配送することが可能なため、現場毎に必要なモノを的確に送付できる。 その上、災害にも強い。電力は、東日本大震災の時でも、3日後には通電していたという。また鉄塔は高層ビルより軽く、地震にも強い。地震に強く、倒壊したという話はないということだ。つまり台風のような悪天候を伴う災害でなければ、ドローン配送は災害時でも使えるということだ。これは災害が多い日本としては、是非欲しいシステムの一つだ。 ちょっと話は変わるが、私はこの話を聞きながら東芝のことを思い浮かべてしまった。東芝は現在、いろいろな事業を切り出し、売りに出している。正直、復活は厳しいと思う。理由は、弱体化した、古いと言われながら日本の総合家電メーカーが生き残ってきたのは、いろいろな事業を合わせて総合することにより、強みを見い出してきたからだ。 ところが、東電は、倒産しなければならない状態になりながらも、ほぼそのままの状態で残っている。電力会社としての頭から尾までのビジネスを傘下に収めている上、物理的な電力ネットワークも残っている。それが新しいビジネスを起こす時に大きな強みとなっている。今回は、この物理的な電力ネットワークをベースにしたビジネスプランでだが、これはビジネスを切り売りしなかったため、できたことだ。2016年3月31日、持ち株会社「東京電力ホールディングス」への移行のため、東京電力HD本社に取り付けられる「TEPCO(テプコ)」の看板(代表撮影) 東電は、福島の復興を先頭に立って支える義務がある。また事故を起こした福島の原子力発電所を、後日に憂いなきように確実に廃炉にする必要がある。補償金も膨大に上がるし、廃炉費用も膨大になる。ドローン・ハイウェイが実用化されると、かなりの金額が入って来て、それを福島のために使えるはずだ。 この構想を聞いた時、物理ネットワークを持っている者は強いと感じると同時に、切り出さなかったからこそ、お金を払える可能性が残ったとも思った。たが・かずあき 生活家電.com主宰。スマート家電グランプリ審査員。主催する『生活家電.com』を通じ、家電の新製品情報、使いこなし情報他を発信中。過去、某メーカーでAVメディアの商品企画を担当、オーディオ、光ディスクにも精通。また米・食味鑑定士の資格を有する。水、米、パン、珈琲、お茶の味に厳しい。

  • Thumbnail

    記事

    JR貨物が24年ぶり黒字化 トラック輸送からの切り替え加速

    制は、すでに崩壊寸前。物流が機能不全に陥れば、その影響は小売店にも及ぶ。そうした事情から、メーカーや流通大手はトラックから鉄道へと切り替え始めている。 トラック輸送を貨物列車に切り替える潮流は、今年に入ってからも加速している。従来、トヨタ自動車は自動車部品を愛知県から岩手県まで輸送する貨物列車「TOYOTA LONG PASS EXPRESS」を運行してきた。今年3月のダイヤ改正で、「TOYOTA LONG PASS EXPRESS」は一日2往復に増便。流通大手のイオングループもメーカー各社と協力し、東京-大阪間の商品配送に貨物列車の活用を模索している。青函トンネル専用の電気機関車(右)への付け替え作業=2018年3月6日、北海道函館市のJR五稜郭駅 今年1月には、ビール業界1位のアサヒと2位のキリンが鉄道貨物で北陸地方への共同配送を開始。両社のビールは大阪の吹田貨物ターミナルから同じコンテナに積載されて、石川県の金沢貨物ターミナルへと運ばれる。さまざまな業界がトラック輸送から鉄道貨物へシフトしたことで、JR貨物は24年ぶりに黒字化を達成した。 社会環境の変化が貨物列車の需要を拡大させたことは間違いない。だからと言ってJR貨物が手をこまねいていたわけではない。JR貨物も赤字に苦しみながら、どうにか売上を伸ばそうと地道に努力をつづけてきた。 例えば、1992(平成4)年前後から輸送力を増強するために一編成の長大化を進めている。一編成が長大化すれば、一度に運べる荷物の量は増え、より効率的になる。関連記事■ 京福電鉄が走らせる宅急便電車は物流革命の先駆けとなるか■ 引っ越しのプロが解説 料金は「距離と荷物の量がポイント」■ クロネコ 被災地での自主的な救援物資配送も「業務」と認定■ JR境線鬼太郎列車 目玉の親父・ねずみ男等6種類の列車運行■ 被災地定点観測【4】津波で散乱 塩釜港の大型コンテナは今

  • Thumbnail

    記事

    佐川急便も導入の週休3日制 ビジネス上の損失が大きい現実

     ドライバーの人手不足に悩む運輸業界を中心に広がりつつある「週休3日制」。労働日数・時間にメリハリをつけて人材確保をしやすくする狙いや、常態化する長時間労働を是正する目的もあるとみられる。だが、果たして日本企業に定着する仕組みなのだろうか?人事ジャーナリストの溝上憲文氏が、週休3日制のメリット、デメリットを解説する。 「週休3日」の働き方が話題になっている。直接のきっかけは佐川急便の週休3日でのドライバーの募集だ(東京都と山梨県)。転職サイトに掲載された同社の募集広告のキャッチコピーは〈「週休3日」で、家族との余暇も収入アップも実現可能〉。その下には、〈水曜お休み。朝から趣味の釣りに出かけて、ゆっくり過ごす。土曜お休み。家族みんなで、日帰り温泉を満喫! 日曜お休み。今日は子どもと一緒に近隣の公園へ。〉という文字が躍っている。 「週休3日」募集の最大の狙いはドライバー不足による人材の確保だ。だが、週休3日といっても労働時間が減るわけではない。普通は1日の所定労働時間が変わらずに休みが1日増えることをイメージするが、そうではない。 同社の週休2日のドライバーの実働時間は1日8時間、5日勤務で週40時間。週休3日の場合は、1日8時間の法定労働時間の例外を認める「変形労働時間制」を使って1日の労働時間を10時間にして同じ40時間にするものだ。 もちろん1日の労働時間が8時間を超えても残業代がつくことはなく、週の労働時間を4日に固めただけの話だ。働き方の選択肢が増えることは結構なことだが、この仕組みでドライバーが集まるかどうかは微妙だろう。 そもそも運送業界は残業を前提として成り立っている。社員も残業代を当てにして生活設計をしている人も多い。 同社のドライバーの基本月給は、週休2日も3日もほぼ同じ「18万~26万円」(関東地区)。募集広告には週休3日の月収例として「26万5924円~35万5057円」(東京、残業手当20時間)と、わざわざ残業代込みの給与を紹介している。 週休3日の月の勤務日は17日。1日1時間ちょっとの残業時間になる。実働10時間といっても間に1時間の休憩時間があるから通常の拘束時間は11時間。残業込みの月収をもらうには1日計12時間拘束される。仮に9時始業の会社であれば21時に帰宅することになる。しかもシフト制なので週の真ん中に休めるとは限らない。 週4日連続で働き、3日の休みがあるといっても、労働実態を考えると1日は家でぐっすりと寝ていたい気分になるかもしれない。冒頭の募集広告にあるような“優雅な3日間”を過ごすことができるのか疑問ではある。 週休3日制は佐川急便以外に、すでにユニクロを運営するファーストリテイリングが転勤のない「地域正社員」を対象に導入している。同社も変形労働時間を活用し、1日10時間、週4日勤務と佐川急便と同じ仕組みだ。佐川急便から委託された荷物を配送する旭川中央ハイヤーのワゴン型タクシー=北海道旭川市 ただし小売業なので休みは平日に取得することになっている。こちらも「『仕事と家庭を両立させたい』『オンもオフも充実させたい』そんな声にお応えして導入した」同社HP)という触れ込みだ。だが、日々子育てしている社員にとっては1日の労働時間が長くなる分、休みが1日増えることのメリットはあるのだろうか。 ヤフーは今年4月から家族の育児・介護をしている社員を対象に導入している。週休3日制で危惧される長時間労働 同社の1日の労働時間は変わらず、休みが1日増える分、2割程度給与が減額される。こちらは1日5~6時間働く育児・介護の短時間勤務の週休版ともいえるもので、単純に短時間勤務か週休3日かという選択肢を増やしたにすぎないともいえる。果たして今後どれだけの数の社員が選択するのか興味深いところである。 ではこの週休3日制の仕組みが他の業種・職種にまで広がるかといえば難しいだろう。たとえば製造業。すでに24時間フル稼働の工場では休息時間に配慮しながら昼夜3交代のシフトを組んでいる。そこで丸々1日休みを増やすとしたら、さらに休息時間を切りつめるか、増員は避けられないだろう。 営業職も難しい。法人や個人の顧客対応の社員は相手の都合によって残業が日常茶飯事の世界だ。しかも個人ごとに担当顧客を抱えていると、定時を過ぎても対応せざるをえない場合も多い。じつは月末金曜日の午後3時の早帰りを奨励するプレミアムフライデーでは多くの企業が実施を見送った。最大の理由は顧客への対応だ。 ある医療機器メーカーの人事部長は、「土日は病院が休みになるので金曜日は検査機器類の納入で忙しくなる。営業職の社員が午後3時に帰れば、顧客対応ができないためにビジネスの損失が大きい。普通の日でもライバル社としのぎを削っており、定時以降は対応できませんとなると顧客を奪われてしまう」と指摘する。 仮に週休3日制になり、顧客に「明日は休みなので来られません」と言おうものなら「あっ、そう。じゃうちに来なくてもいいよ」と言われかねない。もちろん顧客やライバル企業も週休3日ならいいが、自社だけ導入してもビジネス上の損失は免れないだろう。ビジネス上の損失以外に、週休3日制で危惧されるのが長時間労働だ。 前述したように今の週休3日制は、週40時間の労働時間を4日に固めただけで、完全週休3日制ではない。その結果、1日の拘束時間は11時間(休憩1時間)になる。現在の日本の労働実態からすれば残業なしではすまされない。それこそ休みを1日増やしたことでやるべき仕事を片付けるために、毎日深夜近くまで働かざるをえなくなるかもしれない。 下手をすれば、終わらない仕事のために今と同じように休日労働する人も出てくるだろう。今と仕事量が変わらないのに、後顧の憂いなしに3日の休日を満喫できる会社や社員はどれだけあるだろうか。 本来の完全週休3日にしようとすれば1日8時間×4日にして、従来と同じ給与を払うべきだろう。つまり、1週間の会社の所定労働時間を32時間にすれば可能だ。これはフランスの週35時間の法定労働時間に近い。 週8時間も労働時間を減らす経営者は少ないかもしれないが、企業の中には実現可能な企業もある。たとえば日本生命、東京海上日動をはじめとする生・損保会社では1日の所定労働時間が7時間という会社が多い。1週間の所定労働時間は35時間とフランスと同じだ。 だが、どの会社も週休3日に踏み込むことはできないだろう。社員を1日休ませることによるビジネス上の損失が大きいからだ。また、残業を前提としている職場風土の問題もある。ちなみに電通も1日の所定労働時間は7時間だ。にもかかわらず長時間労働体質が世間から指弾された。 結局、この国の商習慣・業界慣行や長時間労働体質を変えていかない限り、完全週休3日制は夢のまた夢なのである。関連記事■ ヤフーも検討する週休3日制 かえって過重労働招くケースも■ 「休日に自宅で仕事しても残業代・通信費請求可能」と弁護士■ 介護休業法が改正 休みが取りやすくなり、残業免除も可能に■ 導入検討の残業代ゼロ法案 欧米とは似て非なるただ働き制度■ エステ業界 サービス残業常態化し手取り20万未満、体重激減

  • Thumbnail

    テーマ

    ニッポンの宅配危機はアマゾンのせい?

    界に達したとの指摘もあるが、やはり最も影響が大きいのは米ネット通販大手、アマゾンの存在である。変わる流通業界、ニッポンの宅配危機を考える。

  • Thumbnail

    記事

    悪役かヒーローか、アマゾンが変える宅配業界とネット通販

    角井亮一(イー・ロジットチーフコンサルタント) 2016年11月。その異変が起こりました。横浜市にあるヤマト運輸の支店で働いていた従業員がヤマト運輸の労働組合でなく、労働基準監督署に行き、残業代未払いなどの実態を申告しました。これまで「宅急便」の生みの親であり、ヤマト運輸創業者の故・小倉昌男氏と労働組合のタッグの強さは業界の中でも有名でしたが、その労働組合を頼らなかったのです。 そして、1月24日。全国から902人が集まったヤマト運輸労働組合の「春季生活改善」中央討論集会では、さまざまな意見が飛んだそうです。結果、2月末から日経新聞が連日、ヤマト運輸の宅配ドライバーさんの悲鳴とアマゾンに対する値上げ、サービスレベルの引き下げなどの話題を報じ、テレビなどでも取り上げられました。 私自身も、『とくダネ!』『スッキリ!!』などの情報番組やJ-WAVEなどのラジオにも出演し、冷静な解説に努めました。私の説明は「宅配ドライバーさんの長時間労働が根本問題」であるということ。値段よりも、仕事量や働き方こそに問題があると考えています。 そもそも、なぜこの問題が起こったのでしょうか? その背景には、宅配個数の著しい伸びがあります。私は2020年代には宅配便60億個の時代が来ると思っています。過去には複数の企業間で連携して統合的な物流システムを構築する「サプライチェーンマネジメント」という製造サイクルの短期化という大きな1つ目の波があり、2つ目にインターネット革命によるネット通販の拡大がありました。そして今、IoT(モノのインターネット)革命による実店舗とネット通販が融合した「オムニチャネル」化宅配という3つ目のビッグウェーブが来ています。 アマゾンがいなくても、60億個時代は来る。そしてインターネット通販の拡大は続きます。なぜなら、「私たち消費者が便利な買い物を求めている」からです。この問題を一番短期で効果的に解消するのは、数値で20%、体感値で35%もある再配達をゼロにすることです。 では、なぜアマゾンばかりが槍玉に上がるのでしょうか? それは、拙書『アマゾンと物流大戦争』(NHK出版新書)で書いたようにアマゾンが物流によって、勝ち上がってきたからです。 日本は以前からロジスティクス(物流)を重要視していませんでした。戦争でいちばん大事なのはロジスティクスですが、当時から日本では軽視されていました。一方、アメリカや中国はロジスティクス重視で、それは戦争だけでなくビジネスでも同じです。物流は戦うための支えになる戦略なのです。ロジスティクス重視の会社の業績が上がることは、セブン-イレブン・ジャパン、アスクル、花王を見ても明らかです。ボディブローやローキックのように、じわじわと相手を痛め、打ち負かす戦略なのです。 そして、アマゾン。彼らはいま挙げた日本企業の数倍も物流を重視する会社です。かつて創業者のジェフ・ベゾスは「アマゾンはロジスティクスカンパニーだ」と語りました。いま、日本企業は、アマゾンにはロジスティクスによって勝てないと焦り始めています。アマゾンが、その重要性を私たちに教えたのです。プライムナウの衝撃 世界各国の物流業界を見てきた私は断言します。日本の宅配会社は世界最高峰であると。特に、小倉昌男氏が作り上げたヤマト運輸の「宅急便」は最高に素晴らしい。ただ、ここでもアマゾンは、日本の物流に関する観念(考え)に一石を投じました。日本のネット通販企業は全国1カ所、多くて2カ所の物流センターが通常ですが、アマゾンは大型の物流センターを13も出しています。地方にも出すことによって、お客様に近い場所からお届けでき、当日配送のエリアを拡大できるようになったのです。画像はイメージです そしてこの利便性にハマる顧客が出てきました。明らかに盲点です。もちろん、すべての荷物に当日配送は不要ですが、10回に1回でも必要なときがあれば、当日配送ができるネットショップを使おうとします。これによって、いつもの店がスイッチするのです。もともとの会社にとっては、これまでの常連さんがいなくなるのです。 また、プライムナウという1時間で配送できるサービスを開始しました。 このプライムナウですが、使った人の話を聞くと、多くの確率で、受け渡しなどの対応はヤマト運輸さんや佐川急便さんのドライバーさんのほうが良いと言います。私もそう思います。でも、消費者は使うのです。 なぜなのか? 宅配だと1回で受け取れずに、結局受け取りに時間がかかります。1時間や2時間後なら、自分が自宅にいることを見越した上で、注文できます。 当日配送やプライムナウは、日本の宅配便のサービスレベルに慣れていた私たちに衝撃を与えました。彼らは新しい物流サービスのニーズがあることを消費者やネット通販企業、物流会社に知らしめました。日本の宅配サービスは、過剰といえる部分があったり、足りないところもあった。物流には、新しいサービスを提供する余地があったということをアマゾンは、私たちに教えたのです。アマゾンが王者になる日 もう1つ重要なポイントがあります。夜間配送です。一番遅い便だと、深夜0時までの配送が可能です。ほとんどの宅配便は21時が最終です。21時以降に受け取りたいという人がいるのです。また、朝は8時から(一部では6時から)届けてもらえるので、パートに出る前に受け取ることができたりします。 ところが、ヤマト運輸は、時間帯指定のサービスレベルを下げると発表しました。これはネット通販企業にとって大きな出来事です。なぜなら、彼らの売り上げを落とすインパクトがあるからです。例えば、ネット通販を頻繁に利用する若年層の場合、他の世代と比べて一人暮らしが多く、また、それほど高い家賃のマンションに住んでいないため、宅配ボックスの数が不足気味か宅配ボックスのないマンションに住んでいる率が高いのが実態です。そのため、多くの荷物は、20~21時の時間指定にしています。 ということは、この層がメーンターゲットのアパレル通販などは、受け取りづらくなるため、店に行ったほうが早くなるかもしれません。また、クール便を使う商材を扱う企業でも同様です。これによって、購入自身を断念するかもしれません。そうなると、ヤマト運輸を利用するネット通販企業は、売上が下がる可能性が高く、その下がった分は、プライムナウの地域であれば、プライムナウで買う人が増える可能性が高いのです。 今回のヤマト運輸の決定は、一見、アマゾンにとっての打撃かもしれませんが、実は、中期的にアマゾンのシェアを上げることになるのです。また、彼らは全身全霊でヤマト運輸ゼロでも対応できるように準備しますから、さらにアマゾンが独自のロジスティクスを持つことになり、競合への競争力は一段、いや数段上がることになります。 ヤマト運輸の20時~21時の廃止(19時~21時への拡大)によって、アマゾン以外が衰え、自社配送を行うアマゾンが大幅に売上を伸ばす結果となります。今後のアマゾンのロジスティクスへの投資は、注視しないといけませんし、他の企業は独自または共同のロジスティクス網を構築する必要があることを冷静に分析し、決断しなければなりません。

  • Thumbnail

    記事

    ヤマト運輸が「当日配送」から撤退しても、アマゾンが潰れない理由

     加谷珪一(経済評論家) ヤマト運輸とアマゾンの交渉がヤマ場を迎えている。ヤマトはアマゾンに対して配送料金の値上げを求めているが、当日配送からも撤退する方針を固めており、サービス内容の見直し交渉も同時並行で進めている。アマゾンは値上げについてコメントしていないが、一部のサービスが変更になる可能性は十分に考えられる。 2016年3月期におけるヤマトの宅配便取扱量は17億3126万個と前年比で6・7%増加したが、2017年3月期はさらに増えて18億6756万個になった。2011年と比較すると荷物の取扱量は約3割も増加している。 取扱量が増えた最大の原因は、言うまでもなくアマゾンを初めとするネット通販の普及である。アマゾンは年会費3900円の有料会員(プライム会員)向けに「お急ぎ便」のサービスを提供している。お急ぎ便の場合には、時間にもよるが当日配送が可能となるため、運送会社の負担はどうしても大きくなる。※写真はイメージ 以前、アマゾンは当日配送を主に佐川急便に委託していたが、佐川が当日配送から撤退したことを受けて、多くをヤマトに依存するようになった。このためヤマトの取扱量がここ数年、急激に増加していた。ヤマト以外にもSBSグループや日本郵便など複数の運送会社に依頼することで負荷分散を図っているが、ヤマトのシェアが高いことから、結果的に同社の負担が過大になってしまった。 ヤマトはこうした事態を受けて、当初、時間帯指定サービスの見直しについて検討を開始した。荷物の総量が増える中、正午から14時までの時間帯指定配送があると、昼食を取れない従業員が出てくるなど、現場の負担が大きくなる。夫婦共働きやひとり暮らしの世帯などは、夜間の時間指定配達を依頼するケースが多いが、これも従業員の帰宅時間を遅らせる結果につながってくる。時間指定の要件を緩くすることで、配達要員の仕事にゆとりをもたせようという考え方である。 だが時間帯指定サービスの見直しは、あくまで配送効率を高めるためのものであり、取扱量の削減にはつながらない。ヤマトは取扱量抑制のため、値上げ交渉を進めるとともに、当日配送から撤退する方針を固めた。もし値上げと当日配送からの撤退が実施された場合、アマゾンなどネット通販のサービスはどう変わるのだろうか。 アマゾンは一連の交渉について外部にコメントしていないので、今後の対応については推測するよりほかない。だが、同社のこれまでの事業展開を考えると、単純にサービスを低下させるだけにとどまる可能性は低い。アマゾンの対応については短期的なものと中長期的なものに分けて考えた方がよいだろう。 短期的にはヤマトが当日配送から撤退し、配送料金の値上げを実施した場合、アマゾンは一部のサービスを見直すことになるかもしれない。アマゾンは日本郵便やSBSへのシフトを進めると考えられるが、両社のキャパシティは限定されているので、従来と同じサービスを維持することは難しくなる。ただ、これがアマゾンの経営にとって大打撃なのかというと、そうはならないというのが筆者の見立てである。 アマゾンが提供している「お急ぎ便」のサービスには、通常の「お急ぎ便」と当日に配送する「当日お急ぎ便」の2つがある。無料会員の場合、お急ぎ便は360円(税込み)、当日お急ぎ便は514円の配送料がかかるので、わざわざ高額の配送料を払ってお急ぎ便を選択する利用者はそれほど多くないはずだ。ヤマトの撤退が大手にとってはチャンスになる 一方、有料会員の場合にはどちらも無料になるので、利用者側はあまり意識せずにこれらのサービスを利用している可能性がある。だが利用者の意思で両者を自由に選択することはできない仕組みとなっており、物流センターの状況や商品の在庫状況によって当日配送かそうでないかは変わってしまう。つまり、当日配送にするかどうかの選択肢はもともとアマゾン側にある。 当日配送かどうかをあまり意識せずにお急ぎ便を使っていた有料会員にとっては、当日配送できる商品の割合が減っても現実的にはあまり困らない。アマゾン側は利用者があまり認識しない形でサービス水準を落とすことができるので、ヤマト以外の配送事業者で対応できる範囲までサービス・レベルを調整することはそれほど難しいことではないだろう。 では長期的にはアマゾンはどのような対応を見せるのだろうか。おそらくはアマゾンはすでに開始している自社のリソースを使った独自配送網の拡張に動く可能性が高い。 アマゾンは、お急ぎ便のサービスに加えて、有料会員を対象にアプリを通じて注文した商品を1時間以内に配送する「プライムナウ」というサービスも行っている。1回あたり2500円以上の注文が条件で、890円の配送料がかかるが(2時間以内でよければ無料)、運送会社ではなくアマゾンのスタッフが商品を直接配送する。注文から1時間以内に配達する「プライムナウ」でアマゾンジャパンが開設した専門倉庫=東京都豊島区 先ほど、お急ぎ便のサービス内容が低下するという話をしたが、どうしてもすぐに商品が欲しいという利用者は追加料金を払っても「プライムナウ」のサービスを利用するはずである。プライムナウが利用できる範囲はまだ限定的だが、これが大きく広がれば、既存のお急ぎ便との棲み分けは十分可能となる。 量販店大手のヨドバシカメラも昨年9月から、ネットで注文した商品を最短2時間半で届ける「ヨドバシエクストリーム」というサービスを開始している。すべての商品が対象になっているわけではないが、自社の配達要員が2時間半で配達してくれる(配送料は無料)。 同様のサービスには、ディスカウント・ストア大手のドン・キホーテも参入している。同社の「majica Premium Now」サービスは、専用サイトで注文した2千円以上の買い物について、最寄りの店舗から最短58分で配送してくれる。対象エリアは店舗から半径約3キロ以内で750円の配送料がかかるが、2時間枠内での配送でよければエリアが半径5キロに広がり配送料も無料となる。 ヤマトのアマゾンから一部撤退と値上げは、短期的にはネット通販にとって逆風だが、体力のあるネット通販事業者にとっては自社配送による顧客囲い込みを行うチャンスとなる。ネット通販のビジネスは今回の騒動をきっかけに大きな転機を迎えることになるかもしれない。

  • Thumbnail

    記事

    巨人アマゾンの罠にまんまとハマったヤマト運輸の「豊作貧乏」

    片山修(経済ジャーナリスト) 世界でも高水準といわれる日本の物流網が軋(きし)み始めた。一体、物流の現場で何が起きているのか。 軋みの原因は、宅配便の急激な増加だ。中でも、インターネット通販の急成長による荷物の急増だ。その象徴がネット通販国内最大手、アマゾンジャパンであり、同社の荷物量は年間で4億5000万個にも上るといわれる。 アマゾンの荷物は過去、宅配便業界2位の佐川急便がメーンで引き受けていた。ところが2013年、佐川急便はアマゾンとの値上げ交渉が決裂して撤退した。その後を受けて参入したのがヤマト運輸だ。佐川急便は撤退後、取り扱い個数は減ったが、利益率は上昇した。逆にヤマト運輸は個数が格段に増加したが、利益率は減少したのである。 というのは、ヤマト運輸のさばく宅配便全体のうち、アマゾンの荷物は1割から2割、年間約2・5億個から3億個とされる。ヤマト運輸は現在、アマゾンと独自の契約を結んでおり、アマゾンの荷物の平均配送単価は、15年度の宅配便全体の平均578円の半分程度といわれている。 ヤマト運輸に限らず物流業者は、人手不足で荷物をさばききれないため、配送を他社に委託せざるを得ず、委託費が収益を圧迫する「豊作貧乏」状態にある。 利益があがらないので、ドライバーは当然「低賃金」に甘んじることになり、いよいよもってドライバー不足に拍車がかかる悪循環に陥っているのが現状だ。 問題の解決には、荷受け抑制のための料金の引き上げが焦点になる。現にヤマトは、今年9月末をめどに、27年ぶりに個人向け宅配便の基本料金の引き上げに踏み切った。次のポイントは、大口顧客のアマゾンとの値上げ交渉である。 ヤマト運輸のセールスドライバーは、昼休みも業務に追われ、連日15時間以上働くような状態で、現場からは悲鳴が上がっている。サービス残業の常態化による残業代未払い問題まで起きているのだ。 ドライバーなど現場にこれ以上の負担を強いることができないヤマト運輸は、アマゾンに対して強い姿勢で交渉に臨むというが、どんな駆け引きが展開され、いかなる結論に至るのか。「巨人」アマゾンが相手だけに、予断は許されない状況にある。「物流大混乱」二つの原因 宅配便最大手のヤマト運輸が苦境に陥るほど、物流の現場が混乱している背景には、大きく二つの原因がある。 一つは深刻な人手不足だ。少子高齢化、人口減少社会の中、1995年に約8700万人だった生産年齢人口は、15年に約7700万人、65年には約4500万人にまで減ると試算されている。 中でも物流や建設など、いわゆる3K(きつい、危険、汚い)職場の人手不足は深刻だ。ヤマト運輸のセールスドライバーは、全国に約6万人といわれ、現在も増員中だが、荷物の増加には追いつかない。 もう一つは、前述したように、インターネット通販の普及による宅配便の急増だ。国内の宅配便などの取り扱い個数は、10年前に比べて30%近く増加している。ヤマト運輸の16年度の個数は18億6756万個を数えた。荷物を台車で配送するヤマト運輸の従業員=東京都中央区(伴龍二撮影) 宅配便急増の背景として指摘しなければならないのは、社会構造の変化だ。 全商取引金額における電子商取引の占める割合は5%近くに達し、宅配便サービスは今や社会インフラ化しているといえる。実際、若年層や共働き世帯などにとって、必要なものをスマートフォンから手軽に注文し、指定した時間に受け取れるネット通販の利便性は捨てがたく、今後、ますます需要は増えると考えられるが、現状のままでは物流崩壊は避けられない。  では、質の高い宅配サービスは、どうすれば維持できるのか。正直、妙案はない。 物流業者はもちろん、ユーザーである企業や受取人、行政などができることを一つひとつ積み重ねた上にしか、サービスの維持はできない。 宅配業者を悩ませる問題の一つが、2割近くにのぼる再配達率だ。寝起きや化粧をしていないといった理由で「居留守」を使うケースも少なくないといわれている。いかにして再配達率を下げるか、知恵を絞らなければいけない。 例えば、物流業者は再配達の3度目以降の料金を追加するなど、適正なサービス対価を受け取ることを考えるべきだろう。現に西友は、ネットスーパーの再配達時に手数料400円の上乗せを始めた。日本郵便と楽天は近々、初回の荷物受け取りで楽天ポイントを付与するサービスを開始するという。消費者に求められる常識的な努力 それから、家にいなくとも荷物を受け取れる「宅配ロッカー」をもっと普及させるべきだろう。ヤマト運輸は、仏郵便機器大手、ネオポストと組んで22年までに駅や商業施設5千カ所に宅配ロッカーを設ける計画で、すでに200か所以上に設置している。JR東日本やセブン‐イレブン・ジャパンもロッカーの設置を進めている。 ロッカー増加にはずみをつけるには、国の後押しが必要だろう。幸い、国は17年度から宅配ロッカー設置業者に費用の50%を補助する制度を始めた。 この際、もう一歩進んで、新築のマンションに対して宅配ボックスの標準装備を義務付けてはどうだろう。それに、戸建て住宅の宅配ボックスにも補助金が検討されていいだろう。都内のオフィスビルに置かれた宅配ロッカー。荷物を通勤時に受け取れ、ユーザーにとっても利便性が高い その一方で、消費者の意識にも変化が求められる。生活の中に定着し、欠かせない宅配便を存続させるため、「居留守を使わない」「再配達について必ず受け取れる時間を指定する」など常識的な努力が求められる。それから、ヤマトの会員制サービス「クロネコメンバーズ」に登録すれば、LINE上で配達指定時間のやり取りができるなど、簡単に配達の効率化に寄与できるのだから、消費者もそれくらいの配慮をしてもいいのではないか。 このような努力を積み重ねても、人口減少社会が続く限りは人手不足の解消が期待できない。今後もドライバー不足は続くだろう。 となれば、頼みの綱は技術進化だ。すなわち、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)など最先端技術を導入し、合理化、生産性向上を目指すのだ。物流倉庫へのロボット導入やピッキングの自動化などはもとより、長距離の幹線輸送においても、無人運転を目指した隊列自動走行の実証実験が2018年以降にスタートする。 またヤマト運輸は、AIによる最適な配送ルートの割り出しのほか、宅配車の自動運転、ドローン配送など、マンパワーに頼らない新たな配送手段の開発を急いでいる。 宅配便は今や、誰もがその恩恵を受ける水道やガス、電気にも匹敵するほどの「社会インフラ」である。ならば一層の技術進化を含め、維持に向けて多方面からの努力が求められてしかるべきである。

  • Thumbnail

    記事

    現場崩壊に抗うヤマト、宅配料金値上げは根本解決策に非ず

    中西享(経済ジャーナリスト)今野大一(Wedge編集部) 「水や書籍など、かさばる荷物が増え、再配達も多いのでドライバーの負担は増している。毎朝9時から10時は業者間でマンションの宅配ボックスの争奪戦だ」業界最大手のヤマト運輸が試練に直面している(ロイター) ヤマト運輸のとある宅配ドライバーは、宅配現場の惨状を嘆く。国土交通省によると、2016年の宅配便貨物の取扱数は約38.7億個と6年連続で過去最高を更新。宅配ドライバー不足もあり、現状のサービス水準を維持するのが困難な状況になっている。 クロネコブランドの宅配最大手、ヤマト運輸は時間指定などサービスの一部を改める方針だ。ヤマト運輸労働組合が、荷物の引き受け増加により、労使で締結している残業時間の上限がこの数年は守れなくなってきたとして、取扱荷物の総量を抑制するよう要請したためだ。会社側も提案を受け入れる方針で、創業以来ひたすら続けてきた「お客様第一主義」拡大路線の軌道修正を迫られている。 宅配荷物が急増した背景には、アマゾンジャパンなどを通して購入するネット通販の急増が挙げられる。当初は書籍の宅配から始まったが、現在はあらゆるものを取り扱い、ネット通販では断トツの伸びを見せている。 09年に当日配達サービスを開始、10年には日時指定サービスを始めるなど、利用者の便利さを追求、配送スピードの速さがアマゾンの武器になっている。こうしたサービスもプライム会員(年会費3900円)になれば無料で受けられる。その配達はヤマトなど宅配業者に委託している。 アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長は、2月の日本記者クラブでの講演で、「品ぞろえの強化、低価格、利便性の3つの柱が重要。その中で配送スピードは最も重要な戦略の一つだ」と、今後の戦略を語った。筆者が顧客サービスについて「これ以上の速いサービスも行うつもりか」と質問すると「イノベーションが進めばさらにスピードアップするのは可能。それを進めるか否かは顧客次第だ」と答えた。 ヤマトは現在、最大の荷主であるアマゾンと配達サービスの見直しについて協議をしている。宅配サービスはこれまでは「送料無料」が当たり前になっていたが、これからは圧倒的な人手不足と、残業時間の削減の観点から、このサービスは是正されるべきだろう。その際に、アマゾン側と利用者側に送料負担についてどこまで理解を得られるかがポイントになる。 ネット通販の拡大や速達ニーズに対応するため、ヤマトは24時間「止めない物流」を目指し、1時間に最大4万8000個の荷物の仕分けができる総合物流センター「クロノゲート」を13年に東京・羽田に完成。この施設により約30%の省人化に成功した。 ただ、第3四半期までの業績(4~12月期)を見ると、営業収益は宅配便荷物の増加により前年同期比で3.1%伸びたが、営業利益はドライバーの人件費増が響いて6.5%減少するなど、多忙の割には利益につながらない「豊作貧乏」の状態になっている。その理由は、「物流センターを効率化しても、『ラストワンマイル』と呼ばれる配達の最終段階で大きな課題が残っているため」(畠山和生ネットワーク戦略部プロジェクトマネージャー)だ。再配達を減らすために全社が力を合わせるも……再配達を減らすために全社が力を合わせるも…… 同社は、ラストワンマイルでの課題を克服するための効率化も進めている。その一つが、数年前から取り組んでいる「チーム集配」だ。それまではドライバーが担当地域を1人で受け持っていたが、複数人での集配に改めた。早くからチーム集配に取り組んできた東京都葛飾区のチームに現状を聞いた。主婦パートの同前三貴香さんは、午前中だけ週に5日配達を担当。「私も含めた主婦のパート従業員は土地勘があり、地域に密着している分、再配達も少しは減らせる」と教えてくれた。楽天が駅に設置した宅配ロッカー=3月10日、東京都港区 宅配業者を悩ませるのが再配達だ。ヤマトもチーム集配で地域の主婦を活用し無駄を減らそうとしているが、その効果は限定的に見える。再配達の割合は約2割で、国交省でも「社会的損失」として解決策を検討、実施してきた。現状の解決策は、「最寄り駅やコンビニエンスストア、マンションなどへの受取ボックス設置を増やし、利用者がこのボックスを利用することで再配達の無駄を省く」、「スマホを使って利用者に配達日時を連絡することで確実に受け取ってもらう」などが挙がる。 このほか、国交省は1回の配達で受け取ってくれた届け先に、宅配・通販事業者から100円以下相当のポイント付与を提案している。しかし、「負担するのが宅配事業者なのか、通販事業者なのかが不明確で、実際には難しい」(畠山氏)と、実施には消極的な姿勢だ。 再配達の件数を減らすことができれば二酸化炭素の排出量も減らせるため、同省は環境省と共同で17年度にボックス設置を促進。環境省が5億円の予算を初めて計上し、受取ボックスを設置した物流事業者などに対し補助金を出す。JR東日本は今年5月までに首都圏の駅に100カ所の受取ロッカーを設置する計画で、ヤマトも22年度までに、駅やバスターミナルに5000カ所設置する予定だ。 再配達に対しては、受け取る客に課金させるべきとの声もあるが、発送元と届け先どちらに課金するかなどの課題があり導入のハードルは高い。 将来を見据えた取り組みも進める。自動運転を活用した無人宅配サービス「ロボネコヤマト」の実証実験を、3月からDeNAと共同で実施。自分宛の荷物の配送を知らされた顧客は専用アプリを使い、受け取り場所と日時を指定。配送車が到着すると、荷台のロッカーから荷物を受け取れるサービスを目指しているが、現状の課題をすぐに解決できるわけではない。 物流業界に詳しいイー・ロジットの角井亮一社長は「ネット通販は爆発的な広まりを見せており、JR東日本が宅配受取ロッカーを増設したり、ヤマトが配達料金を上げたりしても『焼け石に水』だ。業界全体で使えるような通知アプリの開発など、業界を挙げた取り組みが不可欠だ」と指摘する。 物販市場全体に占めるネット通販の割合は5%に過ぎないが、今後はさらに伸びていくと考えられる。効率化を進めても限界があり、抜本的な解決は不可能だ。女性の社会進出なども進み、生活形態も消費行動も変化する中、40年以上続いた「便利で非効率な」ビジネスモデル自体をデザインし直す必要性に迫られている。

  • Thumbnail

    記事

    ヤマト運輸で発生した空前絶後のサービス残業は数百億円分?

    中嶋よしふみ(シェアーズカフェ・オンライン編集長) 先日、宅配便最大手・ヤマトホールディングが未払い賃金の調査を全社的に行っていることが報じられた。社長の山内氏がインタビューに答え、調査に不備があり再調査の指示を出しているという。(ヤマト未払い残業代、再調査指示 一部支店で不適切対応 朝日新聞デジタル 2017/03/23)業界最大手のヤマト運輸が試練に直面している(ロイター) 社長自ら調査の陣頭に立つなんてすばらしい……と見えなくもないが残念ながらそのような判断は出来ない。当初の報道でヤマト運輸に数百億円の未払い賃金の可能性が報じられているからだ。一社で日本全体の未払い賃金を倍増させる金額に……? 社長インタビューに先立つ記事では同じく朝日新聞で数百億円にのぼる未払い賃金の可能性が指摘されている。 宅配便最大手ヤマトホールディングス(HD)が、約7万6千人の社員を対象に未払いの残業代の有無を調べ、支給すべき未払い分をすべて支払う方針を固めた。必要な原資は数百億円規模にのぼる可能性がある。サービス残業が広がる宅配現場の改善に向け、まずは未払い分の精算をしたうえで、労使が協力してドライバーの労働環境の正常化を進める。出典:ヤマト、巨額の未払い残業代 7.6万人調べ支給へ 朝日新聞デジタル 2017/03/04 大手企業で億単位の未払い賃金が発覚したといった報道は時折見かけるが、数百億円という数字はあまりに巨額で聞いたことが無い。自分が知らないだけで珍しくない事例なのかと思ったが、厚生労働省で公表されたデータを見ると、ヤマトHDの未払い賃金の額と対象者の人数がいかに異常なのかが分かる。平成24年 104億5693万円 10万2379人 平成25年 123億4,198万円 11万4,880人平成26年 142億4,576万円 20万3,507人平成27年  99億9,423万円 9万2,712人※いずれも全国の労働基準監督署の監督指導により支払額が1企業で合計100万円以上となった事案出典:監督指導による賃金不払残業の是正結果 厚生労働省 各年度の公表結果より  概ね毎年10万人に対して100億円程度の未払い賃金が発覚していることがデータから分かる。これは氷山の一角と言われているが、上記データと比較しても7万人超に数百億円という数字は一社で日本全体の数字を超えかねない、空前絶後という表現は決して大げさでは無いことが分かるのではないかと思う。 なお、ヤマト運輸はこの報道に対して、社内で未払い賃金の調査中であることは認めたものの、数百億円という数字については当社から発表したものではないと公式リリースを出している。未払い賃金数百億円の信ぴょう性は?未払い賃金数百億円の信ぴょう性は? 現在ヤマト運輸に関する報道は多数なされており、その多くはアマゾンの荷物が多すぎて現場が疲弊していてドライバーが可哀そう、といった心情的なものであり、これは多くの消費者がヤマト運輸に対して良いイメージを持っていることも起因している。ただ元々の原因は無茶な数量の荷物を引き受けていることが原因だ。それはアマゾンのせいでもアマゾンを利用する客のせいでもなく、経営判断のミスでしかない。 2013年末には佐川急便がアマゾンの配送から撤退しており、そのころからヤマト運輸が引き受ける荷物はさらに増加していると思われるが、これはヤマト運輸にとっても交渉力が増している状況であり、ヤマト運輸にまで逃げられてしまえばアマゾンは事業の継続すら困難になる。結局現在起きている問題は増加する荷物を低価格で大量に受け入れた経営陣の責任と言うほかはない。 現在、ヤマト運輸では労使交渉で時間指定の配達を一部停止する事、業務の終了から翌日の業務開始までの時間を一定時間以上取るといった措置(インターバル規制)によりドライバーの負担を減らすことで同意したと報じられている。そして未払い賃金の調査に不満が出た事で上記の通り再調査を命じるなど改善に努めている点について評価できる点もあると思われる。 ただしそれは将来の話であり、過去に発生した未払い賃金の責任を免れることは出来ない。つい先日もヤマト運輸と社員2人との間で未払い賃金の支払いについて調停が成立したと報じられた。その金額が過去2年でそれぞれ301万円、276万円と巨額にのぼっている(ヤマトが解決金支払い 労働審判で調停成立地裁 カナコロby神奈川新聞 2017/03/24)。 これが7万人分となれば、未払い賃金は数百億円という報道に信憑性を与えるような数字だ(1人あたり10万円でも70億円と膨大な額になる)。サービス残業は「粉飾決算」であるサービス残業は「粉飾決算」である 過去3年のヤマトホールディングスの営業利益(いわゆる本業の利益)は600億円超で推移しており、2017年も580億円の見通しとなっている。 未払い賃金数百億円が100億円なのか、200億か、300億か、調査の結果を待たないと分からないが、仮に年間100億円、労働債権の時効である2年分で200億円と考えても、特別損失として業績に大きく影響を与える数字であることは間違いない。 あくまで仮定の数字となるが、年間100億円であれば営業利益の2割近い数字となる。これだけの利益が未払い賃金という犯罪行為で計上されているとなれば上場企業のコンプライアンスとして許されるわけも無く、株主に対しても間違った数字を報告してきたことになる。 社内で行われているという調査結果で報道通りの数百億円という数字が出た際、近年しつこいほどコンプライアンス(法令順守)を強調している証券市場でそのような「粉飾決算」が許されるのか、東京証券取引所もコメントを出すべきではないのか。 そして未払い賃金の際に必ず出てくる過去2年分という期限はあくまでそれ以上さかのぼって払う法的義務が無いというだけの話で、5年分でも10年分でも「支払ってはいけない」という法律があるわけでは無い。ヤマト運輸は2007年にも労働基準監督署から是正勧告を受けており、アマゾンの配送などとは関係なく長期間にわたってサービス残業が常態化していた可能性も指摘されている。――なぜ、未払い残業代の全社的な調査に乗り出したのですか。「第一線の社員に負担をかける形では、社会インフラとしての宅急便を維持するのは難しい。社員に本来あるべき姿で働いてもらうために調査を始めた」~中略~――きちんと調査をした支店長がマイナス評価を受けることはありませんか。「それは全然ない。むしろ(きちんと)やらなかった方が悪い評価になる。管理者が(社員の労働)時間を故意に削ったり、修正したりした場合は懲戒の対象にしていくと決めている」――きちんと調べきって、きちんと支払いきると、社員に約束しますか。「はい」出典:「人材が先、サービスは後」 ヤマトHD山内社長 朝日新聞デジタル 2017/03/23 インタビューで社長が自らここまで答えている以上、さかのぼって支払う期間を2年で区切る必要は無い。同インタビューで抜本的改革が必要、とも答えている。過去の未払い賃金は「全て」清算すべきだろう。その金額が数千億円になろうと元々は支払うべきものであり、年間600億円の営業利益をあげているのであれば、今後10年かけて分割してでも全て支払うことは不可能ではない。過去の未払い賃金を調べるにはDeNA方式の採用を過去の未払い賃金を調べるにはDeNA方式の採用を 法的に払う必要の無いお金を払う事には株主からのプレッシャーを考えれば極めて難しい経営判断となるが、従業員がストライキの圧力をかけてでも過去全ての未払い賃金の獲得を目指す意味はあるのではないかと思う。 ヤマト運輸による物流が1日でも止まれば日本全体で尋常ではない影響が発生する。そしてその責任は従業員ではなくタダ働きをさせた経営陣にある。結果的に取引先や株主から損害賠償請求を受けようと、過去の経営陣まで責任追及がなされようと、全ては自業自得だ。 過去何十年分にもわたって全社員の、そして退職者も含めた未払い賃金の記録を正確に調べることは極めて難しい(というか無理)と思われるが、ある程度簡便な方法もある。 昨年、大手IT企業・DeNAが運営するキュレーションサイトで著作権侵害が疑われる記事が多数掲載されていることが問題となり、全てのサイトが閉鎖された。第三者委員会ではその全体像を調べる際に、全ての記事を確認するには時間がかかり過ぎると判断したのか、サンプル調査から推測する形を取った。 つまり全てではなく一定の数の記事を調べ、そこで判明した問題のある記事の割合から全体で何本の記事に問題があるか推測する、という手法だ。要するにTVの視聴率のように一部から全体を推計する統計的な手法だ。ヤマト運輸でも一部の社員の未払い賃金を長期にわたって徹底的に調べることで、統計的な観点からある程度妥当な未払い賃金の総額を導き出すことは不可能ではないはずだ。ヤマト運輸は「第二の電通」とすべきではないのか? 長期間にわたってサービス残業をさせて企業が不当な利益を得る、結果的にバレたとしても2年分を支払えば全てチャラになる、バカをみるのは真面目に働いてきた社員だけ、というのでは安心して働くこともできない。 こういった状況を是正するために電通では強制捜査が行われたのではないか。 電通では入社一年目の社員が過酷な長時間労働で自殺をした、過去にも同様の事例があった、労働時間の改ざんまで疑われた……とイエローカード二枚目といった状況だったが、ヤマト運輸の未払い賃金の金額が報道の通りであればレッドカードに値しないのか。これだけ巨額の未払い賃金が発生しても過去2年分の賃金を払えば会社も経営者も大きなお咎めは無し、などという前例は作るべきでは無い。 逆に、報道通りに数百億円の未払い賃金が発覚して強制捜査から経営陣の逮捕や起訴という状況まで進めば企業の経営者は震え上がり、たとえ売り上げが減ろうと未払い賃金の発生を防ごうと考えるだろう。労働人口の減少が急激に進む、という新しい問題 電通の強制捜査はまるでライブドア事件を彷彿とさせる国策捜査のようでもあり、法の下の平等を考えれば決して納得できるものでは無いが、悪質な違法行為には強制捜査や経営陣の逮捕が待っている、という状況になれば安心して働く環境があっという間に実現出来るかもしれない。 電通は現在、法人と自殺した社員の上司が書類送検されている状況で結論はまだ出ていないが、社長辞任で事件の幕引きは出来なかったとも言われている。 結局はタダ働きをさせるインセンティブは会社の利益ということになるが、経営者個人の責任が法的に問われるようになれば、会社の利益のために有罪になるなんてたまったもんじゃない、と経営者の行動は大きく変わる。※ただし、サービス残業ではなく長時間労働へのインセンティブは労働時間の長短で雇用調整せざるを得ない現在の法律が原因となっているが、別の話になるので今回の記事では論じない。人口減少は緩やかに進むが労働人口の減少は急激に進む、という新しい問題 先日、春闘で中小企業の賃上げ率が大企業と並んだことが報じられた。 低賃金で雇った従業員に無茶をさせて儲ける、というビジネスモデルは人手不足による賃金上昇で崩壊しつつある。 運送業における個人宅への配送はラストワンマイルと呼ばれ極めて手間のかかる業務だが、従来は現場の努力や無理という「人力」で成り立ってきた。そして現在は再配達が不要な仕組みや配達を効率化する仕組みを作れないか、様々な取り組みが検討されている。 駅に受け取りのロッカーを設置する、個人宅に大きなポストを設置する、LINEで事前に在宅確認をする等、どれも決して技術的に難しいものではない。そういった新しい取り組みに経営者が手間をかけようとする意志があるかどうかの問題だ。 今後人手不足がさらに進むことはすでに確定した将来だ。そして「人口減少」は緩やかに進むが「労働人口の減少」は急激に進む。結果的に多くの企業はこれまでにない状況で、これまでにない問題へと直面する。 ヤマト運輸は配送量の急激な増加という形で大きなトラブルに発展したが、小売・飲食等もアルバイトの時給アップですでに強く影響を受けている。新しい環境に直面した企業がどのように対応していくか、注目したい。※関連記事■1億円の借金で賃貸アパートを建てた老夫婦の苦悩。(中嶋よしふみ SCOL編集長・FP)http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/44769829.html■年収1100万円なのに貯金が出来ませんという男性に、本気でアドバイスをしてみた。(中嶋よしふみ SCOL編集長・FP)http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/44746902.html■ワタミに入社二ケ月で自殺した娘さんの両親が和解金でブラック企業と戦う基金を設立した件について。(中嶋よしふみ SCOL編集長・FP)http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/48395653.html■徳川埋蔵金の再発掘は実現するか? 株式会社ほぼ日がついに上場。株価は急上昇中。(中嶋よしふみ SCOL編集長・FP)http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/49677197.html■キュレーションメディアのiemo・meryに50億円を投じた経営責任 ~DeNAの謝罪会見を解説~(中嶋よしふみ SCOL編集長・FP)http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/49032425.html

  • Thumbnail

    記事

    ヤマトの宅配ドライバー「Amazonなければ辞めてなかった」

     ネット通販の拡大によって、宅配市場は急成長を遂げたが、現場のドライバーたちにとっては、ただ負担が増すばかりだった。アマゾンやユニクロへの潜入取材で話題を呼ぶジャーナリストの横田増生氏が、ヤマト運輸や佐川急便に潜入して著した『仁義なき宅配』(小学館刊)で体感した現場の過酷さとは──。* * * 現場が疲弊する最大の理由は運賃の低下にある。業界のシェア50%近くを握るヤマト運輸の2000年の1個当たりの平均運賃単価は740円台だった。それが直近の単価は570円台まで下がっている。2割以上の下落である。 運賃下落の最大の要因は、アマゾンをはじめとしたネット通販各社への大口割引にある。多くのネット通販が、送料無料を掲げるが、実際はネット通販の運賃を肩代わりして支払っている。しかし、利用者から送料を受け取らないだけに、宅配各社へ支払う運賃は低く抑えられる傾向が強くなる。 そのなかでも、アマゾンからヤマト運輸が受け取る運賃は300円前後となり業界で最安値の水準にあるといわれている。しかし、出荷個数は3億個前後で、ヤマト運輸の取扱個数の約2割を占める。宅配便業界が“豊作貧乏”に陥っている理由がここにある。 2016年に辞めたヤマトのドライバー2人は、「アマゾンの荷物がなければ辞めてなかっただろう」と口を揃える。 アマゾンからの荷物は、数が多いだけではなく、荷物が各宅急便センターに届くタイミングも遅い。通常、センターには、毎日3回、センターごとに仕分けされた荷物が配達されてくる。朝が午前6時前後、昼が午後2時前後、夕方が午後5時前後。アマゾンからの荷物は、5時頃の便で大量にやってくる。40個や50個が運ばれてくることもある。 6時頃に出庫する際の残貨が80個を超えると危険水域だ。民家への配達は1時間で20個前後。そうなると最終の夜9時までに配り終えるのは難しい。焦ったドライバーが、日付が変わって寝静まった民家に誤って配達して「こっぴどく怒られた」という話も聞いた。関連記事■ ヤマト、宅配料金を全面値上げへ…27年ぶり■ ヤマトと佐川急便の2強が繰り広げる「運賃ダンピング合戦」■ 佐川急便 Amazonと取引停止で「ライバルに100億円のエサ」■ 郵政上場 日本郵便はヤマト運輸との全面対決で「奪還営業」■ 日本における民間宅配事業の先駆者 ヤマト運輸か佐川急便か

  • Thumbnail

    記事

    公営や官営が大嫌いな大前研一氏が提唱する「宅配公社」構想

     ドライバーの人手不足、荷物量の急増などによって宅配便業界が崩壊寸前だと言われている。この危機的な状況を打開するには、どうしたらよいのか。経営コンサルタントの大前研一氏は、荷物を届ける最後の「1マイル(1.6km)」の配送の方法を公営もしくは官営にすべきだと提案している。* * * ドライバーの長時間労働が問題となっている宅配便最大手のヤマト運輸は、荷物の急増と人手不足で厳しさを増しているドライバーの労働環境を改善するため、宅配便の基本料金を27年ぶりに引き上げるとともに配達時間指定サービスの見直しや再配達の受付時間を短くすること、荷物量を適正な範囲に抑えることなどを決めた。 この問題については様々な議論が巻き起こっているが、私はすでに約20年前からラストワンマイル(最後の1マイル)の配送を1社に集約する「宅配公社」構想を提案している。なぜなら、日本の住宅は不在率が高いため、宅配便にしろ郵便にしろ、ラストワンマイルにお金と手間がかかりすぎているからだ。近年はタワーマンションや大規模マンションが増えたため、ますますラストワンマイルが遠くなっている。 一方、ユーザーの側からすると、宅配便だけでなく新聞や郵便物、投げ込みチラシなどを届ける業者が、入れ代わり立ち代わり玄関やポストにやってくるのは、時に煩わしいものだ。お中元やお歳暮のシーズンは、1日に何枚も不在連絡票が入っている家も珍しくない。そこで、このラストワンマイルの配達を1社に集約すれば、物流の効率は飛躍的に向上する。その具体的な方法が宅配公社の設立だ。 私はもともと「公営」や「官営」は大嫌いな人間だが、ラストワンマイルだけは公営あるいは協同組合にすべきだと思う。やり方は二つある。一つは自治体ごとに宅配公社を設立するという方法で、これは自治体の財源にもなる。 もう一つは、公営とはいえヤマト運輸や佐川急便、日本郵便などの民間企業が共同運営するという方法だ。つまり、ラストワンマイルを届けるためのデポは地区ごとに宅配会社のうちの1社を決め、各社はそこに配送する。そこから先は、クール便などの特別な荷物以外はその地区を任された会社が“右代表”で1日1回(場合によっては朝・夕2回)、各家庭にまとめて届けるのだ。 新聞や牛乳なども一緒に配達すればよいだろう。そうすれば宅配会社のドライバーの負担は大幅に軽減されるし、ユーザーも1日に何回もインターホンを鳴らされずに済む。 そして宅配会社間の競争は、ラストワンマイル以外のところでやればよい。たとえば、よりきめ細かい顧客対応やドライバーの負担を増やさなくてもできる配達時間指定・再配達のシステム作りなどである。関連記事■ 宅配マンが敬遠する荷物は水 大量に運ぶと憂鬱な気分になる■ 宅配便配達員が証言「amazonで本買う人は不在のことが多い」■ 宅配業者にイケメン期待する化粧奥様 イケメンでないと落胆■ 宅配便 配達状況を最も把握してる人と遅配発生する理由とは■ ヤマトの宅配ドライバー「Amazonなければ辞めてなかった」

  • Thumbnail

    テーマ

    ヤマト、佐川に迫るネット通販時代の脅威

    ネット通販などEコマースの成長で急伸する宅配便市場。ヤマトが筆頭、佐川が2番手という寡占状況がさらに強まるのか。

  • Thumbnail

    記事

    ネットスーパーの未来 アマゾンフレッシュの挑戦

      ネット通販で増える荷量を誰が捌くか。宅配便ネットワークが構築されていない国々は、日本以上にこの問題に悩まされている。米国では、あのジェブ・ベゾスが生鮮通販「アマゾンフレッシュ」で自社配送の構築を目論んでいる。 2007年にひっそりとシアトル市内の2地域で始まったアマゾンフレッシュ。米アマゾンが手掛ける生鮮食料品のネット通販サービスだが、7年経った14年6月時点でも、ロサンゼルスとサンフランシスコに地域を拡大しただけに留まる。しかし、このスローペースには理由がある。 アマゾンフレッシュの10年前、サンフランシスコでウェブヴァンという食料品ショッピングサイトが生まれた。18カ月で9つの都市圏にまで拡大したが、01年に突然倒産してしまう。ウェブヴァンの元幹部が挙げる重要な倒産要因のひとつに「物流」がある。 ウェブヴァンは都市における細かな地域ごとの分析をせず、幅広い地域でサービスを実施したため、配達トラックの運行スケジュールを効率的に組めなかったと言われている。人口密度の低い地域も同時期にサービス開始したことで、1回のトラック出動で配達する件数を稼ぐことが困難だった。米国アリゾナ州にあるアマゾンの物流センター。図書館の書庫のように、書籍がひしめく (REUTERS/AFLO)アマゾンフレッシュの日本上陸はあるか (REUTERS/AFLO) 現在、三都市圏で営業しているアマゾンフレッシュだが、需要が多い地域に限っている(年会費は299ドル、即日配達は別にプレミアム料金70ドルが必要)。アマゾンはウェブヴァンの轍を踏まないようにしているのだろう。 アマゾンにはウェブヴァンの元幹部ミック・マウンツがいる。ウェブヴァンが苦戦した倉庫運営の効率化のために、マウンツが起業したロボットメーカー「キヴァシステム」を12年に7億750万ドルで買収したからだ。 自社配送を目論むベゾス アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは「我々アマゾンにあってウェブヴァンになかったもの、それは既存の膨大な顧客ベースだ。我々の顧客は本や家電と一緒に食料品もネットショッピングしてくれるはずだ」と、アマゾンフレッシュの事業化に自信を見せる。 アマゾンが所有する巨大倉庫から消費者宅まで食料品を運ぶのは、アマゾンが独自で運営している緑色のトラックだ。これまでアマゾンは、運送大手の米フェデックスや米UPSを下請けで利用していた。しかし、アマゾンフレッシュを手始めに自社配送ネットワークを構築しようとベゾスは目論む。アマゾンにとって年々増加する配達費用は頭の痛い問題である。2011年には40億ドル、2012年には51億ドルに跳ね上がったこれらの費用を抑えるだけでなく、食料品以外の商品も同じトラックのラインに乗せることで、効率化も推進したい狙いだ。 生鮮食料品のオンラインビジネスは、在庫管理や新鮮なまま配達を完了させなければならないなど多くの点でリスクが大きい。しかし、ベゾスはどうやら、繊細な商品を取り扱うアマゾンフレッシュをあえて、自社配送の試験台に使う目的のようだ。将来的に自前のロジスティックス網を持つことで、「時間通りに商品を配達する」という部分まで完全にコントロール権を掌握しようとしているのだ。 しかし、フェデックスやUPSからの完全な離脱は困難というのが大方の見方だ。ノウハウの構築、及びアマゾン全体の物流をこなすだけの人材の確保は一朝一夕にはできないからだ。ベゾスは、「フェデックスもUPSも、アマゾンの成長に見合った投資を行っていない。だから自分でやる」とあくまで意気軒昂だが、30から40の都市圏へのサービス拡大は噂だけが飛び交い、具体的な計画は伝わってこない。リアルスーパーの対抗策 全米最大のスーパーマーケットであるウォルマートが、アマゾンフレッシュに対抗して打ちだしたサービスが「ウォルマート・トゥ・ゴー(持ち帰りできるウォルマートの意味)」だ。 これは近隣店舗からの配送サービスのことで、一部地域では生鮮食料品の当日配送も始めている。消費者は店舗でのピックアップ(受取)も選択することができる。 ウォルマートが独自に行った調査によれば、回答者のうち55%が配達されるよりも自分で受け取りに行く方がいいと答えた。現時点では実店舗を訪れることを厭わない消費者の方が多いとウォルマートは結論付け、配送よりピックアップに力を入れる。14年3月には、アーカンソー州の本部近くで同じ「ウォルマート・トゥ・ゴー」と冠したコンビニ業態をテスト展開し、ピックアップ拠点の多様化を図っている。 となると、世界一のコンビニ企業、セブンイレブンの動きが気になるところだ。日本全国に17000店舗という膨大な拠点を既に有している。 同社に加え、イトーヨーカドー、そごう・西武など様々な業態を持つセブン&アイは、鈴木敏文会長の大号令のもと、ネットと実店舗を融合させるオムニチャネルの取り組みを模索中だ。完成すれば、ネットで注文したヨーカドーの食料品と西武の高級品をまとめてセブンイレブンで受け取ったり、自宅に送ったりできるようになる。 イトーヨーカドーのネットスーパーは「売上450億円、営業利益率4.3%に達し、拡大が見込まれる。店舗内のピックアップ、梱包作業の増員、効率化で出荷能力を上げる」(高橋信オムニチャネル推進室総括マネージャー)。配送は地場の運送業者に委託しているが、セブンイレブンにはコンビニ店員が消費者宅に弁当や総菜を届けるサービス「セブンミール」がある。「コンビニからの生鮮の配送も検討はしている」(広報部)という。 神奈川県の橋本地区では、ヨーカドーの商品をセブンイレブンで受け取る試験サービスが7月に始まった。セブン&アイが世界最大のコンビニ網をどう活用するか注目が集まっている。

  • Thumbnail

    記事

    ネット通販が競争軸を変える? 独走ヤマトの行方は

    宅配便市場はヤマト・佐川2強の寡占化が進む。そこに押し寄せるEC化。配送はコストか利益の源泉か─。業界入り乱れた模索が始まっている。「来年あたり、ヤマト運輸の市場シェアが5割を超えるかもしれない。そうなるとより強い価格決定力を持つ」(ある中小宅配会社の幹部) 国土交通省が7月に発表した2013年度の国内の宅配便取扱個数は、前年度比3.1%増の36億3668万個だった。ヤマトの「宅急便」のシェアは46.3%と前年度比3.6ポイント増。2位の佐川急便の「飛脚宅配便」を合わせると約8割と寡占化が進む。 宅配便の取扱個数の著しい増加をもたらしているのは、ネット通販などEコマース(電子商取引)市場の拡大だ。 「ECは、正確な数字を取れていないが確実に伸びている」(ヤマトの櫻井敏之・ECソリューション課長)。ヤマト依存のラストワンマイル 10兆円規模のネット通販市場をけん引するのが、アマゾンや楽天などのネット通販大手だ。アマゾンは直販型、楽天が運営する楽天市場はテナント型とビジネスモデルは異なるが、商品を消費者に届けるラストワンマイル(事業者と利用者を結ぶ最後の区間の意味でもとは通信用語)は、アマゾンも楽天も、ヤマトを中心とした宅配業者に委ねているのが現状だ。 本場米国では、無人ヘリによる宅配構想が注目されるアマゾンも、日本では昨年佐川が引き揚げ、「ヤマト頼み」の状態だ。7月から開始した小売店のプライベートブランド商品の販売で取材に応じたアマゾンジャパンの渡辺朱美・バイスプレジデントは「配送部分は、宅配業者との長期的なパートナーシップを築いていく」と強調する。 一方の楽天は、半年前までは戦略が違った。アマゾン型の物流システムを築こうと06年にトヨタ自動車から武田和徳氏を招き常務執行役員に据えた。武田氏は10年に物流子会社として設立した楽天物流の会長に就任し、アマゾンが先行してきた即日配達や、楽天市場出店者の在庫管理といった物流戦略の「カイゼン」を図った。 しかし、楽天物流は、13年12月期の決算で、売上高64億円に対し営業損益は39億円の赤字、54億円の債務超過となった。楽天は今年4月に突如、楽天物流を吸収合併すると発表。武田氏は、トラベル事業に担務替えとなった。 楽天はラストワンマイルも狙っていたと言われ、参入しやすいネットスーパーの楽天マートで中小宅配業者と連携し、首都圏を中心に自社配送網を築き始めている。いずれは、その配送網に楽天市場の商品を混載する計画だったと言うが、関係者は「混載は実現できていない」と打ち明ける。結果、楽天もヤマト依存に傾斜している。 オフィス用品通販大手のアスクルは12年に、資本提携しているヤフーの協力を得て、ネット通販「LOHACO(ロハコ)」を開始。事業者向け(BtoB)から消費者向け(BtoC)に進出した。BtoBでは、子会社の運送会社ビゼックスを主に使っていたが、ロハコの配送ではヤマトに委託した。「消費者からの信頼がある」(広報)からだ。芽生え始めた新たな動き ヤマトに死角はないのだろうか。 07年に設立された新興系のエコ配(東京都港区)。自転車配送を主軸にし、荷物の大きさと集荷エリアを限定することでコストを圧縮し、安い配送料を実現している。年間の取扱個数は約1000万個で、そのうち個人向けは15%程度というが、片地格人社長は「BtoCは伸ばしていく」と意気込む。 配送業は中小事業者が多く、競争軸が価格だけになりやすいため、配送料には常に下方圧力が働く。ヤマトですら、売上高は増えているのに営業利益は伸び悩んでいる。主因はネット通販の配送単価の下落だ。ヤマトは料金決定方式を個数からサイズに変更することで状況を打破しようとしている。 ライバルの佐川は「2年ほど前から、適正な運賃をいただくという交渉を続けてきた」(森下琴康執行役員)結果、大幅な増益を達成しており、寡占化がさらに進めば通販と物流の地位逆転もあり得るのかもしれない。 しかし、もっと中長期的にみると、違った状況が想定される。物流業界に詳しい伊藤忠テクノソリューションズの長谷川真一氏はこう指摘する。 「小売業のEC化率は現状3%程度だが、先進国ではいずれ10%~20%になるのは確実と言われており、そうなると現状の大手3社体制では捌ききれない。ネット通販だけを受託する第4極が勃興する可能性は十分にある」 というのも、「ヤマトでは5割の伝票は手書き。ネット通販の荷物だけに絞れば全てITで管理できるため効率化の余地が大きい」(長谷川氏)からだ。 「歴史的に見て、宅配は集荷が売上の源泉だったため、集荷拠点の整備が重要だった。通販は物流センターがあればよい。通販が主になれば競争軸が変わる可能性が高い」(業界誌編集者) アスクルは、順調に拡大しているロハコの今後の課題のひとつに「配送サービスの進化」を挙げ、ラストワンマイルの自社化を視野に入れている。 「BtoBでは、配達したコンテナの持ち帰りや消耗品の回収など、いわゆる“静脈配送”で付加価値を高めた。BtoCでも配送を使った様々な提案ができると考えている」(川村勝宏・上級執行役員ECR本部長) ヤフーは東京・豊洲地区で始めた買い物代行の実験サービス「すぐつく」に手ごたえを感じている。「平均37分という驚異的な早さに『実験をやめないで』という声は多い。配送コストはかかるが、広告による回収というビジネスモデルが構築できないか模索しているところ」(小澤隆生執行役員)。 これまでの配送の常識では対応しにくい生鮮食料品がEC化するとプレイヤーが変わる。配送はコストなのか利益の源泉なのか。新興勢力による模索は続く。

  • Thumbnail

    記事

    ラスト・ワン・マイルを競う中国 アリババの牙城を崩す自社物流のテンセント系

     急成長する中国のネット通販市場。中国2大IT企業のバトルは、ラスト・ワン・マイルの戦略が命運を決める。 ラスト・ワン・マイルの攻防は、中国でも熾烈な争いが起きている。 カギを握るのは、今、中国のビジネス界で最も話題にされている馬雲(ジャック・マー)氏が創業したアリババと、馬化騰(ポニー・マー)氏が創業したテンセントだ。アリババは、中国のネット通販最大手で「中国版アマゾン」と称される。一方のテンセントは中国のSNS最大手。対話アプリの配信で成功したことから名付けられた異名は「中国版LINE」だ。 実は、両者のバトルは、ネット通販市場と宅配市場でも表面化している。 今年6月、中国の報道機関は、2013年の中国のネット通販市場が米国を抜き、世界1位に躍進したと大々的に伝えた。中国国家郵政局とデロイト中国の最新報告によると、13年の中国のネット通販市場は、前年比5400億元増の1兆8410億元(約30兆6000億円)。08年時点では、1282億元(約2兆円)だったため、この5年間に平均年率70%の成長率で急拡大してきたことになる。 一方、ラスト・ワン・マイルを担う宅配業界も、それに応じるように急成長を遂げている。中国宅配業界の宅配便取扱総数(全国展開の大手のみ)は13年、前年比62%増の92億個(10年比3.9倍)で、総売上高は36%増の1442億元(約2.4兆円、10年比2.5倍)だった。そのうちの半分以上がネット通販によって生み出されたものだとされている。 注目は、個人向けのネット通販(BtoC)市場だ。中国のネット通販系コンサルタント「易観国際」が7月末に公表した報告書によると、14年第2四半期のBtoC市場は、総売上高が前年同期比72%増の3205億元(約5.3兆円)だった。 通販サイトの売上高シェアは、アリババが運営する「天猫」(Tモール)が52.4%で1位。次いで、京東商城の「JD.com」が18.7%、日本の家電量販店ラオックスを買収した蘇寧雲商(旧蘇寧電器)の「蘇寧易購」が3.5%で後を追う。 2位の京東商城は、5月に米国ナスダック市場に上場した有力企業の一つだが、3月にテンセントから15%(約220億円)の出資を受け、テンセントの傘下に入っている。つまり、中国のネット通販市場は、アリババとテンセントのバトルでもあるのだ。外部委託か自主物流か しかし、1位のアリババと、2位のテンセント系・京東商城の戦略は、ラスト・ワン・マイルの攻め方に違いが表れている。 アリババのラスト・ワン・マイルはこれまで、日本のネット通販会社と同様、既存の大手宅配会社に委託してきた。中国の物流事情に詳しい名城大学の謝憲文教授は「自前で整備するよりも、第3者を利用することで、コストを下げようとしたのだろう」と推測するが、急激な荷量の拡大に宅配会社側が対応しきれず、配送時間の遅れなどサービス低下が問題に。謝氏は「外部委託が限界に達していたのではないか」と話す。 こうした中、独自路線で経営基盤を固めてきたのが、京東商城だった。もともと「家電専門から出発し、ネット通販参入後に百貨店化した」(謝氏)という同社の戦略は、ラスト・ワン・マイルを外部委託ではなく、自社で築くことにあった。 謝氏の調べでは、同社は09年からの5年間に計約93億元(約1540億円)を自社物流の整備に投資した。結果、3月末の時点で、中国36都市に物流センターを7個、倉庫を86個。495都市に1420カ所の配送センターと、214カ所の集荷センターを置き、2万人以上の配送スタッフを抱えるに至った。そして、こうした自社物流を武器に、当日午前11時までに注文した商品を当日中に配送するなどの速達サービスを打ち出し、他社との差別化を図っているという。謝氏は「京東商城がネット通販2位まで成長したのも、自社物流を築いたことに勝算があった」と分析する。 ラスト・ワン・マイルを自社化する傾向は他社でも見られ、ネット通販3位の「蘇寧易購」を運営する、中国家電量販店最大手の蘇寧雲商も15年までに自社物流を整える計画という。 こうした他社の動きに慌てているのが、アリババだ。昨年夏に、他の小売店や物流会社との共同物流体制を整える構想を打ち出したほか、昨年末には中国全土90カ所に物流拠点を置く中国家電最大手ハイアールの物流子会社に出資すると発表した。 中国の株式市場に詳しい京華創業の徐学林社長は「アリババが出資した背景には、自社物流を構築したい狙いがある。全てを自社で整備するのはコストが掛かるため、安全を優先したのだろう」と説明する。 ネット通販最大手アリババの牙城をラスト・ワン・マイルの自社化で切り崩そうとするテンセントら2番手、3番手たち。中国のネット通販・宅配市場は、混戦の時代を迎えている。

  • Thumbnail

    記事

    楽天が米ネット通販会社を買収

     楽天は9日、インターネット通販関連サイトを運営する米イーベイツ(カリフォルニア州)を買収すると発表した。10月をめどに、同社の発行済み株式100%を約10億ドル(1050億円)で取得する。北米で知名度の高いイーベイツと組むことで海外展開を強化する。 イーベイツは米アマゾン・コムやイーベイなど大手ネット通販などと連携して、消費者に購入額の一部を還元するキャッシュバック(現金還元)やクーポンの配付などのサービスで取引を拡大。2013年12月期の売上高は前期比37.5%増の1億6700万ドル。 楽天の海外事業の比率は6%だが、イーベイツの買収によって16%になる見込み。9日に記者会見した三木谷浩史会長兼社長は「北米に加え、アジアは年100%で伸びている。2020年過ぎには海外比率50%以上を達成できそうだ」と述べ、海外事業拡大に意欲を示した。

  • Thumbnail

    記事

    IT企業は初任給が高い 楽天の30万円は就職人気200社中最高

    ビジネスマンであれば、景気や賃金の話と並んで気になるのが就職人気企業ランキング(以下に示すカッコ内の順位は楽天『みんなの就職活動日記』調査による『2015年度卒 新卒就職人気企業ランキング』のもの)についての話題だ。ランキングがそのまま企業の格を示しているとはいえないが、人気の変遷は日本経済の写し鏡であるとはいえる。 楽天(31位)やマイナビ(128位)などのIT関連企業は、軒並み「初任給」が高いのが特徴だ。特に楽天は、初任給が30万円以上で、人気ランキング上位200社中トップの金額。ランキング1位のANAと比べて10万円も高い。しかし、IT業界の実態はなかなかシビアなようだ。「初任給を高くしているのは、大手志向、安定志向が強い日本の学生から少しでも優秀な人材を確保しようという狙いからでしょう。しかし完全成果報酬の給与体系を採用する企業が多く、初任給が高くても仕事ができないと給与は上がらない。年収が前年を下回ることは珍しくありません」(大手IT企業の30代社員) 学生にもサラリーマンにも、人気と実力を兼ね備えた企業を見抜く目が求められる時代なのだ。※週刊ポスト2014年8月15・22日号 ・平均年収上位はテレビが独占 5大商社はすべてトップ15入り ・就活人気ランキング上位社への就職 将来は「死に場」と指摘 ・人気企業への就職 全体で見れば東大の実績は群を抜いている ・好業績に沸く総合商社への就職では慶大の強さが他大学を圧倒 ・卒業大学と学部で給料に差つくため米の受験戦争激化と大前氏

  • Thumbnail

    記事

    日本の中古品は中国の新品より売れる インフォーマル製品求めてアフリカ商人が集う中国・広州

    は不良品が多く、アナーキーな市場では詐欺も横行しており、地下銀行や不法就労等の賄賂の支払いを含めて、流通チェーンの各段階での取引コストは非常に高い。そのため、アフリカ系商人たちにとって、一つの商品、特定の得意先に依存した商売をおこなうことは、非常に危険である。それゆえ、彼ら自身も「試しに仕入れてみる」という商品・仕入れ先の多様化をリスク分散の戦略として実行する。 また低模造品の世界は、製造業者とアフリカの消費者のいたちごっこで動いている。たとえば、アフリカでタイ製の衣料品のほうが縫製がよいと需要が高まると、すぐさまMade in Thailandのタグのついた中国製衣料品が製造される、特定のアプリのマークで偽スマホは判別できると噂が広まると、マークが改善された偽スマホが製造されるといったことである。 この「いたちごっこ」のはざまで交易を担うためには、組織化して大量仕入れを試みるより、有象無象の零細商人たちが少量ずつ買いつけ、スピーディーに販売し戻ってくるという構造に利がある。そして、こうした中国製品の安さとスピード感は、実際にはアフリカの消費者の購買行動にも合致している。「安かろう悪かろう」を超えて タンザニアの行商人は「雨が降ってから傘を売る」という。「貧しい暮らしをしている人々は、必要に迫られないとものを買わない」からだ。私は、中古品と中国製品とのあいだで悩んだ友人たちによく意見を求められたが、たいていの場合、彼らには「日曜日に上京してくる母親にテレビを見せたい」といった差し迫った事情があった。結果として選ばれる中国製品の「安さ」は、実際にはタンザニア人の平均的な購買力ではなく、緊急時でも出せる価格に照準があっているのだ。 しかし一方で、私の友人たちは「目の前を通った行商人が持っていたシャツが気に入った」「懐が温かいと何か買わないといけない気がして扇風機を買った」と、偶発的な買い物をかなり気軽に行う。矛盾しているようにみえるが、「計画的にものを買わない」という意味では同じ行為である。 日本では景気が停滞すると、消費を先延ばしにする人々が増える。だが、この延期消費はよくなっていくかどうかは別として、未来がある程度、予測しうる状況であるからこそできることである。タンザニア都市部で正規の雇用機会を得ている者は、人口のわずか2割強である。多くの人々が従事する零細自営業や日雇い労働での収入は極めて不安定で、数カ月後に同じ仕事をしているかさえ不確かである。未来が予測不可能な状況に生きる人々は、「今この時を逃したら、いつまた商品を買えるかわからない」という理由でモノを買うことも多いのだ。 また貨幣への不信、親族等からの無心への対応とあいまって、少額の現金を形に残るモノに変えたいという欲求もある。このような消費行動に対応するためには、必ずしも広告とマーケティングにより特定の商品の販路拡大を目指すことは適切ではない。むしろ、外見上のわずかな違いしかなくても新商品をスピーディーに供給し、商品との「一期一会性」を高めることが、消費の促進につながることも多い。 ヴィトンの柄にシャネルのロゴがついたバッグ、玩具のようなサッカーボール型携帯、このストリート的想像力に基づいた「奇抜な」模造品は騙し目的ではなく、アフリカの人々の偶発的な消費の楽しみに即応して流通しているのだ。中古品の価値 日本において中古品が取り上げられるときは、「リサイクル」─環境保護─や「社会貢献」─貧者の支援─がクローズアップされがちである。しかしアフリカ諸国の人々にとって日本の中古品は、中国製品との比較で価値づけられている。冷蔵庫や洗濯機など比較的長期にわたって利用する家電製品の場合、「品質」が重視されるので中古品が根強い人気だ。ただし衣類や小型電化製品などの流行にあわせて頻繁に買い替えるものは、急速に中国製品に置き換えられつつある。 また中古品は、供給元の収集方法により製造時期や性能、デザインが不揃いな製品が店頭に並ぶことになる。旧型は部品が手に入りにくいし、高度な技術が駆使された最新モデルは修理が困難だ。 明らかなことは、中古品が中国製品に完全に置き換わった後では、日本の製品の価値を改めて理解してもらうのは難しいことだ。アフリカの消費者の購買力が本格的に伸びるまでには少し時間がかかるが、それまでに日本製品の魅力を彼らの購買行動に即して伝えるために、中古品ビジネスの再興を考えるのも面白いのではないか。