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    ワイドショー発コロナパニックで現実となる「破滅博士」の予言

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 新型コロナウイルス(COVID-19)問題を中心に、マスコミの報道についての姿勢が問われている。中でも、今回は目に付く3点を批判的に紹介したい。 まずは、「日本の感染者数に関する過大報道」である。世界保健機関(WHO)など国際機関や著名な研究機関では、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での感染者数は「国際輸送」あるいは「その他」で別枠として掲示されている。 そもそも、「ダイヤモンド・プリンセス」の感染者数の大半は、日本政府が介入する以前から感染しており、その意味でも日本の感染者数の中に換算することは、日本の感染実態を考える上で誤解を招くはずだ。だが、日本のマスコミの多くはなぜか「ダイヤモンド・プリンセス」の感染者数を組み入れて報道している。 一例では、TBS系の『サンデーモーニング』が、そのような「過大」な感染者数に基づく報道を繰り返している。直近の放送では、この「過大」な感染者数をベースにして、この1カ月の感染者数の増加を中国と比べ、その多寡を評価していた。異なる状況の2国を単純に比較するのも問題があるが、いずれにせよ、このような「過大」な感染者数はテレビを見る側を不安にさせる。 何より感染者数の総数「だけ」に注目するのは適切ではない。病状に応じて適切な医療サービスを提供できているか否かが、より重要だろう。社会的な防疫政策が上手に機能しているかどうかも重要である。その意味では、死亡者数(3月8日で6人)や重篤な患者の推移(低位推移)、回復者数(3月8日で80人と増加傾向)、新規感染者数の動向などを重視すべきだ。記者会見中に額を押さえるWHOのテドロス事務局長=2020年2月28日(ロイター=共同) あくまで現段階であるが、日本の感染症介入政策は「後手後手」という批判にもかかわらず、かなり健闘しているのではないだろうか。少なくとも、WHOは懸念すべき国に日本を含めていない。 「後手後手」批判の代表例とされる中国への「水際対策」にしても、日本は世界に先駆ける形で、武漢というホットゾーンからの入国制限を採っている。その意味で、日本の水際対策を全面否定するような動きには異論を唱えたい。 次に挙げたいのが、「検査や医療を過剰に要求する報道」だ。言うまでもなく、医療資源は有限である。設備や医療スタッフには各国とも限りがある。医療資源「制約」はどこへ行った この医療資源をいかに安定的に維持できるかが、今回の新型コロナウイルス問題でもクローズアップされている。だが、ワイドショーやニュース番組では、医療資源の制約を無視したような「医者」や「専門家」たちが多く出演している。 特に、新型コロナウイルスを高精度で検出するPCR検査の実施数が多ければ多いほどいい、という論調がワイドショーを支配している。この発想がいかに医療資源を浪費し、最悪、医療崩壊に至る危険性を秘めているかは、感染症専門医の忽那賢志氏による解説を参照されたい。 PCR検査は優れた検査法だが、万能ではない。偽陰性や偽陽性の問題が発生するからだ。忽那氏は一つの推論として、東京都民1千万人にPCR検査を受けさせた場合、1320人の真の感染者が見逃され(偽陰性)、その10倍の1万人の偽陽性が発生するとしている。 つまり、この1万人がただの風邪にもかかわらず、感染症指定医療機関に隔離されて治療されることになってしまう。ちなみに、平成29年医療施設調査によると、全国の感染症病床は1876床にしかすぎないことは、大正大の高原正之客員教授の指摘を参照すれば分かることだ。 つまり、どんどん検査すればいいわけではないことが、この簡単な例でも分かる。無制限な検査は、医療資源の制約を徐々に厳しくし、やがて医療崩壊につながる。具体的には、現場でさばききれないほど病院に殺到する武漢の人たちの映像などをイメージすればいい。 今の政府方針は、相談・受診の目安を(1)風邪の症状や37・5度以上の発熱が4日以上続く、(2)強いだるさや息苦しさがある、としている。これも、発表された当初はワイドショーなどで批判する向きが強かった。 しかし、これは大勢の患者が病院に殺到するのを避けるための基準であることは明瞭である。ちなみに、個人的な経験だが、最近持病があるために、かかりつけの大きめの病院に行ってみると、驚くほど閑散としていた。患者が病院に集中することによるリスクを、日本の人たちが合理的に判断した結果でもあるだろう。新型コロナウイルスの検査に使われる装置(岐阜県保健環境研究所提供) それでも、ワイドショーでは、いまだにPCR検査を受ければ受けるほどいい、という主張が根強く、日本の医療システムの直接的な脅威となっている。日本のマスコミがパニックを生み出すことに寄与するとしたら、看過できない。 ワイドショーの中には、政府があえて検査をしないかのような「陰謀論」を語るコメンテーターを好んで出演させているようだ。これも視聴者の不安な心理を煽っているのだろう。「政府vsマスコミ」 最後に「政府vsマスコミ」の問題を取り上げたい。新型コロナウイルス問題をめぐるワイドショーや新聞などの報道姿勢については、しばしばインターネットとの対比で語られていた。 個人的には、現在はテレビのワイドショーの大半とニュース番組は見ない方がいいかもしれないと思っている。ドラッグストアやスーパーからトイレットペーパーやティッシュペーパーが消えた映像や写真が大量に流されると、合理的な行動としても感情的な行動としても、人は大挙してトイレットペーパーなどを買いに走るだろう。このような群集心理を煽る効果がある。 さらに、最近では、政府とマスコミの間で報道をめぐる「論争」が生じている。厚生労働省が一部メディアに会員制交流サイト(SNS)上で行った反論だが、内容は次のようなものだ。 一部報道で「新型のコロナであるため、感染が新しいウイルスであり、私たちには基礎的な免疫がなく、普通のインフルエンザよりもかかりやすい。」との指摘がありました。新しいウイルスのため基礎免疫はありませんが、普通のインフルエンザよりかかりやすいということにはなりませんし、そのようなエビデンスはありません。また、3月3日に世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルスの特徴について、中国で得たデータを踏まえ、季節性インフルエンザと比べて感染力は高くないとの見解を示しています。 このような政府の公的言論としての姿勢は評価したい。まだ試行段階であるが、マスコミが事実と異なるニュースで社会的不安を煽るようであれば、当然の対処だといえる。 ワイドショーなどのテレビ報道、そして新聞報道の在り方がこれからも厳しく問われるだろう。それはいいことだ。 今まで、この「権力」はあまりにもデタラメでありすぎた。政府の公的言論を含めて、国民の討議の中で、その「権力」によるデタラメな報道が検証されるべきである。これは「言論弾圧」などとはまったく異なる。新型コロナウイルスに関して会見する加藤勝信厚労相と厚生労働省のロゴマーク=2020年2月20日(宮崎瑞穂撮影) 3月9日現在、新型コロナウイルスの欧米への感染拡大が、死亡者数と感染者数の増加、そのスピードを見ても深刻化している。それが世界経済の先行きに濃い暗雲をもたらしている。東京株もついに2万円台を大きく割ってしまった。 現状で利用できる代表的な経済予測を確認しておきたい。経済協力開発機構(OECD)の基本シナリオでは、2020年の世界経済は従来の成長率2・9%から2・4%に減速、さらに、ドミノシナリオでは1・5%にまで経済成長率が落ち込む。また、「破滅博士」の異名を持つ米ニューヨーク大のヌリエル・ルービニ教授の予測はドミノシナリオとほぼ同じレベルである。リセッション入りは確実 日本経済への影響だが、OECD基本シナリオの予測では、経済成長率が19年0・7%から20年0・2%と、従来予測(0・6%)から0・4ポイント減速する。ドミノシナリオでは、日本個別は不明だが、基本シナリオの3倍のインパクトと考えればマイナス0・6%ほどに落ち込む。 「破滅博士」は、日本とイタリアのリセッション(景気後退)まで予測している。このリセッション入りは確実だろう。 日本経済がドミノシナリオ通りに、マイナス成長に落ち込んだ場合、補正予算ベースで最低でも6兆円超は必要になる。これでも、それ以前の消費増税と景気後退効果は払拭(ふっしょく)できないのだ。 払拭するためには、さらなる財政政策と金融政策の協調が必要である。この点については前回も指摘したので参照されたい。 OECDでも「破滅博士」でも、基本シナリオ通りなら、20年第1四半期で新型コロナウイルスの経済的影響が終息することが必要である。第2四半期(2020年4~6月)、第3四半期(同7~9月)まで、北半球(日本では特に環太平洋地域)での世界総需要の動向がカギを握る。ここが落ち込むとその深度に応じて、ドミノシナリオが真実味を帯びてくるだろう。 仮に世界景気が思ったほど失速しなくても、日本が経済政策で「無策」を採用すれば、日本だけが深刻な不況に直面するだろう。内閣官房参与でイェール大の浜田宏一名誉教授は、最近の論文で「財政政策の機動性を十分に生かせ」と提言している。 既に中国、韓国など海外からの観光客の急減に加え、風評被害ともいえるコロナショックに見舞われている業態も出始めた。非正規雇用を中心に雇い止めの動きが加速する懸念も強い。2020年3月9日、2万円を割り込んだ日経平均株価の終値と1ドル=102円台の円相場を示すボード 経済評論家の上念司氏は、文化放送「おはよう寺ちゃん活動中」やツイッターで「予備費2700億円とかショボい事言ってるからだよ。あと、本予算通らないと補正予算議論できないなんて手続き論は市場では通用しないのさ」と発言したが、筆者も激しく賛同する。政府が早急に補正予算を打ち出すことが重要だ。日銀も緊急政策決定会合を開くべきだ。 ワイドショーの煽るパニックも恐ろしいが、政府と日銀の無策が生み出す経済不況も恐ろしいものだ。日本は今、この二つの脅威に直面している。

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    コロナショックと闘う「良薬」は消費減税だけと思うなかれ

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 3月3日、米連邦準備制度理事会(FRB)が緊急の連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利を0・5%引き下げた。緊急利下げの背景には、新型コロナウイルス(COVID-19)の経済への悪影響があったことは間違いない。 ただ、私見では、FRBのパウエル議長は凡庸な政策当事者であり、自らの判断でこのような緊急利下げを採用したかは疑問である。おそらくトランプ大統領によるツイッターなどを利用した、FRBへの度重なる金融緩和要請といった政治圧力があることは間違いないだろう。 ただし、この0・5%の利下げは、既に市場関係者の間では織り込まれていた。「緊急会合」という一種のサプライズ効果もあって、ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は一時的に上昇したが、結局その後は一転して暴落した。 結局、ダウ平均の終値は、前日比785・91ドル安の2万5917・41ドルだった。株価だけ考えれば、FRBの緊急利下げは強烈な市場からの返り撃ちにあったようである。 ところで筆者は、ここ数日の世界経済の動向を分析していると、新型コロナウイルスの欧米への感染拡大を背景にして、従来の経済政策のルール(レジーム)が通用しなくなっているのではないかと思っている。つまり、先進7カ国(G7)をはじめとする主要国の政策当事者たち、国際通貨基金(IMF)や世界銀行などの主要国際経済機関などが今まで抱いていた世界経済の「楽観シナリオ」が崩壊した可能性がある。 そのため、楽観シナリオの微調整程度に考えていた「金融緩和」や「財政支出拡大」では、手に負えない事態に転じてしまっているのではないか、と懸念している。2020年3月3日、緊急利下げについて記者会見するFRBのパウエル議長(共同) 政策当事者が共通して抱いてきた楽観シナリオとは、次の図のような構図である。この図は、日本銀行の若田部昌澄(まさずみ)副総裁の講演に掲載されたものに、私が赤字で修正コメントを加えたものである。その若田部副総裁が、この「楽観シナリオ」に事実上強い懸念を表明していたことを強く注記しておく。世界経済の製造業・非製造業のデカップリングからの変化(若田部(2020)を修正) 楽観シナリオ上で、米中貿易問題などの貿易面での縮小やIT関連の在庫調整によって、製造業は減速していた。ただし、非製造業では、各国の金融緩和的スタンスなどが貢献することで、好調が継続していた。つまり、「製造業はダメだが、非製造業は良好」というデカップリング(分離)が顕著だった、というのが楽観シナリオにおける現状分析だ。ウイルスで崩れる楽観シナリオ さらに、昨年末からの米中貿易戦争の小休止や英国の欧州連合(EU)離脱確定を受けて、経済の不確実性が払拭(ふっしょく)され、IT投資の在庫調整も一段落することで、製造業も復活する。この点から、世界経済レベルでは2020年以降の復活が近いというものだった。 特に、日本の財務省や日銀執行部では、この楽観シナリオが支配的だった。ただ、そこには昨年10月の消費税率10%引き上げの影響は全く存在しない影のようになってしまっている。 最近、昨年10~12月期の法人企業統計が発表され、金融機関を除く全産業の設備投資が前年同期比3・5%減となった。これによって、先に発表されていた同期間の国内総生産(GDP)速報値が、年率換算6・3%減よりも下方修正されるだろう。 ところが、この設備投資の落ち込みについても、消費増税の影響は見られないというトンデモな見解が財務省筋から出ている。驚きを禁じ得ないが、根底には先ほどの世界経済に関する楽観シナリオがあったのだろう。 だが、この楽観シナリオは崩壊した。「コロナショック」により、世界の製造業、非製造業ともに深刻な打撃を受けたといっていい。 まず、製造業では、グローバルPMI(世界製造業購買担当者指数)が3・2ポイント低下の47・2と、目安となる50を下回った。一般的には、50を上回れば前月比改善、下回れば前月比改悪となる。前者は世界の投資家のリスク許容度が高まる「リスクオン」の状況を生みやすく、後者は逆に「リスクオフ」(回避)になりやすい。 ここ3カ月ほどは50を上回っていた。つまり楽観シナリオ通りの進行だったわけだ。それが2月は一転して、大幅な落ち込みに転じた。しかも、落ち込み幅は20年ぶりの水準である。主因は、やはり中国での生産の大きな落ち込みであろう。 米国の消費が堅調である一方で、中国の消費が大幅に落ち込みを見せており、そこに日本や欧州での消費低迷が加わる。そのため、世界での非製造業の堅調にも大きく陰りが見えている。ニューヨーク証券取引所のトレーダー=2020年3月3日(ロイター=共同) 特に、新型コロナウイルスの感染拡大が、消費に甚大な影響を与えるのは明瞭だ。米国での感染拡大次第では、今後さらに世界の消費活動が落ち込む可能性がある。「リスクオフ」局面、現状は? このように分析していくと、楽観シナリオから不確実性シナリオへ移行してしまったのではないか。このことは、他の経済指標からも確認できそうだ。日銀の次期政策委員であるエコノミストの安達誠司氏は近著『消費税10%後の日本経済』の中で、経済の局面の大きな転換を「リスクオフ」局面として描いている。安達氏が「リスクオフ」局面とした特徴は、次の5点である。(1)株価の急激な下落(2)国債(特に国際的に信用度が高い米国債)の利回りの急低下(3)「逃避資産」としての性格をもつ「金(ゴールド)」価格の上昇(4)「VIX指数」に代表されるようなボラティリティー(価格変動の度合い)指数の急上昇(5)円高、およびスイスフラン高の進行 それでは、5項目に関する現時点の状況を見ていこう。ダウ平均株価は2月24~28日の間続落し、12%超の週間下落率はリーマン・ショック以来の下落幅だった。 しかし、週明けには一転して前週末比1293・96ドル高の記録的な上げ幅となったが、現状は再び大きく下落してしまった。日経平均や各国の株価指数も急激な下落を経験している。 10年物米国債の利回りも低下トレンドにある。金価格も現状では下落傾向を見せていた。「逃避資産」としては不思議だが、安全志向が強く出すぎて現金保有や国債保有に偏ったせいか、もしくは最近までの金価格下落の調整局面かもしれない。 VIX指数は「恐怖指数」ともいわれ、これは投資家の先行きに対する懸念の度合いを示すものだ。数値が高いほど投資に対する「恐怖」が大きい。VIX指数(出典:FREDから作成) 恐怖指数の水準は、リーマン・ショックほどではないが、2011年のギリシャ危機までには高まっている。円高、スイスフラン高も進行中である。これらの経済指標から、従来の楽観シナリオが崩壊し、不確実な経済シナリオへの移行が真実味を増している。 そうなれば、焦点となるのは、その新しい事態(レジームの悪い方向への転換)に対応した政策は何か、ということになる。 金融政策と財政政策の協調的な拡大政策が必要なのは自明である。日本に限定して言及すれば、今までにない「劇薬政策」が必要だ。といっても、この「劇薬」は最近コメントした「夕刊フジ」の記事見出しを援用したものだ。個人的には、劇薬でも何でもなく、日本経済の現状に適合した政策にしか過ぎないと考えている。2020年2月、リヤドでのG20閉幕後に記者会見する麻生財務相(左)と、日銀の黒田総裁(共同) 過去の連載でも既に提起したが、新型コロナウイルスの経済に与える影響を「2019年10月の消費増税」並みと考えれば、補正予算ベースで少なくとも6兆円、可能であれば10兆円が必要となる。政策委員「三つの提言」 手段としては消費減税がベストだ。新型コロナウイルスのショックが特に消費に顕著なのは自明だからだ。理想的には消費税率を5%に戻したいところだ。しかし、政治的対立が激しくなる可能性もある。 それを踏まえれば、嘉悦大の高橋洋一教授が日ごろから主張している軽減税率を全品目に適用する案もある。現状の軽減税率8%に合わせるか、5%にまで下げるのかは、政治的な議論があるだろう。 さらに、期限付きクーポン券の配布や、香港が実施したような国民に対する現金の一律支給や、所得減税や社会保険料の減免も考えられる。公共事業の増額も、もちろんありだ。 筆者や高橋氏は、マイナス金利での貸出制度を提唱してもいる。手数料を入れてゼロ金利にするかは、設計次第になろう。 金融政策の方はどうだろうか。日銀の片岡剛士政策委員は最近の講演の中で、三つの政策提言をしている。 まず、「政府と日銀の政策協調の必要性」は、前回の論考で解説した若田部副総裁の講演と整合的な提言だ。簡単に言えば、政府が景気対策に使うお金は日銀が何の心配もなく出しますよ、ということだ。この提言をもとに、政府と日銀は一刻も早く世界に宣言すべきだ。 次いで「金融政策の方の具体的な緩和案」では、短期金利の深掘りが考えられる。これは政府が新規の長期国債を発行し、それを日銀が吸収するという最初の提言を実施した上で、マイナス金利の深掘りをすれば有効になる。具体的にはマイナス0・3%はどうだろうか。2020年10月1日、消費税増税に伴い、二つの価格を表す牛丼店の領収書。店内飲食には10%(右)、持ち帰り商品には8%の軽減税率が適用されている=東京都港区 最後の「日銀の示す将来的な物価見通し」だが、政策金利の指針「フォワードガイダンス」の目標値に対して、実績値が乖離(かいり)すれば、それに応じて緩和姿勢を強調する。いわゆるコミットメントの強化も必要だ。さらに、上場投資信託(ETF)の年間買い入れ額を6兆円から7兆円に拡大することで、マーケットに一種のサプライズを与えるだろう。 上述のように、やるべき政策手段が無数にあることは明らかだ。問題は、世界経済が危機的な様相に転じた中で、いかに財政と金融が協調できるかどうか、その一点に日本経済の浮沈がかかっている。

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    コロナショック直撃、救えるのは日銀の「非公式見解」しかない

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 新型コロナウイルス(COVID-19)感染の影響が、経済的にも社会的にも拡大し始めている。経済的な影響は、昨年からの経済動向を分析すると、3段階の局面が重要になっている。 一つ目は、日本経済が米中貿易戦争などの影響で2018年秋から減速傾向を見せ始め、19年には明らかに景気下降局面入りになった。このタイミングで、10月に消費税率10%引き上げが政治的な思惑を優先する形で導入された。 二つ目は、消費増税が政府の対応策をほぼ無効化し、消費や設備投資、輸入など日本の購買力を直撃し、その影響が現段階まで持続している。その状況で今回、新型コロナウイルスによる経済的な影響が国内外で発生している。 三つ目の局面は今後の状況にかかっている。それは、「景気下降局面」プラス「消費増税」プラス「新型コロナウイルス」の「三重苦」がいったいいつまで持続するかだ。 この三重苦の中で、比較的短期に終息しそうと思われているのが、新型コロナウイルスの経済的ショックだろう。ここでは、中国、日本、そして世界における本格的感染の終息宣言が、世界保健機関(WHO)や各国政府などから早期に出されるケースを想定している。その場合でも、本格的な感染がいつ終わるかによって、日本経済には深刻なダメージが待ち受けている。 もちろん、それは今夏の東京五輪・パラリンピックの開催をめぐるものだ。中でも、嘉悦大の高橋洋一教授は最も悲観的な予測を提示している。 高橋氏によれば、国際オリンピック委員会(IOC)が開催するか否かの判断時期を5月中に設定する場合、WHOの終息宣言は少なくとも5月下旬がリミットになるが、それまでに本当に終息するかどうか微妙だ、という。もし、東京で開催しないと決定されれば、その経済的影響は計り知れないというものだ。下げ幅が一時1000円を超えて急落した日経平均株価を示すモニター=2020年2月25日午前、東京・八重洲 ただ、高橋氏の「悲観シナリオ」はあくまで一定の前提の上での話であることに注意が必要だろう。WHOや各国政府の終息宣言がいつ出されるか、まだ全く不確定な話でしかないからだ。 五輪やサッカーのワールドカップといったスポーツのビッグイベントの経済効果を、よく言われるようにインバウンド(外国人観光客)消費の増加や公共事業による経済浮揚効果に限定するのは、正しくはない。ビッグイベントに伴うインフラ整備は、開催までにそのほとんどの「経済効果」を使い切っている。あとは、その既存設備がどのように活用され、社会資本として機能していくかだけになる。「三重苦」への経済対策は インバウンド消費も直接面だけを見るのは妥当ではない。五輪などの一時的な観光客増を嫌って、人々が他国や地域に観光に出掛けるかもしれないし、違う形態の消費におカネを使うかもしれない。つまり、混雑効果を考慮しなくてはいけなくなる。 ある実証研究では、五輪の経済効果は、開催国の国際的な信頼性を上昇させることで輸出が増加する効果として現れるという。他方で、五輪などのビッグイベント自体の経済効果よりも、金融政策などのコントロールがうまくいっている方が重要だ、という実証もある。 仮に、高橋氏の悲観シナリオが不幸にして成立してしまえば、日本の「国際的信頼」は毀損(きそん)され、輸出にも影響を及ぼすかもしれない。他方で、増加が見込まれるインバウンド消費や五輪を当て込んだ国内消費や投資などは大幅に失われる。 今回の新型コロナウイルス問題以前に提起されていた東京五輪による経済効果の各種推計を読み解くと、既に2020年は各種インフラ整備への支出はほぼ終わっているため、キャンセル効果は大きくない。インバウンド消費が3~4兆円、国内消費も1兆円程度が失われる。 ただ、本当に「失われる」かどうかは分からない。先ほど簡単に例示したが、五輪の混雑を忌避する観光客の消費増が国内外から発生するかもしれない。もっとも、これも新型コロナウイルスの風評被害がゼロであるという前提に立っている。 新型コロナウイルスの感染拡大が収まらないことで、五輪が中止になれば、日本の「国際的な信頼」が毀損されるだろう。「観光立国」というブランド(があるとして)も大きく低下するかもしれない。 いずれにせよ、上述の悲観シナリオの当否は取りあえず別にしても、「景気下降局面」プラス「消費増税」プラス「新型コロナウイルス」の「三重苦」に対応する経済政策が必要になる。現在の国会で審議されている補正予算だけでは不十分だ。都庁で行われた記者会見で新型肺炎の東京五輪に対する影響について説明する東京都の小池百合子知事=2020年1月31日 では、どのくらいの規模が必要だろうか。現在、審議中の補正予算案は4兆3千億円程度でしかない。これではおそらく「三重苦」の「景気下降局面」プラス「消費増税」、二つの悪影響の、それも3分の2程度しか打ち消すことができないだろう。 やや粗い計算になるが、公表されている日本銀行の需給ギャップ(国内総生産=GDP=ギャップ)推計を利用してみよう。 日本経済の潜在GDP(資本や労働が完全利用されている水準のGDP)と約530兆円ある現実のGDPとの開きは、2019年の第3四半期でプラス1・02%と3四半期連続で悪化していた。この状況に「消費増税ショック」がのしかかるが、14年の増税並みと仮定すると、日銀推計のGDPギャップはおそらくマイナス域に限りなく接近するか、場合によっては小幅マイナスになるだろう。消費増税ショック再び? 「マイナスといっても、小幅だからいいじゃないか」という話ではない。次期日銀審議委員に決まったエコノミストの安達誠司氏が以前指摘していたが、日本経済がデフレ脱却に最も近づいたころが2018年秋ぐらいまでだ。その時期の日銀推計のGDPギャップは2%超だったが、この水準(以上)を目指さなくてはいけないからだ。 仮に、新型コロナウイルスの経済的影響を14年の消費増税ショック並みと見れば、上述の「三重苦」でGDPギャップは最悪マイナス1%近くまで落ち込む。要するに、消費増税が半年足らずの間に2度やってくるようなものだ。 これを打ち消すには、現状の19年補正予算4兆3千億円に加え、6兆円以上の新たな補正予算が必要になるだろう。さらに2018年秋レベルのデフレ脱却可能な水準にまで引き上げるには、さらに6兆円以上の補正予算が求められる。新型コロナウイルスの影響次第だが、補正予算ベースで総額16兆円規模になる。 これらは粗い計算ではあるが、一つの目安ぐらいにはなるだろう。「デフレ脱却を後回しにして、取りあえず経済を『三重苦』から脱却させろ」というせっかちな(愚かな?)要求ならば、10兆円程度になる。新たな補正予算には6兆円超が確実に必要というわけだ。 日銀の政策委員会にはいわゆるリフレ派が3人いる。現状では、若田部昌澄(まさずみ)副総裁と片岡剛士審議委員、そして原田泰審議委員だ。原田氏に代わり、3月26日からは安達氏が委員に就任する。 政策委では、金融政策決定会合で反対票を投じる片岡氏と原田氏がしばしば注目される。しかし、両氏以上に重要なのが、若田部氏の「隠れたメッセージ」を解読することだ。 総裁、副総裁2人から成る執行部は意思統一を強く求められるため、日銀の「公式見解」とずれる内容をなかなか言いにくい。だが実は、若田部氏は読む人がしっかりと読めばわかる大胆な提案を、講演や記者会見で発言している。青森市で記者会見する日銀の若田部昌澄副総裁=2020年6月 最近の講演では、やはり彼が政府と日銀の協調を提起しているところがツボである。黒田総裁なら、しなびたミカンの皮程度のことしか言わないものだ。 日本銀行が大規模金融緩和を継続するもとで、経済情勢に対応して機動的に財政政策が運営されることは、金融緩和と財政刺激の相乗作用を高め、景気刺激効果をより強力なものにすると考えています。一般に、政府が国債増発を通じて政府支出を増加させると、長めの市場金利に上昇圧力が加わり、これが次第に民間投資などを抑制するメカニズムが働きます。これに対して、政府支出が拡大するもとでも、中央銀行が市場金利の上昇を抑制すれば、民間投資などへのマイナスの影響は限られ、景気刺激効果の強まりが期待できるということです。若田部昌澄「最近の金融経済情勢と金融政策運営」2020.02.05 若田部氏のメッセージを実行する、このことが何よりも求められるのである。

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    「内需総崩れ」安倍首相の楽観シナリオを壊すのは「桜」ではない

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 週明け発表された2019年10~12月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比1・6%減、仮にこのペースが1年続いた場合の年率換算は6・3%減と、市場の予測を大きく上回る下振れとなった。2月13日に発表された民間エコノミストの経済見通し「ESPフォーキャスト調査」では年率4・05%減だったが、この調査結果も大きく下回った。 ツイッターのトレンドワードには「内需総崩れ」という言葉が上位にあったが、まさにその通りである。もっとも、日本のGDP速報値と改定値は大きくずれる場合もあるので、その点は念頭に置かなければならない。いずれにせよ、速報値を見る限り、「内需総崩れ」という言葉は最もふさわしく、各項目でも悪い数字が並んでいる。 財務省の影響が強い日本の経済メディアでは、19年10月の消費税率10%引き上げと並ぶほど、大型台風の上陸や暖冬の影響を言い立てる記事が多いが、これは明らかにミスリードだろう。 海外の経済情勢の悪化を受けながら踏み切った消費増税が日本経済を失速させている、これが基本的なシナリオである。一例として、台風の影響を比較的受けていない関西を含め、各地域の鉱工業生産指数やスーパーなどの売り上げが低下していることでも明らかだ。 それでは、GDP速報値の中身を紹介しよう。以下は、最初の数字は年率換算の寄与度、その後の()内は同じく年率の前期比である。 今回の「6・3%減」だが、いわゆる内需は、民間消費6・3%減(11%減)、住宅投資0・3%減(10・4%減)、民間設備投資2・4%減(14・1%減)、民間在庫変動0・5%増(算出せず)、公的資本形成(公共投資)と政府消費の合計である政府部門の支出が0・4%増(5・5%増)だった。 いわゆる外需は、純輸出が1・9%増、輸出0・1%減(0・4%減)、輸入1・9%増(10・1%減)であった。内需もそうだが、輸入も急減しており、これは国内の購買力の低下を示しているといえる。松坂屋上野店で消費増税に向けて準備をする売り場に用意された、税率10%の対象となる商品を知らせる札=2019年9月30日 特に注目すべきなのが、民間設備投資の不振である。経済の変動は総需要(内需、外需)で規定される。 そのうち、最も景気変動の主因となるのが投資である。今回の設備投資の不振は、前回2014年4月の消費税率8%引き上げ直後の落ち込み(年率換算7・3%減)を倍近く上回っている。おそらく、この点が今回の市場関係者の予測を大きく見誤らせた主因の一つだろう。首相の「楽観シナリオ」 そんな中でも、週明けの国会論戦は首相主催の「桜を見る会」問題で明け暮れた。ただ一つ気を吐いたのが、馬淵澄夫元国土交通相の経済政策に関する質疑であった。馬淵氏は、安倍晋三政権の経済見通しが過度に楽観的であることを指摘した。 それに対して、安倍首相の答えは残念ながら官僚答弁のような楽観的なシナリオに基づいたものであった。特に2014年の増税時に比べ、消費の落ち込みが少ないことを指摘するものだった。 確かに、速報値では消費に関しては前回ほどの落ち込み(年率18%減)は観測されていない。だが、それは14年の税率引き上げが3%で、19年は2%と、そもそも引き上げ幅に見合う形での変化にしかすぎない。 注目すべきは、6年前もそうだったように、消費増税対策が今回も全く有効に作用していないことだ。前回の消費増税対策の失敗は教訓として何ら活用されていないといっていい。 前述の通り、消費だけ取れば、前回よりも影響は小さい。ただしその後、消費はほぼ2年半にわたって落ち込み、さらに経済の低迷を誘導し、雇用改善のペースさえも鈍化させた。 単純に推論すれば、今回も1年半ほどは消費低迷に陥るかもしれない。しかも、問題は他の需要項目が前回よりもはるかに悪いことにある。衆院予算委で、立憲民主党の辻元清美氏へのやじを飛ばした問題について謝罪する安倍首相=2020年2月17日 設備投資の前回を上回る大幅な落ち込みは、不況に直結する可能性がある。輸入の弱さも、これは内需の弱さの表現である。これらを見ると、現状では少なくとも前回並み、最悪であれば前回以上の経済低迷をもたらす可能性が高い。 総需要全般の落ち込みは、もちろん不況局面入りをさらに進めてしまうだろう。雇用状況も、今はまだ堅調だが、やがて製造業やサービス業などで大きな調整が始まる可能性がある。アベノミクス「最大の成果」が消える? ただ、かすかな光明は、株価が大きく下落し続けないことと、また為替レートの円安傾向が定着していることである。ここで言う「円安」は単に金融緩和継続のシグナルと考えていい。これらが企業業績の悪化を何とか食い止めている。 だが、賢明な読者ならばお気づきであろうが、今まで解説したことは、年明けからの新型コロナウイルスの感染拡大による経済ショックを全く考慮に入れていないのだ。それが先に指摘した最悪のシナリオにつながる。 新型コロナウイルスへの政府の対応は「後手」だとの批判が多い。「国内発生の早期」段階という政府発表を前提にすれば、私見では、今後どのように本格的流行のピークを低くし、早期終息するかがポイントになってくる。 この点はどうなるのか、専門家も十分予測できていない。経済への影響も短期的に終わるか、あるいは長期化するか、全く予断を許さない。 嘉悦大の高橋洋一教授は、国の直接の財政支出であり、国民の購買力に直接寄与する「真水」で数兆円規模の第2次補正予算を編成することを主張している。筆者も高橋氏の主張に賛成だ。これらの政策がうまくいかなければ、アベノミクスの最大の成果である雇用改善がやはり損なわれていく可能性がある。 ちなみに、前回の消費増税が雇用に与えた悪影響をおさらいしておこう。安倍政権が発足した12年12月の完全失業率は4・3%だった。それ以降、消費税率が8%に引き上げられた14年4月には3・6%と、0・7ポイント改善していた。嘉悦大の高橋洋一教授=2018年3月(宮崎瑞穂撮影) だが、増税以降、失業率の低下スピードは衰える。同じ0・7ポイント低下するまでに、約3年を要してしまった。 ところが、さらに0・5ポイント低下するのに、17年2月から18年10月までの1年半しかかかっていない。失業率は改善が進むほどに低下スピードが衰えるはずだが、それよりも後の時期の改善スピードよりも極めて遅かったことで、消費増税が雇用にも深刻な影響を与えていたことが分かる。ホテルよりも災難な人々 今回は6年前と異なり、日本経済が景気後退局面で行われた増税であった。そのため、前記のように「総需要全面ダウン」の状況だ。 それに加え、新型コロナウイルスの不確実性が加わる。日本経済はいまや本格的な雇用悪化の可能性に直面しており、早急な経済対策が必要だ。 だが、週明けの国会は大半の野党による「桜を見る会」の政治ショーであった。立憲民主党の議員らが、ANAインターコンチネンタルホテル東京からの書面回答を元にして、安倍首相を追及していた。新型コロナウイルスや経済問題はほぼ二の次である。 一応、野党側の主張をまとめておくと、ANAインターコンチネンタルホテル東京に文書で問い合わせしたところ、過去7年間のうち、同ホテルで桜を見る会の前夜祭を3回開催し、首相後援会が主催したという。それを前提に、立憲民主党の辻元清美議員は「宴会やパーティーで、見積もりや明細、請求書を発行しなかったケースがあるか」とのホテル側に質問したという。 ホテル側の答えは「1件もない」というものだったらしい。政治家にこの点について特別な配慮をするかとの質問にもノーと回答したという。 これに対し、首相側の答えは「安倍事務所がホテル側に問い合わせたところ、広報が辻元議員にあくまで一般論として答えた。個別の案件は営業秘密で回答してない」というものだった。今回の事例は、ホテルニューオータニのケースと全く同じである。詳細については、この論説を参照されたい。衆院予算委で質問する立憲民主党の辻元清美氏=2020年2月17日午前 もちろん、反安倍の人たちはこの回答で満足していない。ホテル側に政治的圧力があったとか、忖度しているなどという意見が、相変わらずインターネット上などで見受けられる。ANAインターコンチネンタルホテル東京もとんだ災難だろう。 だがもっと災難なのは国民全員だ。日本経済を一刻も早く立て直すためには、「桜を見る会」問題の追及よりも、安倍首相に楽観的な経済見通しの修正を迫ることが求められる。

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    「絵に描いた社会主義」文在寅の愚策に苦しむ韓国企業の落日

    小倉正男(経済ジャーナリスト) 文在寅氏が大統領となっておよそ3年が経った韓国だが、いまや世界断トツの賃上げ国という“名誉”を与えられている。 データの出所は経済協力開発機構(OECD)というれっきとしたものだ。それによると、日本などは対照的に賃上げでは最悪の「劣等生」にランクされている。日本の場合、企業が稼いだ資金はもっぱら利益剰余金など内部留保に貯め込まれ、賃金はあくまで後回しになっているのが現状だ。 韓国はなんとも誉れあるポジションに君臨していることになるのだが、これは文大統領の「所得主導成長」経済政策によるところが大きい。もっとも世界一の賃上げが韓国を幸福にしているかといえば、むしろそうではない。文大統領の「所得主導成長」が、案に相違して格差の拡大、雇用機会の減少、資本の逃避など「ヘルコリア」を増幅している。 文大統領としては、世界断トツの賃上げで格差の拡大にストップをかけて「人間中心の経済」、「包容国家」実現を標榜したが、もたらされた現実は裏腹にも悲惨なものだった。 文政権下で韓国は、最低賃金を2018年に16・4%、19年に10・9%と大幅アップを進めた。2年間で29%アップである。最低賃金の上昇率は、20年にはさすがに2・87%(時給8590ウォン=約790円)と急激なダウンとなったが、過去2年の過激ともいえる賃上げは産業界に大幅な人件費コスト増をもたらした。産業界としては、自然の摂理のようなものだが、正規雇用者採用を警戒し躊躇する傾向を強めた。その結果、正規雇用者の採用減が顕著になっている。 新規の正規雇用が減少すれば、若年層労働者の雇用機会は失われ、若年層失業者が増加する結果を招いた。文大統領の狙いとは反対に格差の拡大は一層広がるばかりとなっている。さらに自営業など中小企業では賃金支払い負担増から廃業・倒産を余儀なくされるという現象が多発した。中小企業でも雇用機会が減少することになった。 若年層労働者の実体上の失業増加により文大統領の「所得主導成長」は事実上の放棄・修正に追い込まれている。文大統領は、かねて「最低賃金を20年に1万ウォンにする」という公約を掲げてきた。それゆえに、先にも触れたように18~20年に3年連続で最低賃金を16%以上の増加を目論んできた。しかし、20年の最低賃金は2・87%増にとどめざるを得なかった。 文大統領は「最低賃金1万ウォンは人間らしい生活を象徴するものだ」を唱えてきたが、あっさりとそれを放棄し支持基盤である韓国労働組合総連盟に陳謝する事態となっている。※画像はイメージ(ゲッティイメージズ) また、文大統領は「時短」すなわち労働時間を週68時間から52時間にする改革も推進した。韓国では土日の休日労働を「別枠」として認め、68時間までを週労働時間としてきた。だが、休日労働を「延長労働」に認定して労働時間は週52時間までに短縮された。 「時短」によるワークシェアリング(業務分割)で雇用拡大を図るというのが文大統領の目論見だった。「時短」が行われれば、従来の業務をこなすには新規に雇用を増やす必要が生まれる。しかし、これも机上の計算でしかなく空論に終わった。サムスンに労組 産業界としては、その新規雇用増は非正規労働者などを採用してなんとか間に合わせるにしても、トータルで人件費コストの大幅増加が避けられない。文大統領の机上の計算は外れ、生産性が伴わないサービス産業などでは採算が合わず赤字転落で事業の撤退に追い込まれている。これも雇用を減らす作用をもたらしている。 トドメを刺しているのが法人税増税だ。韓国の法人税は18年に22%から25%に引き上げられている。韓国のメディアですら「海外の企業を誘致するどころか、韓国から企業を追い出すのか」と嘆いたものだ。 あわせていえば、所得税も富裕層への増税を強化している。加えて労働組合の争議を支援する姿勢を明らかにしている。そして、過去50年にわたり無労組だった財閥企業トップのサムスン電子に19年11月に労働組合を結成させている。 法人税の世界のトレンドでいえば、法人税減税競争が進行しているが、その流れに堂々と逆行する動きをとったわけである。欧米などの先進国なら産業界も「世界の流れに逆行する法人税増税が行われるならわれわれは祖国を捨てなければならない」と本社、工場の海外移転などをメディアで発信して政府にブレーキをかけるところだ。法人税は海外で払い、雇用も海外に移す、という強い覚悟や決意を示すのが産業界の一般的な増税対抗手段である。 しかし、韓国では産業界にそうした言論の自由はない。政権に少しでも逆らった発言をすれば税務・法務などで徹底して虐められる可能性がある。世界的な法人税引き下げ競争の中で文大統領の韓国は法人税増税を断行したのである。 文大統領の「所得主導成長」は、徹底した「反サプライサイド」経済政策ということができる。サプライサイドとは供給側、すなわち企業・産業サイドのことだ。企業・産業を優遇して、企業・産業の競争力を強化するというのがサプライサイド経済政策である。 文大統領が行っている経済政策は、その逆で企業・産業を目の仇とする「反サプライサイド」である。格差の拡大を解決するためにサムスン電子など財閥企業が過剰に貯め込んだ巨額資金を労働者階級などに“所得移転”を図るというものだ。 最低賃金の大幅アップ、労働時間の大幅短縮、法人税増税、富裕層への所得税増税、労働組合支援など、文大統領は「反サプライサイド」をこれでもかと断行したということができる。文大統領は、左派(社会主義)を信奉しているのだから当然の帰結であるといえるわけだが、それにしても古典的な社会主義を信奉しているようにも見える。古典的というか、「絵に描いた社会主義」といった方が的を射ているかもしれない。ソウルの韓国大統領府で年頭記者会見を開き、報道陣の質問に答える文在寅大統領=2020年1月(共同) 文大統領による「所得主導成長」の異彩・異色ぶりは、中国の習近平主席による「中国製造2025」と対照すると際立っている。「中国製造2025」は、中国の中央政府・地方政府が自国の製造業企業に巨額補助金を注ぎ込んで、半導体などを筆頭に中国製ハイテク製品の競争力をひたすら強化・育成するというものだ。2025年にはハイテク製品の世界市場で中国がトップに立つという野心的な経済政策である。 巨額補助金注入の優遇策で、中国ハイテク関連企業は極論すれば“原価ゼロ”で半導体などを生産できる状態になっている。米国のトランプ大統領の「アメリカファースト」に対抗する「中国ファースト」政策だが、それが長期に及んだ米中貿易戦争を引き起こしている要因の一つになっている。自らハンディを背負う韓国 トランプ大統領は中国の無尽蔵な補助金注入を「アンフェア」と非難している。先行きの世界の覇権は自国ハイテク産業の盛衰で優劣が決まる。中国のアンフェアを認めれば、技術、そして経済、軍事までイニシアチブを中国に渡すことになりかねない。米中貿易戦争は、先行きの世界の覇権を争奪するなりふり構わぬ闘いとなっている面が否定できない。 共産党独裁の中国ですら明らかに過剰なほどのサプライサイド優遇・強化に身を乗り出している。習主席は、トランプ大統領を「一国主義」と批判しているが、どうして習主席も「一国主義」では何一つ負けていない。 言い換えれば、習主席の中国は、トランプ大統領が目の仇にしている中国通信機器大手のファーウェイを世界企業に仕上げしようと応援しているのに対して、文大統領の韓国は世界企業であるサムスン電子を虐めて引きずり下ろしているようなものである。 中国を含む世界の資本主義が「自国ファースト」といった風潮も加えて自国のサプライサイド強化にひたすら走っている中で文大統領による韓国の「反サプライサイド」は特異である。 文大統領の「反サプライサイド」に対して、韓国産業界がそれを吸収できる生産性向上や技術革新を持ち得るなら話は少し変わるがそれはない。韓国産業界は、世界競争で実力を上回るハンディ(=人件費増など原価高)を背負わされたようなものである。文大統領の行っているのは、韓国産業界を世界市場競争から自ら脱落させようとしている所業というしかない。 これでは韓国経済が持たない。韓国の国内総生産(GDP)に占める輸出の比重(37%)は大きく、サムスン電子などの半導体関連製品の中国向け輸出で稼いできている。しかし、その中国が米中貿易戦争で景気が低迷しており中国の国内需要は極度に低下している。景気の悪化で半導体関連市況は低迷するばかりだ。しかも中国は「中国製造2025」で半導体などハイテク製品の自国生産に乗り出している。 中国はむしろハイテク製品で韓国と競合する、あるいは韓国を凌駕していく趨勢をつくろうとしている。従来のように中国が韓国のサムスン電子などのマーケットであり続けるという構図は崩壊に直面している。韓国ソウル市内にあるサムスン電子のオフィス(ゲッティイメージズ) 案の定、19年の韓国の輸出は大幅減となっており、19年のGDP成長率は2%にとどまった。リーマンショック後、韓国経済は順調な歩みをたどってきたが、最低成長率を記録した。韓国のリーディングカンパニーであるサムスン電子などを見ても大幅減収・営業利益半減の惨状である。 韓国産業界各社は輸出の低迷で売り上げが低下し、人件費コスト増、法人税増などで収益が低下する「減収減益構造」にはまり込んでいる。米中貿易戦争の長期化という事態も想定を超えるものだったが、大半は文大統領の「絵に描いた社会主義」を骨格にした「反サプライサイド」経済政策が招いた結果にほかならない。悪いときには悪いことが重なるもので、「新型コロナウイルス」は、中国経済を停止状態に追い込んでおり、20年の韓国経済は悲惨なものになりかねない。GDP成長率はさらに失速する可能性がある。予想される悲惨な結末 こうした中、日本の輸出管理強化、すなわち「日韓摩擦」でも、文大統領は世界の資本主義の常識や理論を大きく逸脱する動きをとっている。 日本の高純度フッ化水素、フッ化ポリイミド、レジスト(その後レジストは運用緩和)、さらにホワイト国除外でも、文大統領は不可解な行動規範を指示している。文大統領は日本の輸出管理強化を「元に戻せ」と主張しながら、一方で日本のハイテク関連の部品・用品供給は「経済侵略」と規定して、韓国で部品・用品生産する「自国化」を奨励している。「(部品・用品の)自国化は第2の独立戦争」とわけの分からない、乱暴な理屈を振り回している。 部品・用品のサプライチェーンを「経済侵略」と規定するとは、現代資本主義から見て理解を超えたものだ。こうした理屈や理論をどこから持ってきているのか不明だが、文大統領の周囲を含めて「学生運動」次元のように感じられる。 LGディスプレイなどが高純度フッ化水素を国産化したと発表してiPhone生産を行ったのだが、なんと100万台超の不良品を生み出したと伝えられている。それらの大量の不良品は廃棄に追い込まれたとみられる。部品・用品のサプライチェーンは「最適地」生産が基本であり、韓国としたらどこからみても日本からの供給が世界的に見て唯一無二、ワンアンドオンリーにほかならない。 韓国での部品・用品の自国化生産は、不効率で高く付くばかりか、それ以前にリスクがきわめて大きい。大量の不良品を出して納期が遅れる、あるいは製造歩留まりを悪化させるなら、アップルなど需要先からの信用を失い、下手をすれば事業撤退など致命的な事態に追い込まれる。 日本からの部品・用品供給を「経済侵略」として自国化=独立戦争を奨励するという文大統領の思考は、世界資本主義のサプライチェーン理論からすると現実を見ようとしない、あるいは現実から逃避・逸脱するものである。これはサプライズに近い理論といえるかもしれない。 このままいけば外資企業はもちろんのこと、サムスン電子など韓国の財閥企業などまで「資本逃避」が本格化するとみられる。韓国に本社、工場、研究所、店舗、人員を置くだけで人件費コスト、法人税などの負担で世界競争において劣位に立つとすれば、それらは海外の「最適地」に移転させることに追い込まれるのが自然な動きだ。サムスングループのディスプレー工場を訪問した韓国の文在寅大統領(中央)=2019年10月、韓国・牙山(聯合=共同) ヒト、カネ、モノのすべてが韓国という祖国を捨てる行動に出る。みすみす世界競争に負けてマーケットを失うぐらいなら、活路を求めて海外に資本を移すしかない。 世界の資本主義に逆行する文大統領だが、経済政策に過剰にイデオロギーやルサンチマン(怨恨・思い込み)などを持ち込めば、大元である韓国という国家そのものを傾かせるという悲惨な結末をひたすら呼び込むことになりかねない。

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    佐野SA「ガチンコ」ストライキ騒動で見えた日本のリスク

    平野和之(経済評論家) 栃木県佐野市の東北自動車道佐野サービスエリア(SA)の運営を受託している「ケイセイ・フーズ」の労働組合が11月、2回目となるストライキを実施した。8月の1回目のスト後、筆者は2度ほど調査したが、なぜこうした事態にまで発展したのか判明せず、不明な点が多いままだ。 では、全国の注目を集めた佐野SAのスト騒動とはいったい何なのか。今回は、筆者なりに想定し得るケイセイ・フーズの内情と、それに呼応した社会的背景、経営的リスクなどを整理し、企業側と労働者側の双方の視点から対策などを提起したい。 最初のストは、8月の売店の品物が仕入れられていないことから始まり、経営危機疑惑を労働組合執行委員長が追及したところ、会社側の説明のないまま解雇処分になったとされている。 ケイセイ・フーズは、今回の問題を巡って社長が代わり、経営権も譲渡されたようだ。佐野市内の建設会社の経営者が社長になっており、株については登記簿では確認できないが、譲渡された可能性が高い。 筆者は弁護士ではないので法律的見解はここでは割愛するが、中小企業の経営アドバイザー、企業の合併・買収(M&A)などに従事してきたので、「中小企業経営あるある」に基づいて仮説を立ててみたい。 そもそも、通常のSAで赤字になることはあまり考えられない。賃料は固定ではなく、売上歩合が基本であり、集客力は抜群である。かつてはファミリー企業が経営し、暴利をむさぼっていると批判を受けてきたSAだが、最近は「やれるものならやりたい」と、同業者はみな口をそろえる。 特に、佐野SAは、東北自動車道の中でも3大「ドル箱」SAの一つ。ゆえに、ここの経営だけで経営危機が起こることはありえない。しかし、商品の仕入れがなくなる、減ったなどという事実から見れば、資金繰りに窮していることは、だれの目で見ても明らかだ。では、その原因は何か、である。 中小企業経営でよくある話として、株や不動産投資の失敗がある。ただ、日本の中小企業経営者に概ね言えることだが、バブル崩壊後、こうしたケースは稀(まれ)だ。ありがちなのは、別の事業の経営苦境で、人件費高に加えて売上減少が重なり、SA事業では黒字なのに倒産危機に瀕するケースだ。一般的な中小企業の経営に関していえば、景気後退の中でインフレが起こる「スタグフレーション」状態で、アベノミクスの恩恵はほとんどない。 ただ、本業が苦境でもドル箱のSAで稼いでしのごうとするのが通常であり、SAで仕入れができないほどであれば、表現は悪いが「脳死」状態の経営と考えるのが妥当である。上り線のフードコートは営業されておらず、下り線に誘導する案内が貼られた佐野サービスエリア=2019年8月、栃木県佐野市 もう一つ中小企業経営によくある話が、業績が好調のときに放漫経営を繰り返すといった私利私欲が先行し、会社経営が立ち行かなくなるケース。特にサービス産業は、労働集約型で根性論による経営で成功した場合、その後に社長の横暴などに歯止めが効かなくなる。筆者は、この両方が重なったとみる。 一方で、佐野SAの場合、中小企業なのに労組があることには逆に驚いている。労組が強い大企業は、日本では簡単にリストラができない。賃上げ要求ばかり出て、会社が破たん寸前になって初めてリストラできるわけだが、JALやシャープ、東芝を見ても分かるように人員整理は困難を極める。往々にして、労組が強い会社は、従業員が多いとされ、なかなか人員整理はできない。ストライキは逆効果 もちろん、労働者の権利を守ることは重要だが、日本の場合、解雇規定がないため、会社が苦しくなると労組が強い会社は苦境に立たされる。こうした背景を鑑みれば、佐野SAの場合、労組執行委員長の「クビ」が狙いだったわけではなく、労組の実質的解散が本丸だったのではと思えるふしもある。 そもそも、日本の企業でストライキはほとんど見られない。公共交通機関でたまにニュースでストライキが報じられるが、ストライキは日本の場合、逆効果になることが多く、その意義を見直すべきだと思う。 例えば、会社の経営が倒産寸前で、賃金が上がらないからといって「よーし、ストライキだ」と、やれば、ますます業績は悪化し、倒産へのカウントダウンを早めるだけだ。会社が倒産してしまえば、賃金の不満以前に失業してしまう。 日本の風潮として、訴訟沙汰にするといった紛争を嫌う文化があり、最後の最後でストライキのような大暴れをしても、時すでに遅しとなる。結局、佐野SAも、今回のように午前7~8時のみのストライキでは、経営サイドは無視するだろう。メディアでのアナウンス効果は大きいが、会社のブランド力低下を強め、さらなる業績悪化をもたらすだけだ。 そこで、今回の問題は、どうすれば、ベターな解決となっていたかを提案したい。 まず、労働者サイドの視点では、委託元の東日本高速道路(NEXCO(ネクスコ)東日本)や子会社のネクセリア東日本などに相談を持ちかけることだ。一部報道によると、すでに労組がアクセスをしているようだが、そもそも、SAはインフラを活用したビジネスだけに、高度の公益性が求められる。ネクスコは事実上、国の機関といっても過言ではないため、こうした「弱み」を攻め立てれば効果はあるはずだ。 一方、経営者サイドから見れば、本件は政治問題に持ち込める。あらかじめ断っておくが、筆者は佐野SA問題に関して経営者サイドを支援するつもりはない。ただ、仮に筆者がM&Aを手掛ける投資家なら、会社をいったん分割してリセットし、労組がないところから社員を採用してやり直す。とはいえ、リストラ費用は相当高額になることが予想され、ある程度現場を任せられる人材が採用できなければ、業績にも悪影響が出るといったリスクを伴う。ケイセイ・フーズの従業員らに話をする労働組合執行委員長の加藤正樹氏(右端)=2019年11月、栃木県佐野市 やり方次第だが、新設会社に新規の投資家が株を持ち、今の経営権を掌握する方式で買収し、経営権利料を旧会社に支払うことでリストラ費用をねん出するスキームが組めれば、リスクは最小化でき、かつ投資額も最小になる。ケイセイ・フーズは新しい社員を使って運営を始めたとされているが、佐野市の建設会社社長に切り替わったのは、こうした条件だったのではと、想像はつく。 しかも、ネクスコとの契約を新設会社に切り替えはできないが、分割会社ならできる。このあたりは想像だが、新設会社は労組がないか、または弱い。一方、業務面で必要な人材の部分のみを、旧会社に下請け的に運営を委託している方式ではないだろうか。ストライキ推進法? これらのことは、あくまで筆者の予測にすぎないが、通常の会計士や弁護士、M&Aの従事者などに相談すればこの方法を提案するだろう。 さて、今回の問題は、決して対岸の火事ではないだけに、国としての法整備や規制、規制緩和をしっかりと見直す必要があるので下記に明示しておきたい。 まず、公有財産である契約に関するもの。①公共資産の貸し付けなど民間との契約には、行政の監視ができる仕組み、ガバナンス(統治)がきく仕組みをつくる。②会社の経営状況の把握は一般的に決算書の提出を義務付けているが、形式的になっているため、経営状況の把握は月次ベースにし、年度ごとの監査義務、さらに法令違反などがあった場合、契約解除を迅速にできるよう指導できる仕組みをつくる。 次に、ストライキに関するもの。①ストライキは効果が限定的であり、ストライキを実施する場合に、行政としてセーフティネットを提供する。一方で、過剰なストライキを抑制するために、供託金を積ませるなどの経営サイドのセーフティネットも確立する。②労組が強すぎるとリストラが困難になるため、経営危機の際に労組の活動を制限する法整備を進める。③経営者のガバナンスがきかないため、行政として監視できる法整備も進める。中小企業オーナーのずさんな経営を行政として監督、指導などができる仕組みも必要。 そもそも、日本の政治はこれまで、右派VS左派、資本主義VS社会主義で、行きつく先は、資本家VS労働者となり、自民党VS労組が縮図だった。ゆえに、労組はイデオロギーなども混在し、左傾化という課題もはらんでいる。米国では大統領の民主党候補争いで、サンダース上院議員よりさらに極左のウォーレン上院議員の旋風が吹き荒れているが、日本でも労働者に株を保有させる政策は、今後提起されるだろう。 筆者は、従業員が株を保有することを否定しない。その場合、リスクや責任も明確にして経営責任を共有できれば、会社のガバナンス改革と働き方改革、イノベーションは加速すると思っている。 振り返れば、アベノミクス以降、右派も左派も「最低賃金を千円、賃上げを2%以上しろ」と声を上げるようになった。自民党からベアの言葉が出るといった状況は、歴史的に見てもアベノミクスが初めてではないか。時給「1500円」時代も現実味を帯びており、今回の佐野SAのストライキは、「ストライキ推進法」のようなものが、左派から提起されてもおかしくはない。その入り口にあるリスクの大きな問題だと思う。佐野サービスエリアの上り線のレストラン前で横断幕を持つ従業員ら=2019年11月、栃木県佐野市 再度念を押しておくが、筆者は、佐野SAのストライキ問題において、経営者の暴走も、労働者のストライキもどちらも支持しない。そもそも、今の日本の中小企業でストライキをやっても、経営側と「和解」できる可能性は極めて低い。労働者が経営者を尊敬できなくなったら中小企業は事実上の終わりで、倒産に向かうだけだ。 一方、経営者の能力が低いことも課題であり、働く側にとっても不幸である。日本経済を支える中小企業の経営者の新陳代謝、経営力強化と労働者の能力開花の推進と権利をどう守っていくのかを、本格的に再考すべき事案の象徴であろう。

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    文在寅がどうしても勝てなかった本当の敵

    小倉正男(経済ジャーナリスト) 11月22日午後6時、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の「終了通告の効力を停止する」と発表した。日韓のGSOMIAは23日午前0時に失効期限が迫っていただけに、兆候はいくつかあったが、まさかのドタン場での転換である。 金有根(キム・ユグン)国家安保室第1次長は、「いつでも効力を終了させることができるという前提で8月23日の終了通告を停止させることにした。日本政府はこれについて理解を示した」とGSOMIA延長を告げた。 心中はあくまで見せない硬い表情で、金第1次長は文書を読み上げた。だが、韓国政府としては「負け惜しみ」の会見というか、ほぼ「全面降伏」に近い内容と言えるのではないか。「いつでも効力を終了させることができる」という前提条件をわざわざ冒頭に語らなければならなかったところに苦しさがにじみ出ている。 「われわれは日本に二度と負けない」。文大統領は8月、日本が下した「ホワイト国」除外の決定を受けてこう檄を飛ばしていた。それだけに、過激な「反日」発言に連動して日本商品不買・日本旅行忌避といった運動を国民にあおってきた文大統領の中核的支持層は、ハシゴを外された格好だ。「二度と負けない」、あの言葉は何だったのか。支持層が呆然としたのは無理もない。 一方、この情報が流れると、GSOMIA終了を見越して売り込まれて安値となっていた韓国通貨ウォンが慌ただしく急上昇をみせた。※写真はイメージ(ゲッティイメージズ) 通貨というものは、通貨を発行している国家の信用や安全性によって価値が日々変動するものである。通貨の価値変動は、その国家の「格付け」のようなものだ。しかも、株式も同様だが、通貨のマーケットは、本来政府権力などに容易にコントロールされにくい性格を持っている。 資本、あるいはおカネといってもよいが、その国家が危ないとみれば株式を売る、通貨を売るということに遠慮や躊躇(ちゅうちょ)はない。通貨を売ってドルに替える、ゴールド(金)に替える、安全資産に逃げる、そうしたことが即刻行われる。その極端なケースが「通貨危機」である。それを防止するために外貨準備がなされているのだが、いったん通貨危機に火が付けば、外貨準備などすぐに底をつくことになりかねない。 GSOMIA延長決定の背景として考えられるのは、ウォンの通貨不安、通貨危機の一種の分岐点だった可能性がある。最近の文大統領の政策への不安から、資本、おカネは韓国からとうとうと逃げ出す動きが続いてきた。ウォンは“古強者” GSOMIA破棄・終了となれば、米韓同盟に亀裂が生じて東アジア、すなわち韓国の安全保障に根本的な不安・危機が生まれる。外資系金融機関はもちろんのこと、韓国の財閥企業なども資本、すなわちおカネを逃避させる行動が一気に表面化しかねない。資本、おカネにはナショナリズム、すなわち「反日」や愛国は通用しないのだ。 そもそも、ウォンはこれまで何度も通貨危機を経験している。つまり、通貨危機ではウォンは“古強者”であり、1997年の国際通貨基金(IMF)による資金救済以降も通貨下落・通貨危機を度々経験している。“古強者”とは言えるが、必ずしも勝者ではない。要するに、ウォンは信用や信頼では強い通貨という評価は得られておらず、危機や不安に際しては、さっさと躊躇なく売られる脆弱な通貨にほかならない。 文大統領の政策はGSOMIA問題に限らず、資本、おカネが逃げ出すという特徴を持っている。言い換えれば、資本、おカネは文大統領の政策を一貫して嫌っているということだ。また、彼の政策は、資本、おカネを敵に回す宿命を持っているともいえる。 実際、GSOMIA延長が発表された直後からウォンの価値が上がって買い戻されたのは、文大統領が自らの政策を破棄したからだ。ウォンは、GSOMIA延長という文大統領の手痛い頓挫を諸手をあげて歓迎したことになる。 文政権がGSOMIA破棄から一転延長に踏み切らざるを得なかった主たる要因は、やはり米国の強い圧力だったと報道されている。エスパー国防長官らが、「日韓のGSOMIAの延長がなければ中国、北朝鮮を喜ばせるだけだ」と文大統領に転換を迫っていたようだ。 折しも米国は、韓国に対して米軍駐留経費を50億ドルと、これまでの5倍超の引き上げ要求を行っている。米国内からも「正気の沙汰ではない」という声が出た代物である。韓国国内からは「核を持てば在韓米軍は不要だ」という応酬がなされたようだが、核を持つことで米韓同盟から離脱して自立するという脅しである。極論を言えば、中国、北朝鮮の方に走るというブラフ(威嚇)に近い。だが、トランプ大統領、50億ドルの駐留経費要求を取り下げる気配は一切見せていない。歓迎式典で言葉を交わす米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長(右)と韓国軍制服組トップの朴漢基合同参謀本部議長=2019年11月、ソウル(聯合=共同) 仮に日韓のGSOMIAが延長されなければ、在韓駐留米軍は安全性が低下し、リスクが増大する可能性を抱える。駐留経費をディスカウントするというなら、米国は駐留米軍から1個旅団を撤収させるだろう。 この駐留経費を巡っては、韓国メディアが米国の過大な要求に加えて「米韓同盟」の危機を報道し、安全保障問題に一気に火が付くことになった。そして米韓同盟の危機は、マーケットに動揺をもたらし、韓国の通貨や株価は売られる局面にさらされた。米国の圧力はマーケットにウォン売りを誘導したことになる。それが文大統領のGSOMIA延長決断直前の状況だった。「左派ポピュリズム」の実態 これまでの文大統領の政策を振り返ると、GSOMIA効力停止のみならず、先にも触れたが、資本やおカネが逃げ出すものばかりである。文大統領の政策のベースは、いわば左派(社会主義)ポピュリズムだが、資本やおカネに嫌われる、あるいは資本やおカネを敵に回すものばかりだったということだ。 この左派ポピュリズムの具体例の一つに、文大統領の念願とも言える最低賃金の大幅な引き上げがある。文大統領は、最低賃金を18年に16・4%、19年に10・9%と大幅な引き上げを行った。 韓国はサムスングループといった財閥企業が経済の大半を支配しており、そもそも労働者の賃金が低かったのは事実である。それを改革するために「労働尊重社会」を掲げ、「所得主導成長」経済ということで賃金を大幅に上げたのだ。しかし、これはサムスンなど財閥企業のみならず、中小企業、個人商店にも大幅なコストアップをもたらした。 それだけではない。もう一つは日本流でいえば「働き方改革」なのだろうか、労働時間を週68時間から週52時間に短縮した。確かに、週68時間というのは今どき世界的にみて劣悪な状態というしかない。  「夕方のある暮らし」を実現するという触れ込みなのだが、給料(賃金)はそのままだから、週52時間労働制は実質的な大幅賃上げといえる。これも財閥企業など大企業で実施された。大企業の正規雇用の労働者にはベネフィット(恩恵)であり、既得権益となった。ただし、企業にとっては大幅コストアップ要因でしかない。 いずれも独善的で、韓国経済から見れば実力を顧みないという拙速な政策になっている面がある。独善で拙速というのは文大統領の身についたトレンドだが、左派ポピュリズムに傾き過ぎているというより、自らの観念やイデオロギーに縛られ過ぎている。結果、その落とし穴にはまっており、裏目となっている。韓国のMBCテレビの番組に生出演した文在寅大統領=2019年11月、ソウル(聯合=共同) 企業は人件費コストの上昇から新規雇用に慎重にならざるを得ない。米中貿易戦争の長期化で、韓国の主輸出先である中国が景気低迷に突入したことも雇用にはマイナスに作用した。韓国の輸出は、この1年は毎月続落をたどっており、結果的に失業者を増大させる事態を生み出すことになった。 体力のある財閥企業はともあれ、中小企業、個人商店などでは閉店に追い込まれる事態も多発している。文大統領の独善で拙速な「労働規制」は、韓国経済を縄でグルグル巻きに縛って身動きをできないものにし、財閥企業などが生産拠点の海外移転や、資本やおカネを海外に移転させる動きを加速させた。資本、おカネはいわば自律的に文大統領の政策から逃避する行動を採らざるをえなかったということだ。根底にある「財閥憎し」 歴史を振り返れば、第二次世界大戦前の大恐慌時、イタリアのムッソリーニ、フランスのレオン・ブルムは、週70~80時間という労働時間を週40時間に短縮した。ムッソリーニには「イタリアの国鉄がダイヤ通りに動いた」という伝説が残されている。労働時間の改善で労働者の士気が向上したという逸話である。人民戦線内閣のブルムは世界で初めて「有給休暇」を実行した。旧ロシア及び旧ソ連は「レーニン憲法」で有給休暇を宣言したが、実行はできなかった。ブルムはそれを実現した。 ムッソリーニ、ブルムも社会主義政権であり、「レーニン憲法」をモデルにして労働者に「時短」をもたらした。「時短」は労働時間は減らすが、賃金はそのままだから実質的に大幅賃上げに等しいことになる。ワークシェアリング効果で新規雇用が増加するという目論見(もくろみ)だ。賃上げと雇用増は、景気を押し上げる妙策といわれ、当初は絶大な支持を得ることにつながっている。観念というか、机上の計算ではよいことばかりである。 しかし、問題は資本、おカネが逃げるという面である。資本、おカネも本能的で、敵を知っているわけである。資本、おカネが祖国を捨てて国外に逃げれば、その国の経済は低迷して雇用は減少するという「落とし穴」が控えている。 このように、文政権は、ムッソリーニ、ブルムの政策に相似する政策を行った。資本やおカネを敵に回し、資本やおカネに逃げ出されるという結果も相似している。当初は圧倒的な支持を得ているのも似ている。そして、「落とし穴」もまったく同じだったといえる。 しかも、文大統領は財閥企業などの大企業法人税率を22%から25%に引き上げた。財閥企業が、韓国経済の富を独占しており、文大統領は財閥企業を目の敵にしてきた。「財閥企業憎し」というルサンチマン(恨みの念)によるもので、そのルサンチマンは理解できないものでない。 だが、韓国経済の実体から見ると、これも拙速というか、あるいは思考が足りなかったということになる。文大統領によるGSOMIA破棄から延長への転換でもその拙速さや思考が及ばないというクセやトレンドは払拭(ふっしょく)されていない。それどころかトレンドはまったく克服されず踏襲されている。GSOMIA破棄を実行していれば、資本、おカネを敵に回して、結果は資本、おカネに追い詰められることになった。 GSOMIA延長時に文大統領の韓国政府が無表情に語った延長の前提である「いつでも効力を停止させることができる」ということは「弁慶の勧進帳」のようなものでしかないのではないか。韓国大統領府で開かれた会合でGSOMIAに関する報告を受ける文在寅大統領(韓国大統領府提供・共同) 通貨ウォン売りといった資本、おカネの反乱が文大統領のGSOMIA延長をもたらしたと言ってよいだろう。繰り返すが、資本、おカネの反乱の前に「いつでも効力を停止させることができる」というのはおそらく「空文」「負け惜しみ」に近いものでしかない。 文政権は、レームダック(死に体)に陥っているとみられるが、それは文大統領自らの独善で拙速な左派ポピュリズム政策による帰結であるだけに、敗北感は深いだろう。

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    リブラ「世界通貨」の野心がフェイスブックを焼き尽くすかもしれない

    大井幸子(国際金融アナリスト) ビットコインやフィンテック-金融とITの融合によって、さまざまなイノベーション(技術革新)が続く。そして、フェイスブック(FB)が、新たな「暗号資産」リブラ(Libra)を発表した。だが、リブラの出現を先進7カ国(G7)諸国は歓迎するどころか、脅威と受け止めているようだ。 果たして、リブラは既存の金融システムへの挑戦なのか。本稿では、通貨の本質から問題のありかを解きほぐし、今後の課題を読み解いてみたい。 そもそも、通貨発行ほど素敵なビジネスはない。通貨発行権は「打ち出の小づち」である。 通常、通貨発行権は主権国家の中央銀行が持っている。通貨の信用性はその国の経済力や政治力、軍事力などを総合した「総勢力」で担保される。 FBは世界に27億人のユーザーを有し、リブラはSNS(会員制交流サイト)プラットホーム上でユーザー同士が取引できる「世界共通通貨」を目指す。 しかし、リブラはリアルな「法定通貨」ではない。それなのに「世界共通通貨」になれるのか。 米議会の公聴会の様子からしても、リブラはビットコインなどの暗号通貨とは扱いが違うようだ。暗号通貨は、分散化されたネットワークで管理者不在の自由な取引所で値付けされ、売買される。しかし、ビットコインでいくら儲けても、東京ではビットコインで支払いができる店が限られ、円に交換しないと買い物ができない。2019年7月、フランス・シャンティイで行われたG7財務相・中央銀行総裁会議で集合写真に納まる麻生財務相(前列右端)ら(AP=共同) このように、暗号通貨はバーチャルで私的な取引所で売買され、最も投機的な資産とみなされている。取引所は元締めが儲かる賭博場のようなものだ。FBが運用会社に? これに対して、リブラには実際の資産の裏付けがある。スイスのジュネーブに「リブラ協会」を置き、その信託会社には米ドルや主要通貨で資産が預けられ、資産は短期債などで運用される。 この信託財産は、いわば中央銀行の準備金のような存在で、リブラは国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)のような存在にも見えてくる。しかし、SDRが通貨として流通することはない。 金融面から見ると、リブラの保有者は、この信託資産に裏付けられた「信託受益権(ユニット・トラスト)」の保有者ともいえる。リブラ保有者同士が交換する場合の、価値の基準値は信託財産の価値が反映され、その意味で、この信託会社は運用会社にも見えてくる。そうであれば、運用の良しあしで資産価値は変動することになる。 それでは、FBは運用会社になってしまったのか。FBの収益モデルが変わったのだ。 FBの収益の源泉は広告収入のみで、収益の伸び率は2016年の54%から2018年には37%に減り、このままでは間もなく成長が止まる。そこで、「プロジェクト・リブラ」が始まった。 当初のプランでは、「FBクレジット」での支払いを可能にして、手数料収入を増やすつもりだった。しかし、このやり方では「世界共通通貨」の発行は不可能である。 通貨の重要な機能に「決済」がある。決済ビジネスは巨大な装置産業である。巨大IT企業GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)でさえ、グローバルなクレジットカード会社のシステムを一から構築するにはコストも時間もかかる。 しかも、決済機能は既存の銀行業務と連携しており、参入障壁は高い。そこで、FBクレジットもVISAやマスターカードと協力体制を築くことになった。米フェイスブックが計画するリブラのロゴと、仮想通貨を模した硬貨=2019年6月(ロイター=共同) 現に、Apple Payやアマゾンもまた、eコマース(電子商取引)をクレジットカードに連動させることでビジネス拡大を狙う。Apple Payは電子端末をスマートフォンやスマートウォッチに備えることでカードそのものを取り出して決済する手間を省き、利便性を追求している。データこそ「20世紀の石油」 GAFAは大量の個人の取引データを蓄積しており、同様に膨大な個人の信用データを蓄積しているクレジットカード会社と提携することで、両者はwin-winの関係を築こうとしている。具体的には、両者はクレジットカード会社が徴収する取引手数料とデータ共有による利益を分かち合うことになるだろう。 21世紀のデータは、20世紀の石油に匹敵する「富の源泉」である。油井を掘り当て、蓄積・精製し、ユーザーに届けられるまでの、アップストリームからダウンストリームまでの垂直統合を成し得た数社が寡占する状態になるだろう。すでに、米司法省はGAFAが反トラスト法(独占禁止法)に違反していないか調査に乗り出している。 さて、通貨には、富を生むマネーと生まないマネーがある。評論家の小室直樹氏は「通貨は経済の顔である。通貨は資本になって初めて意味がある」と名言を残した。 通貨は実体経済と結びついて、企業活動として活用され、つまりは資本として設備や人材に投資され、モノやサービスの価値を生み、経済成長を持続させて初めて、人々の生活を豊かにしてくれる。 その点からみれば、リブラがいくら世界中で交換され、取引されてもそれだけでは富を生むことはなさそうだ。なぜか? 資本主義的な生産体制に投資される資本になり得ていないからだ。 さらにいえば、通貨が資本として増殖されていかなければ、通貨の価値は持続性を失う。つまり、リアルな経済力の裏付けがなければ、その通貨の信認はやがて失われる。2019年4月、米サンノゼで基調講演するフェイスブックのザッカーバーグCEO(共同) 極端な例を言えば、ベネズエラのような経済が破綻した国家では、自国通貨の信認はなくなり、国民は国外から物資を調達するためにドルかビットコインで決済しなければならない。 以上の意味から、実体的な経済活動に直結しないリブラは極めてバーチャルな存在なのだ。「世界共通通貨」への道 リブラは今後、金融サービスにおける規制強化、個人情報管理における規制強化を、クリアしていかなければ「世界共通通貨」の道はない。 まず、既存の金融当局はグローバルなリブラ取引をどう管理・規制するのか。特に、銀行口座のない人同士の送金機能に関して、銀行や当局は脱税や資金洗浄といった犯罪に利用されるという理由から、リブラへの規制強化に乗り出す。 もう一点、金融ビジネスの面から見て、クレジットカード機能はリブラ保有者の信用リスクをどう判断するのか。リスクに対応するための貸倒引当金、保険料率など加味すれば、手数料はどの程度軽減され、ユーザーフレンドリーになるのか。 そして、最大の課題は、政治や安全保障に密接に関わる。2016年のブレグジット(EU離脱)と米大統領選挙において、英国のケンブリッジ・アナリティカ(CA)社がFBユーザー8700万人の個人情報に不正アクセスし、世論操作を行ったことが、米司法省によるロシア疑惑問題の捜査を通して明らかになった。CA社は、表向きは「選挙コンサルティング会社」だが、クオンツ系巨大ヘッジファンド創設者が資本を提供し、トランプ大統領の元側近、スティーブン・バノン前米首席戦略官も社員に抱えていた。 CA社は心理戦の軍事技術をマスデータに取り入れ、トランプ勝利のために、ビッグデータの集積、データマイニング(知識採掘)などの革新的技術を政治利用し、個人を狙い撃ちする「マイクロ・ターゲティング」を実施した。具体的にはフェイクニュースの拡散を含む情報操作を行い、相当の効果を実証した。 モラー特別検察官による捜査の過程で、CA社は姿を消した。しかし、CAの手法はさらに磨きをかけて受け継がれている。具体的には個人情報のハッキングや、悪質なフェイクニュース拡散、世論操作やプロパガンダの手口は、ポピュリズムの増長を助けている。 その上に「世界共通通貨」リブラがマネーの新たな経路を提供することになれば、個人の政治信条や経済活動といった全てのプライバシーが丸裸にされて、ある特定の政治目的を持つグループによって集められた個人情報が加工され、操作される。加えて、国家間の外交機密の漏洩(ろうえい)や偶発的な軍事衝突、国庫からの資産の略奪といったさまざまな安全保障上の脅威に発展する可能性もある。2019年7月、米議会で証言するフェイスブックのリブラ事業の責任者マーカス氏(ゲッティ=共同) つい先日、FBのCA社をめぐる個人情報漏洩に関して、米連邦取引委員会(FTC)はFBに50億ドル(5400億円)という巨額の制裁金を科した。今後FBに対する信認が揺らぎ、リブラのビジネスモデルが実現しなければ、FBそのものの存続すら危ぶまれるのではないか。■ 「過激ユーチューバー」を抑えつけるカラクリ■ 日本人好みの「間接自慢」進化系、それがインスタ女子である■ 剛力彩芽はきっとZOZO前澤友作氏を踏み台にする

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    老後2000万円問題「参院選の争点化」に財部誠一がモノ申す

    財部誠一(ジャーナリスト) 正直言って「老後2000万円問題」を真面目に論じることほどバカバカしいことはない。 そもそもこの「騒動」はメディアが「政府が年金など公助の限界を認め、国民の『自助』を呼びかける内容になっている」などとミスリードしたことが発端だ。新聞、テレビお得意の、一部だけを切り取って問題化するいつもの手法だが影響力は絶大で、今度は「2000万円」という数字だけが一人歩きを始める。 参院選を目前に控えていた野党にとってはまさに棚から牡丹(ぼた)餅。「年金は100年安心ではなかったのか」と政府・与党を国会で追及した。これがまたとんちんかんな話で、「100年安心」は年金制度の持続可能に対する政治的キャッチコピーだ。そんなことくらい野党も分かっているだろうが、おいしい話である。「2000万円もの資産を自分で貯めろとは何事か」とフェイクニュースの政治利用を始めた。 もっともここまでの展開は、気分は悪いが、日本社会の日常風景である。本当に驚かされたのはこの後の政府の対応だった。金融庁を所管する麻生太郎財務大臣が報告書を「受理しない」と言い出したのだ。騒動が起こった当初は「遊ぶカネくらい自分で貯めるのは当然だろ」といつもの大雑把な言葉でメディアに反論していたが、公的年金だけでは老後の生活を支えられないと政府が認めるわけにはいかぬと翻意して、報告書を受理しないと言い始めたのである。 年金だけで老後は安泰などという能天気な人間がいるだろうか。老後のために少しでも貯蓄しておきたいと考えるのが日本人の性癖だ。若い世代は自分たちがとんでもない貧乏くじを引かされたことを明確に自覚しているから、年金に対する期待などはなからない。フェイクニュースに乗じて政府批判をする野党の仕掛けにのってデモで憂さ晴らしをする者もいるだろうが、若者の「公助」に対する期待感は恐ろしく低い。正常な反応だ。参院決算委員会で立憲民主党・蓮舫副代表兼参院幹事長(右)の質問に答弁する安倍晋三首相=2019年6月10日、参院第1委員会室(春名中撮影) しかし政治は権力闘争だから、ひとたび「老後2000万円問題」に火がつけば、野党はポジショントークで突っ走る。6月19日の1年ぶりに行われた党首討論も野党のパフォーマンスばかりが目立ち、不毛なことこの上なかった。そして揚げ句の果ては麻生財務大臣の問責決議案まで出す始末。脱線国会はフェイクニュースの醸成所と化してしまった。お粗末だ。それを思うと金融庁の報告書の見識の高さががぜん浮き上がってくる。滑稽な政府の怒り 論より証拠。「老後2000万円」の論拠となっている報告書の該当箇所を読んでもらおう。 夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1300万円~2000万円になる。この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。当然不足しない場合もありうるが、これまでより長く生きる以上、いずれにせよ今までより多くのお金が必要となり、長く生きることに応じて資産寿命を延ばすことが必要になってくるものと考えられる。重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである。それを考え始めた時期が現役期であれば、後で述べる長期・積立・分散投資による資産形成の検討を、リタイヤ期前後であれば、自身の就労状況の見込みや保有している金融資産や退職金などを踏まえて後の資産管理をどう行っていくかなど、生涯に亘る計画的な長期の資産形成・管理の重要性を認識することが重要である。 極めて当然なことを、分かりやすく書いている。もう一カ所、引用したい。麻生財務大臣に「受理しない」と言わしめたところだ。  わが国では、バブル崩壊以降、「失われた20年」とも呼ばれる景気停滞の中、賃金も長く伸び悩んできた。年齢層別に見ても、時系列で見ても、高齢の世帯を含む各世代の収入は全体的に低下傾向となっている。公的年金の水準については、今後調整されていくことが見込まれているとともに、税・保険料の負担も年々増加しており、少子高齢化を踏まえると、今後も この傾向は一層強まることが見込まれる 「公的年金の水準については、今後調整されていくことが見込まれている」というくだりはなんとも婉曲(えんきょく)的だが、要は年金の支給額が減ったり、支給開始年齢が遅くなったりと、支給調整が起こるだろうと報告書は言っている。ここに政府は腹を立てているのだが、なんとも滑稽な話である。 そんなことも分かっていないのんきな日本人がどれだけいるというのか。とんでもなく割をくってしまう若者は例外なしに年金制度に絶望している。報告書の正しい読み方 そもそも公的年金は積み立て方式ではなく、皆で支えあう賦課方式である。少子高齢化に加えて、「人生100年時代」と言われるほど予想外に寿命が伸びてしまったのだから、支給調整は必然だ。本来なら、安倍政権は泰然自若として、この問題に本気で向き合っていく構えを見せれば良かったのだ。社会保障の部外者である金融庁が領空侵犯を犯した上に、よりによって参院選直前に、結果的とはいえ「炎上」させてしまったことに怒りが収まらなかったのだろう。 過ごしたい自分の老後のために、長期分散投資で資産寿命を延ばそうという「報告書」の主張は極めて当然の内容で、本来なら「炎上」するようなシロモノではない。良質な運用会社のファンドに長期間、積み立て投資をしていけば、かなりの確率で資産寿命を延ばすこともできるかもしれない。だが必ずしもそうならない場合もある。今回の「報告書」が金融商品販売のためのセールストークで終わってしまう可能性もある。 しかし「報告書」を読み込んでいくと全く違う結論に至る。 どんな老後を送りたいかは、結局、どう生きていくかだ。 それはお金だけの問題ではない。報告書は「夫婦2人で無職」をモデルに試算したが、いつまでも2人一緒というわけにはいかない。それどころか未婚、離婚、ノーキッズのお一人さまという選択をしている人も今後さらに増えてくるに違いない。 公的年金だけでは不足する収入を補うためではなく、生きがいを感じながら生きるためには「働く場所」が必要だ。ボランティアでもいいし、老後資産を減らしてしまうかもしれないが定年後にスタートアップに挑戦するのもいい。もちろん再雇用でもいい。日本人には「働く場所」が絶対的に必要だ。※写真はイメージです(GettyImages) 先日、国際会議で日本を訪れた欧米人が「死ぬまで働かなければならないなんて地獄」だと言っていたが、日本人は違う。「死ぬまで働く場所があったら天国」なのだ。社会保障制度維持のためなどではなく、自分が必要とされることに幸福感を抱く日本人が多いのではないだろうか。生きるためのコストだって暮らす場所で変わってくる。東京などの大都市と地方では雲泥の差だ。どこで、どう生きていくのか。その前提があって初めて個々人にふさわしいマネー計画ができるのではないだろうか。■「平成バブル崩壊」振り返れば日本の一人負けだった■「老後2000万円不足」報道、こうしてスキャンダルはつくられた■「安倍打倒」に秘策もない、しがない野党共闘はもう飽きた

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    「家計再生」のプロが指南、年金不足に効く3つの処方箋

    横山光昭(家計再生コンサルタント) 金融庁から夫婦で95歳まで生きるには年金だけでは足りず、2千万円ほどの金融資産の取り崩しが必要になるとの報告があったことは、記憶に新しいと思います。各メディアが取り上げ、多くの人が批判をしているという報道が後を絶ちませんでした。 以前から老後資金は3千万円必要だ、いや6千万円必要だなどとされており、年金だけで老後の生活を維持するのが難しいことは、意識されてきたことだと思っていました。そのため、正論を押し付ける気はありませんが、正直個人的には足りなくなるという事実に、なぜこんなにも騒がれているのかと驚きを感じています。意識はされていたとしても「なんとなく」だったわけです。 もちろん、モデルケースの設定などもおかしく(一般的とは言えない)、今回の件に関しては、ツッコミどころが満載でした。自分にはいくらの老後資金が必要なのか、年金が受給できるまではどのような家計的なやりくりで暮らせばよいのか、年金は繰り下げすることがよいのかなどと今まで考えてきたはずなのに、改めて具体的な不足金額として国からの一例を提示されると、深刻さがより現実味を帯び、不安があおられてしまったように感じます。 一応、経緯に沿ってみますが、まずはこの2千万円という数字は、いったいどこから出てきたのか。総務省は毎月、約9千世帯を対象に家計調査をしています。収入や支出、負債や貯蓄などの家計状況を調べているのです。その結果を、1カ月ごとや年次にまとめて、発表しています。 その家計調査の2017年の結果によると、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯は、収入よりも支出が5万4500円ほど多い、つまり赤字であるという結果が出ています。この金額の30年分が約2千万円である、ということなのです。 要するに、平均的なデータに基づく参考値なのです。ゆえに、この結果が万人に合うとは言えません。また、この生活費の不足だけではなく、老後は介護医療、リフォーム、楽しみなどに備えた「予備費」も必要です。この平均的なデータについて言うならば、予備費を加えて「3千万円が不足する」という方が、妥当な気がします。 必要な老後資金についてお伝えすると、不安を抱かれるかもしれませんが、ここで理解してほしいのは、一般的な必要金額と「自分にとって必要な金額」は、全く違うということです。まずは自分が毎月の生活にいくらの金額を使っているのか、把握することが大切なのです。その必要生活費と毎月もらえる年金額(見込み額)が、今後準備すべき資金となります。自分がいくらの年金をもらえるのか、ということは分かりにくいことだと思いますが、「ねんきん定期便」を参考にしたり、「ねんきんネット」から試算したりしてみると、今よりも具体的になるでしょう。図解入りになる「ねんきん定期便」改善後のイメージ 老後に必要な資金を準備するにあたり、貯めたり、生活を維持するために必要なことは、1、毎月の収入金額を上げること2、毎月の支出金額を減らすこと3、運用などでお金を増やすことであると考えています。 今回の試算の元となった世帯は、夫は会社員、妻は専業主婦という世帯で、夫の厚生年金と妻の国民年金とその他で毎月約21万円の収入です。ですが、この妻がもし共働きで、厚生年金に加入していたとしたらどうでしょう。妻も厚生年金を受け取ることができれば、毎月の収入額は試算よりも増えることでしょう。今は共働き夫婦が多くなっていますから、そういう年金の増やし方も可能です。慌てることはない また、今は雇用延長や65歳、70歳を過ぎても働ける場所があるなど、老後も収入を得られる可能性が高くなっています。長く働くことができ、70歳の上限まで厚生年金に加入できれば、年金額を増やすことができます。働いて得たお金で毎月の暮らしが成りたち、年金の繰り下げができれば、もらう年金を最大42%増しにすることもできます。 年金生活でも、このように収入を増やす方法を考えることはできるのです。 また、支出の削減は必要不可欠です。年金受給額に生活費の金額が近づき、補てん額が少なくなれば、必要な老後資金は減ることになります。もし、年金の範囲で暮らすことができる幸せな状況であれば、老後資金は予備費と楽しみ代程度でよいでしょうし、2万~3万円の補てんで済ますことができれば、必要な老後資金は720万~1080万円と予備費です。退職金などをもらえる人であれば、すぐに何とかできてしまいそうです。 逆に生活の質を下げることがどうしてもできず、老後資金から生活費に補填する金額が10万円、20万円となれば、例え2千万円の退職金がもらえていたとしても、それは8~16年ほどしか持ちません。生活費のかけ方、暮らし方を早急に見直す必要があります。 そして、最後に運用の勧めです。今回の「2000万円不足」の話題では、多くの人が口々に「運用なんて」ということを話していました。たしかに日本人は運用慣れしていませんし、尻込みしている人も多いと思います。 ですが、ここ数年で、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」「つみたてNISA」といった、長期分散が可能な、積立型の非課税投資制度を国が用意しています。運用なので全くリスクがないとは言えませんが、長期的に見れば預貯金よりも利回りがよく、老後資金作りには最適な投資制度です。  投資が肌に合わないという人は、無理に始めることはないと思っていますが、インフレリスクにも強く、複利でお金を育てやすい投資は、「貯蓄をしてもなかなかお金が増えない」という人、自営業で退職金制度はないという人にこそ継続的に取り組んでほしいものだと思っています。 iDeCoやNISAを国が勧めるということは、のんきに1500兆円もの個人金融資産を、預貯金などのままにしておいたら、いい加減マズイんですよ!というメッセージにも私には感じ取れるのです。このままでは…という思いはこれまでも幾度となく発信はされてはきたと思いますが、大きくは変わらなかったのです。何をやっても言っても無風、そこからやっと風が吹いたのです。2017年3月、個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」の広報イメージキャラクターを務めるフリーアナウンサーの加藤綾子。右は橋本岳厚労副大臣 このように3つのポイントを意識しながら、まだ老後まで時間がある人は準備をするとよいと思いますし、既に老後生活に近づいているという人は実践しつつ、可能な限り自己資金を増やすことに取り組んでいただけたら、老後もそんなに怖くはないと思います。 人生100年時代、現役時代を終了した30~40年を、国の保障だけで、または自分の資産だけで何とかしようとするのは簡単なことではありません。労働に費やした年月と同じ期間の生活費を社会保障や蓄えだけで何とかできる人は少ないのです。 だからこそ、生活費をある程度楽しみが持てる範囲を維持しつつ抑え、かつできるだけ長く働く。これが老後を乗り切るために必要なことだと私は考えています。慌てることはないのです。「自分の場合」を見据えていきましょう。■ 「老後2000万円不足」報道、こうしてスキャンダルはつくられた■ 「老人を鞭打つ」ニッポンの働き方はここが変■ ヤンキーも逃げ出す「超おバカ社会」がニッポンにやってくる

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    枝野幸男の「自慢」が文在寅とダブって仕方がない

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 「野党は本気で消費増税を凍結しようとしている!」「野党は本気で反緊縮政策をやろうとしている!」。選挙が近くなると、インターネット上ではこのような意見を頻繁に目にするようになる。 私はそのような意見に極めて懐疑的だが、そのような考えを表明すれば、「おまえは緊縮主義者だ!」とレッテルを貼られ、誹謗(ひぼう)中傷の言葉まで浴びせられることが結構な割合で起きる。選挙というか政治に振り回される人たちは昔も今も多い。 主要野党が本当に10月の消費税率10%引き上げにストップをかける気があるのだったら、19日の国会での党首討論はその絶好の場だった。安倍晋三政権は消費増税を今のところ実施するつもりだし、立憲民主党と国民民主党、日本共産党は、ともに消費増税に反対を表明している。 消費増税を論点にして、実施の是非を問うには最大の見せ場であったはずだ。3党がタッグを組んでいけば、「消費税解散」に持っていくことさえもできたかもしれない。 だが、党首討論で各党が主要なテーマとしたのは、いわゆる「老後2000万円不足」問題という年金の話題だった。世論調査では年金や社会保障の問題への関心が高いこと、また過去の「消えた年金」問題を契機にした政権交代の「うまみ」が忘れられないのか、野党陣営によるこの問題への執着は強いものだった。 「老後2000万円不足」問題については、先週のこの連載で解説したように、年金制度自体の構造的問題ではない。もっぱら、マスコミの報道の仕方やそれに便乗した政治勢力の選挙向け「プロパガンダ」といっていい。2017年11月、衆院本会議後に立憲民主党の枝野幸男代表にあいさつする安倍晋三首相(右、宮崎瑞穂撮影) 日本経済の先行きが悪化していく中での消費増税こそは、選挙の最大の争点になるはずだ。その争点を口では「凍結」「廃止」「延期」などと野党が叫んでいても、本気度はあいかわらず極めて低い、というのが実情だろう。韓国を思わせる経済政策 野党が一丸となって、消費増税を争点にして内閣不信任案を出せば、それこそ「消費税解散」となる展開も期待できた。しかし、党首討論の場も含めて、野党側は安倍首相に解散の意図がないことを確認したうえで、これから内閣不信任案を出す展開になる。 これでは、政治的に消費増税を止める絶好の機会を、野党は自ら失ったといえる。内閣不信任よりも、まず野党に対する不信が増大する結果ではないか。 消費増税に関する本気度が低いのは、実は野党の経済政策観に大きな問題があるのかもしれない。特に、最大勢力の立憲民主党の経済政策は、まるで韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権を思わせる内容だ。 20日、夏の参院選に向けて発表された経済政策「ボトムアップ経済ビジョン」では、最低賃金の引き上げや再分配政策に重点を置く一方で、金融政策への関心は特に主軸ではなかった。アベノミクスの成果が国民所得を削り、中間層を激減させたままだとして、「実質賃金」を上げることで中間層を再生するとしている。 韓国の文政権が最低賃金を急激に上昇させたことで、企業の雇用コストが増加し、それで失業率の増加を招いたことは明らかである。だが、最低賃金の引き上げが韓国で大きなマイナスのショックを生んだ背景には、文政権が積極的な金融政策を採用しなかったことに失敗の直接原因がある。 財政政策は積極的な姿勢を見せているが、あくまで再分配機能が中心だ。要するに、パイの大きさが一定のまま、パイの切り方を変えただけにすぎない。金融政策と財政政策を同調させ、経済に刺激を与え続けることが、現在の韓国のように完全雇用には程遠い経済にとっては必要だ。2019年5月、韓国・世宗で開かれた国家財政戦略会議で発言する文在寅大統領(韓国大統領府提供・共同) 立憲民主党の政策でも、金融政策に関する低評価が鮮明である。アベノミクスは金融政策の効果で雇用回復を実現したわけで、アベノミクスを否定するためには、やはり金融政策の効果を積極的に肯定できない政治的事情があるのだろう。 ちなみに、立憲民主党が目標に掲げている実質賃金とは、平均的な名目賃金水準を物価水準で割った値である。名目賃金が同じままであっても、物価水準が下落してしまえば、実質賃金は上昇する。党首討論の「デフレ自慢」 つまり、デフレが深刻化すればするほど、実質賃金は上昇するのである。デフレの加速は、日本では不況と同じになりやすいので、デフレ不況を加速させるということになる。 そもそも、実質賃金自体が経済の回復期に複雑な動きをしやすい指標だ。実質賃金の「分子」となる名目賃金は、あくまでも平均賃金なので、雇用が回復して職を得る人が増えれば平均値が下がることが多い。なぜなら、新卒や再雇用といった新しく職を得る人たちは、既に働いている人たちに比べて給料が低いのが一般的だからだ。 もちろん、経済が安定していく中で完全雇用に達していれば、実質経済成長率や実質賃金なども安定的に増加していくだろう。だが、その実現の経路を示さずに、単に実質賃金を政策目標にすることは「デフレ自慢」になりかねない。 実際に、立憲民主党の枝野幸男代表は党首討論で「デフレ自慢」をしていた。ただ、枝野氏が民主党政権時代の「反省」を表明したことを、多少評価しなくてはいけない。 しかし、その「反省」さえも経済政策的には空虚なものだった。枝野氏は党首討論で「私は民主党政権の一翼を担わせていただきました。至らない点がたくさんあったことは改めてこの場でもおわび申し上げますが、経済数値の最終成績は実質経済成長率。10~12年の1・8%、2013年から18年の実質経済成長率は1・1%。これが経済のトータルの成績であると、私は自信をもって申し上げたい」と述べた。 これに対して、安倍首相は「実質成長の自慢をなされたが、名実逆転をしている実質成長の伸びはデフレ自慢にしかならない」と指摘した。「名実逆転」とは、名目経済成長率よりも物価変動を取り除いた実質経済成長率が高い現象を意味している。2019年6月、「経済ビジョン」発表に臨む立憲民主党・枝野幸男代表(手前)。奥は逢坂誠二政調会長(春名中撮影) 要するに、これはデフレが進行している状況であり、日本では雇用悪化が同時に進行する「デフレ不況」「大停滞」だったと安倍首相は指摘したわけである。立憲民主党の経済政策は、実質賃金の増加を強調しているが、枝野氏による「デフレ自慢」の経済観を合わせて考えると、日本の経済政策を任せることは到底できないように思う。■ 「利上げして景気回復」枝野幸男の経済理論が凄すぎてついていけない■ 「日本を奴隷扱い」文在寅の外交ゲームを攻略するベスト戦術■ #MeTooに便乗した枝野幸男のセクハラ追及は「限りなくアウト」

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    米中貿易戦争「日本が得する」逆転シナリオが一つだけある

    熊野英生(第一生命経済研究所首席エコノミスト) トランプ米大統領が用意している中国への制裁関税第4弾が、日本経済を本格的不況に陥れるのではないかと恐れられている。これまでの制裁で、意識的に除外されてきたiPhoneや日用品に関税率が上乗せされることは、米国の消費者と中国の生産者、そして中国企業に部品や設備を供給している日本企業がダメージを受ける。 この対立を巡って、「トランプ大統領が理不尽だ」という側面をクローズアップすると、日本には何のメリットもないように感じられる。筆者も、自由貿易の考え方に基づいて、トランプ大統領のことは何一つ支持したくない。 しかし、今回、改めて米中対立の構図を吟味して、米中貿易戦争は日本企業にも何かメリットがあるのではないかという別の視点を考えてみた。その結果、日本にとってメリットのある展開は、中国にも中長期的なメリットがあると考え方を進めた。 すなわち、日本企業が長く悩まされてきたのが、数多くの中国の構造問題である。それは、欧米企業でも共通している。最も代表的なのは、巨大な産業補助金の問題である。日本では、経営が悪化した一部の電機メーカーは、経営の失敗と指弾され、メディアからバッシングされる。その一方で、背後に隠れた中国企業の補助金問題はほとんど語られることがない。補助金で支えられた企業と競争すると、日本企業は価格競争でも勝つことができないのだ。 これまで、中国の成長に期待して進出した多くの日本企業もまた苦労してきた。現地で合弁企業をつくると、そこでは思うように活動ができなかった。行政上の手続きはやや恣意(しい)的であり、海外製品が不利に扱われることもあった。G20首脳会合に合わせ、中国の習近平国家主席(左端)との会談に臨むトランプ米大統領(右端)=2018年12月1日、アルゼンチン・ブエノスアイレス(AP=共同) 最近は人件費の高騰によって、低コストのメリットも失われてきている。当初の期待が思うようにならなくなってきているのが実情である。従業員の離職率の高さや、労務管理の難しさもある。さらに、現地で人民元で稼いだ利益を外貨に戻して持ち出すことが制限されたり、債権回収が困難であるということもある。これらの課題は、日本とは違う国だから仕方がないという一言で片付けるわけにはいかないだろう。 今回、トランプ大統領は、特に技術移転の強要と、知的財産権の保護を求めている。米中協議の中で、これら中国特有の不公正なルールの是正が持ち出されていることは、日本企業がこれまで求めてきた問題の是正とも共通している。実は、中国でもこれらの構造問題が是正されることを望んでいる良識派は少なくない。例えば、中国でも知財に絡んだ訴訟は多く、今や中国は米国以上の訴訟大国とされる。こうした課題の解決は、中国企業にとってもメリットになるはずだ。習近平の「新しい秩序」 貿易戦争の緊張感が高まっていく中で、根拠のない楽観論があることも事実である。トランプ大統領は、強烈な圧力を中国にかけているが、楽観論者はそれは自作自演のアピールであり、それほど困った状態にはなるはずがないという。水面下で米国と中国は握っていて、時間がたつと、どこかで昔よりも良好な関係に戻るというのだ。 筆者はそうならないだろうし、それが望ましいことだとも思わない。対立がなくなる→経済の火種はなくなる→万事まるく収まる、という発想は正しくはない。中国ビジネスの抱える矛盾をそのまま看過することになるからだ。 中国の構造問題には、北朝鮮問題にも同じようなところがある。トランプ大統領は、北朝鮮に圧力をかけて金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を対話の場に引きずり出した。今も交渉が決裂しないか、筆者はハラハラしてみている。この交渉の目的は北朝鮮の非核化である。米朝の緊張関係はなくなった方がよいと思うが、最終的な目標が達成されなくては意味がない。 おそらく習近平体制は歴代中国の政権の中で、厳しい改革を成し遂げる実力を持っている数少ない政権だろう。習主席が、これまで腐敗防止と綱紀粛正によって、国民から支持を得てきたことは周知の事実だろう。その対象を不公正な取引慣行やルールに向けて、新しい秩序をつくることは可能だと考えられる。 逆に、なぜ習主席はそれを行わずにいるのか。それは、公正なルールづくりよりも、中国企業が他国の技術を盗用することを見逃しながらでも、経済発展を優先したいと考えているからだろう。そのことは、先進国では許される行為ではないが、急速に大国化する中国にとっては必要悪と考えているのだろう。 多くの人は、トランプ大統領があまりに性急な貿易不均衡の是正を求めていることの間違いには気が付いていると思う。その一方で、中国もまた性急な経済発展を求めていて、それが公正なルールの順守を軽視する素地(そじ)を作っていることは見逃されやすくなってしまう。中国は、経済強国という夢を捨てて、もっと穏健な「普通の経済大国」を追求することを目指した方がよい。 時間をかけてでも、米国が訴える公正なルールづくりに大枠で賛同する方が、中国は日本や欧州の良識派を味方につけやすい。会談を前に握手する安倍晋三首相(左)と中国の習近平国家主席=2018年10月26日、中国・北京の釣魚台迎賓館(代表撮影・共同) 最後にもう一つ。中国経済は、現在、大きな曲がり角に来ている。これまでの人件費高騰に加えて、貿易戦争のようなリスクに直面して、以前よりも日本企業にとって魅力が感じられなくなっている。日本企業の中には、ベトナムやタイに生産拠点を移す動きもある。これまで問題を抱えながらも、中国への進出をしてきた日本企業が行動を変化させつつあるのだ。 おそらく、中国が公正な企業活動を目指して自己改革をすることは、再び日本企業にとって中国市場の魅力を高めることにつながるだろう。それを遅らせることは、日本や欧米企業の中国離れを加速させる。自己改革こそが中国のためにもなることを肝に銘じるべきだろう。■安倍外交85点の理由は「欧米と仲良く、中国と喧嘩せず」■「米国はもう崖っぷち」5G戦争、ファーウェイ排除のウラ側■米中貿易戦争の渦中で激化する韓国「謝罪ゲーム」のツケ

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    平成最後の日に伝えたい「天皇の師」小泉信三の教え

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 「平成」という時代が終わる。平成は経済が停滞したこと、そして日本が大規模な災害に直面したことでも記憶に残る時代となるだろう。個人的な思い出も含めて、一つの時代が終わることに、深い感慨を誰しも抱くに違いない。 平成の経済停滞と大規模災害を振り返るとき、参照すべき一人の人物を想起する。経済学者の小泉信三(1888~1966年)である。 小泉は、天皇陛下の皇太子時代に影響を与えた師として、今日では有名である。また、大正から昭和前半にかけて、経済学者だけではなく、文筆家としても著名であった。 慶応義塾大学では、教員として多くの逸材を育て、さらには塾長となって大学の発展に貢献した。昭和24(1949)年には東宮御教育常時参与を拝命し、皇太子の教育の責任を長く果たした。 小泉の貢献で注目すべきものは、「災害の経済学」という観点だ。日本でも、大規模災害に直面するごとに、経済活動が停滞し、人々の気持ちが沈み込むことなどで社会的にも「自粛」的な空気が流れることが多い。 もちろん、災害によって被災された方々に思いを寄せることは何よりも大切だ。同時に小泉は、大規模な災害のときこそ経済を回すことが重要であることを説いた。「みどりの式典」に出席された天皇、皇后両陛下=2019年4月26日、東京・永田町の憲政記念館(代表撮影) 小泉の直面した最初の国家的災害が、大正12(1923)年の関東大震災であった。死者・行方不明者10万5千人余り、日本の当時の国富の約6%を失い、また年々の国民所得でいえば約47%を失う大きな経済的被害も合わせてもたらした。 首都圏では多くの人たちが被災し、公園などで長期のバラック住まいを強いられた。また職を失い、生活の基盤を根こそぎにされた人も多かった。当時の政権の経済政策はデフレ志向の緊縮政策であり、そのことも災害の事後的な悪影響を人為的に拡大していくのに貢献した。「災害の経済学」は平時にあり 当時、小泉の自宅のあった鎌倉でも被害が広がっていた。辛うじて自宅の倒壊を免れた彼は、当時の復旧活動や鎌倉での罹災(りさい)共同避難所での活動を記録した。 小泉の記録では、官僚的で中央集権的ともいえる被災者へのずさんな対応に対する批判が記されている。一方で、現場の人たちのボランティア的活動を高く評価していた。 その中から、小泉が唱えたのが「災害の経済学」である。これは、直接には英経済学者アーサー・セシル・ピグーの経済学を応用し、それを小泉独自に発展させたものだ。特に、大規模な災害に直面した社会では、何よりも経済を回すことの重要性が唱えられていた。 被災地を支えるためには、災害の難を逃れた地域や人たちの経済活動が重要になる。もし被災しなかった人たちまでも経済活動が停滞してしまえば、それは被災地の支援にも大きなダメージを与える、というのが小泉の基本的な視座だった。 その上で、小泉は災害によってレジャーなど奢侈財(しゃしざい)への消費を自粛することもよくないと指摘した。これは、当時としてはかなり思い切った主張だろう。皇太子妃選びの中心的役割を担った小泉信三。若き日の皇太子さま(現在の天皇陛下)の「教育」に携わった 「自粛」という空気によって、スポーツや芸能、旅行などのレジャー消費が停滞することで、日本の経済全体を冷え込ませ、被災地を支えるべき経済まで損ねてしまう、というのが小泉の独創だった。それには、災害に遭った人たちに心を寄せることが大前提になることはいうまでもない。 また、小泉は関東大震災後、それまでにも増して文化的活動に傾斜していく。中でも、自らが名選手として知られたテニスをはじめ、スポーツに対する理解と賛助は大きかった。 小泉は、「災害の経済学」が、実は災害が起きていない「平時の経済学」でもあると説く。平和でも災害の下でも、人はスポーツなどのレジャーへの支出を重要視すべきだ、というのが小泉の主張である。「御成婚」へと至る道 一つの形として、テニスが文化的で創造的な消費だと、彼はとらえた。この小泉のテニスへの理解と啓蒙(けいもう)活動が、後に天皇、皇后両陛下が、軽井沢でのテニスを縁にした御成婚へと至る道を敷いたといえるのではないか。 小泉は陛下の皇太子時代にともに読書をし、さまざまな対話的教育の場を設けた。その貴重な記録は、『ジョオジ五世伝と帝室論』(1989年、文藝春秋)をはじめとする著作に残されている。 この著作には、陛下が理知的で、誠実で、およそ軽薄から遠い人物であることが、小泉の明晰(めいせき)な文章でつづられている。皇太子時代から今日まで、われわれ国民の広く知る人物像が、既にして若きころから育まれていたことがよく分かる。この本の中には、前述したテニスコート上の両陛下の出会いが描かれている。 昭和33年夏、軽井沢のテニスコートで、まだ独身であった両陛下が混合ダブルスで対戦し、皇后さまのチームが勝利したのを、小泉は目撃したという。このとき、陛下もまた小泉もその勝利した女性が、後に皇太子妃になることを想像もしていなかったと書いている。少し長いが、小泉の文章を引用しよう。 右のような次第から、このたびの御婚約を、テニスによって結ばれた御縁などといいそやすものがあれば、それはあまりに通俗的な想像であるが、しかし、何事にも慎重で、堅実な殿下が、その後も正田嬢をテニスコートで御覧になる機会を得られたことは、少なからず御判断を助けたことと思う。まことに幸せな次第である。『ジョオジ五世伝と帝室論』181ページ 小泉はお二人の今後の生活にも、その責務を担いながらも、どうかその間もお二人だけの楽しい時間をお持ちになるようにと、ここでも余暇(レジャー)の必要性を書いている。小泉の気持ちは若いお二人にも届く優しさであったろう。 御結婚の後は、義務の多い生活をお送りにならねばならず、お二人ともに十分にその御用意のあることを信ずるが、どうかその間にも、少しでも多くお二人だけの楽しい時をお持ちになっていただきたいと思う。お側(そば)の者も心しなければなるまい。『ジョオジ五世伝と帝室論』181ページ1958年12月、婚約内定後、東京都内でテニスを楽しまれる皇太子さまと正田美智子さん 「平成」から「令和(れいわ)」に元号が変わっても、われわれのさまざまなレジャーや文化活動をさらに発展させ、そしてさまざまな困難の前でも経済的に「自粛」することなく、経済活動をたくましくする。そして、困窮にある人たち、弱い立場に陥った人たちに、心でも経済でも寄り添うことが必要だろう。そのことを小泉の「災害の経済学」は教えてくれるのである。■新元号「令和」と「昭和」の知られざる共通点■「天皇はかくあるべし」上から目線の知識人が錯覚した陛下のお気持ち■もし父親なら小室圭さんに娘を託せるか、ましてや皇女である

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    物価上昇率250万%、ベネズエラ「超インフレ」より怖い反米思想

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 南米ベネズエラが国家的な危機に見舞われている。同国の独裁政権であるマドゥロ政権に対抗して、グアイド国会議長が暫定大統領の就任を表明し、米国や欧州各国がその地位を承認した。これを契機にして、マドゥロ政権に対するベネズエラ国民のデモがさらに活発化し、政権側の弾圧も厳しさを増している。 経済面を見ても、ベネズエラの苦境は深まっている。特に注目を集めているのは、ハイパーインフレーションの進行だ。 ハイパーインフレの厳密な定義はない。だが、前期比250万%を上回る水準で物価が高騰しているベネズエラは、誰が見てもハイパーインフレの典型例だろう。「IMF Data Mapper」により筆者作成 モノやサービスの値段が急騰しているということは、それと交換に使われる自国通貨(ボリバル・ソベラノ)の価値が激減していることと同じである。図はベネズエラのインフレ率の推移を描いたものだ(「IMF Data Mapper」により筆者作成)。国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し」によると、やがて1千万%まで上昇すると推測されている。 ハイパーインフレのもたらす弊害は大きい。生活必需品を含めて、日々の暮らしが困ることは容易に想像できるだろう。 自国通貨が「紙切れ」同然のために、生活必需品を外国の通貨や物々交換で手に入れることが常態化する。当然、消費水準が抑制されてしまうので、経済活動は停滞する。失業者は増加し、世情も不安定化してしまうだろう。 現在のベネズエラの1人当たりの国内総生産(GDP)は、1ドル110円換算で年およそ34万円であり、日本の13分の1ほどである。インフレの加速が始まった2016年からは、ほぼ半減してまった。 失業率も急上昇しており、ハイパーインフレの出現とともに、2015年は7%台だったが、2018年は38%台まで上昇したと推定されている。若年雇用の失業率はおそらくこの倍以上だろう。日常的な感覚では、若い人は軍人や警察以外で働いている人を探すのが困難なレベルかもしれない。必然的に世情が不安定になる。 このハイパーインフレの原因は、簡単に言えば、マドゥロ政権の財政政策と金融政策といった政策の束(レジーム)の毀損(きそん)である。このレジームの失敗によって、国民の大半が、財政は放漫であり、金融はインフレ放任であることを固く信じている。2019年1月、ベネズエラの首都カラカスの精肉店。壁に掲げられた肉の価格は空欄になっていた(共同) 米国の研究者はさらに踏み込んで、「マドゥロ政権自体の維持不可能性が、このハイパーインフレの真因である」と主張している。つまり、政権瓦解(がかい)とそれに代わる新政権が国民に信頼されることが、ベネズエラの再生にとって不可欠だという見方だ。 もともと、ベネズエラは豊富な石油資源を活用することで、中南米でも富める国であった。半世紀前の生活水準は、当時の米国の8割ほどに迫っていて、事実上の「経済先進国」とも言えた。「為替レート」崩壊のワケ だが、他方で経済格差は深刻の度合いを深め、やがてそれは「反米」を唱えるチャベス前政権を生み出す原動力となった。取りあえず、米国の国際金融資本が石油で得た富を奪い、それが同国に貧困と格差を生み出したという、「チャベス流」にありがちなストーリーが生まれた。いわば、「『米国流』の新自由主義の犠牲者だった」というのが、チャベス前政権やそれを支援している世界の左派勢力による主流の見方であったのだろう。 そして、マドゥロ政権がハイパーインフレなどの経済的苦境に陥っているのは、主に米国などによる経済制裁が原因だという見方をする人たちもいる。だが、ハイパーインフレは本当に経済制裁が原因なのだろうか。 国際金融において「マンデルの三角形」という考え方がある。一国においては、「為替レートのコントロール」「資本移動の自由」「金融政策の自律化」のうち、同時に二つしか採用できないというものである。 この枠組みで考えると、ベネズエラ経済の現在が理解しやすくなる。簡単に言うと、マドゥロ政権は為替レートのコントロール、資本移動の自由の二つを採用している。これが今回のハイパーインフレを準備している。 チャベス前政権では、為替レートのコントロールを固定為替レート制で実現しようとした。これは同国の通貨を「割高」に維持するためのものだった。 ベネズエラの輸出は石油が大半を占め、国内経済もチャベス前政権から現在まで急速に原油依存体質を強めた産業構造になっている。自国の通貨高はベネズエラの現在の経済構造からいえば「生命線」だと、政権側が考えているのだろう。 為替レートのコントロールは、実際には政府とベネズエラの中央銀行が行うことになる。つまり、金融政策は為替レートのコントロールに使われることになり、国内の経済状況への対応には財政政策が割り当てられる。 チャベス前政権では、経済格差を根絶しようと、低所得層向けの社会保障の支出を急増させていった。他方で価格統制も行われ、自由な経済活動は損なわれていった。 また近年では、原油価格の国際的下落により、先述の産業構造上、ベネズエラ経済が急速に低迷した。膨張する支出と、経済悪化で縮減する政府収入の中で財政状況が悪化し、そのファイナンスをやがて中央銀行が発行するマネーそのもので行うようになる。つまり「財政ファイナンス」という手法である。これは中央銀行のマネタリーベース(資金供給量)の急増を生む。2019年1月、ベネズエラの首都カラカスで、同国の憲法を持ちながら話すマドゥロ大統領(ロイター=共同) これ以前「割高」に維持された為替レート制が、マドゥロ政権誕生の2013年以後、頻繁に引き下げられていったのは、このような国内事情による。ここまでの話を考えれば、米国などの経済制裁が一切関係ないことが分かる。 ハイパーインフレが出現する主因は、為替レートのコントロールを意図し、さらに財政支出の放漫な増大の結果、金融政策を失敗することに帰結したことによる。一見すると「マンデルの三角形」でいうと、今のベネズエラ経済は、変動為替レートと資本移動の自由の組み合わせのように思える。それは大きな間違いで、上記の事情から、金融政策の自律化を大きく損ねた状況になっているのだ。「反米」で失政隠し そうして、事実上「通貨安シンドローム」が反映されたことで、現在のハイパーインフレが出現している。その通貨安シンドロームはチャベス、マドゥロ両政権が採用した、左派的な財政拡大路線や、価格統制や最低賃金の引き上げによる民間経済の抑制、原油依存の産業構造への「転換」という政策の失敗によるものだ。 わかりやすくいえば、政府のツケを中央銀行がおカネを刷って、どんどん払ったために、自国通貨の価値が対外的に大きく下落せざるを得ないのである。このとき、金融政策はインフレを沈静化する役割を失っている。それが「金融政策の自律化がない」という意味だ。 反米や反新自由主義を唱える左派勢力には、ハイパーインフレは欧米の経済制裁の結果であり、生活必需品の不足によるものだという認識だろう。だが、生活必需品の不足もチャベス、マドゥロ両政権の左派的な政策が引き起こした高インフレ、ハイパーインフレの帰結である。 日本共産党は樹立当初のチャベス政権に対して、新自由主義に抗する反米政権という理由からも、その活動に期待を表明していた。最近は、マドゥロ政権の独裁ぶりへの批判に転じているが、日本共産党は「反米」「反新自由主義」にこだわる余り、チャベス、マドゥロ両政権の評価を首尾一貫したものとはしていない。前述したように、マドゥロ政権の混迷は、既にチャベス前政権の政策で準備されていたからだ。 また、経済評論家の上念司氏の指摘のように、日本の左派勢力が唱えるような「平和的な解決」を主張することは、ベネズエラ国民の生命を脅かし、実際に数多く奪っている状況のもとでは、独裁政権に利するものだと言っていい。 ちなみに、ここまで書くと、「安倍政権だって『財政ファイナンス』ではないか。日本銀行の信認が失われかねない」という皮相な見方が出てくると予想される。だが、日本の財政は「緊縮スタンス」で運用されてしまい、それが経済の安定化を成し遂げられない原因になっている。 むしろ、放漫財政に伴う経済悪化の心配よりも、緊縮財政による悪化の心配をすべき段階である。実際に、ベネズエラと大きく違い、今の日本のインフレ率は0%をわずかに出たぐらいだ。急激にインフレ率が加速する心配もない。 なぜなら、中央銀行が為替レートに振り回される状況ではなく、国内の経済状況を分析した上で2%のインフレ目標を採用し、運用しているからだ。急激なインフレが起きない仕組みが採用されているのである。2019年2月、国会で記者会見する共産党の志位委員長 もっとも、このインフレ目標を日銀が採用する前まで、日本ではベネズエラと逆に「円高シンドローム」という状況に置かれ、デフレ不況が続いていた。今思えば、情けない限りである。しかも、今秋に予定されている消費税率10%への引き上げは、日本の経済政策の失敗を再び引き起こしかねない。ベネズエラと同様に、日本でも経済政策が失敗すれば、また「失われた20年」に逆戻りしてしまうだろう。 ベネズエラとブラジルの国境では、援助物資を受け取ろうとした民衆に、政権側が発砲して死傷者が出た。郵便学者の内藤陽介氏が指摘するように、このような民衆への発砲は、およそ貧困層への共感をもとにして生まれた政治体制とは思えないものだ。 日本国内でも「反米」や「反新自由主義」というイデオロギーで、この独裁政権の振る舞いを、事実上肯定する人たちもいる。一方で、独裁政権も「反米」などの旗印で、自分たちの経済政策の失敗を隠そうとするだろう。そこに政治イデオロギーの持つ本当の恐ろしさがある。■ 消費増税廃止、マハティールにできて安倍首相にできない道理はない■ 「失われた20年」日銀無罪の論法はちゃんちゃらおかしい■ 消費税率10%、安倍首相の決断で甦る「失われた3年」

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    激変の時代、平成ニッポン証言録

    平成がいよいよ終わる。「平成最後の」という言葉が世に溢れるが、今年は文字通り新たな時代の幕開けである。「衰退の時代」とも揶揄された平成はどんな時代だったのか。各界のキーマンたちの証言録で30年史を振り返る。

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    「平成バブル崩壊」振り返れば日本の一人負けだった

    財部誠一(ジャーナリスト) 「平成」という時代は、日本の近代史において例をみない「有頂天」から始まった。 平成元年(昭和64年)、日経平均は3万8915円の史上最高値をつけ、世はまさにバブルの絶頂期にあった。この年を象徴する出来事は、やはり三菱地所によるロックフェラーセンターの買収だ。そして「東京23区の土地で米国全土を買える」と調子にのった。今振り返れば滑稽きわまる話だが、当時は金融界も投資家もついに日本は「世界一の債権大国」になり、ジャパンマネーの行く手を遮るものなしと浮かれていた。 その有頂天気分はバブルが崩壊した後もしばらく続いた。株価や地価が急落し始めても「押し目買い」のチャンス到来くらい軽く受け止めていた当時の気分だった。その後に大手銀行や大手証券会社が次々に倒産し、阿鼻(あび)叫喚の金融崩壊がやってくることなど全く想像もしなかった。 バブル崩壊ネタを扱うたびにテレビ局は山一証券社長の号泣会見ばかりを流すものだから、バブル崩壊というと山一証券を連想するようになってしまったが、実際には平成9年の11月に三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券が一挙に破たんし、日本の金融秩序のメルトダウンが始まった。 その後、日本長期信用銀行と日本債券信用銀行が破たん、並み居る大手都市銀行も危うくなり、合併を繰り返した末に現在の3メガ体制に移行。最終的には10兆円を超える公的資金が銀行に投入され、ようやく不良債権処理にピリオドが打たれたのは平成16年だ。バブル崩壊から実に16年もの歳月を要したことになる。記者会見で自主廃業を発表する、山一証券の五月女正治会長、野沢正平社長(右)=1997年11月 こうしてみると、バブル崩壊そのものが問題だったというより、バブルの敗戦処理を誤ったことが長期にわたる日本経済低迷の元凶だったことが分かる。バブルは資本主義における不可抗力のようなもので、世界中で繰り返し起こってきた。 平成の時代にも、タイの通貨危機から始まったバブル崩壊でインドネシアや韓国は大打撃を被ったが、過酷な国際通貨基金(IMF)管理のもと短期間に経済を立て直した。中国もバブル崩壊を経験しているし、米国ではITバブルがあり、平成20年には世界を巻き込んだリーマンショックが起きている。だが、いずれのケースでも敗戦処理にかかった期間は2~3年だ。一気呵成(かせい)に進められた。振り返れば日本の一人負けである。 それにしてもなぜこんな体たらくなことを日本はしてしまったのか。昭和の「問題先送り」体質 一言でいうなら、昭和の時代には「問題先送り」が最良の問題解決方法だったからである。金融機関も監督官庁も何か問題が生じた時、積極的に解決をするのではなく、問題を表面化させず、先送りすることが絶対原則だった。それには昭和ならではの合理的な理由があった。 その背景になったのが昭和の「不動産神話」だ。不動産さえ担保にとっておけば、融資先が倒産しようがとりっぱぐれはない。監督官庁も一緒だ。経営が行き詰まった金融機関があれば、「合併」させておけば問題はいずれ自然消滅してしまう。だから銀行の歴史は合併の歴史なのである。 日本の近代史の中でも最も辛つらかった時期は言うまでもなく太平洋戦争の敗戦だが、負けたこと以上に国民を苦しめたのは「戦後」だ。絶望的な喪失感と飢え。どう生きたら良いのか、混沌(こんとん)の中から昭和の日本人は這(は)い上がり、国内総生産(GDP)世界第2位の経済大国にのし上がった。それは「奇跡」と呼ばれるにふさわしいものだったが、昭和の成功体験は「問題先送り」という致命的なメンタリティを平成に残してしまったのである。 そして日本が平成バブルの「戦後」に悪戦苦闘している間に、世界は人工知能(AI)産業革命ではるかかなたに行ってしまった。GAFA(Google、Apple、Facebook 、Amazon)やUberなど米国はもちろん、国家資本主義の中国が米国をしのぐ勢いでAI産業革命を爆走している。 AIの競争力はデータ量が決め手になる。15億人もの人口を持ち、人権への配慮無用の中国は圧倒的に有利だ。クルマの自動運転などでは、中国の圧勝になるかもしれない。欧米では走行実験中にひとたび死亡事故が起こればそのとたんに実験中止に追い込まれるが、中国は問答無用だ。死亡事故そのものが公にされず、平然と走行実験が続けられるに違いない。監視カメラによる顔認証システムもすごい進化だ。人権とAIの進化は間違いなく反比例する。 平成の日本は「バブルの敗戦処理」に失敗し、AI産業革命にも出遅れたが、負けが確定したわけではない。日本社会は短絡的な極論に走りやすく、横並びの偏向気質である。GAFAがすごいとなれば、未来永劫(えいごう)GAFAが世界を蹂躙(じゅうりん)するかのように言いたがる。Googleが自動運転を始めれば、短絡的にトヨタは終わりと言いたがる。そろって記者会見に臨むトヨタ自動車の豊田章男社長(右)とソフトバンクグループの孫正義会長兼社長=2018年10月4日、東京都千代田区(酒巻俊介撮影) しかしトヨタが終わっていいわけがない。トヨタは日本一の企業であり、世界の時価総額ランキングの上位をキープし続け、協力企業まで含めたら世界で何百万人もの雇用をしている。Googleごときに負けてもらっては困るのだ。 これからやってくるモビリティ社会は従来とは全く違ったものになるだろうが、トヨタもこの革命に必死に食らいついているし、同じようなトライアルが業種業態を超えてさまざまなリアルワールドで起こってくる。AI産業革命時代にリアルワールドで日本が世界をリードするために必要なことは何か。日本は衆知を集めなくてはならない。平成の「敗戦」で染み付いてしまった敗北主義を今こそ捨て去る時である。■「階級社会フランスへの挑戦」ゴーンの原点はここから始まった■消費増税「3度目延期」首相が描くシナリオと布石■悲観論はもういらない「バブルなき株高」と断言できる理由

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    国民をカモにする「ブラック官庁」財務省はXマス暴落よりもヤバい

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 3連休明けの12月25日に届いたのは、サンタクロースのプレゼントではなく、世界経済からの強烈な一打だった。日経平均の終値は1万9155円74銭で、先週の終値から約1010円も下落した。まさに大暴落である。大幅な下落は既に10月中旬から続いており、2万2千円台から3千円近くも値下がりしている。 この手の暴落が起きると、リーマンショック級であるかどうかよく話題になるが、実はどうでもいい。現時点で十分に世界経済の変調を確認できる。世界経済の後退を見越して、原油価格も大幅に低下を続けている。為替レートはドル・円で見ると110円台をなんとかキープしているが、これも現状の株価暴落や経済の不安定性が目立っていけば、やがて一段の円高になるだろう。 この真因は、やはり米国の金融政策の失敗だ。今の連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は凡庸を通り越して、今や経済失速の「主犯」となろうとしている。 その理由は、FRBがインフレ目標2%にあまりに固執しているからだ。2%の目標をあまりに厳格に守るために、将来的な雇用の最大化や経済成長率の安定を犠牲にしている。 実際、FRBが現在公表している「予測」を見ると、今後失業率が上昇し、経済成長率が鈍化する一方で、現状よりも政策金利は引き上げられている。つまり、インフレ目標を厳格に守るために、雇用や成長を犠牲にするのだ。全く愚かな判断である。 そもそも、インフレ目標は伸縮的に運用するのがコツだ。自動車運転と同じで、ルールを守りながらも、裁量の余地を認めていくのがこの政策のコツだった。だが、パウエル議長のFRBは四半期ごと機械的に利上げすることや、米中貿易戦争での世界経済後退リスクを考慮することなく、単なる数値目標に固執しすぎてしまっている。2018年12月25日、値下がった日経平均を示す株価ボード(渡辺恭晃撮影) 経済政策の最終目的は、雇用の最大化(完全雇用の達成)と、経済成長率の安定だ。インフレ目標はこの最終目的を実現するための中間目標でしかない。それが、中間目標があたかも最終目的になってしまったかのようだ。 トランプ大統領との不協和音も問題だ。これは、政府と中央銀行がその政策目的を共有できてないことに原因がある。もちろん、優れた前任者だったイエレン氏を事実上更迭して、パウエル議長を任命したのは、トランプ大統領自身である。 要するに、今回の株価大暴落と経済危機の高まりの背景には、トランプ大統領の金融政策に対する無理解と、現時点での政府とFRBの政策協調の失敗がある。これは両者の出方次第では、協調の失敗が長期化する可能性がある。財務省のブラック体質 私見では、今のインフレ目標の目標値は低すぎる。もしくは、同じ数値設定でも、より一層の賃金上昇などが見られるまで、インフレ率が目標値を上回っても現状の金融政策を進めると表明すべきだ。 FRBが今後もインフレ目標に厳格にこだわり、利上げを続けると予想されているため、日本銀行の金融緩和政策とのバランスから、今のところ為替レートはまだぎりぎり円安水準といえるものだ。これは、日本が長期停滞から完全に別れるために必要な円安水準という意味である。 ただし、世界経済の状況が悪化している現在、今の日銀の金融緩和姿勢で事足りる可能性は低い。つまり、この状況が続けば、過去のリーマンショックや2015年に起きた世界経済不況と同様に、円高局面が訪れる。そうなれば、日本企業の収益性を直撃するだろう。仮に、2015年の世界経済の後退と同水準のショックがこれから来年にかけて訪れるとすれば、最悪のタイミングと言わざるを得ない。 現時点で、財務省高官たちは「大したことがない」と様子見しているが、実に愚かな態度である。2014年4月の消費税8%引き上げの翌年に、世界経済の後退局面が訪れた。そして、消費低迷と成長率の鈍化、より一層の回復が見込めた雇用改善のストップなどが起きた。もし来年、このまま消費増税すれば、世界経済後退の中での引き上げになる。それは最悪のシナリオだ。 そんな財務省が、2018年の「ブラック企業大賞」で「市民投票賞」を受賞した。インターネット投票なので、個々のユーザーもさまざまな理由で1票を投じたのだろう。 だが、今年だけに絞っても、テレビ朝日の女性記者に対する福田淳一前事務次官のセクハラ行為に端を発したスキャンダル、そしてセクハラ疑惑を受けた福田前次官の辞任は記憶に新しい。さらに、佐川宣寿元理財局長(前国税庁長官)の国会答弁を忖度して、理財局全体をあげて行った公文書改竄(かいざん)は、国民に政府組織に対する深刻な不信感を与えた。 つまり、財務省の公的サービスが、国民に被害を与えたと認定していいだろう。財務省のブラック企業体質は本当に深刻である。さらに、過度な残業やまたパワハラ的な職場風土についても、さまざまに漏れ伝わるところでもある。トランプ米大統領(左)とパウエルFRB議長=2017年11月、ホワイトハウス(ロイター=共同) その一方で、最高学府からエリート層を常に吸収することで、自らの権威を保っている。要するに、エリート層が集まることが、今や財務省のただ一つ拠って立つ「権威」なのだ。醜いプライドだといっていいだろう。 率直にいえば、筆者には財務省が「日本の恥」だとしか思えない。恥は主観的な言葉なので、より客観的にいえば、財務省のお粗末なパフォーマンスを評価すれば、「省」ではなく「庁」程度がお似合いである。 お粗末なパフォーマンスの一例は、平成の経済史をさかのぼれば明白である。最近でも、嘉悦大の高橋洋一教授の新著『めった斬り平成経済史』(ビジネス社)や、経済評論家の上念司氏の『日本を亡ぼす岩盤規制』(飛鳥新社)を読めば、バブル崩壊から20年に及ぶ長期停滞の主犯が、財務省と日銀であることがよく分かるだろう。筆者もまた、時論を始めてから20年近くになるが、それはほとんど財務省と日銀による政策の失敗を明らかにし、その責任を糺(ただ)すことにあったといっていい。「政治家有罪、官僚無罪」 財務大臣に財務省のブラック企業体質の責任を全て求めることは、今までも長年、マスコミや世論の主導で行われてきた。つまり、「官僚の問題が明らかになれば、政治家が責任を取る」構図のことである。 だが、財務省のこのブラック企業体質は、大臣のクビを切れば済むかといえば、それで話は終わらない。むしろ、事実上論点をずらし、問題の本質を隠蔽(いんぺい)することにさえ通じている。要するに、今回の一連の問題を単純に「麻生大臣やめろ」などというだけではあまり賢明ではない。いや、率直にいえば、その種の意見は、財務省にとって好都合の「批判」でしかない。 官僚組織は個々の大臣の在任期間よりも長いし、また政党の「生命」よりも長い。政治家や大臣どころか、政権さえも財務省の使い捨ての駒でしかないのだ。 財務省が消費増税を悲願にしていることは周知の事実だろう。そんな中で、1997年に5%引き上げを実施した橋本龍太郎政権や、2012年に消費増税法を成立させた野田佳彦政権は事実上、財務省によって使い捨てされたとみていいだろう。その間、消費増税による経済停滞の本格化(橋本政権)、停滞の深化(野田政権)の責任は、全て政治家だけが取った。 一方、その当時の財務官僚はなんら責任を国民から問われることもなく、その後も高給の転職先や天下りを享受している。それでも、マスコミも世論の多くも、「政治家有罪、官僚無罪」という発想を捨て去ることができない。 この根源には、マスコミの「財務省依存」とでもいうべき体質がある。そして、ワイドショーやニュース番組などでしか情報を得られていない層が、財務省依存のニュースによって意見を形成してしまっている不幸な現象があるだろう。最近は、ネットなどで「真実」を知る人たちが増えてきたことで、「財務省はブラック企業である」という認識を生んだのかもしれない。実にいい傾向である。 だが、その認識にはまだまだ足りないところがある。財務省の最大のブラック企業体質は、経済政策の失政で、われわれ国民の生活をドン底に突き落とすところにある。2018年4月、事実上更迭され、記者の質問に答える財務省の福田淳一事務次官(当時) だが、世間には「消費税は社会保障目的で好ましい」という財務省やマスコミの意見を鵜呑みにしている人がかなりいる。申し訳ないが、その種の人たちは、財務省の「いいカモ」でしかないだろう。 政府が課税とそれによって得た財源を利用して、社会保障の名目で所得を再分配することは、もちろん現代国家の在り方として基本的に望ましい。しかし、方法を誤れば、所得の再分配によって、経済的な弱者がさらに損をしてしまうことがある。 例えば所得水準が低い人たちは、生活のために必要な支出だけでお金が底をついてしまう。これでは、将来のための貯蓄も難しい。この低所得の人たちの消費に重たい消費税率が課せられるわけだ。もはや「精神論」 他方で、高所得者たちは、その収入のほとんどを消費しない。消費の占める割合は、高所得者ほど低いだろう。では、高所得者たちは消費せずに、いったい何をしているかというと、せっせとお金を増やすための資産運用をしているのだ。 お金を使うことではなく、お金自体が一つの魅力となり、その無限の増殖を果たしていく。デフレになって、貨幣の魅力が増せば増すほどこの傾向は強くなる。これを「貨幣愛の非飽和性」という。 例えば、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン容疑者が特別背任罪などで罪を問われている。その真相はまだ不明だ。だが、報道によれば、巨額の資産運用をしていたことは明白である。 ゴーン氏といえば、安くておいしい焼き鳥屋で食事するエピソードがあるように、日本での消費活動はそれほど派手に報道されていない。その一方で、リーマンショックの発生に伴う巨額の損失を、日産に付け替えようとするなど、その資産運用は強欲的である。ある意味で、高所得者の典型的な行動パターンだ。 消費税は、いわばゴーン的高所得者には有利に働き、カツカツで生きる人には地獄のような税制だ。現状では、米中貿易戦争や米国の金融政策の不安定性から、世界経済の失速が懸念される中で、消費増税を実施すれば、さらに経済的な困窮を深めてしまう可能性が大きい。 安倍晋三政権自体の責任もあるが、その背後で暗躍する財務省という国家の寄生虫を退治しない限り、この悲劇は繰り返し起こるだろう。最近では、消費税を全ての国民が社会保障のために担う政策だと説明しているが、一種の「精神論」(上念司)である。 ブラック企業の特徴は、社員をどうしようもない精神論で追い詰めるところにある。まさに、財務省のブラック企業体質がこの「精神論」に結晶されている。 財務省を解体するのも大いにありだが、個人的には財務省を財務庁に「格下げ」して、彼ら、彼女らのエリート意識を砕くことが手っ取り早いし、重要なことだと思う。格下げと同時に歳入庁をつくり、両方とも内閣府の直轄に置くのがいいだろう。2018年10月、消費税の10%引き上げを表明した臨時閣議に臨む安倍首相(中央)。左は茂木経済再生相、右は麻生財務相 そうして、財務官僚の歪(ゆが)んだエリート意識を糺すことが最優先だと思われる。ただし、最近は、財務省のセクハラ、パワハラ的なブラック企業体質が知れ渡ってきたのか、官庁志望ランキングでも苦戦しているとも伝え聞く。その先には、世論が財務省の解体を支持する環境になれば、さらにいい。 株価の大暴落から世界経済の減速の可能性が高まっている中で、消費増税の議論を続けるなど、どう考えてもおかしい。だが、この異常な財務省を軸とした「消費増税狂騒曲」を止めることができるかどうかに、安倍政権の命脈などよりもはるかに重要な、日本国民の生活と命がかかっていることは言うまでもない。■ 消費税率10%、安倍首相の決断で甦る「失われた3年」■ 馬淵澄夫手記 「日本を覆う『消費税神話』からの脱却を」■ メールも使えない経営者は大喜び、消費増税「狂信者」が描く未来図

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    「消費税10%」は必ず阻止できる

    来年度の税制大綱が決まった。特筆すべきは「消費税率10%を来年10月に確実に実施する」と明記された点であろう。増税に合わせ、飲食料品などの税率を据え置く軽減税率が導入されるとはいえ、景気の足を引っ張るのは確実である。消費増税を阻止する手立ては本当にないのか。

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    軽減税率で「居酒屋」が大打撃 ちょい飲み、せんべろも危機

     来年10月の消費税率10%への引き上げとともに議論の的になっている「軽減税率」。同じ食品でも持ち帰れば8%のまま据え置きだが、その場で食べれば10%と税率が異なるため、“一物二価”の不公平さが反発を招いている。軽減税率の影響をもっとも受けそうな外食業界、中でも「居酒屋の衰退がますます進む恐れがある」と指摘するのは、フードアナリストの重盛高雄氏だ。 * * * 政府は景気を下支えするという名目により、税率の引き上げと同時に軽減税率の導入を決めた。先に発表された概要によると、外食産業全体に大きな影響を与えることは間違いない。なぜなら同じ店舗で購入しても持ち帰りの場合は軽減税率が適用され8%のままだが、通常の店内飲食やフードコート、そしてコンビニのイートインスペースを利用すれば10%の新税率が対象になるからだ。 要は「食べる場所」によって税率が異なるため、消費者にとっても店舗にとっても複雑でわかりにくい。この仕組みでは店内飲食を前提とした外食産業は税率アップによる影響をもろに受けることになるだろう。特に打撃の多い産業は居酒屋業態ではなかろうか。 もっとも居酒屋の衰退は、ここ数年の出来事ではない。日本フードサービス協会の外食産業データ売上金額(対前年比)によると、景気後退が鮮明となった2008年に100.0%を付けて以来ずっと前年割れを記録している。利用客数の前年比で見ても、2008年からずっと前年割れの状態だ。 そこに来年からの消費増税が追い討ちをかける。居酒屋業態はリーマンショックによる不景気や震災の影響などもあり、ただでさえ法人需要や宴会需要を減らしているうえに、度重なる増税によって個人の常連客まで失ったら、どうなるか。たとえ老舗チェーンであっても豊富なメニューと品質を保てなくなり、瀕死の状態に陥ることも考えられる。 結局、政府がいくら景気は回復基調だ、と叫んだところで消費者の懐は潤ってはいない。昨今「ちょい飲み」や「中食」という飲食スタイルが定着し、生活防衛に努めながらささやかな楽しみを見つけているのが庶民の現状だ。 消費税アップによる価格転嫁は、日銀の悲願である「物価上昇」には役立つかもしれない。だが、物価が上がっても賃金が上がっていない状況では、消費マインドは改善しない。事実、総務省の家計調査においては1997年をピークに可処分所得はずっと右肩下がり。実質賃金が上がっていないことが主な原因だ。 家計収入が増えていない中で、外食の値上げがいかに消費者にインパクトを与えるか。人件費や材料費の高騰を理由に280円均一から298円に価格改定を行って客離れ→減収に見舞われた「鳥貴族」がいい例だろう。たかが1品18円とはいえ、一斉値上げは消費者の客足を止めるには十分だった。※写真はイメージ(ゲッティイメージズ) 鳥貴族からすれば、税別300円以内に抑えたという自負や自信もあったのだろうが、その目論見は大きく外れた。付加価値を付けて価格を改定したわけでなく、原価の高騰というある意味素直な値上げに対して、消費者が敏感に反応したのは特徴的だった。 消費増税の影響は、こうしたサラリーマンの懐にやさしい「ちょい飲み」業態に広がっていくだろう。「せんべろ」がなくなる? たとえば、駅前でよく見かける中華の「日高屋」は、餃子にラーメンと生ビールで950円という、1000円以内の“せんべろセット”を提供している。手軽な価格というだけでなく、家庭では再現できない焼き立てのあつあつ餃子、そしてキンキンに冷えた生ビールはサラリーマンならずとも鉄板の組み合わせだ。 また、今年6月に全店禁煙で話題となった「串カツ田中」は、禁煙後も客数は好調で、子供連れや若者など新しい客層が広がっている。もちろん、人気の秘密は安さにある。手軽な100円串から200円串まで取り揃えている。 庶民の楽しみである、せんべろや100円串も、消費税の改定により価格転嫁を余儀なくされる。仮に店が増税分の“値下げ”で価格を維持しようと思えば、売り上げ確保のために仕入れ先や原価を見直すなどして質の低下につながりかねない。いずれにせよ、消費者にとっては、1000円で飲める量がさらに少なくなるか、質が悪くなるかのどちらかの選択肢しかなくなり、ささやかな楽しみが奪われていく。 外食という消費行動の停滞は、税収全体から見ても決して好ましい姿ではないだろう。政府は複雑なポイント還元やプレミアム商品券の発行など、多くの諸経費をかけて景気対策を行うとしているが、増税に伴う税収の増加と景気対策費用との収支バランスはとれていないように映る。また普及が遅れているマイナンバーの活用で5%還元するなどという驚きの話も飛び出し、世間を混迷の渦に巻き込んでいる。 消費増税対策というテーマにあれもこれも詰め込み、無理矢理に理解を求めようとするなかで、消費税が持つ本来の役割が議論もされず、見過ごされている気がしてならない。すでに居酒屋業界は、各種ポイントカードを使ったお得なキャンペーンや、期間限定の割引サービスなど盛んに展開しているが、どれも消費者が足を運ぶ動機付けになっているかといえば疑問だ。 税率が上がって消費が冷え込み、各店が工夫をしなくなることで、外食業界全体の元気がなくなる──という悪循環だけは避けなければならない。※写真はイメージ(ゲッティイメージズ) かつての外食は、高くてよいもの、そして安くて悪いものの二極化が鮮明だったが、最近は〈高くてよいもの〉、そして〈手ごろな価格でもよいもの〉に消費行動は変遷している。コストパフォーマンスの悪い商品は、消費者は端から選択しなくなったのだ。 節約を第一に考えれば、安ければ売れると考えがちだが、スーパーでも最初から値段を安く設定した商品は実は売れていない。それより値引きシールのついた「よい商品」を選択する消費者が増えてきている。 そう考えると、価格に関係なく長く売れ続ける商品をいかに提供できる店かが勝負のカギを握る。いくらメニューのバリエーションが豊富でも「安かろう悪かろう」の商品は選ばれることはない。どこにでもある商品でも、味付けや素材にこだわる。そして、そこにしかない味わいがあるからこそ「選ばれる価値を持つ店舗」となるわけだ。 増税という逆風にあっても、消費マインドを熱くしてくれる顧客満足度の高い居酒屋や新しい外食業態の登場を期待したい。関連記事■ 串カツ田中、居酒屋チェーンの常識に逆行する戦略で急成長■ 大衆居酒屋の先駆け 「養老乃瀧」がしぶとく生き残れる理由■ 医師が勧める酒のつまみ 焼酎に最適なのは“ばくだん納豆”■ 鳥貴族の客離れは値上げだけが要因か 均一価格戦略に陰りも■ コンビニおでん商戦2018 食べ比べたくなる大手3社の新戦略

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    消費増税、国民への影響はどれほど?

    島澤諭(中部圏社会経済研究所研究部長) 高度成長期に確立し、右肩上がりの人口や経済を前提として組み立てられている日本の財政・社会保障制度は、少子高齢化の進行、とりわけ高齢者に占める後期高齢者の割合が増加する「高齢者の高齢化」の進行により、その持続可能性が危ぶまれる状況が続いている。それは、人口ピラミッドが逆立ちすることが見込まれていたにもかかわらず、その抜本的な改革を断行せずに放置した結果、現状ではGDPの2倍に及ぶ政府債務が蓄積してしまっている。 こうした日本財政の危機的状況にもかかわらず、日本政府には莫大な資産があるから増税や歳出削減なしでも財政破綻は起こり得ないとの主張も存在する。内閣府『国民経済計算』を見ると、国と地方に社会保障基金を加えた一般政府に日本銀行や日本学生支援機構、上下水道事業、地方公立病院等公的企業を加えたいわゆる統合政府の連結決算では、金融資産1,800兆円に対して公的債務1,251兆円となっており、両者を相殺すれば財政再建は確かに完了する。 しかし、金融資産のうち、公的年金の積立金や公的金融機関から民間企業への貸出し、ODAなどを除くと1,020兆円となり、公的債務が上回る。金融資産の他、社会資本*を売却すればよいとの主張もある。主要な社会資本を外国に抑えられたパキスタン、モルディブ、スリランカなどが債権国のくびきとなっている現状はそうした主張への雄弁な警告となる。そもそも、資産売却で債務を一時的に解消しても、財政赤字体質を放置したままでは元の木阿弥となるのは確実で、財政問題は何ら解決しない。 日本の社会保障制度はこれまでもっぱら高齢世代を給付の対象とし、現役世代は支える側とみなしてきた。高く持続的な経済成長が続く社会では、すでに引退したか引退間近の世代は、そうした経済成長の恩恵に与ることができず、後世代との豊かさの格差は拡大していく一方である。その場合、相対的に貧しくなっていく高齢者に相対的に豊かになる若者世代が所得移転を行うのは若者世代にとっても負担とはならない。 また財政赤字が発生したとしてもマクロ経済や歳入が歳出に合わせてパラレルに成長していくのであれば、財政赤字の累積としての債務残高が経済規模に対して一方的に拡大していくことはないし、経済が拡大している期間においては租税弾性値が歳出弾性値を上回る場合が多く、当初の財政赤字を埋め合わせることが可能となるからである。主計官を集めた会議で訓示する麻生太郎副総理兼財務相。「今回は間違いなく(消費税増税を)実施できる状況」と語った=2018年8月27日、財務省 したがって、経済成長の恩恵によって放っておいても豊かになる一方で、かつ企業により生活保障を受けていた現役世代に対する社会保障給付よりも経済成長の恩恵から取り残された高齢者により手厚く社会保障給付がなされ、高齢者を優遇することは正義に適っていた。「誰もが受益者」の限界 しかし、経済が停滞し、繰延された負債を担う将来世代が減少していく現局面においては、状況が全く異なる。実際、財務省によれば、特例公債の発行から脱却することのできた1990年度以降歳出を原因とする債務残高の増加額416兆円のうち7割強の293兆円が社会保障を原因とするとされている。つまり、日本の財政問題は社会保障問題と言っても過言ではない。増加する一方の社会保障支出を賄うための収入増加策は不可避である。*社会資本に相当する生産資産は非金融資産に分類され732兆円(うち防衛装備品9兆円)。それとは別に、地下資源、漁場、国有林等の非生産資産(自然資源)153兆円もある。 しかし、社会保障を支えることが期待されている現役世代の弱体化が続いている。その背景としては、非正規雇用比率の上昇や賃金水準の高い雇用機会の喪失といった経済構造の変化がある。また、当初所得の低迷だけでなく、税制や社会保障制度の恩恵が薄い未婚者の増加等、世帯構造の変化も生じていることが挙げられる。 こうした現役世代の苦境を前提に、政府・与党のみならず野党においても、子供の医療費無料化(窓口負担ゼロ)、最低賃金引上げ、18歳選挙権、待機児童解消策、給付型奨学金導入、幼児・高校・大学教育無償化など、高齢者とともに現役世代重視の全世代型社会保障の充実を目指している。 このように現役世代が貧困化しつつあるからこそ全世代型社会保障が提案されているという事実に鑑みると、現役世代に負担させる従来の仕組みを維持するのには無理がある。「誰もが受益者」である全世代型社会保障を実現したいなら北欧諸国を例に挙げるまでもなく「誰もが負担者」でなければならない。スーパーで商品を選ぶ買い物客。消費税率が10%となれば消費者や業者に大きな影響が懸念される=2018年10月、東京都大田区(齋藤有美撮影) したがって、全世代型社会保障の財源について、財政当局は、(1)現役世代が減少し、高齢世代が増加することから、特定世代に負担が集中せず、国民全体で広く負担する消費税が社会保障給付の財源にふさわしい、(2)所得税や法人税に比べ、消費税は景気変動に左右されにくく安定している、との理由から、財源を消費税により広く全世代に求める方針としている。 しかし、消費税率の引上げは、税制抜本改革法によって引上げスケジュールが定められている。また、増収分の使途についても、社会保障制度改革プログラム法によって配分が定められているにもかかわらず、実際には、景気後退懸念を理由として、10%への引上げは、2017年4月、さらに2019年10月へと延期されるなど、政治、国民問わず、財政再建、消費増税への拒否反応が著しい。消費税引き上げの影響 2019年10月の消費税率引き上げが家計に与える影響を試算した(表1、表2、表3、表4)。表1 所得階層別消費税率引き上げに伴う負担額 まず、所得階層別家計に与える影響を見ると、所得階層が高いほど消費税負担金額や軽減税率導入に伴う負担軽減金額が大きくなっている(表1、表2)。これは所得階層が高いほど消費支出金額も大きいから当然である。表2 所得階層別軽減税率導入による負担軽減額 しかし、所得に占める負担割合を見ると低所得層ほど、負担率も軽減率も大きくなっている。消費税の負担を金額で評価するのか、所得に対する割合で評価するのかで、まったく逆の見解が生じ得るが、所得に対する割合で評価するのが一般的である。そうした観点から考えると、消費税は低所得層ほど負担(率)が重く高所得層ほど負担(率)が軽くなる逆進的な性質を持つ一方で、軽減税率の導入によって低所得層ほど恩恵を受けることが分かる。 次に、年齢別消費税負担を見ると、20歳代15.8万円を底として加齢とともに増加し50歳代25.8万円でピークを迎え、それ以降は低下し、70歳代では17.9万円となっている(表3)。表3 年齢別消費税負担額 60歳以上の高齢世代の負担額が30歳代以下の若者世代の負担を上回っていることが確認できる。また、軽減税率導入に伴う負担軽減額を見ると、若者ほど恩恵が小さいことが分かるが、これは若者ほど食料以外の支出ウェイトが高いことと、新聞を購読している割合が低いことに起因している(表4)。表4 軽減税率導入による年齢別負担軽減額 以上のように、消費税引き上げは、世代や所得階層といった世帯属性の違いによって与える影響が異なるので、消費増税に賛成するのは高所得・現役世代に対して、高齢世代と低・中所得現役世代は各々反対するインセンティブが働く。後者の方が多数を占めるため、民意に敏感な政治消費税の引き上げに二の足を踏むのももっともなことであるとも言えるだろう。 政府や経済学者は、マクロ経済パフォーマンスに与える影響の面においても、世代間格差に与える面においても、消費増税による財政再建の方がメリットが大きいと考えているものの、実際に消費増税が度々延期されてきたことからも、試算結果からも明らかになったように、国民の大半にとっては消費増税の負担増は大きい。キャッシュレスが鍵 こうした国民の間にある根強い消費増税へのアレルギーを緩和するため、政府は目下様々な対策を決定もしくは検討中である。 例えば、外食と酒類を除く飲食料品等に対する軽減税率の導入は、大半の経済学者は強い拒否反応を示しているものの、先に見た試算の通り、飲食料品への支出の割合が大きい高齢者や低所得者対策としては効果的であろう。 もう一つ、政府は、電子マネーの普及などに伴い近年キャッシュレス化が進行しているとはいうものの、他の先進国や韓国などと比べてキャッシュレス決済は普及していない現状に鑑み、現時点では、キャッシュレス決済を普及させる狙いで、消費税率の10%への引き上げと軽減税率の導入に伴い、中小小売店舗でキャッシュレスにて買い物をした場合に限り、2%分をポイントで還元する仕組みの導入を企図している。 日常の買い物のキャッシュレス化には、店側では機器の導入コストや様々な手数料などランニングコストが重くのしかかる他、大規模自然災害による停電発生時の取引の確保等課題も多い。しかし、キャッシュレス化は、消費者にとってはATMから現金を引き出す時間や労力など取引コストを節約できるし、小売業者は現金の管理・運搬等にかかるコストを削減できる。さらに、消費者の購買行動に関するビッグデータが取引付随して集まるので、その購買行動を分析することでより効果的な販売活動、ひいては売り上げ増も期待できる。 また、キャッシュレス化の進行によって、大半の商取引が電子データで管理されれば、現金を用いるより遥かにカネの動きが透明化され、脱税やマネーロンダリングなどを抑止できるなど、税務処理の効率化や税収増が期待できる。税収増は当然将来の追加的な増税幅を圧縮させるだろう。ペイペイでキャッシュレス決済をするイメージ=2018年11月(武田範夫撮影) さらに、Moody'sが2016年に公表したカード決済の普及によるキャッシュレス化が経済に与える影響に関する報告書(“The Impact of Electronic Payments on Economic Growth”)によれば、2011年以降2015年まで世界経済全体で毎年740億ドル(日本円に換算すると8兆円強)分のGDPを増やす効果があったとのことである。さらに、キャッシュレス化が1%進むと0.04%ス日本の経済成長を押し上げる効果を持っているとしている。 以上のようなキャッシュレス経済への移行によるメリットを十分に発現できれば、消費税率引き上げに伴うマクロ経済や家計の負担増を軽減できる効果も期待できる。

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    増税時の軽減税率導入で廃業する業者が増えるカラクリ

     2019年10月、消費税が10%になることに伴って食品や飲料に軽減税率が適用されることになっているが、持ち帰りの弁当(8%)とイートインの客(外食だから10%)をうまく捌けるのかという懸念もあり、コンビニやスーパーの店頭は大混乱することが予想されている。 さらなる混乱もある。複数の税率が併存することを理由に、すべての取引に「インボイス(適格請求書)」の発行が必要になるからだ(2023年に義務化)。これは取引日や品目、金額や税額を詳細に記入した請求書で、売り手が取引ごとに相手に発行し、控えの保存も義務づけられる。「インボイスを導入している韓国では、零細の自営業者でもプリントアウトした税務申告資料が何百ページもの分量になる」(税理士で立正大学教授の浦野広明氏) それだけではない。現在は売り上げ1000万円未満の自営業者は消費税が免除される。零細商店や1人親方の大工、個人タクシーをはじめ全国の500万人(社)が対象だが、消費税を納めない業者はインボイスを発行できない。 買い手はインボイスがなければ仕入れにかかった消費税を控除されず、納税額が跳ねあがってしまう。東京商工会議所と税務署が開催した消費税軽減税率セミナー=2018年12月6日、東京都江戸川区(玉崎栄次撮影)「すると企業は非課税業者とは取引しなくなる。非課税業者はインボイス発行の資格を得るために売り上げ1000万円以下でも消費税を納めるしかない。税を払えずに廃業する業者も増えるでしょう」(同前) 増税のしわ寄せは年金生活者、低所得者、零細業者に向かっていく。関連記事■ 「消費税還元セール」と「フライング値上げ」に騙されるな■ 消費税10% 軽減税率めぐりコンビニは大混乱でまさかの展開も■ 消費税10%時代に住宅、自動車で得する人は?■ 軽減税率導入 影響力維持にはやるやる詐欺が一番と経産官僚■ 「再増税ありき」の軽減税率論議だが再増税見送りが必要では

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    大阪万博がちっとも盛り上がらない

    2025大阪万博の開催が決まった。「経済効果は2兆円」との触れ込みも、開催地以外での盛り上がりはいま一つである。高度経済成長の象徴と言われた前回開催と比べ、その国民的関心の低さが際立つ。正式決定後も、まだ不要論が聞こえてくる大阪万博の是非を考えたい。

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    大阪万博「経済効果2兆円」のまやかし

    熊野英生(第一生命経済研究所首席エコノミスト) 2025年に大阪が万博の開催地になることが決まった。身近なところでも、大阪出身者が「万博開催、おめでとうございます」と言われて、「どうもありがとうございます」と応じる姿を見かける。お祝い事に水を差すつもりはないが、万博が期待された効果を発揮するかどうかはまだ不確実性の中にあると考えられる。 むしろ、当初から経済効果は約2兆円という風に確定した恩恵があると考えず、それを下回るリスクはあるし、努力次第で2兆円を超えることもできると柔軟に捉えておいた方がよい。 本稿では、経済効果2兆円という見通しを積極的に考えることの材料と考えて、大阪万博の問題に隠れている思惑について検討してみることにしたい。 筆者は、なるべくテクニカルな議論を避けて、3つの点を焦点に据える。(1)2800万人の来場者数の前提、(2)カジノの思惑、(3)大阪に求められる経済効果の3つである。なお、筆者は大阪万博の開催に反対しているわけではなく、相応の負担を自治体や地元企業が負うのだから、もっと多面的に検討した方がよい、と言いたいのである。誤解のないように記しておきたい。 まず、想定来場者数が2800万人とされている点である。この数字は大きすぎないか。恐らく、比較して考えられたのは2005年の愛知万博の2200万人であろう。これは約半年間の来場者数である。2025年は、愛知万博を約3割上回る目標となっているのだろう。 しかし、問題は万博というイベントが2800万人もの人数を引きつける魅力を打ち出せるかどうかである。グローバル化した現代において、万博というイベントはやや古くなっている。他の先進国が開催地に手を挙げない理由もこの辺りにあるだろう。1970年当時の大阪万博会場=大阪府吹田市(共同) 1970年の大阪万博の思い出とうっかり重ねて考えてしまうが、私たちは当時よりもはるかに豊かになっている。従って、海外から出展してくるパビリオンの催し物が人気を集めるためには相当知恵を絞らないといけない。2800万人は、リピーターを相当数期待している。インバウンドも、わざわざ多額の費用をかけて来日するのだから、事前に評判を調べてくるだろう。高度に情報化された現代に、わざわざ万博の場で体験できるものを思いつくのは容易ではない。大阪地元民の現実 2005年の愛知万博を見に行った人に同じ問いをぶつけると、魅力あるパビリオンを集めてくるのはやはり難しいだろうという反応であった。 なお、大阪にはテーマパークとしてユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)がある。16年度の年間来場者数は1460万人。東京ディズニーランド・ディズニーシーは年間3010万人である(17年)。この2つの来場者数は全国のトップ2で他のテーマパークを大きく上回っている。 テーマパークごとに入場料が異なっていて、来場者数はその変数とも言える。愛知万博は大人4600円とUSJなどよりも入場料が安かった。大阪万博が相応の入場料をとって、既存のテーマパークの雄を上回る来場者数を集めることが簡単でないことが分かるだろう。 大阪万博は、20年に東京五輪が開催されることを強く意識している。政治的には、東京五輪の次に何か大イベントが欲しいという狙いもあっただろう。 それ自体は悪いと思わないが、問題はそうしたイベントで関西経済をどこまで浮揚できるかという点だ。しかも、持続性のある形でという条件がつく。 自治体や地元企業は、巨大な金額を負担することになりそうである。会場の夢洲(ゆめしま)の建設予定費1250億円の3分の1は国が負担して、自治体、地元企業も3分の1ずつを負担する。しかし、この建設費用も未確定であり、地元企業が万博で多大な協力をして事業収支の改善のために働くことは、愛知万博の例でも分かる。大阪万博開催が決定し喜ぶ商店街の関係者ら=2018年11月24日、大阪市中央区(安元雄太撮影) 経済効果という場合、建設費用と運営費用が経済拡大に寄与する体制になっている。それで何億円の効果と数字をはじく。しかし、実体経済で大切なのは、収支がプラスであることだ。建設費用・運営費用が、入場券収入や跡地利用で得られる収入によって長期的にみても黒字化できるかどうかが肝心なのだ。 その点、経済効果は収入も支出も投資もごちゃまぜにしてグロスの数字の大きさをアピールするものである。事業収支をよく吟味する必要がある。カジノ頼みの採算 大阪万博は、そうした中長期の事業採算をカジノによって得ようという思惑と重ねられている。大阪でのカジノ事業は、前年の2024年にスタートする予定だ。既に国会で成立した統合型リゾート施設(IR)推進法の具体化が大阪で行われる。 万博はそのカジノのスタートを盛り上げる大イベントとして重なっているようにもみえる。事前に大きく賛否が分かれたカジノ構想が、大阪万博の中長期的採算とも大きく絡んでいるのだ。家族だんらんで出掛けた愛知万博とは少々違っている。 万博を経済活性化の目玉にしたいという願望は、本当に実現できるのか。いや、関西経済を浮揚させようということを目的にしたとき、万博を優先する意義はどこまであるのかと問い直したい。 2025年という未来は、現在よりも人口減少が進んでいる。大阪府も人口推計では4・7%ほど人口が減少すると予測している。財政基盤も現在よりも弱くなり、自治体が負担できる能力も低下している。自治体に大きな支援を期待してはいけない。 そうした未来に対して、インバウンド需要を取り込むために、関西空港、伊丹空港、神戸空港などとの連携、交通アクセスを改善し、複数の観光地が協力して周遊観光ルートづくりをするなどの取り組みがある。インバウンドを意識して、医療ツーリズムやスポーツツーリズムを育てていこうというアイデアである。これらの経済活性化のアイデアに比べると、万博は一時的な効果だけを狙った印象が強い。2025年大阪万博の開催決定を祝い、特別にライトアップされた「太陽の塔」=2018年11月24日、大阪府吹田市(須谷友郁撮影) わずか半年間の万博イベントに対して、2兆円という経済効果の数字をつけることで、いかにも経済合理性があるようにみせている。この2兆円は、万博が終われば大半が消えてしまう筋合いである。残るのは、カジノ事業が中心になる。 また、過去の行事では、イベント向けの交通インフラが建設されて、行事終了後は赤字を累積させる問題もしばしば起こっている。繰り返しになるが、大切なのは経済効果の大きさではなく、事業収支が中長期的に黒字化することである。 万博に2兆円の経済効果があると、宣伝することはその本質を忘れさせる。関西経済を浮揚させる他のさまざまな対応策と比べて、この大阪万博が優先する意義があるものになるかどうかについて深く熟考したい。■ 松井一郎手記「安倍総理は本心をごまかしている」■ 大阪が副首都になれば、日本はこんなにも変わる■ 「橋下徹のしょぼい提案」をスケールのでかい構想に変える秘策がある

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    大阪万博成否のカギ「カジノマネー」をめぐる悲しき思惑

    木曽崇(国際カジノ研究所所長) 11月23日、パリで開かれた博覧会国際事務局(BIE)の総会において、2025年国際博覧会(万博)の開催地が大阪に決定した。日本とロシア(エカテリンブルク)、アゼルバイジャン(バクー)の3候補で争われた1回目の投票で、日本への支持が既にBIE参加国の過半数に達した。 引き続き行われたロシアとの決選投票では、第1回投票からさらに支持を積み増し、全体の6割以上の支持を得ることに成功した。事前報道では「かなり苦戦するのではないか」という声もあったが、フタを開けてみれば「横綱相撲」と表現してもよい投票結果であったといえる。 だが、2025年の万博開催を勝ち取り、歓喜に沸くわが国において、既にその先の現実的な対応に頭を悩ませている人たちがいる。それが、日本国内外のカジノ業界関係者だ。 わが国では2018年7月の統合型リゾート施設(IR)整備法の成立によって、カジノを中核とした複合観光施設、IRの導入が決定している。実は、今回決定した大阪万博の開催は、IR導入とセットの企画として起案されたものであるからだ。 万博のメイン会場となるのは、大阪市の最西端に位置する人工島、夢洲(ゆめしま)だ。そもそも夢洲は08年の大阪五輪誘致を目指して埋め立てられた人工島であった。 その後、北京との招致レースに敗退したことによって不良資産化し、長らく大阪府・市政の「負の遺産」とされてきた。その夢洲において、起死回生の再開発プランとして持ち上がったのが、万博とIRの誘致計画であった。2018年11月、2025年万博の大阪開催が決まり、道頓堀でくす玉を割って祝う人たち 夢洲は390ヘクタールという広大な埋め立て地であるが、現在コンテナターミナルや太陽光発電などで利用されている用地を除いた部分のうち、約170ヘクタールあまりが大阪にとって当面の新しい開発対象となる。このうち、今回誘致に成功した万博の開催用地として使用されるのが100ヘクタールあまりで、残りの70ヘクタールが大阪IR開発の当面の候補地となっている。大阪がIR誘致を急ぐ理由 2018年7月のIR整備法の成立を受けて、現在国は急ピッチで関連法令の整備を進めており、19年の中ごろには全国で最大3カ所と定められているIR設置区域の選定に関する基本計画を発表する。その後、IR誘致を求める各都道府県などにより、国からの認定を巡る誘致合戦が繰り広げられる。 大阪府の松井一郎知事は、19年度中には夢洲でのIR開発を担当する民間事業者を選定し、最速で国からの認定を取得したい考えだ。万博開催前年の24年には、夢洲でのIR開業を実現したいと気を吐いている。 25年の万博開催が決まったばかりだというのに、なぜ大阪はこれほどまでにIR誘致を急ぐのか。そこには大きな理由がある。万博開催の前提となる公共交通の敷設に、IR開発業者の「資金協力」が不可欠だからである。 大阪万博の開催地として決定した夢洲だが、実はこの人工島は現在、道路での上陸が唯一の交通手段となっており、大阪市域からのアクセス環境は劣悪だ。大阪府は万博の来場客数を2800万人と予測しているが、現在の交通インフラでは、予想来場者の輸送など到底不可能であり、新たな公共交通手段の敷設が必要となる。そこで持ち上がっているのが、夢洲周辺を走る各鉄道の延伸計画である。 敷設コストが最も安く、最有力と言われているのが18年4月に民営化されたばかりの大阪メトロ(旧大阪市営地下鉄)中央線の延伸だ。夢洲の南側から大阪市住之江区を経由して地下鉄で接続する案だが、最もコストがかからないと言われているこの敷設案でも、整備費用は540億円にも及ぶとされる。 一方でこの大阪メトロ中央線は、大阪の中心市街地である梅田周辺には直結しておらず、中心市街地へのアクセスには乗り換えが必要となる。そのため、万博誘致に伴う観光波及の側面からみると、必ずしも「最良の計画」とは言い難い。2016年3月、JR桜島線(ゆめ咲線)のユニバーサルシティ駅で開かれた開業15周年記念セレモニー。エルモなどのキャラクターも祝福に駆けつけた そこで、もう一方で検討が進められている鉄道アクセス案が、JR桜島線の延伸である。これは夢洲の東側から大阪市此花区を経由して大阪市域を結ぶ案だが、予想される整備費用は1700億円と、大阪メトロ延伸よりも、はるかにコストがかさむ。 だがJR桜島線は、大阪の中心市街地・梅田周辺へと直結しているだけでなく、大阪観光のもう一つの目玉であるユニバーサルスタジオ・ジャパンにも連結しており、路線としてのポテンシャルはこちらが圧倒的に高い。JR西日本は18年4月に発表した「中期経営計画2022」の中で、既にJR桜島線の延伸検討を盛り込んでおり、今回の万博誘致が決定したことで、延伸計画の本格的な検討が始まることとなる。遠回しの批判にも強気 そして、2025年の万博開催が決定した今、現実のものとして頭を悩ませなければならない問題が、開催のために必須となる各鉄道の延伸費用負担の問題である。現時点で最有力とされる大阪メトロ中央線の延伸費用に関して、大阪市は整備費用540億円のうち128億円を負担し、残りの210億円を大阪メトロ、そして202億円は万博予定地の隣に整備されるIRの開発事業者に負担を求める方針を示している。 この地下鉄延伸の費用負担こそ、大阪がIR誘致を急ぐ理由である。実は、夢洲への公共交通敷設費用を含めて考えると、IR業者の資金的協力なくして、万博成功はあり得ないのである。 この202億円の事業者負担に関して、大阪でのIR参入を検討している一部の大手カジノ事業者からは「インフラ整備は行政が担当すべき」とする遠回しの批判が出ている。しかし、大阪市の吉村洋文市長も「(202億円は)IR事業者が受益者として負担すべきもの」と一歩も引かない構えだ。 業界関係者の間では、現在予定されている負担額の限りであれば「許容範疇(はんちゅう)」ではないかとする声も多い。ただし、関係者が危惧するのは、現在約200億円とされている事業者負担の「積み増し」である。 前述の通り、大阪市域と夢洲を結ぶ鉄道の延伸計画は、大阪メトロ中央線の他にJR桜島線の延伸計画の検討が進んでいる。ここで、1700億円の整備費用を、大阪メトロの延伸コストの費用負担率にそのまま当てはめてみよう。その場合、1700億円のうち403億円が大阪市の負担になり、661億円が鉄道運行業者となるJR西日本、そして634億円がIRの開発事業者の負担となる。 大阪市は、今のところJR桜島線の延伸費用負担に関して直接の言及を行ってはいないが、吉村市長の説明する「受益者負担」の原則を当てはめた場合、そこにさらなるIR開発事業者に対する費用負担の積み増しは十分に起こり得る。2018年11月、2025年万博の大阪開催が決定し、握手を交わす大阪府の松井一郎知事(左)と大阪市の吉村洋文市長=フランス・パリのOECDカンファレンスセンター(恵守乾撮影) 逆に、積み増しが「ない」とするのならば、それが大阪メトロ延伸のケースとどう違うかを、早いタイミングで明言する必要があるだろう。その説明次第で、今後の大阪におけるIR誘致の実現性が変わってくるだけに、大阪市の一挙手一投足に業界の注目が集まっている。■ 記事カネの流れが経済の原点 カジノに勝る「特効薬」はこの世にない■ 「賭博」を全面解禁せよ! 矛盾だらけのギャンブル禁止はもう限界■ 的場文男の金字塔に思う「ギャンブル大国」の行く末

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    「大阪万博は夢のまた夢」スーパー南海地震のリスクも考慮せよ

    高橋学(立命館大学環太平洋文明研究センター教授) 2025年の国際博覧会(万博)の開催地が大阪に決定し、一部の政治家や経済人を喜ばせている。東京への経済の一極集中が進む中、大阪市を含む関西の著しい長期低落傾向を止めるきっかけとしたいとの思いが強いからだ。かつて、大阪は08年夏季五輪誘致に失敗しているだけに喜びはひとしおだろう。 さらに、1970年に大阪北部の千里丘陵で開催された大阪万博の際、集中的に整備した地下鉄などのインフラが、50年を経て、思い切った再整備を必要としているという問題もある。 この点では、2020年の東京五輪が、1964年の東京五輪時に造られた高速道路などのインフラの再整備を目論んでいることと同じだ。鉄筋コンクリートで造られた各種構造物の耐用年数がおよそ50年であることからしても、この点については首肯(しゅこう)できよう。 しかし、ここで考えておかなければならない重要な問題がいくつかある。64年の東京五輪にしても70年の大阪万博にしても、「もはや戦後ではない」という掛け声とともに経済の高度成長期に整備され開催されたことである。 日本国民の多くが「明日は今日より豊かになる」という夢を信じていた時期であった。新幹線や高速道路が開通し、富士山頂に造られたレーダーにより日本の周辺の台風の状況が可視化された。また、テレビや自家用車の急速な普及があった。日本の産業構造は大きく変化し都市に人口が集中し始めた時期でもあった。 それゆえに忘れがちなのは、伊勢湾台風で名古屋市を中心とした東海地方で5098人の犠牲者が出た59年から、6434人の犠牲者が出た95年の兵庫県南部地震(阪神大震災)までのおよそ30年間、日本では経済の根幹を揺るがすような巨大災害が発生していなかったことだ。 もちろん、まったく災害が発生しなかったわけではないが、犠牲者が1000人を超える規模はなかった。日本経済の高度成長期からバブル経済期まで、この点で非常に恵まれていたと言える。2025年大阪万博の会場予定地の夢洲(手前)=大阪市此花区 昭和の後半は大きな災害が発生せず、経済成長を謳歌(おうか)できた時代だったのだ。最近、ようやく防災意識が高まりつつあるが、現在社会の中枢を担っている世代の人々の多くは、巨大災害について教育を受けておらず、体験もしていないのである。 そのため、今年の西日本豪雨、マグニチュード(M)6・1の大阪北部地震、台風21号、M6・7の北海道地震などで、適切な対応が取れず、被害が拡大したのは周知の通りだ。 振り返れば、元号が昭和から平成に変わるとバブル経済が崩壊し、そして巨大災害の時代に突入した。そこで政府やマスコミは「未曽有の」「想定外の」という言葉を連発し、また被災した多くの市民も「まさかこの地域で」との思いを口にした。迫る巨大地震の発生 しかし、環境史、開発史、災害史を基礎とした災害リスクの研究をしている筆者からすると、「未曽有の」「想定外の」「まさかこの地域で」などは幻想に過ぎない。たとえばM7以上の地震は、観測時代に入ったこの100年余りで5年ごとに平均3回も発生している。 M6以上だと5年ごとに6回も発生しており、この程度の地震は、決して「未曽有の」ではない。また、津波についても1896年の明治三陸地震で2万人以上の犠牲者が出ている。2011年の東北地方・太平洋地震(東日本大震災)は、しばしば貞観大地震(869年)まで遡(さかのぼ)り、1000年に一度の震災と言われているが、そんなことはない。世界では、M8・5以上の地震は20世紀以降、11回も生じているのである。 そして、筆者はこれまで「スーパー南海地震」が発生する危険性が迫っていることを指摘してきた。政府は、静岡県-三重県-高知県近海の「南海トラフ」を震源とするプレート型地震を警告してきたが、地震の範囲は過去に起きた東海、東南海、南海地震の範囲に収まらない可能性が高い。これがスーパー南海地震と呼ぶゆえんである。 そこで、2025年大阪万博の開催が予定されている「夢洲(ゆめしま)」(大阪市此花区)について考えてみる。夢洲は、現在埋め立てが進行中の人工島だ。標高が極端に低く、津波時には確実に水没する。しかも巨大地震が起きれば広範囲にわたって液状化する。さらに、夢洲に至る交通アクセスは極端に少なく、災害時にここから脱出することは容易ではない。 現在、夢洲では鉄道の延長が計画されているが、万博後は利用者が激減するため、対策としてカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致も計画されており、一帯は高層建物が多数乱立することも予想される。すでに東日本大震災の際、大阪湾岸の人工埋め立て地の高層建物では、エレベーターが停止し、多くの人たちが閉じ込められたことを考えれば、スーパー南海地震による被害がいかに甚大になるか、想像に難くない。 そもそも、大阪屈指の繁華街・梅田や大阪市域を南北に走る幹線道路、御堂筋などがある大阪平野は津波で完全に水没する。また、少し離れた大阪城がある上町段丘面(東京の山の手にあたる)の東側に位置する河内平野も津波被害を受ける。スーパー南海地震時に津波の被害からまぬがれる範囲は、大阪城付近のみという悲惨な状態にある。津波でほほ水没する可能性が高い梅田周辺=大阪市北区(産経新聞社ヘリから、彦野公太朗撮影) こうした状況の中、現在、ユーラシアプレートでは、口永良部島、桜島、霧島山新燃岳、霧島山硫黄山、阿蘇山などの活動が活発化している。ゆえに、スーパー南海地震が発生するまでの時間は、かなり近いと考えざるを得ない。 筆者は、大阪万博どころか、2年後の東京五輪すら無事に迎えられるかどうか懸念している。政府は、南海トラフ地震が今後30年以内に発生する確率を「80%」と予測する。当たり前だが、30年以内の中には今日も明日も含まれている。また、地震発生確率というものは、実は0・5%でもかなり高い。これが80%となると、断定しているようなものだ。 そして筆者は、東日本大震災の被害から考察し、スーパー南海地震の津波犠牲者は47万人以上(政府は32~33万人)と推定している。一方、土木学会は今年、南海トラフ地震による経済損失を試算し1440兆円と公表した。これは、日本の国家予算の14~15倍の額である。 こうした現状を踏まえれば、2025年大阪万博の開催は、豊臣秀吉の辞世の句よろしく「浪速のことは夢のまた夢」になりかねない。■ 大阪直下地震で思い出す「増税なくして復興なし」のペテン■ 大阪直下地震は次に起こる南海トラフの前兆か■ 松井一郎手記「安倍総理は本心をごまかしている」

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    なぜ今、大阪が外国人観光客に大人気なのか

    溝畑宏(大阪観光局理事長)今、外国人観光客に大人気の都市が大阪だ。2017年に大阪府を訪れた外国人は1,111万人となり、5年連続で過去最高を更新。13年に比べて4.2倍に伸びており、日本全体の2.8倍を大きく上回る。いったい、なぜなのか? 大阪の観光政策の司令塔を務める大阪観光局理事長・溝畑宏氏に話を聞いた。 大阪を訪れる外国人観光客が急増している理由として、しばしば指摘されるのが、関西国際空港に就航するLCC(格安航空会社)の便数が日本一であることだ。主に中国や韓国など、アジアの都市との間を結んでおり、大阪を訪れる外国人の7割以上が、中国、韓国、台湾、香港の4カ国・地域からの人たちとなっている。 そして、日本へのLCCの就航のために、観光庁長官として尽力したのが、現・大阪観光局理事長の溝畑宏氏であり、関空へのLCC誘致に熱心に取り組んだのが、当時の橋下徹大阪府知事だった。「橋下さんとのおつきあいが始まったのは、僕が観光庁長官だったときです。 観光庁長官に就任したのは、リーマン・ショック後の2010年。観光は、それぞれの地域に今あるものをブランディングして価値を高め、国内外に広報することによって、ヒト・モノ・カネを集めるものですから、財政出動がいらない経済政策だと言われています。国も自治体も財政が逼迫している中、観光こそがリーマン・ショック後の日本経済成長のエンジンだと考えて、観光政策に取り組んでいました。 観光庁は国土交通省の外局なのですが、国交省の枠を超えて各省庁からメンバーを集めた観光立国推進本部を設置し、ビザの緩和や無料Wi-Fiの普及、羽田空港の国際化、クルージング船の誘致、MICE(国際展示会や国際会議など)の強化などを進めました。LCCの就航も、そうした中の一つです。 橋下さんも、観光に力を入れることで、大阪経済を低迷から脱却させたいという強い想いを持っていたので、仕事でご一緒する機会が出てきたわけです」 もちろん、単にLCCの便数が増えれば、外国人観光客が増えるというわけではない。大阪の街に魅力がなければならないし、受け入れ態勢も整えなければならない。 街の魅力という点では、大阪は恵まれている、と溝畑氏は言う。「大阪は、1時間もあれば京都、奈良、神戸、滋賀、和歌山へ行ける、関西エリアの中心に位置しています。そして、国宝や重要文化財の60%が関西エリアに集積しています。 さらに、食や文化、エンターテインメント、スポーツ、医療を含めた健康分野においても、大阪は日本の中でも質の高いものを持っています。もともと、大阪は観光資源に恵まれているのです。 しかも、関西人はコミュニケーション能力や包容力が高くて、おもてなしが上手。そのことが、リピーターを増やしている大きな要因になっていると思います」関西空港の出発ロビー(ゲッティイメージズ) すると、カギになるのは受け入れ態勢の整備だ。「ホテルの誘致や無料Wi-Fiの普及、案内板などの多言語表示、キャッシュレス化の推進など、地道な取組みを、官民一体となって、スピーディに進めてきました。 例えば、飲食店が無料Wi-Fiを提供したり、多言語のメニューを用意したり、カード決済を導入してキャッシュレス化をしたりするためには、お金がかかります。それでも、多くの飲食店が、そうした投資をしている。皆、それだけ本気だということです」街の飲食店も一体になるワケ 行政が旗を振っても、市民は動かないという自治体も多いだろう。なぜ大阪では、街の飲食店までもが一体となっているのか。「『投資をした店は、これだけ儲かっているんですよ』というデータを、しっかりと皆さんに示しているからだと思います。 僕は、理事長就任以来、商店街や企業、各種団体、大学など、様々な場所で講演をして、データを示してきました。 観光局の職員にも、『空気で仕事をするな。データを示せ』といつも言っています。目指しているのは、日本一のマーケティング・リサーチ能力を身につけることです。 もちろん、それぞれの施策について効果測定を行なってデータを取り、次の施策に活かすこともしています。 例えば、海外でのプロモーションはイベントからSNSへと比重を移していますが、これも効果測定をしたうえでの判断です」 大阪の観光業を基幹産業へと成長させ、関西経済の起爆剤とするためには、外国人観光客の数だけでなく、1人当たりの支出額を増やすことも重要だ。大阪を訪れた外国人の1人1日当たり平均支出額は2万5,574円と、すでに全国平均の1万6,914円よりも多いが、さらに増やすための施策を進めている。そこでもやはり、重視しているのはデータだ。大阪の道頓堀(ゲッティイメージズ)「支出額の内訳を見ると、飲食費は15%、娯楽・サービスは7%と、割合が低い。これを増やすために注目したのが、ナイトタイムエコノミー、つまり夜の時間帯の消費です。 というのは、GPSを使って、道頓堀エリアなどの繁華街での外国人観光客の動きを時間帯ごとに調べると、22時以降は滞在する人が急減することがわかったからです。ホテルに帰ってしまうのです。 そこで、道頓堀エリアの店舗を中心に、21~24時に飲食店やエステ店、クラブなどで使えるクーポンを発行する『Osaka Night Out』という実証実験を、今年2月28日~8月31日に行なっているところです(取材時)」富裕層を取り込め 外国人観光客の支出を増やしてもらうための施策は、他にもある。「今は、中間層の方に多く来ていただいているのですが、富裕層にも多く来ていただきたい。 僕は大阪府・大阪市IR推進会議の座長も務めているのですが、カジノを含めたIR(統合型リゾート)を招致しているのも、富裕層を増やすためです。 飲食にしても、『安くて美味い』が大阪の良いところではあるのですが、高級店も充実させていきたいと考えています。 また、国際展示会や国際会議を多く誘致することで、それらに参加する支出額の多い方々に来ていただく活動もしています。 周辺自治体との連携もしています。なんらかのテーマやストーリーに基づいて、関西を周遊していただくことで、滞在日数を長くしていただくのです。 支出の半分を占めるショッピングについても、現状では、金額で言うと化粧品や医療品・健康グッズ、電気製品が多いのですが、堺の包丁など、ブランディングすれば売れる地元の名産品はまだまだあります」 大阪では、これからも大規模なスポーツイベントやインフラ整備が予定されている。これらも、さらなる外国人観光客を呼び込む契機となり得る。「来年は日本で初めてのG20サミットが大阪で開催されますし、花園ラグビー場でラグビーワールドカップの試合も行なわれます。25年の万博は誘致活動を進めているところです。 鉄道も、JR桜島線、京阪電鉄中之島線、大阪メトロ中央線の延伸が計画されていますし、31年には大阪の中心部と関空を結ぶなにわ筋線が開業する予定です。リニア新幹線も開業予定ですから、大阪へのアクセスはますます良くなります。 関空と伊丹空港、神戸空港の機能について見直す協議会も近く開催される予定で、より効率的に運用されるようになります。 成長著しいアジアのダイナミズムを取り込んで、かつて『大大阪』と言われた時代の繁栄を、再び取り戻したい。そのために、スティーブ・ジョブズではありませんが、『stay hungry』の精神で、チャレンジを続けていきます」「観光のプロ」が来た理由 溝畑氏は、もとは自治省(現・総務省)の官僚だった。大分県庁に出向していた間に、プロサッカークラブ・大分トリニータの立ち上げや、世界中から多数の外国人留学生を受け入れる立命館アジア太平洋大学の開校などの実績を上げ、その後、観光庁長官に就任した。いわば地域振興や観光のプロだ。「東日本大震災からの復興に取り組んだあと、12年に観光庁長官を辞めました。それからは、内閣官房で東京オリンピック・パラリンピック招致などの仕事をするとともに、先ほどお話ししたように橋下さんとの関係ができていたので、大阪府特別顧問として、大阪の観光政策にも関わるようになりました。大阪観光局の設立(13年)や宿泊税の導入(17年)、IRの誘致などは、その頃から話し合ってきたことです。 その後、松井一郎大阪府知事、橋下大阪市長(当時)、関西経済連合会の森詳介会長(当時)、大阪商工会議所の佐藤茂雄会頭(当時)といった方々から『もう一度、関西・大阪を復活させてほしい』という熱いラブコールを受けて、15年4月に大阪観光局理事長に就任しました」 職を引き受けた理由は、「官民一体となって大阪の観光業を成長産業、基幹産業にしていこうという強い意志と決意が感じられた」ことだという。また、故郷への想いもあった。「僕は、関西の京都出身です。大学進学で東京に行く前の関西は誇り高きエリアで、東京を見下ろすくらいでした(笑)。ところが、40年近く経って、ふと客観的に見てみると、経済が低迷し、東京一極集中が進んでしまっていた。 橋下さんが知事時代から言っているように、関西の復権なくして日本の再生はありません。関西の中でも、ハブになっているのが大阪です。大阪観光局理事長の溝畑宏氏 このまま東京にいて観光立国や地方創生に取り組むより、関西に戻って、その経済を再び活性化させ、東京一極集中の歪みを正して大阪をもう一つの極にし、さらに、世界でも競争力のある都市に変えていくための仕事をしたい、と思いました。 私の人生は、常にチャレンジの連続です。人口120万人の大分県でも、世界にチャレンジしていました。日韓ワールドカップの試合を大分スタジアムに誘致したり、立命館アジア太平洋大学を開校したり、大分トリニータを立ち上げて社長に就任し、08年のJリーグナビスコカップで優勝したりと、ローカルから世界の高みを目指しました。 大阪でも、同じように、志を持って世界を目指しています」《人物写真撮影:桂 伸也》みぞはた・ひろし 〔公財〕大阪観光局理事長。1960年生まれ。京都府出身。85年に東京大学法学部を卒業後、自治省(現・総務省)に入省。90年、大分県庁に出向。99年に自治省に戻り、翌年、再び大分県に出向。06年、総務省を退職。この間、94年のクラブ発足時から大分トリニータの運営に携わり、04年、運営会社である〔株〕大分フットボールクラブの代表取締役に就任。10年、観光庁長官に就任。12年、内閣官房参与、大阪府特別顧問、京都府参与に就任。15年、〔公財〕大阪観光局理事長(大阪観光局長)に就任。

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    落合陽一「2025大阪万博までの7年をどう生きるか」

     この1年で6冊の本を出した(うち3冊は共著)落合陽一さん。「いずれもよく売れている。いま最注目の方」(高井昌史・紀伊國屋書店社長)と評される存在で、活動の幅は「メディアアーティスト」「筑波大学准教授」などの肩書きにはおさまらないものがある。その生の声を聞き、何を目指してしているのかを知るため、師走の渋谷に100人を超える聴衆が集った。作家の猪瀬直樹さんがホスト役となり進行したこの日のシンポジウム。テーマは「2021年以後のニッポンを考える」。そこで飛び出したのは、先日開催が決まった2025年大阪万博の話題だった。* * *落合:後期高齢者に団塊の世代がすっぽり入るのは、くしくも2025年です。そうなったとき「いのち輝く未来社会」(注:2025大阪万博のテーマ)が来たといって、われわれは「わ~万博だ~」とやっているのですが、その裏では、1人あたりの医療費が高い世代が、国のメイン層として日本の財政にのしかかるようになるわけです。だから、それまでになんらかのテクノロジーで解決策をみつけるしかないんです。猪瀬:課題先進国として、万博はそこで何かやるしかない。落合:解決している状態をみせないと・・・。これが焼け野原です、にはなりたくないので、7年後に解決した結果を見せたい。なので時間がない。もう7年しかないので、ぼくは急いでいます。──(会場から)大阪万博まであと7年。わたしたちは社会貢献のために、今、どうアクションすればいいのでしょう。落合:成熟した社会ですべてのルールが定まっているとするならば、国民がやれることは選挙に行くこととか、政治的な意識を持つことだとか、それに参加するためのプログラムを作ることなのかもしれません。でもいまのわれわれ世代は、十分成熟していないので、積極的にSNSで発信したり7年後までにインフルエンサー(流行の発信源)になったりした方が、社会貢献度は高いと思っています。 つまり、7年後になって社会の一員としてできることを探すのと、7年前のいまから気づいて情報発信をし続けることによって“意見の風上をとる”ことは、まるで話が別です。いまのわれわれは意見の風上をとれる段階にあります。たとえばメインのお仕事があるのなら、週1~2日だけ考えを発信してみたりとか、発信を積極的にやるような意見会に出て、その後に発信してみたりとかです。そうやって、なんらかの情報サービスの中に自分を位置づけるのか、もしくは産業の中でもの作りで貢献するのもありでしょうけど、早く気づいて早く動いた方がいい時代です。 いまこの世の中で、社会を変えるための方法を模索しながら考えて手を動かしている人の数なんて、極めて微々たるものです。だから、発信していった方がいいと思うんです。猪瀬:2025を設定したってことが大事。設定したってことはそこに向けて動き、その先に解決があるってことです。こうした設定を出すことが大事だったんです。落合陽一氏は今年、6冊の本を上梓した──(会場から)1964年のオリンピックと1970年の大阪万博。これら過去にはどういう意義があったのか。そして、今回の意義は何でしょう。お考えを聞かせてください。落合:1964年と1970年のことは全然しゃべれないですけど、ぼくから見たら、1964年に設計された東京都市で、いまもわれわれは生活している。そして1970年の大阪万博では「人類の進歩と調和」を統一テーマにした。あそこで示されたものに、もう、全天球カメラがあった。月の石もあったし、人類が考えられるSF的な未来の可能性はあそこにすべて包まれていた。これはみんな意外と見落としている事実です。インターネットも詰まっていて、それによって実現される社会はイメージの段階として広がっていったんですよ。 われわれが今度の万博でやらなければいけないことは、現在までの間に実証されたことに基づいて、生活感をどう取り戻すかということ。未来のビジョンはもちろんある。そのビジョンから当たり前の風景が見えれば、もはや夢物語ではないとして扱ってもいいでしょう。 東京五輪についていえば、1964年の時に作りかえられた都市構造を、われわれは工業的発展構造の都市から個別具体的分散構造の人口縮小型の都市に変えていかなければならない。その転換点が2020年にやってくるんですね。東京五輪「真のテーマ」 人口が増加して、もっとも効率的な移動手段はベルトコンベアです。東京には緑のベルトコンベアが走っていますよね。「山手線」というんですけど(会場、笑い)。ベルトコンベアの次に効率的なのが、ライントレーサーですね。自動運転です、要は。ニューヨークやシリコンバレーでは、自動運転の導入を進めている。なぜか。高速道路の出入口や橋でものすごく渋滞するので、その運転という労働から解放されたいんです。 一方、日本の都市部で、なぜそこまで自動運転のニーズが高まっていないのか。ひとつには、タクシーがいっぱい走っていて、お金持ちはそれで移動できてしまう。また一方で、地下鉄、地上、そして物量化を担っている首都高速をはじめとするインフラが、すべてレイヤー(階層)に分かれていて人口の急激な増加に耐えきれるようになっている。それがわれわれ社会の特殊な都市構造だと思うのです。 これから人口が減少したときに、その構造をどう作り替えるのかが、2020年(東京五輪)のひとつのテーマです。猪瀬:1964年は首都高速ができました。東海道新幹線もそうです。ソ連映画『惑星ソラリス』(1972)は東京の首都高を走るシーンを、未来都市として描きました。1970年の大阪万博も未来をそこに置いたんですね。でも、およそ50年経っているので、「未来」はそろそろ一回りする。1964年と1970年には、落合君は生まれていなかったしね。落合:そうですね。ぼく31なんです。みなさんによく年がわからないといわれます。でもぎりぎり昭和生まれ。だからここ(猪瀬さんと自分)は同じ世代なんです(笑い)。* * * 年の差41を感じさせないやりとり。それは、落合さんが猪瀬さんの著作の愛読者でもあるからのようだ。《猪瀬さんは作家として「日本の近代」を大テーマに掲げ、多くの著作を書いてきた。その分野は、巨視的な歴史であり、日本の官僚制であり、文学であり、先の大戦であり、メディアでありと非常に多岐にわたっています。》『ニッポン2021-2050 データから構想を生み出す教養と思考法』落合陽一、猪瀬直樹(KADOKAWA)「まえがき」より その猪瀬さんは今年、「日本の近代」をテーマに16巻になる電子書籍版の著作集を完結させた。いっぽう落合さんは、最新刊『0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる学ぶ人と育てる人のための教科書』で、「人生100年時代」に本当に必要な教育について思考を深めている。 さて、7年後、この2人が大阪万博に「出品」するのは、どんな未来になるのだろうか。作家・猪瀬直樹氏がホスト役を務めた【プロフィール】おちあい・よういち/1987年生まれ。メディアアーティスト、東京大学学際情報学府博士課程修了、博士(学際情報学/東京大学)、筑波大学准教授、筑波大学学長補佐、筑波大学デジタルネイチャー推進戦略研究基盤代表、Pixie Dust Technologies.inc CEO、大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授、JST CREST xDiversity代表。オンラインサロン落合陽一塾主宰。著書に『これからの世界をつくる仲間たちへ』(小学館)など多数。【プロフィール】いのせ・なおき/1946年生まれ。作家。1983年に『天皇の影法師』『昭和16年夏の敗戦』『日本凡人伝』を上梓し、1987年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞。評伝小説に『ペルソナ 三島由紀夫伝』『ピカレスク 太宰治伝』『こころの王国 菊池寛と文芸春秋の誕生』がある。『日本国の研究』で1996年度文藝春秋読者賞。2001年10月より「『日本の近代』猪瀬直樹著作集」全12巻を小学館から刊行する。2002年、小泉首相より道路公団民営化委員に任命される。その戦いの軌跡は『道路の権力』『道路の決着』に詳しい。2006年に東京工業大学特任教授、2007年に東京都副知事、2012年12月に都知事。2013年12月辞任。2015年12月より大阪府市特別顧問。近著に『東京の副知事になってみたら』『救出─3.11気仙沼 公民館に取り残された446人』『民警』などがある。※シンポジウムは、2018年12月5日、日本文明研究所(猪瀬直樹所長)主催により東京渋谷で開催された。関連記事■ 落合陽一氏「プログラムを学ぶだけでは…」■ 落合陽一氏「国民は国際情勢より小池知事のプロレス見たい」■ 落合陽一氏「テクノロジーの進化でテレパシーが現実となる」■ 落合陽一「お金があれば幸せ、という観念は変化していく」■ 終の棲家探し どこで生きるかより、どう生きるかが重要

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    オリンピックおじさん×万博おばさん 奇跡の対談が実現

     東京オリンピックの開催まで800日を切った今、開会式のチケットの販売予定最高額が約29万円と報じられ、浅草・雷門、皇居、銀座と東京の名所をめぐるマラソンコースが発表されるなど、来るオリンピックへの期待に日本中が沸いている。 さらに今年11月には2025年万博の大阪誘致の結果も発表予定。高度経済成長期のまっただなか、日本中が東京オリンピックに熱狂し、大阪万博に高揚した。万博誘致が成功すれば、“あの頃”の熱気が帰ってくる。 その時私たちは、この2大国民的イベントをどう楽しめばよいのだろうか。女性セブンは、「オリンピック」と「万博」を日本中の誰よりも愛してやまず、半世紀以上見守ってきた“オリンピックおじさん”と“万博おばさん”の2人を緊急招集。その魅力を心ゆくまで語ってもらった。■オリンピックおじさん=山田直稔さん(92才) 富山県に生まれ、大学入学とともに上京。1960年に会社を設立。ホテルや不動産などさまざまな事業を手広く扱う。これまでの夏季オリンピックに14大会連続で応援に駆けつけている。なお、冬季は長野オリンピック以外は不参加。大相撲や高校野球でも精力的に、現場で声援を送っている。■万博おばさん=山田外美代さん(69才) 石川県に生まれ、5才で愛知県瀬戸市へ。愛知万博に皆勤したことをきっかけに万博の素晴らしさに目覚め、以来通うように。その功績が認められ、2017年のカザフスタン・アスタナ万博では大使を務め、現在は2025年の大阪万博誘致に向けて奔走中。万博おばさんこと山田外美代さん(以下、外美代):今日はどうしてもお会いしたくって新幹線で名古屋から飛んでまいりました。同じような志を持ったかたがいた!と。オリンピックおじさんこと山田直稔さん(以下、直稔):ワッハッハ! そりゃあうれしいなあ。色紙にサインを書いてやるよ。(集中して書くあまり、しばらく無言になる)外美代:あら、うれしい。ありがとうございます! って、聞こえてます?(苦笑)万博おばさんこと山田外美代さんと、オリンピックおじさんこと山田直稔さん(撮影/田中智久)〈山田直稔さんは、夏季オリンピックになると金のシルクハットに羽織袴で世界各国に現れては、“自称・応援団長“として全力で応援する五輪の名物的存在。一方の山田外美代さんは、2005年の愛知万博で185日間にわたる開催期間に全日来場。以来、各国の万博に顔を出し、上海万博にも全日参加して当時首相だった温家宝氏から感謝状までもらった強者だ。2人のライフワークともいえるオリンピックと万博。それぞれの“初体験”はいつだったのだろうか。〉直稔:おれは1964年の東京オリンピック。開会式から閉会式まで全部見たけれど応援はせず、一観客として行っただけ。当時は今以上に開催前から街中がオリンピック一色。キャバレーですら「東京五輪キャンペーン」をやっていて、楽しかったなぁ(笑い)。外美代:女の子とオリンピックの話で盛り上がったんですか(笑い)? 私はそのときまだ中学生だったんですが、先生から「オリンピックは学校を休んででも見ろ」と言われて、テレビに釘付けになって見てました。当時は外国の人については、本で読むくらいしか情報がなかった。先生は、この機会にリアルな外国の人を自分の目で見なさい、という気持ちだったのでしょう。中でも、裸足のランナー・アベベは衝撃的でした。直稔:確かにあの走りはすごかったな。それであなた、初めて行った万博は?外美代:1970年の大阪万博に、当時の会社の同僚とバスツアーで行ったのが最初です。団長は「太陽の塔」ってご存じですか?直稔:岡本太郎の作品ね。イヤだったはずが…外美代:印象的だったのが、その「太陽の塔」。塔の内部に入り、生命の進化を描いた「生命の樹」という作品を見ながら出口まで進んでいくのですが、見終わって外に出た時、自分たちの未来に、輝くような希望を感じたことをよく覚えています。 東京オリンピックでは、「東洋の魔女」と呼ばれた日本女子バレーチームがソ連(当時)のチームとの接戦を制して優勝を勝ち取り、日本中を沸きに沸かせた。その後の大阪万博では三波春夫の歌うテーマソング『世界の国からこんにちは』が大ヒット。300万枚を超える売り上げを記録。多くの国民と同じく、2人にとってこの原体験は強烈だったが、2人が「オリンピックおじさん」「万博おばさん」として活動を始めるのはもう少し先だった。直稔:応援にのめり込むきっかけになったのは、1968年のメキシコ。外美代:なんでまた、メキシコに?直稔:社長として会社を大きくしてゆく時期で、親友から「日本に納まってちゃいかん。どんどん世界へ行かなくちゃ」って旅行に誘われた先がメキシコだったの。で、どうせ行くならオリンピックを見ながら日本をアピールしようと日の丸の旗と羽織袴を持参して、現地で買ったメキシカンハットを被ったら、もう目立っちゃって(笑い)。外美代:それが今のコスチュームの原型になったんですね。直稔:そう。とくに思い出深いのが、男子陸上競技。メキシコ人って遠目から見ると日本人にそっくりだから、日本の選手を応援してたつもりが、途中から間違えて、メキシコ人選手を応援してた。引くに引けなくなって、「メヒコ! メヒコ!」と絶叫していたら、今度はメキシコ側の観客たちがそのエールにのって、「ハポン! ハポン!」と日本人選手を応援し始めてね。13万人の大観衆が総立ちで相手の国の選手を応援したんだ。こんな感動したことはなかったね。外美代:団長の“応援精神”はそこで培われたのですね。直稔:そう。応援って、すごい力を持つものなんだって、心底実感した。外美代:私は、2005年の愛知万博『愛・地球博』が、正式に万博にハマったきっかけです。実は最初は、イヤイヤながら行ったのよ。直稔:嫌なのにどうして行ったのよ?外美代:実はその前に大きな手術をして体力が落ちていて、主治医から「リハビリのため、散歩がてら万博に行ってみろ」と言われて。「そんなに行け行け言うのなら、先生が行きゃあいいじゃない」と毒づきながら行ってみた。 そうしたら、そこは「世界」だった。各国のパビリオンでは、パスポートなしで世界中の人と交流できる。そのうえ期間内ずっと使えるパスポートが1万7500円なんです。一度購入すれば、何度も入れるから「5回も行けば元がとれる」という“名古屋人精神”に火がついて、気がつけば毎日通っていた(笑い)。関連記事■ “オリンピックおじさん”大統領用席に座ったら目の前に長嶋茂雄■ チェニックおばさん卒業のための着こなし術5つをプロが伝授■ オリンパス事件を解明した証取委 その実力で奇跡の人員増実現■ 「エアポート投稿おじさん」が話題、次の新種おじさんは?■ 「港区おじさん」より「埼玉おじさん」 前向き解釈が得意

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    「仮想通貨バブル」はこうして崩壊した

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 「仮想通貨バブル」が事実上終わった。仮想通貨自体は、代表的存在である「ビットコイン」を含めて10年以上、支払い手段や投機の対象として、ある程度親しまれてきた。 ただ、昨年からのビットコインの猛烈な価格上昇は、仮想通貨バブルと呼ぶべき投機を生んだ。2017年の1年間で、ビットコインの資産額は14倍ほどに膨張した。 しかし、年明けから状況は一変し、ビットコインをはじめとした仮想通貨バブルは一気にしぼみ、事実上崩壊した。ビットコインは、昨年末には200万円台だったが、12月3日現在では約45万円まで暴落している。 また、単純に暴落しているだけではなく、乱高下を繰り返している。この現象を「ボラティリティー」という。もちろん、ビットコインのみならず、仮想通貨全般に大幅な下落が生じている。株式評論家の早見雄二郎氏は、仮想通貨ならぬ「火葬通貨」と表現している。さらに、仮想通貨バブルに積極的な批判を展開しているニューヨーク大のヌリエル・ルービニ教授は、「ゾンビ仮想通貨」と辛辣(しんらつ)な表現をしている。 前述の通り、仮想通貨は去年の後半に大ブレークを起こし、注目を浴びた。また今年前半には、仮想通貨交換所のコインチェックで約580億円相当の仮想通貨「NEM(ネム)」が盗難されるというサイバー犯罪が起き、国内外に大きく報じられた。不動産や株価を中心に起こった80年代終わりから90年代初めのバブル景気も、資産価格の高騰とその後の大暴落の前に、犯罪や怪しげなバブル貴族が多く湧いたが、今回もその手の話題には事欠かない。 筆者は昨秋から、仮想通貨の価格高騰が単に投機的な目的に基づいていて、脆弱(ぜいじゃく)なものであると事あるごとに指摘してきた。そのため、1年以上たって起きている火葬通貨化やゾンビ化は不思議なことではない。なぜなら、仮想通貨には根源的な問題があるからだ。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) ここで、仮想通貨の基本とその問題点を簡単に解説してみたい。仮想通貨の基本的な性格は、それがインターネット上の通貨ということだ。日本の円通貨が紙幣や硬貨のような有形物なのに対して、仮想通貨は手に触れることができない。支払いも残高の管理も、全てネット上で行われている。 ところで、日本は世界でも有数の「現金好き」な国である。海外に旅行する経験が豊富であれば、欧米やアジア諸国で急速に「キャッシュレス社会」が進展していることに気が付くだろう。 ただ、日本でも徐々にキャッシュレス化は進行している。例えば、電車の運賃やコンビニなどの支払いを、「Suica(スイカ)」や「PASMO(パスモ)」などの交通系の電子マネーで済ます人は多いだろう。支払い手段としては厳しい 電子マネーは、ビットコインなどの仮想通貨とは異なる。スイカは、JR東日本が利用者の残高を管理しているが、ビットコインには管理者がいない。 また、スイカの残高の価値は円表示されていて、それが刻一刻変動することはない。だが、仮想通貨の場合は、冒頭で記したように1単位の価値が円に対して変動する。海外の電車を使う際には、スイカのICカードを直接利用することはできないが、仮想通貨は、国境を跨(また)ぐ支払いに使うことができる点も大きく異なる。 ちなみに、来年10月に予定されている消費税率の10%引き上げの緩和策として、キャッシュレス決済を促進する政策が提起されている。ただし、消費増税により、元々の「決済」自体が大きく低下しそうな状況で、このような「浅知恵」は官僚的なものだな、とため息をついてしまう。 仮想通貨には、代表的なビットコインと、それ以外の仮想通貨「アルトコイン」があり、全て含めると種類は1000を超える。ただし、一般の人が利用する仮想通貨はおそらくその3割程度だと思われる。 仮想通貨はインターネット上に存在するため、実際の決済はパソコンやスマートフォンを操作することで行われる。日本でビットコインの決済サービスを導入している代表的な企業として、家電量販大手のヤマダ電機が挙げられる。ビットコインの交換業者大手である「bitFlyer(ビットフライヤー)」は、利用者にビットコインのための口座「ウォレット」用のアプリを提供し、そこでビットコインの支払いや受け取り、購入、保管なども一括して行っている。 このアプリはスマホにダウンロードできるので、ヤマダ電機の店舗に行ってアプリを利用して、その場で買い物ができるようになる。ただし、ビットコインで支払いできる店舗は極めて少なく、支払い手段としてはかなり厳しいというのが、今のビットコインに対する評価ではないだろうか。 本来ビットコインは、従来の銀行を経由した決済よりも手数料が極めて低額であることが魅力だった。ただ、最近はビットコインの価値上昇に伴い、このメリットが失われつつあり、また支払い確認にも時間がかかる。例えば、通常のカードによる支払いも端末などで認証をしているが、認証時間は極めて短い。それに対して、ビットコインの取引時間は短ければ数分だが、数時間もかかる場合もある。 この時間のコストは無視することができない。なぜならば、ビットコインは、価格変動が大きいので、時間がかかればかかるほど「価格リスク」が発生する。ただし、先ほどのヤマダ電機のケースは、購入者側での価格リスクを回避できる仕組みがあるなど、さまざまな対応策が現場で採用されているようだ。ビットコインの支払いで使うスマートフォンの画面=2017年4月、東京都千代田区 では、なぜ一般的にビットコインの取引には時間がかかるのだろうか。そこには、ビットコインに代表される仮想通貨と、私たちが普段の生活で利用している貨幣に共通する性格が関わってくる。 われわれが利用している円やドルなどの貨幣は各国政府が発行し、その信頼性を裏付ける。もっと踏み込んでいえば、通常の政府貨幣は、それが「貨幣ゆえに貨幣である」という形で信頼性を得ている。 利用する人たちが、この紙切れが「円やドルという貨幣である」と信頼することが、そもそも貨幣が貨幣たるゆえんなのである。政府や、唯一の貨幣発行機関である中央銀行は、いわば単なる「きっかけ」程度の役割しか、実は持っていない。良貨が悪貨を駆逐する 貨幣を使う人たちがそれは貨幣であると信頼することができれば、貨幣は誕生する。これを「貨幣の自己循環論法」といい、かなり正しい経済学の考え方だ。 政府も中央銀行も貨幣誕生について本質的なものではないならば、取引する人みんなが貨幣(通貨)だと思う仕組みを作ればいいことになる。ビットコインなど仮想通貨の貨幣としての信頼性を生み出す仕組みが、ブロックチェーンと呼ばれる機構である。簡単にいうと、ネット上でその電子情報がちゃんとした「通貨」として取引されてきた、という裏書きがされているものだ。 そして、裏書きされているかどうかは、市場に参加している不特定多数の人が立証することができる。立証することが出来れば利益も出る。そのため、ビットコインの運用は、市場参加者により自発的な形で行われ、しかも信頼性の高いものとなっている。これが「分散型」といわれるものだ。 ただし、ここに先述した「ビットコインの取引には時間がかかる」というコストが発生する原因がある。今支払いに利用された電子情報が「ちゃんとしたビットコイン=仮想通貨」であることを確認するのは、特定の管理者ではなく、市場の不特定多数の人たちである。この不特定多数の人たちは「採掘者(マイナー)」と呼ばれている。実際には報酬が伴うとはいえ、彼らの「自主的な努力」によって、ビットコインは貨幣としての信頼を獲得するのである。 でも「市場任せ」のために、どうしても時間がかかってしまう。政府や中央銀行が紙や金属片を精緻に印刷し、精巧に鋳造することで、貨幣の信頼性をモノの側面であらかじめ保証するのに対して、電子情報が貨幣として信頼あるものになるには事後的に認証されるために、時間がどうしても必要になるのだ。 ただし、貨幣の本質から見れば、既存の貨幣も仮想通貨も、市場に参加している人々の信頼だけが貨幣を貨幣たらしめることでは大差ない。そこが理解のポイントである。 そして、この「貨幣ゆえに貨幣である」という貨幣の基本的性格を、仮想通貨が満たしているとはいえない。確かに、支払い手段として使われているのだが、それは局所的現象にとどまる。大半の仮想通貨は単に投機目的のために所有され、「投機が投機を招く」という別の自己循環論法で存在する経済的価値でしかないのである。2018年9月、70億円相当の仮想通貨を流出させた仮想通貨交換業者「テックビューロ」本社が入居する大阪市内のビル。金融庁から3度目の業務改善命令を出された ルービニ教授は最近、仮想通貨の持つ根本的な問題として、中央銀行が仮想通貨を発行すれば、既存の仮想通貨は全て排除されるだろうと指摘している。中央銀行の仮想通貨には、ブロックチェーン技術さえ不用かもしれない。なぜなら、中央銀行の発行する貨幣がそのまま仮想通貨に置き換わるならば、その既存の貨幣が保有していた「貨幣としての信頼性」をも完全に代替可能になるからだ。 つまり、日本銀行がスイカやパスモを発行しているようなものだ。それぞれの国民は直接、中央銀行に口座を所有し、そこで残高管理されるわけである。この強力な中央銀行型仮想通貨、むしろ中央銀行型電子マネーが誕生すれば、おそらく民間発行の仮想通貨が生き残ることは難しい。 もっとも、投資対象として生き残ることは可能かもしれないが、今よりもさらに規制が厳しくなるだろう。支払い手段を目指した貨幣ではなく、その場合は単なる「ネズミ講」と変わらなくなるからだ。そこに民間主体の仮想通貨が持つ長期的な不安定性がある。「悪貨が良貨を駆逐する」のはまずいが、「良貨が悪貨を駆逐する」のは望ましいことでもある。■ 山本一郎が読み解く仮想通貨流出「コインチェック事件」の本質■ コインチェック事件は想定内、仮想通貨が抱える3つの問題■ 「仮想通貨は危ない」という人も知って損はないビットコインの潜在力

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    シャープほか 不祥事銘柄が絶好の狙い目になる例も

     ここ数年、日本を代表する企業に不祥事が相次いだ。だが、「安く買って高く売る」投資の大原則に従えば、何らかの理由で叩き売られた企業の株が「絶好の狙い目」になり得る。 そうした“不祥事銘柄”に投資し、2億円以上の資産を築いた「億り人」の吉良吉影氏は言う。「かつて私が大きく儲けたのはオリンパス(東1・7733)です。2011年10月に粉飾決算が発覚し、損失隠しに関与した社長らが次々に解任。発覚前に2482円だった株価が1か月ほどで5分の1となる400円台まで急落し上場廃止も囁かれる中、私はオリンパス株に500万円投資しました。急落から1か月後、1200円超まで回復したところで売って、元手を2倍にしました」 その後、オリンパスは一時5000円台まで上昇した。同社はいま再び内部告発騒動で揺れており、今後の株価動向にも注目だ。 経営不振で暴落した株価が復活した典型的なケースがシャープ(東1・6753)である。主力の液晶事業が傾き、台湾の鴻海グループ傘下となった同社株は2016年8月に東証2部へと降格し、かつて2万円を超えていた株価は一時1000円割れになった。 しかし鴻海の支援で再建が進むと5000円台まで値を戻し、1部復帰を果たした現在も4000円台で推移している。株式アドバイザーの北浜流一郎氏が語る。シャープ本社=堺市「相場格言に『落ちてくるナイフは掴むな』とあるように、株価が急落している最中に手を出せば、衝動売りに巻き込まれるリスクが高い。 ただ、もともと基礎体力のある企業は、市場が冷静さを取り戻すと、反騰するケースが多いのも事実。本来、大企業の大型株は値動きが激しくないのですが、株高基調の現在なら底値圏で仕込めれば大きな上昇が期待できます」関連記事■ 一攫千金も? 東芝、電通、大林組など“不祥事銘柄”の魅力■ シャープ創業者「シャープペン」を考えシャープを大きくした■ 小出恵介不祥事 「作品と不祥事は別物」宣言を制作者はせよ■ 9月10月は白物家電絶好のチャンス 型落ち新品など狙い目■ シャープ25歳茶髪正社員 「2丁目に行ってオカマになるべ」

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    「失われた20年」日銀無罪の論法はちゃんちゃらおかしい

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 「失われた20年」と言われる日本の長期停滞は、デフレ(物価の継続的な下落)を伴っていた。人々の所得が減ってしまい、日々の暮らしも困難になる人や就職、進学などで苦労を味わう若者も多かった。実際に経済的な理由で退学していった学生たち、就職が決まらずにずっとコンビニや居酒屋などでアルバイトしていた卒業生も多かった。 また、就職してからも大変だった。最もデフレ不況が深まった時期には、卒業生のためにその会社の上司宛てに「推薦状」を書いたこともたびたびあった。ふつうは就職する際に、大学や教員が推薦状を書く。だが、「失われた20年」のピークのときは、就職してからも困難が続いたのである。 多くの企業は、将来性や人材育成よりも目先の利益の獲得のために、若い人材の使い捨てや「試用期間切り」のように使う前から切り捨てることもあった。そんな環境の中で、本人に頼まれたり、または会社の上司の方がその卒業生の将来性について「推薦状」を書いてくれと要請されたのである。 もちろん、喜んで引き受けた、と書きたいが、そのプレッシャーは尋常ではなかった。一人の元学生の人生を直接左右しかねないからだ。そのためか、当時過労で倒れてしまった。 おそらく、この種の話は、大学教員の多くが体験したことだろう。景気が悪くなるということは、少なくとも学生たちの就職を極端に困難にする。もちろん就職だけではない。今書いたように、働くこと、生きることが難しくなるのだ。 景気をよくすること、もう少し難しくいえば雇用を最大化する責任は、多くの場合は政府と中央銀行がその責務を負う。※写真はイメージです(ゲッティイメージズ) 日本の長期停滞がデフレを伴っていることは冒頭で書いた通りだ。モノとお金の関係でいえば、モノの価格が下がることは同時に、お金の価値が高まっているということだ。なぜお金の価値が高くなるかといえば、それはお金が手元にないからだ。具体的には、給料やバイト代などが不足していく。 要するに、お金の量が足りないのだ。しかも、より重要なのは、これから先もお金の量が足りなくなると国民が思っていたことである。過去形で書いたが、そのお金の量の不足は、深刻さが弱まりつつあるとはいえ、いまだに継続している。デフレの責任を取らない日銀 お金の不足を解消する責任は、究極的には中央銀行、つまり日本銀行にある。だが、官僚組織の常というべきか、日銀もまたそのデフレ不況の責任を20年以上、一貫して拒否してきた。 今の黒田東彦(はるひこ)総裁の前まで、日銀は雇用にも経済の安定にもほぼ無関心だった。昔の日銀は「失われた20年」に対して「無罪」を主張してきたのである。 この「日銀無罪論」は、官僚の伝達機関でしかないマスメディアや、経済論壇でも主流の意見だった。彼らが愛する「日銀無罪」の論法は、おおよそ以下のパターンだった。(1)デフレ不況は、グローバル化や人口減少など構造的な問題が原因なので、金融政策では解消できない。(2)今の日本経済は、失業率が3・5%以上であっても、完全雇用で安定している。(3)そもそも、デフレは中国などが安い製品を作ったせいであり、外国の責任である。(4)急激に金融緩和を実施すると、急激なインフレ(ハイパーインフレ)が起きるから危険である。(5)デフレに伴い、牛丼などの価格が下がるのはいいことである。 これらの「日銀無罪論」が最近、再び活性化している。例えば、最後の「そもそも牛丼などの価格が下がるのはいいこと」の最新版は、携帯料金の値下げに関しての話題だといえよう。 これは、菅義偉(よしひで)官房長官が携帯料金を4割下げることができるとした発言を契機にしている。日本の携帯各社の料金が高いのは経験上でも自明だろう。この料金の高さの原因は、携帯各社が寡占状態にあり、そのため価格支配力が強いことに原因がある。これを打ち破ることは、多くの国民に利益をもたらすだろう。2018年10月、衆院予算委で自らの携帯電話を楽しそうに安倍晋三首相(左)に見せる菅義偉官房長官(春名中撮影) だが、マスメディアでは、携帯料金の値下げがデフレを加速させるものとして解説するものがあった。デフレやインフレで話題になるのは、平均的な価格である。これを一般物価という。対して携帯料金は個別価格である。いくら個別価格が下がっても、一般物価に反映するのは次元が違う。 先ほど述べたように、デフレはお金が不足していることだ。具体的には給料やバイト代が不足していることである。いくら個々の商品の値段が下がっても(反対に値上がりしても)、そもそも買うお金がなければ全く意味がない。手元のお金が増えることで、安くなった財(携帯)を買うことが容易になるのである。前総裁の姿勢に異議あり! さらに、白川方明(まさあき)前日銀総裁の発言も最近活発化している。著作の『中央銀行:セントラルバンカーの経験した39年』(東洋経済新報社)を出してもいる。正直、読むのがつらい本だ。 この本の中で、白川氏は雇用を重視するという姿勢に乏しかった。また、日本経済の問題は、財政危機や人口減少など日銀の責任ではないものに求めているようだ。 中でも「物価が人口減少で決まる」と読める箇所があった。地域エコノミスト、藻谷浩介氏の『デフレの正体』(角川書店)を想起させるが、そもそも藻谷氏は個別価格を「デフレ」としている。もちろん正しいデフレの意味ではない。 さらに、人口減少デフレ説は日本の現実の前に否定されている。日本の人口減少率は、現時点でマイナス0・32%(前年同月比)だ。対して、9月の全国消費者物価指数(生鮮食料品を除く)はプラス1・0%である。白川日銀の時代はデフレが普通だったが、インフレ目標に届かないものの、今はプラス域を保っている。ここしばらくは上昇傾向でもある。 白川氏によれば、今の景気回復は将来生じる需要の先取りの結果であるらしい。筆者の知人は、この白川説に対して、「(円安による)海外観光客の増加も需要の先取りになるんですかね」とあきれていた。 ただし、この需要先取り説には注意が必要である。例えば、昔の日銀を懐かしむ勢力が望みそうな早急な出口政策が採用されたり、消費増税などの影響で金融政策の効果が乱れると、それを現在の積極的な金融緩和の責任にされかねないからだ。 消費税を引き上げれば、当然積極的な金融緩和と矛盾し、効果も低迷する。だが、消費増税の責任にしたくない人たちは、また野菜不足などと同様の理屈で、需要を先取りした反動が今出ていると、責任転嫁に利用するかもしれないからだ。2013年3月、退任の記者会見をする日銀の白川方明総裁(宮川浩和撮影) もちろん、性急な出口政策の採用も消費増税と同じ、いやそれ以上の悪影響をもたらす。そこから目をそらせるためには、現在の大規模緩和の責任にするのが手っ取り早いだろう。 いずれにせよ、消費増税勢力が活気づき、他方で日銀無罪論が出回るような、今の言論の状況は憂慮すべき事態である。

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    「お灸を据えられたトランプ」日本経済への影響は?

    熊野英生(第一生命経済研究所首席エコノミスト) 今回の米中間選挙の結果は、トランプ大統領の足かせになるだろう。トランプ大統領は、イランとの核合意離脱、米大使館のエルサレム移転、中距離核戦力(INF)条約の破棄といった驚くべき政策を次々に繰り出してきた。 2016年の大統領選挙と同様に、中間選挙も蓋を開けてみなければ分からないとされていた。隠れトランプ支持者が多くいるかもしれないという神通力が私たちを疑心暗鬼に陥れたものの、結局、中間選挙では効力を上げなかった。トランプ大統領はお灸を据えられた格好である。 通念として、マーケットには共和党の勝利が追い風という見方があるが、トランプ大統領に対しては、下院で民主党が多数派になっている位の方が「自制が効く」というプラス効果があるのではないだろうか。 中間選挙は、下院で民主党が過半数を制した。民主党は、2020年の大統領選挙に向けて、トランプ大統領の再選を阻止するために全力を尽くすだろう。トランプ大統領は法案を通しにくくなり、再選は不利になる。 このこと自体は悪いことではないが、経済運営にはマイナス効果が及ぶ。2018年、トランプ大統領は「トランプ減税」という痛み止めを打ちながら、米中貿易戦争の摩擦を甘受してきた。その結果、今でも「関税率引き上げは実体経済にほとんど影響ない」と言い切る人も少なくない。 しかし、トランプ減税の効果は、2019年のどこかで弱まってくるだろうから、相対的に関税率引き上げの悪影響が強まることが予想される。トランプ大統領は2020年の大統領選挙に向けて、中間層への10%の所得税減税やインフラ投資を実行する法案を議会に提出すると見込まれる。ところが、民主党はそれを簡単には通させない。こうした動きが起これば、経済にはマイナスである。共和党候補への支持を訴えるトランプ大統領=2018年11月5日、アメリカオハイオ州(加納宏幸撮影) 2019年は、アメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)の利上げも予想される。現在は、景気が良い前提で利上げを追加しているが、関税率引き上げの悪影響は少し時間をかけて現れる可能性もある。もちろん、こうした影響は、日米株価を下落させる要因である。 中間選挙を前に、トランプ大統領が11月末にアルゼンチンで開かれる20カ国・地域首脳会合(G20)で習近平主席と会談し、貿易戦争の終結に向けた合意をするという観測があった。株価はこの観測に反応して、10月の下落から急反発した。 しかし、この観測は、株価下落に何とかテコ入れしたいトランプ大統領が流した情報だろう。中間選挙を意識した情報操作であると考えられ、11月末のG20が近づくと期待感がはげ落ちて株価を押し下げる要因になりそうだ。日本経済へのダメージ 貿易問題は、2018年10~12月、2019年1月以降に米中景気を下押しするだろう。米国は、9月24日から中国輸入品2000億ドル相当に10%の制裁関税を追加し、さらに2019年1月からこれを25%に引き上げる予定である。10月の米雇用統計をみる限り、米経済の絶好調はゆるぎがないように見える。しかし筆者は、きっと高関税のダメージは時間差を置いてやってくると考えている。 米中貿易戦争は、下院が民主党の過半数となったことで、さらに悪化すると予想する。議会では、共和党以上に民主党の方が、対中強硬派が多い。しかも、彼らは貿易赤字を問題視するよりも、中国がハイテク分野で経済覇権を握ろうとするのを何としても阻止したいと考えている。 「中国製造2025」という習近平主席が掲げている経済プランは、航空・ロボット・ITなど10分野で競争力を高めて、2049年には世界トップレベルの製造強国になると宣言するものだ。名目上は製造業の強国といっているが、実質は軍事強国の実現である。だから、民主党でも対中強硬派がトランプ大統領の貿易戦争をさらに煽(あお)るとになりはしないかと強く警戒されている。 また、今回の中間選挙は、北朝鮮との外交を決裂させない歯止めになってきたと考えられる。トランプ大統領にとって、金正恩委員長との関係改善は、外交における最大の成果だとみられてきたからだ。何としても、中間選挙までは北朝鮮との良好な関係を保とうと、マイク・ポンペオ国務長官も力を尽くしてきた。今、中間選挙が終わり、この歯止めは効力を失った。 もしも、北朝鮮が今のままの外交を続けるならば、業を煮やしたトランプ大統領が融和姿勢を見直すかもしれない。2020年夏までに北朝鮮が核放棄に向けて具体的に行動しなければ、再び緊張が高まる。 そのときに日本は、円高という形でそのダメージを被るだろう。為替レートの推移をみていると、ドル円レートは異様なほど円高になりにくい状態が続いている。2018年6月の米朝首脳会談以降、1ドル109~114円という円安水準がずっと維持されている。日経平均一時下げ幅が800円を超える=2018年10月、大阪市中央区(前川純一郎撮影) 筆者は、この円高になりにくい要因こそが、東アジアにおける北朝鮮リスクの後退だとみている。つまり、中間選挙まで封印されていた北朝鮮リスクが、今後は再び変化し始めると考えることが妥当であろう。トランプ大統領は、2019年1月に金委員長との再び会談を行うという観測がある。この会談後に円高リスクが起こり得るとの心構えを持っておくことが必要だとみている。 最後に、今回の中間選挙を通じて、共和党も「トランプ頼み」の図式が一段と強まることとなった。トランプ的な発想に、伝統的な共和党の良さが染まっていくことが怖い。共和党が自由貿易を尊重する人々から、保護主義的な考え方に染まっていく人々へとオピニオンを変えていくことは、長い目でみても由々しき事態とみられる。

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    西野ジャパン快進撃の次は「経済のW杯出場」だ

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会、日本代表はセネガルと引き分け、グループリーグの勝ち点を4とした。セネガルに2度も先行を許しながらも、その都度激しく敵陣に切り込んで同点に追いついた。ひいき目にみなくても「勝てた試合」だったかもしれないが、本当に日本代表は強いな、という素朴な印象を強くした。 W杯は各国を熱狂させるが、日本でも同様である。熱狂には、純粋にサッカーそのものを楽しむものもあるが、他にも重要な「熱視線」というものがある。その一つが、W杯がもたらす経済効果への熱視線である。 W杯が近づくと、運営組織やシンクタンクなどから恒例行事のように、「W杯開催によって生み出される経済効果は○○億(兆)円」といった予測が発表される。もちろんW杯だけに限らず、オリンピックのような国際的なスポーツイベントから特定チームの優勝まで、さまざまな経済予測が行われている。今回のW杯でも、ロシアの組織委員会が2013年から2023年の10年間で約3兆円の経済効果に達すると公表している。 ところで、そもそも「経済効果」とはいったいなんだろうか。これは厳密に説明すると結構大変なのだが、簡単に言うと、W杯というイベントで生じる「追加的需要」が経済全体でどれだけ需要を増やしたかを計測するものである。 W杯について考えるときに重要な追加的需要とは、一つは競技場やその周辺のインフラへの投資、そしてもう一つは内外の観光客がもたらす消費があげられる。前者の競技場やインフラの整備は、ロシア政府の支出によって生み出される経済効果で、別名「乗数効果」というものだ。 W杯のスタジアム建設や周囲のインフレ整備のための公的な支出を行うと、この支出によって公共事業に従事した人たちが収入を得る。この収入の一部は他の財やサービスの購入に向けられる。さらにこれらの財やサービスを販売した人たちの所得は別な財やサービスの購入に向かう。このように、一連の過程が繰り返されることで、始めに支出された公共投資額をはるかに上回る規模の経済効果が実現されるというのが、この乗数効果である。 ただし、公共投資で大会の運営期間中は黒字経営でも、大会が終わってみると設備を維持するために膨大な維持費用を要してしまうこともある。かえって、地域経済を圧迫してしまう可能性もあるのである。サウジアラビアに大勝し喜ぶロシアサポーター=モスクワ(共同) もう一つの需要、観光客の消費はどうだろうか。国内の観光客の落としていくお金が本当にロシア経済に追加的な需要を生み出すかどうかは、ロシア経済の動向に大きく依存している。 ロシアの消費者が自分たちの収入が思わしくないと判断したのであれば、W杯で使った分を他の支出を切り詰めることでしのぐかもしれない。そうなると、国内消費はプラスマイナス、両方の面を考慮に入れなければいけないだろう。 現在のロシア経済はそれほどいい状況ではない。ウクライナ問題に端を発した経済制裁や原油価格の低迷でここ数年は経済が大きく減速していたからである。日本の「W杯の経済効果」は? 2017年はどうにか1・5%ほどの経済成長率を実現させたが、政府目標の2%には及ばなかった。さらに今年に入って、米トランプ政権による追加制裁が関連する企業を直撃しており、経済の再減速が懸念されている。 日本でも長期停滞のうち、90年代前半から21世紀初めにかけての新卒世代を「ロスジェネ世代」と呼ばれるが、実はロシアでも若年失業率が長期間高止まりしたままである。ロシアの失業率自体は現状で4・9%であるが、これはロシアの失業率のトレンドからみるとかなり低い水準だ。ただし、全体の失業率に対する15~24歳の若年失業率の比率は約3倍で高止まりしているのである。 この比率は、先進国の中でイタリアに次いで第2位である。あの「ヘル朝鮮(地獄の韓国)」といわれるほど若年雇用が深刻な韓国よりも上回っているのである。このような状況の中、ロシアの若い世代がW杯関連で消費しようとすれば、所得の制約が厳しいので他の支出を減らさざるをえない。 では、海外からの観光客がもたらす消費はどうだろうか。この追加的需要はある程度見込める。日本とロシアの関係でみてみると、ロシアを訪問する日本人観光客の数は、前年比26・8%増の10万7300人だという。 また、最近では中国からの観光客の激増も報じられている。ただしこの場合でも、追加需要が発生しているかどうかは慎重に見ておかなくてはいけない。海外の観光客の激増を嫌って、ロシア人の観光客が減少するかもしれないからである。 実際に、ロシアでは激増する中国人観光客に対する批判も生じているようだ。そうなれば、開催期間中、ロシア人観光客がスタジアムのある11都市への観光を避けるケースも出るかもしれない。実際に98年W杯が行われたフランスでは、期間中に通常の観光客が激減してしまい、海外からの増加があっても全体での純増はみられなかったというケースも発生している。 このように「W杯の経済効果」といっても、大会関係者の考えるほど単純には行かない側面が多々ある。特に、先に指摘したように、国内の経済状況が大きく影響するからだ。開催中は多少景気がよくなっても、その後はどうなるかは、まさにロシアの経済政策の運営や、経済制裁に対する外交手腕に大きく関わってくるのである。 このことは、W杯だけではなく他の国際的なビッグイベントにも共通して言えることである。かつて、日本銀行の原田泰審議委員が検証したところ、五輪などのイベント後に不況が来やすいかどうかは、そのイベントが終わったことによる消費や投資の減少に依存するというよりも、その後の経済運営に大きく関わってくるという(原田泰『コンパクト日本経済論』新世社)。その意味では、W杯後のロシア経済には暗雲が立ち込めている。セネガル戦で「大迫半端ないって」と書かれたゲートフラッグを掲げる日本サポーター=エカテリンブルク(甘利慈撮影) 最後に、日本の「W杯の経済効果」はどうだろうか。セネガル戦も深夜まで日本国内で熱い観戦が続いた。「ブルーマンデー」など吹き飛ばす熱気、と伝えるメディアもあった。筆者もその熱気をともにした一人だ。 ただし経済効果となると、連載で指摘し続けてきた通り、W杯自体の経済効果よりも政府や日銀の経済政策が重要なのは明らかだ。日本の消費は相変わらず低迷したままであり、さえない。安倍晋三首相も日本代表のユニホームを着て観戦するのは結構だが、その熱気を経済に伝える努力をすべきだろう。まずは消費増税の再凍結、そして消費減税に着手するのが好ましい。それぐらいできなければ、「経済政策のW杯」出場にはほど遠いだろう。

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    大阪直下地震で思い出す「増税なくして復興なし」のペテン

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) 6月18日朝、大阪府で震度6弱の強い地震が生じた。この論説を書いていた同日午前の時点で被害の全貌はわかっていなかったが、ブロック塀の倒壊などで5人の方が亡くなり、また300人近くが負傷したという。 そして、発生が通勤時間中だったこともあり、関西地方を中心に交通網がまひし、ビルのひび割れ、落下物、インフラ不全などの情報が伝わっている。多くの人は不安を抱えて、地震の大きさに恐怖している。被害に遭われた方々を心中からお見舞いするとともに、今後も余震など十分に警戒していただきたい。 今回の地震でも、ツイッターをはじめとするソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で、地震の個人的な体験や公的情報などを伝える動きが活発である。誤った情報も少なからずあるだろうが、SNSが被災時に機能し、非常に便利であるのは間違いない。 日本は地震大国であるにもかかわらず、経済対策の側面では、地震に全く弱い国だと言わざるを得ない。しかも弱いだけではなく、災害につけ込んで、官僚や政治家が「私的な利益」をむさぼろうとする国でもある。 東日本大震災のとき、筆者は経済評論家の上念司氏と共著で『震災恐慌』(宝島社)を出版した。この本は後に、嘉悦大の高橋洋一教授の補論を備えて、さらに内容を強化して『「復興増税」亡国論』(宝島社新書)として刊行した。 題名からも趣旨は明瞭だが、東日本大震災からの復興を名目にして行われようとしていた「復興増税」を中心とした、政府と日本銀行の緊縮政策を批判する内容であった。当時、われわれは国会議員などとも協力し、増税反対の国民運動を展開したが、残念ながら「復興増税」は復興特別税として実施されてしまった。2011年11月、東日本大震災に関する復興増税や消費増税を食い止めようと、約1500人が「増税NO」のシュプレヒコールをあげながらデモ行進した(緑川真実撮影) この税は現在も所得税、地方税を対象に継続中だ。所得税は2037年まで、地方税も2023年まで上乗せされており、長期間の負担が続く。 もちろん、被災地支援のためにお金が必要なのは当然である。だが、当時の民主党政権の時代は、今日とは異なり、リーマンショックと長期停滞の「合わせ技」で、極めて深刻な不況に陥っていた。そこに増税を課すのは、日本経済にダメージをさらに負わせ、もちろん被災地にも深刻で回復不能の打撃を与えると、われわれは警鐘を鳴らしたのである。 そのため、増税よりも、それこそ永久ないし超長期の復興国債を発行することによって、日本銀行がそれを事実上引き受け、積極的な復興支援を行うべきだとした。これが長期停滞への脱出と、震災復興の両方を支援できる経済政策だというのが当時のわれわれの主張であった。 だが、財務省を中心とする増税勢力にはそんな論法は通じなかった。彼らのやり口は実に巧妙であり、「復興増税」を民主党、そして当時は野党だった自民党と公明党で実現させたのである。さらに、この三党協調をもとに、おそらく当初からその狙いであった消費増税の実現にまで結び付けた。当時の日本経済からすればまさに人災に等しい「大緊縮路線」の成立である。「最悪の人災」=増税 緊縮政策が、不況もしくは不況から十分に脱出できないときに採用されれば、人命を損ねる結果になる。職を失い、社会で居場所を失った人たちなど、自殺者数の増加など負の効果は計り知れない。その意味では、天災を口実にした「最悪の人災」=増税という緊縮政策の誕生であった。ちなみに、民主党は現在、国民民主党や立憲民主党などに分裂しているが、経済政策は全く同じ発想である。 このような緊縮路線は今日も健在どころか、最近はその勢いを強めている。消費増税をはじめとする緊縮政策の一番の推進者は、言うまでもなく財務省という官僚機構である。財務官僚とそのOBたちのゆがんだエリート意識とその醜い利権欲は、いまや多くの国民が知ることだろう。 セクハラ疑惑によるトップの辞任、財務省の局をあげての文書改ざん、何十年も繰り返される「財政危機」の大うそ、社会的非難が厳しくても繰り返される高額報酬目当ての天下りなど、ブラック企業も顔負けである。このようなブラック官庁がわれわれの税金で動いているのも、また日本の悲劇である。 しかも財務官僚だけではなく、増税政治家、経団連や経済同友会などの増税経済団体、増税マスコミ、増税経済学者・エコノミストなど、緊縮政策の軍団は実に広範囲である。しかも、グロテスクな深海魚がかわいらしくみえるほどの奇怪な多様性を持っている。 例えば、反貧困や弱者救済を主張する社会運動家が、なぜかその弱者を困難に陥れる増税=緊縮路線を支持しているのも、日常的な風景である。増税したその見返りが、自分たちの考える「弱者」に率先して投入されるとでも思っているのだとしたら、考えを改めた方がいいだろう。 日銀の岩田規久男前副総裁は、メディアの最近の取材や筆者との私的な対話の中で、日本が20年も長期停滞を続けたため、非正規雇用など低所得者が増えたと指摘している。さらに、岩田氏によると、年金世代が全世帯の3割以上に増えたことで、消費増税による経済への悪影響を強めているという。 つまり、増税、特に低所得者層に強い影響が出る消費増税は、日本において最悪の税金である。「弱者救済」を唱える人たちが財務省になびくのは、まるで冗談か悪夢のようにしか思えないのである。電車のダイヤが乱れ、阪急梅田駅前の階段に座る人たち=2018年6月18日、大阪市北区(安元雄太撮影) 最近、この消費増税、緊縮政策路線が、政府の経済財政諮問会議により提起され、閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」にも強く採用され続けている。経済活動が活発化し、その結果として財政が改善していくのが、経済学で教わらなくても普通の常識であろう。 だが、財務官僚中心の発想は違う。まず財政再建ありきなのである。財政再建が目的であり、われわれの経済活動はその「奴隷」でしかない。これは言い方を変えれば、財務省の奴隷として国民とその経済活動があることを意味する。恐ろしい傲慢(ごうまん)な発想である。財務省の目論み 例えばしばしば「財政健全化」の一つの目標のようにいわれる基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化。この概念は、そもそも経済不況を根絶するために積極的な財政政策を支持した経済学者、エブセイ・ドーマーによって主張されたものである。 つまり、緊縮財政を唱える論者を否定するために持ち出した概念が、なぜか財務省的発想で緊縮財政のために利用されているのである。まさにゆがんだ官僚精神をみる思いで、あきれるばかりである。 PBは、経済が停滞から脱出し、経済成長率が安定すれば、それに見合って財政状況も改善するということを言いたいのが趣旨だ。何度もいうが、これが逆転して、増税勢力に都合のいい「財政再建」や「社会保障の拡充」という緊縮政策に悪用されてしまっている。 しかも経済学的には意味を見いだしがたいPBの黒字化目標を、2020年度から25年度にずらしたところで、緊縮病から抜け出せるわけではない。あくまで目標にするのは経済の改善であって、PB目標などどうでもいいのだ。 だが、PB先送りについて、朝日新聞の論説にかかると「骨太の方針 危機意識がなさ過ぎる」んだそうである。まずは、この朝日新聞の論説を書いた人の経済認識こそ、危機意識が足りないと思う。地震で崩れた外壁=2018年6月18日、大阪市淀川区(渡辺恭晃撮影) また、国債市場では取引が不成立なことがしばしば起こることをもって、「国債危機」的な煽り記事もある。これは、単に日本銀行が「今の積極的な金融緩和を続けるためには、もっと政府が新規の国債を発行することを求めている」、市場側のシグナルの一つでしかない。つまり経済は、緊縮よりももっと積極的な経済政策を求めている。だが、全ては「財政危機」「社会保障の拡充」という上に書いたようなゆがんだ経済認識に利用されているのが実情だ。 数年前、いや今も天災さえも利用して自らの増税=緊縮政策を貫いた財務省を核とした「ブラックな集団」が日本に存在していること、これこそが日本の「最大級の人災」である。そして対策は、このブラック企業顔負けの集団の核である、財務省の解体しかないことを、世間はより強く知るべきではないだろうか。

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    もし信長が「日銀総裁」だったら

    歴史に「もし」は禁物だが、この人が今の日銀総裁だったらと思わずにはいられない。戦国大名、織田信長である。信長と言えば、型破りの発想で次々と難敵を打ち破ったことで知られるが、実は傑出した経済人でもあった。デフレ脱却が至上命題の現代ニッポン。「戦国の革命児」信長ならどう挑むか。

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    信長が日銀総裁なら必ず強行する現代版「土地より茶器」大作戦

    橋場日月(歴史研究家、歴史作家) 織田信長が日銀総裁になったら、というお題を頂戴した。「歴史にifは禁物」というが、魅力的な仮定でもある。さまざまな経済政策を実行した信長だけに、彼が現代日本の貨幣流通・金融管理の元締めをどうリードするのか、考えてみるのも面白いだろう。 史実の信長と経済との関わりでまず挙げられるのは「楽市楽座」だ。「楽」は自由、フリーという意味で、誰でも自由に商売ができ、免税され、領主の権力も介入しないという政策だ。信長はこれを美濃征服の翌永禄11(1568)年9月に、岐阜城下の加納(現在の岐阜県岐阜市加納)で実施した。 合戦で荒れた町を復興させるために手っ取り早く商人を集める手段だったのだが、この政策自体は南近江の六角氏による石寺新市(現在の滋賀県近江八幡市安土町石寺)や、駿河の今川氏による富士大宮(現在の静岡県富士宮市大宮町)の楽市指定など、先例がある。 それにこれはどちらかといえば経産省のテリトリーだろう。問題なのは、信長が加納市に宣言した「楽市」が、「借銭・借米・さかり銭」も免除した点だ。これは「楽市」に「徳政」を組み合わせたものといえる。借銭・借米はそのまま借金を指す。さかり銭は「下がり銭」、下がるは「後になる・後にする」という意味があるから、これは後払い=掛け売りに伴う手数料を指すらしい。 ということは、日銀の業務に例えれば、彼は割り引いた手形をそのまま発行元に返し、割引の手数料や利息分もタダにしたという形になるのではないか。あくまで特例的措置とはいえ、劇薬と言ってもいい金融政策だ。「何がなんでも町を立て直す」。信長の決意の固さが、ここに表れている(彼の懐は痛まず貸主が損をするだけの話だが)。「木造織田信長坐像」=大徳寺総見院所蔵(中田真弥撮影) 「現代の徳政」といわれる日本航空やりそな銀行などに対する公的資金注入にも似ているが、これは金融庁マターだから、日銀の関わりはとりあえず国庫金を払い出す業務のみだろう。 税を免除し、借金を棒引きにすれば、当然ながら短期的に市場の貨幣は増える。その分物価は上昇し、経済活動は活発化するだろう。大幅な金融緩和でデフレ脱却を目指す現在の日銀総裁と、ある意味共通した思想かもしれない。 ただ注意しておきたいのは、日銀総裁と違って信長は経済政策のすべてを総覧する立場だったことだ。彼は流通ルートの開発に励んだし、道路や橋の整備をおこない、舟運の保護にも熱心だった。市場は取引される商品がなければ成り立たないわけだが、その商品の生産についても、地元特産の瀬戸物を保護奨励し、後に志野焼や織部焼が生まれる基礎を作るなど、差別化や増産に努めたことを忘れてはいけない。信長の「新しい手法」 この年に上洛を果たした信長は、明くる永禄12(1569)年、京や奈良に「撰銭(えりぜに)令」を発する。撰銭とは、良質な貨幣とびた銭(劣化したもの、私鋳銭など)を選別して、その扱いに差をつける行為をいう。偽札が厳禁され、劣化した貨幣は回収される現代ではピンと来ないが、当時はそれが当たり前だった。信長は当初この行為を禁止したのだが、少しでも有利な貨幣をと考える人々には受け入れられなかった。 そこで彼は交換レートを定めて、撰銭も決済手段として安定的に用いられるようにし、売買取引がスムーズに行われるよう誘導したのだ。 これは必ずしもうまくはいかなかったが、銭が不足したり、撰銭のせいで流通が円滑に行われず、手っ取り早く米を代価にしたりするなど混乱した当時の状況の中で、信長がなんとか銭を基軸通貨にしようと努力したことは間違いない。それは、有名な「永楽通宝」の銭紋の旗印を掲げた信長にふさわしい政策だった。 おそらく彼が本能寺の変で死なずに天下を統一していれば、徳川家康のように貨幣鋳造事業に乗り出していただろう。この撰銭令も日本銀行の業務でいえば貨幣流通と為替の管理に相当するのではないか。 また、こうして金融政策を駆使して天下統一の歩みを進めていった信長は、「茶湯御政道」と呼ばれる新しい手法も生み出した。大金を投じて名物茶道具を集め、それを手柄のあった部下へ土地の代わりに恩賞として与えるというやり方だ。 信長から茶会を開くことを許され、茶湯に精通した文化人たちからもうらやまれるという名誉に、家臣たちは熱狂した。滝川一益など、「上野国(現在の群馬県)を賜るより茶器が欲しかった」と愚痴ったほどである。信長が新しい価値を創造し、土地に命をかける武士の価値観をガラリと変えてみせたのだ。そんな信長が日銀総裁ならば、おそらく仮想通貨を公認し、よりスピーディーな流通取引を目指すだろう。画像はイメージです(iStock) 以上を総合すると、「日銀総裁」織田信長は貨幣を増産して市場流通量を上昇させインフレに誘導し、金融緩和によって経済活動を活発化させた上に、仮想通貨という新たな基軸通貨を積極的に支持し、全く今までにない国内外の決済システムの構築に向けた取り組みを行っていたことだろう。

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    「優れた経済人」織田信長だったらデフレ脱却にどう挑むか

    中里幸聖(大和総研金融調査部主任研究員) 織田信長は天下統一をなし、全国平定の道半ばで倒れた。当時は畿内周辺が「天下」という認識であったことを考えれば、天下統一を成し遂げたといえよう。もし本能寺の変で倒れなければ、全国平定にとどまらず、東南アジアやインドを目指したかもしれない。 いずれにしても「天下人」として、日本をまとめ上げようとしていた信長は、軍人としての側面よりも政治家としての側面が強い人物といえよう。また、経済人としての資質も優れていたと考えられている。 羽柴(豊臣)秀吉、明智光秀、柴田勝家といった個性ある武将たちに大軍団を任せ、各方面軍の軍事行動を継続するにはカネがかかる。本能寺の変直前では、中国方面軍(羽柴秀吉、明智光秀が助太刀予定)、北陸方面軍(柴田勝家)、関東方面軍(滝川一益、軍事的任務はほぼ終了)、四国方面軍(丹羽長秀、出陣準備中)が編成されていた。 また、新たに領地に編入した地域の領民の支持を得ることができなければ、領国経営は安定しない。領民の支持を得るための第一は、経済の活性化と税金の軽減であろう。これは古今東西変わらない。 信長は楽市楽座などの商業活性化、道路や港湾の修繕・整備、城および城下町の修築や建築などのインフラ整備を推進した。また、本人の趣味と実益を兼ねた大量の衣装類の発注や茶道の振興、それに伴う茶器の調達といったコンテンツ産業の育成など、多方面に及ぶ経済活性化策を実施している。 関所の廃止は商業流通の促進とともに、楽市楽座と同様に減税といった側面もある。堺などの商業都市には矢銭(軍事費)の提供を求めたりしているが、同時に商業都市の保護を前提としている。 つまり、信長が「天下人」に最も早く近づくことができたのは、効果的な経済活性化策を実施し、領国内の経済力強化を実現してきたからでもある。なお、前述の方面軍の話も含め、本稿は歴史的検証が主眼ではないので、歴史的事実については大ざっぱな話をしている点はご了承願いたい。 さて、現代のわが国の経済について、信長ならどう取り組むかということが本稿の主題である。そのために、わが国の経済の現状を簡単に振り返りたい。 2012年12月に安倍晋三首相が政権に返り咲いて以降、わが国の経済がそれ以前に比べれば良好な状態にあることは多くの経済指標が示している。民主党政権時の3年第1四半期間(2009年9月~2012年12月)における2011年基準の実質国内総生産(GDP)の単純平均は約493兆円(年率換算、以下同)だが、直近3年第1四半期間の実質GDPの単純平均は約523兆円と約6・0%増加している。2018年4月、首相官邸で安倍晋三首相(右)と会談する日銀の黒田東彦総裁(春名中撮影) また、民主党政権時の完全失業率の単純平均は約4・7%、直近3年第1四半期間の単純平均は約3・1%と1・6%ポイント改善している。なお、2017年第4四半期の実質GDPは約535兆円、2018年3月の完全失業率は2・5%である。 しかし、デフレからの完全脱却については、まだ道半ばであろう。安倍首相が任命した黒田東彦日銀総裁は2013年4月にいわゆる「異次元緩和」を掲げ、大胆な金融政策を実施してきた。 株式市場をはじめとする金融市場からは、一時期の暗い雰囲気が払拭(ふっしょく)されたといえるが、「物価上昇率2%」という目標は達成できていない。こうした数値目標にこだわり過ぎる必要はないと思うが、わが国が再びデフレ状態に陥る懸念は完全に過去のものになったと断言できないというのが現状であろう。「新人類」だからこそ デフレとは、世の中のモノやサービスの価格(物価)が全体的に継続して下落することである。ただし、わが国の経済がデフレ状況にあるかどうかの定義についてはさまざまな議論があった。 インフレはデフレの逆で物価が全体的に継続して上昇することを指す。細かな定義の議論は別にして、デフレ下では、価格低下→企業収益減少→賃金減少→節約志向→価格低下、といった経済の縮小サイクルが継続することになる。 デフレの原因を極めて単純に説明すると、需要<供給、つまり供給過剰需要不足ということである。インフレはその逆で、需要>供給、需要過剰供給不足となる。いわゆる「失われた20年」とはデフレ的な経済が続いていたことの比喩的な表現であり、少なくとも経済的な活力は感じにくい状況であった。 一方、信長が活躍した戦国時代後期から安土桃山時代というのは、経済的には高度成長時代であり、活力に満ちていた。各地の戦国大名が領国の維持や拡張のために、富国強兵策を展開していた。軍備充実や軍隊動員には多くの需要が発生する。また戦国時代は、従来の価値体系が崩れ去っていく中で、新しい価値の探求が行われていた時代であり、軍事面のみならず農工業分野でも技術革新が進み、農工業の生産性が上昇した。 農村での余剰人口は、商人や職人になるなどして経済全体の供給力拡大に寄与した。戦国大名が公募する足軽に応募して、需要拡大に寄与した側面もあろう。需要が拡大しているだけでなく、供給力も伸長していたのである。折からのキリスト教宣教師をはじめとする南蛮人(当初の主力はポルトガル人とスペイン人)の渡来も技術革新や文化生成に大きな刺激となっている。文化生成は新たな需要と供給を生み出すことにもつながる。 つまり、当時は旺盛な需要によるインフレ的な傾向があるものの、供給力も拡大しており、需給も相まって成長していたのが戦国から安土桃山にかけての時代である。信長はそうした傾向をさらに促進するようなさまざまな施策を実践していたといえる。 さらに、「天下人」としての信長は、こうした施策の実践を、自身の決裁でなし得ていく。いくら「天下人」とはいえ、民衆の支持を失ってしまえば持続性はないが、民衆の支持は施策を実践した結果に対する評価であり、実践段階では信長の自由度は高かった。もちろん、朝廷や家臣などの関係者と全く調整しないでも良いということではない。 翻って現代は、人口減少・少子高齢化が進行している。人口減少は基本的には需要減少要因である。今、わが国が直面しているデフレへの懸念の根本は、中長期的な需要減少が想像されることにあると考える。 こうした事態に対し、当面の対応として、第二次安倍政権発足当初に掲げられた「三本の矢」、すなわち「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」は方針としては正しい処方箋を打ち出していたと考える。「三本の矢の教え」で有名な毛利元就が生涯を過ごした広島県安芸高田市から「三本の矢」を贈られた安倍晋三首相=2013年2月(酒巻俊介撮影) さらに2015年9月には「新・三本の矢」として、「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」を打ち出している。このうち「希望を生み出す強い経済」は従来の三本の矢を強化するということだが、「夢をつむぐ子育て支援」、「安心につながる社会保障」は、人口減少・少子高齢化というわが国の中長期的な需要減少に立ち向かうための政策とも言える。 しかし、「大胆な金融政策」は黒田日銀総裁が先頭に立って実施してきたが、デフレは金融的現象であると同時に実物経済的現象でもあり、金融政策のみで解決できるものではない。他の矢との相乗効果が求められるのだ。 一方、他の矢はさまざまな関係者が関わる政策であり、当初期待したほどに徹底して実施できたとは言いにくいのではないか。例えば「機動的な財政政策」は、首相が積極的であったとしても、国会や財務省の協力なしには進められない。 「民間投資を喚起する成長戦略」も国会や財務省に加え、関係省庁や地方自治体の協力が必要である。「民間投資を喚起する成長戦略」は、行政側の協力が得られたとしても、民間側の意欲が湧くようなものになっていなければ、前には進まない。 前述したように、信長も朝廷や家臣団、あるいは宗教勢力や町衆などとの調整を全くせずに政策を実施できたわけではないだろう。 しかし、各施策についての最終決裁者であるという強力な立場、直属の実戦部隊を持っていること、さらに彼自身が当時の言葉では傾奇者(かぶきもの)や婆娑羅(ばさら)といった「新人類」であったこともあって、これからを担う世代の民衆や家臣の強力な支持があり、多くの施策を積極的に進めることができたのだと推測される。信長ならデフレ脱却を成し遂げる 信長の凄(すご)みは徹底したリアリズムと愚直な実践にあると考える。与件の中でいかに効果を最大化するか、さらに与件をどう変えるか、を徹底的に追及し、できる所から愚直に実践し続けるのが彼の生涯であった。その際、民(たみ)のために天下を静謐(せいひつ)にするという明確な将来への意志があったからこそ、たゆまず努力を続けられ、人もついてきたのであろう。 与件の中でいかに効果を最大化するかの例としては、1578(天正6)年の御所周辺の築地塀の修理が挙げられよう。信長自身が全面的に請け負うこともできたが、京都の町人が請け負う方式が良いのではと、京都の町々に持ちかけた。 町ごとに組を編成させ、区分された築地塀の修理を担当させ、競争の原理を持ち込んだ。さらに当時は「風流踊り」という群衆音楽舞踊パフォーマンスの全盛期だったそうで、町々は自慢の歌手や踊り子を繰り出し、自分の街の分担区域の修理人員の士気を上げたそうである。 「即時にできた」といった内容が『信長公記』(太田牛一著)に記されているそうだが、最初から信長自身が全面的に請け負っていたら、そこまで早くはできなかったであろう。天皇や宮廷の女性たちも見物に来て楽しんだというから、単なる修理が明るい雰囲気の中で進んだことになる。 近年の日本経済では、安倍政権発足当初の「三本の矢」を打ち出し、実践に移していったことが、株式市場をはじめとする日本経済の雰囲気を明るく転換させたことが該当するであろう。 与件をどう変えるかの例としては、地味ではあるが長きにわたって継続してきた朝廷工作が挙げられよう。朝廷を味方につけることができれば、戦国大名の一人に過ぎない状況(実力はあるが公的な存在とは認められていない)から、国家の承認を得た立場となる。福井県越前町織田の「一族発祥の地」に立つ織田信長像(関厚夫撮影) 信長の父、織田信秀は、信長がまだ少年であった1543(天文12)年に朝廷の内裏の修理費用を献納している。信長も朝廷との交渉を早いうちから始めており、1568(永禄11)年の足利義昭を奉じての入京は、既に朝廷との間の了解事項であった。 朝廷から御所の建物の修理を要請されているという形で、信長が入京する手はずは整っていたのである。そこにたまたま足利義昭が頼ってきたタイミングが重なった。近年の日本経済で考えれば、今まさに取り組んでいる「夢をつむぐ子育て支援」などが与件を変えようとすることに該当するであろう。しかし、こうした与件を変えようとすることは地道な努力を長期にわたって続けることが必要であり、すぐに効果が出るものでもない。 信長が現代日本のデフレ脱却という課題にどう立ち向かうかということでは、大きな方針としては、現政権が打ち出している方向とあまり変わらないであろうと想像される。それを民衆の支持を維持しつつ、具体的に何をやるべきかを徹底的に追求し、愚直に実践し続けるということになろう。 ただし、当時のように「天下人」というポジションは存在しない以上、関係者の調整に多くの労力を費やすことになる。信長は理想を掲げて努力を惜しまないであろうから、不慮の死や失脚などがない限り、デフレ脱却をやり遂げるのではないだろうか。

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    信長もできなかった市場との対話、黒田日銀「物価2%」実現のヒント

    岡田晃(経済評論家、大阪経済大客員教授) 日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁が再任され、2期目の任期に入った。黒田総裁は再任後初めてとなる記者会見で消費者物価上昇率「2%」の目標を堅持して金融緩和を継続する考えを強調し、出口戦略について「検討する局面にない」と明言した。2期目の黒田総裁にとって、2%の目標をどのように達成するかが最大の課題となる。 黒田総裁が5年前の就任直後に「異次元の金融緩和」に踏み切ったことは、従来の日銀の常識を破るものだったと言ってよい。その結果、景気は回復を続け、消費者物価もプラスに転じ、少なくともデフレ的な状況ではなくなりつつある。 しかし、それでもなお2%という目標には遠い。その一方で、長期間の超金融緩和を続けることで、さまざまな副作用も指摘され始めるなど、やや手詰まり感が出ているのも事実だ。それらを乗り越えて目標を達成するには、何らかの形で「常識破り」の次の手が必要なように見える。 では、2期目の黒田総裁は何をすべきか。ここで戦国時代に目を転じると、織田信長が行った数々の「常識破り」の政策にヒントがありそうな気がする。 信長は戦国時代の常識を越える新しいやり方で、天下統一を目指した。長篠の戦いでは、3000丁といわれる鉄砲の3段撃ちで武田騎馬軍団を打ち破ったことはあまりにも有名である。そのほかにも当時の人たちが考えもしなかったような画期的な戦術や政策を数多く打ち出している。 例えば、「兵農分離」などは代表的だろう。それまでの多くの戦国大名は戦が起きると農民を足軽兵士として動員するのが普通で、田植えや稲刈りの季節になると、戦を中断して、撤兵を余儀なくされていた。 しかし、信長は農家の次男、三男などを兵士として常時雇いにし、日ごろから訓練して一年中いつでも戦ができる態勢を整えた。織田軍の長期遠征を可能にしたのである。2018年4月、日銀本店で開かれた支店長会議に臨む黒田総裁(左から2人目)ら かたや、敵の兵士は農繁期が近づくと、自分の田畑がどうしても気になる。他の大名は農閑期に戦を仕掛けるしかないのである。その後の歴史を知っているわれわれは「兵農分離」は当たり前のように思えるが、それを初めて実行した信長は時代を先取りした発想の持ち主だったといえる。 さらに、兵農分離政策は軍律改革や本拠地の移転、城下町の発展という効果ももたらした。信長は戦いに勝利して敵の領地に進軍した際の略奪を禁止した。戦国時代には略奪は一般的に行われており、普段は貧しい農民兵士にとって一種のご褒美のような感覚もあったようだ。ぶれない男、信長 しかし、信長は兵農分離によって兵士の経済的な待遇を確立する一方で、略奪を固く禁じていたのである。実際、信長は上洛(じょうらく)した際に、京の街中で略奪行為を働いた兵士を斬首している。現代の感覚では厳しすぎる処分だが、いかに略奪禁止を重視していたかが分かる。これも当時では常識を越える方針だったといえる。 また、信長は清洲から小牧山、岐阜、そして安土へと本拠地を移転させていったが、これも兵農分離していたから可能だったことだ。信長は数多くの兵士を城下に住まわせることで、城下町を発展させた。このことが経済活性化にもつながったのである。 信長の経済活性化では「楽市楽座」も有名だ。鎌倉時代以来、商工業者は座と呼ばれる同業組合的な組織が独占的に販売を営んでいたが、信長はこれを解散させ、城下では自由に商業販売をさせた。今日風に言えば、徹底的な規制緩和によって既得権益を排除し経済を活性化させるものだった。 また、楽市楽座と同じような趣旨で、信長は関所の撤廃も行っている。関所というと、現代に生きるわれわれは箱根の関所のような公的なものを思い浮かべる。だが、この時代は地域の豪族や寺社、商工業者などが各地で勝手に関所を設け、関銭(通行料)を徴収していたのである。 本来は安全確保のための警備目的だったものが、実態は金もうけと既得権益のようになっていたのだ。このため物資が移動する際、何カ所もの関所を通るごとに通行料を取られるため、円滑な流通が阻害されて物価は高騰し、経済を疲弊させていた。信長はこれを廃止するとともに、主要街道の整備も大規模に実施し、物流や人の往来を活発化させた。 これらの政策、略奪禁止、楽市楽座、関所廃止、街道整備などは、庶民から歓迎されたという。このように、信長は強力なリーダーシップを発揮して天下統一に突き進んでいった。信長の政策はどれをとっても既存の常識にとらわれないものばかりで、信長という人物は時代を超える発想の持ち主でもあった。 こんな話が残っている。日本にやってきたイエズス会の宣教師が地球儀や世界地図を献上した際、信長は宣教師の説明を聞いて、献上品の「正体」をすぐに理解したという。当時、地球が丸いことを知っている日本人が誰もいなかった時代である。その場にいた家臣はだれも理解できなかったのも当然だったであろうが、信長の理解力には驚かされる。 また、宣教師が連れていたアフリカ出身の黒人を大変気に入って譲り受け、家臣にしている。黒人は奴隷出身だったと思われるが、信長は「弥助」という名前をつけて自分の側近にした。弥助は本能寺の変の際に信長に同行しており、明智光秀軍を相手に戦ったという。その際、明智軍に捕らえられた後に解放されたというが、その後の消息は不明だ。 このようなところにも、信長が偏見や既成概念にとらわれない人物であったことがうかがえる。しかも常に天下統一という大目標が軸に据えられていた。その意志は、本拠地の名を稲葉山から岐阜に改めたときから使っていた「天下布武」という言葉に表れている。比較的早い時期からはっきりとした目標を掲げ、一貫してブレなかったのである。主導すべきは日銀総裁だ そのような信長がもし日銀総裁だったら、どのような政策を採るだろうか。おそらく、デフレ脱却・消費者物価上昇率2%という目標達成のために、現在のわれわれの常識を越えた発想で政策を具体化してくれるのではないかと思う。 いや、もっと大きい目標を掲げるかもしれない。日本経済全体の本格復活のために徹底した改革を推し進めるだろう。それはもう日銀の枠を超えるものになりそうだ。 そもそも黒田総裁が5年前に打ち出した異次元緩和自体、従来の日銀の常識を打ち破る政策だったわけで、少なくとも物価を下落から上昇基調に転換させた効果は上げている。 しかし、日銀の金融政策だけでは限界があるのも事実だ。物価目標を達成してデフレ脱却を確実なものにするには、金融緩和を継続しつつ、同時に日本経済の成長力を高める抜本的な政策が不可欠である。別の言い方をすれば、最大目的はデフレ脱却と日本経済再生であり、2%はそのための数値的目標ということだ。 ただ、その目的を実現するのは、日銀というより政府の仕事だ。現状ではその点はまだ不十分で、もっと徹底した改革が欠かせない。もし信長が日銀総裁なら、経済改革を政府に迫るなどしてリードしていくだろう。むしろ信長総裁が改革を主導して政府を引っ張っていく構図になりそうで、それを期待したい。むろん、あくまで現在の制度や権限を無視して言えば、の話だが…。 黒田総裁が目標を達成するには、こうした信長的要素を取り入れて政策を具体化できるかが、一つのカギとなりそうだ。 その場合、一つ注意点がある。信長が部下や世間とのコミュニケーションでは課題を残したようにみえることだ。前述のように、信長は「天下布武」という大目標を掲げて数々の常識破りの政策を採ったわけだが、彼の真意や狙いを配下の武将たちがどこまで理解していたかどうか。京都市中京区にある本能寺跡の石碑=2016年4月(門井聡撮影) また、信長と敵対する戦国大名や宗教勢力らが「反信長連合」を形成して最後まで信長を悩ませたことも、世論形成ではうまくいかなかったといえる。 これを現在の日銀になぞらえれば、市場との対話がより重要だということである。今後は、金融緩和政策のあり方や出口戦略をめぐる議論が従来にも増して活発化することが予想される。そうであればあるほど、日銀の政策や考え方をしっかり市場に説明して理解を広げる努力が必要になるのである。

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    「歴史」を学べば、経済の仕組みが見えてくる

    渡邉哲也(経済評論家)素人にはわかりにくい「経済」の世界。とくに最近はパナマ文書関連で「オフショア」「タックスヘイブン」などの語が世間をにぎわせているが、その仕組みをきちんと理解している人はごくわずかだろう。なぜ、経済や金融の世界の話は難しく感じられるのか。その理由を「歴史を理解していないからだ」と説くのは、経済評論家の渡邉哲也氏。新著『「お金」と「経済」の法則は歴史から学べ!』を発刊した渡邉氏にお話を伺った。 至極当然のことですが、社会は巨大な仕組みで出来ています。それを仲介するのがお金です。そして、お金も仕組みで出来ています。その大きな変化が起きたのが明治維新であり、明治維新以降の歴史を知らなければ、お金のしくみも社会の仕組みも知ることが出来ません。 しかし、学校ではほとんど近代史を教えず、お金のしくみも教えてくれません。私はここに大きな問題があるのだと思います。 そして、そのための教科書を作るべきだと考えました。そして、出来上がったのが『「お金」と「経済」の法則は、歴史から学べ!』です。 すべての物事は、原因があり過程があって結果が生じます。日々接するニュースは所詮結果に過ぎず、結果だけを追いかけていても問題は解決しません。これを解決するには、原因と過程の分析が必要であり、それを行うためには仕組みを理解する事が大切なのです。 また、歴史は繰り返すというように、本質的な仕組みが変わらないかぎり、形を変えて同じような出来事が起きるわけです。これを理解することは未来予測にも非常に重要になります。 皆さんが日々当然のように使っているお金ですが、そのお金にも歴史と歴史が作り上げた仕組みが存在します。 現在のお金のしくみは明治維新以降の金本位制による中央銀行と中央銀行が発行する紙幣の仕組みに依存しており、第二次世界大戦末期に作られブレトンウッズ体制と呼ばれる仕組みがそれを支えています。これは基軸通貨ドルを生み出し、ドルの世界的な金融支配を生み出しているわけです。東京都中央区の日銀本店(早坂洋祐撮影) そして、これが覇権国家アメリカの最も大きな核であり、現在も最大の力の源になるのです。これを理解すれば、今の世界情勢も見えてくるわけです。 また、現在の日本の経済の仕組みもこれに依存します。そして、バブル以降の経済の変化とグローバリズムの本質を理解するためには、「金融ビックバン」を知ることが大切になります。 かつて鎖国状態であった日本の金融ですが、金融ビッグバンと呼ばれる大規模な自由化により世界の金融システムの一部になり、日本の金融を日本だけで語ることが出来なくなったわけです。同時にそれは株や為替だけでなく、日本のアジア戦略や世界戦略にも直結するわけです。 そして、本書では、このような本質的仕組みとデフレやインフレといった具体的用語と事例を徹底解説しているのです。大英帝国の統治が生んだ「オフショア」 本書では直接的には触れませんでしたが「パナマ文書」も英国の金融の歴史を学ぶと理解できます。 問題の「オフショア」ですが、これは英国の大英帝国時代の植民地統治のための仕組みであり、これが英国の金融システムを支えてきたわけです。英国の首都ロンドン。実はロンドンには二人の市長が存在します。1人は大ロンドン市の市長であり、これは選挙で選ばれた市長です。 そして、もう一人の市長はロンドンの中の治外法権の自由都市「シティ・オブ・ロンドン」(通称シティ)の市長で、様々なギルドの重鎮から選ばれる一年任期の名誉職なのです。 もともと、英国は世界各国に植民地を持っていました。そして、その植民地には英国女王が任命した領主が存在し、領主が自由な自治を行っていたわけです。 今も大英連邦の諸国にはその歴史が息づいています。独立国となったオーストラリアやカナダですら、この片鱗が残っているわけです。 オーストラリアやカナダには地域の領主を意味する「総督」が存在し、外交儀礼上の地域の最高責任者は首相ではなく「総督」なのです。ですから、国家のトップはNO2を意味する首相なのです。そして、未だに他国の外交官が赴任した場合、総督に任命状をお届けするわけです。ロンドン証券取引所(iStock) そして、この仕組を利用したのが「オフショア」であり「タックス・ヘイブン」だったわけです。英国の自治領に、「匿名で取引でき税金がかからない地域」を作り、ロンドンのシティの金融機関が世界中から資金を集め巨大な手数料ビジネスを行ってきました。 また、このような地域は英国領の一部ですから、英国の金融ルールが適用される仕組みになっており、英国の金融機関にとっては安全な地域でもあったのです。もともとは英国の貴族のための仕組みを新興貴族ともいえる富裕層が利用したのが今回の問題の本質といえるわけです。 そして、今回のパナマ文書で中国人やその関係者が多い理由もここに起因します。 かつて、英国の植民地の一部であった自由都市香港も英国の金融とアジア戦略の要でありました。しかし、香港は返還期限のある租借地であり、期限到来に伴い中国に返還されました。この際、多くの香港人特に富裕層は、これを恐れ英国の他のタックス・ヘイブンに資産を移したわけです。 この手助けをしたのがHSBCを中心とした英国の銀行であり、この現地代理人が今回文書の流出したパナマの法律事務所だったわけです。そして、この時の記録(設立に関するパスポートデータや資金移動など)がパナマ文書ということなのです。このように歴史を学ぶと本質的なものが見えてくるわけです。わたなべ・てつや 経済評論家。1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。内外の経済・政治情勢のリサーチ分析に定評があり、さまざまな政策立案の支援から、雑誌の企画・監修まで幅広く活動を行なう。著書に、『中国壊滅』『ヤバイ中国』(以上、徳間書店)、『「瑞穂の国」の資本主義』『世界の未来は日本次第(共著)』(以上.PHP研究所)など多数。近著に『日本人が知らない世界の「お金」の流れ』(PHP研究所)がある。関連記事■ 人気エコノミストが教える「マイナス金利」■ 藤巻健史 私が「今はドルを買え」という理由■ 将来が不安な人のための「不動産投資」入門

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    日銀「黒田総裁続投」で日本経済は失われた30年へ突入

     日本国の中央銀行、日本銀行は行政機関では無いものの、金融政策については行政の範疇にあるとみられており、その決定は政財界に大きな影響力を及ぼす。経営コンサルタントの大前研一氏が、続投が決まった黒田東彦総裁により、日本経済の未来がどう変わるかについて解説する。* * * 日本銀行の黒田東彦総裁が再任された。日銀総裁を2期連続で務めるのは1961年に再任された第20代の山際正道総裁(やまぎわまさみち、1956~1964年)以来57年ぶりで、任期は2023年までの5年間。黒田総裁が任期満了まで務めれば、在任期間は一万田尚登総裁(いちまだひさと、1946~1954年)を超えて歴代最長となる。 本来、日銀は政府から距離を置いて独自に金融政策の舵取りをすべきなのに、安倍首相の肝煎りで起用され、「アベノミクス」の柱である異次元金融緩和を継続してきた黒田総裁がさらに5年も続投するというのは異常事態だ。 ところが、新聞・テレビはこの異例の人事をおおむね肯定的に報道している。これは全く理解不能だ。日銀は「物価上昇率2%」を目標に掲げ、2019年頃に実現できるとしているが、これまでに達成時期を6回も延期している。にもかかわらず、馬鹿の一つ覚えのように国債やETF(上場投資信託)を買うだけだ。そんな「異次元」の金融緩和をしても、この5年間の物価上昇率は原油などエネルギー価格の影響を除くと、ほとんど変わっていない。 結局、黒田総裁やその取り巻きは、20世紀の古い経済学に基づいた金融政策しか議論していないから間違えるのだ。実際に庶民の目から見て、どこにどんな需要があり、それがどう変化しているのか、20代の若者が70代の高齢者より出不精になっている時代にどんな政策が有効なのか、といったことを全く考えず、若い頃に学んだ経済理論を振り回して金利とマネタリーベース(資金供給量)をいじっているだけである。 だが、経済学は社会「科学」だから、黒田総裁が本物の社会科学者だったら、一つの手を打っても効果が上がらない場合、その原因を論理的に究明して次の手を考えるはずである。それをせずに異次元金融緩和を無神経に続けている黒田総裁には、論理思考力がないと言わざるを得ない。記者会見する日銀の黒田総裁=2017年10月31日、日銀本店 つまり、日本経済が低迷している最大の原因は、黒田総裁をはじめとする従来エリートと呼ばれていた人たちが、21世紀の経済の現実を全く理解できていないことなのだ。今後はさらに変化が加速してAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)が経済の中心になり、古い経済理論はいっそう的外れになっていく。安倍首相や黒田総裁のような古い考えの人はさっさと退場し、新しい経済に素早く対応できる人材に「反転攻勢」のための舵取りを任せるべきである。 一例を挙げれば、いま日本では所有者不明の土地や家、値段がつかない不動産が大量に余っている。所有者不明の土地を全部足すと九州ほどの大きさになり、2040年までには北海道並みの面積に達するとされている。 だが、この問題は解決可能だ。2017年の訪日外国人客数が過去最高の2869万人を記録したようにインバウンド需要は拡大の一途であり、しかも日本にはまだまだ外国人観光客を引き寄せる魅力があふれている。今後ますます宿泊施設が不足するのは明らかだから、空き家や余っている土地を活用して、ABS(※アセット・バックト・セキュリティ=将来のキャッシュフローを担保にしてお金を借りる仕組み)で銀行から資金を調達し、民泊やホテル・旅館を20軒、30軒まとめて事業展開すれば、大きなビジネスになるはずだ。 かつてのアメリカの石油王ロックフェラーや鉄鋼王カーネギー、鉄道王スタンフォードのような人物が21世紀の日本で生まれるとしたら、この「余っている不動産問題」を新たな富に変えた人物だと思う。 しかし現実は、余っている不動産を意欲ある事業家に開放する法的手段は全く整えられていない。そして20世紀の古い経済学しか知らない黒田総裁の下で、さらにこれから最長5年間も的外れな金融政策が続く。1990年代からの「失われた10年」は2000年代も続いて「失われた20年」になったが、このままいくと2010年代から2020年代にかけても好転の見込みはなく、「失われた30年」が確定する。黒田総裁の続投はそういう意味だということを、国民は肝に銘じるべきである。関連記事■ マンション最後の売り時 局地バブルエリアの価格は3分の2へ■ 日経平均4万円か1万円割れか 6月「第3の矢」の破壊力■ 安倍首相「お友達人事」の明暗 日銀総裁人事と官僚論功行賞■ 不動産バブル崩壊シナリオ「東京でも半値に暴落する」と識者■ 不動産は今こそ売り時 「グズグズしている余裕なし」の理由

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    過去のデータで将来を予測するのはバックミラーを見て運転するが如し

    塚崎公義(久留米大学商学部教授) データは重要です。データに基づかない議論は説得力がありませんし、独善に陥る可能性が高くなります。しかし、データを妄信することも危険です。バックミラーを見て運転するようなものだからです。データ至上主義者に「勘ピューターも加味しないと」と言っても、なかなか受け入れてもらえませんが。今回は、データ至上主義の危険性について考えてみましょう。 バブル期に不動産投資が過熱した一因に「土地神話」があったと言われています。「戦後、土地の値段は一度も下がったことがないから、今回も大丈夫だ」と人々が信じていた、というのです。バブル期の人々は、客観的な過去のデータから将来を予測していた、ということなのでしょう。 銀行内部でも、過去データが分析され、「過去の不動産担保融資の焦げ付き率は低い。特に、過去1年の焦げ付き率はゼロに近い。だから不動産担保融資は安全なのだ」といった議論が行われていたのでしょう。バブル期は地価が上がり続けていたので、融資が焦げ付くはずがありません。借金が返せない場合には不動産を売却して返済することが容易だったからです。そんな時期のデータを用いて「今後も不動産担保融資は焦げ付かない」と予想していたのだとすれば、問題でしょう。 リーマン・ショック前、米国で住宅バブルが発生していました。米国では住宅ローンを証券化して売却する手法が多用されていますが、その際に重要なのは格付けです。問題なのは、格付けが過去の焦げ付き率を参考に決められている事です。バブル期の邦銀と同様、米国で証券化商品を購入した人々は、格付けという過去データの分析結果を妄信した、ということだったわけです。 江戸時代のデータを用いて日本経済の将来を予想しようと考える人はいないでしょう。当時と今では、経済構造が全く異なっているからです。しかし、人々が経済構造が変化していることに気付いていない場合には、ミスリーディングなことが起こり得ます。かなり前のことですが、筆者が経済予測で珍しく(笑)大ヒットを飛ばした話をしましょう。 高度成長期の日本製品は、「安かろう悪かろう」と言われていました。「日本製品は、品質は悪いが値段が安いから買おう」と先進国の人々に思われていたわけです。しかし、その後の安定成長期に、日本製品は品質を大いに向上させ、プラザ合意(1985年)の頃には、世界中で「日本製品は品質が良いから買おう」と思われるようになっていたわけです。たまたま筆者はプラザ合意当時、米国留学中だったので、米国製自動車より日本製自動車の方が信頼性が高いことを熟知していたのです。(iStock) 留学から帰国して調査部に配属になった筆者は、貿易収支を担当することになりました。当時は、「円高になると、外国人から見て日本製品が割高になる。値段の安さで輸出を伸ばして来た日本製品にとって、大きな打撃だから輸出は激減するだろう」という予測が通説でした。当然、過去のデータからも「円高になると輸出数量が減少する」といった分析が多数導かれていたわけです。 そこに筆者が「日本製品は品質で売れているので、円高になって日本製品が割高になっても世界中で売れるはずだ」という「勘ピューター予測」を出したわけです。結果は大当たりでした。日本経済はもう成長出来ない? 後日、円高後のデータが出そろった後で、「高度成長期とプラザ合意後について、円高と輸出数量の関係を分析すると、明らかな違いがある。これは経済構造が変化した事の証拠である」というレポートを書いたのです。何十年も調査関連業務に従事していますが、最大のヒット作が駆け出しだった時の当該レポートだったというのは、ビギナーズ・ラックとしか言いようがありませんが(笑)。 最近の話としては、アベノミクスで労働力不足になったことが注目されます。「経済成長率はほとんどゼロなのに、労働力不足になった。ということは、日本経済は、もう成長出来ないのだ(潜在成長率がゼロである)」という人がいるからです。しかし、これも過去データ妄信による誤りでしょう。 これまでは、失業者が大勢いましたから、日本企業は省力化投資を行う必要がありませんでした。安い労働力が簡単に雇えたからです。しかし、最近では労働力が不足するようになって来ましたから、日本企業が省力化投資を本格化するでしょう。そうなれば、経済が成長しても労働力不足が深刻化しないかも知れません。言い換えれば、省力化投資をした分だけ経済が成長することが出来るようになるわけです。 これは経済構造が変化したというよりは、「変化が臨界点に達した」ということでしょう。氷に熱を加えると氷が溶けますが、温度は上がりません。氷が溶け終わると、従来同様に熱を加え続けているだけなのに、温度が上がります。水温が100度になると、再び温度が上がらなくなります。このように、同じ力が加わっても別のことが起きる場合があるのです。経済でも同様です。 景気が回復を始めても、失業者がいる間は省力化投資は行われませんが、失業者がいなくなると(正確には一定数以下にまで減ると、さらに正確には自然失業率に達すると)省力化投資が始まるのです。 本文は以上です。以下は、経済初心者用にデータを扱う際の留意点などを記したものです。一般の方も、復習のつもりで御読みいただければ幸いです。 いろいろ記して来ましたが、それ以前の問題として、データそのものが信頼に足るものである事は、最低限の必用条件です。その際、たとえば左派系新聞や右派系新聞の読者アンケートで支持政党を聞くことなどは、当然にバイアスがかかっているので、信頼度は大きく落ちるでしょう。(iStock) 因果関係にも注意が必用です。たとえば「警察官が多い街ほど犯罪が多い」というデータを見た時、「では警察官を減らそう」と考えてはいけません。「犯罪が多い街ほど警察官を雇うために予算を使う」「人口の多い街は警察官も犯罪も多い」といった因果関係があるからです。

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    消費増税廃止、マハティールにできて安倍首相にできない道理はない

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) マレーシアでマハティール政権が誕生したことは、英国からの独立後初めてとなる政権交代を実現させたこと以外に、二つの驚きをもたらした。一つは、マハティール氏が92歳の高齢にも関わらず、15年ぶりに首相の座につき意欲的な政治姿勢を鮮明にしたことである。特に中国の「一帯一路」政策について、厳しく批判している。 このマハティール氏の姿勢は正しい。中国の「国際的なインフラ事業」を偽装した、中国本位の安全保障対策に付き合うとロクなことにはならないだろう。そもそも、インフラ投資を名目にした「中華的帝国主義」の実体化である。付言すれば、この「一帯一路」政策をいかに骨抜きにし、無害化するかが今後、国際社会の求められる姿の一つだろう。 さらに、もう一つの驚きは、経済の安定化策として、「消費税」の廃止を公約にして、それを実行に移すことである。最近のマレーシアは、経済成長率が低下していて、その主因が消費の減少に求められていた。「元凶」は、ナジブ前政権が2015年に導入した物品サービス税(消費税)である。マハティール氏は、6月1日に税率を0%にすることで事実上廃止し、早速公約を実現したのである。 マレーシア経済も最近、発展が目覚ましいとはいえ、まだ発展途上国である。いわば所得格差も大きい。そのため、低所得層に負担の大きい消費税の導入には、国民世論的にも批判が高まっていた。特に、マハティール氏がかつて主導していた政策は、外資の積極的な導入による経済成長の促進策と、再分配政策の両輪を追求するものだった。これに対して、ナジブ前政権の消費増税政策は、過度に財政再建に傾きすぎていたと評価することができる。 これらのマハティール新政権の基本方針は、実は今の日本でも非常に参考になるはずだ。アジアインフラ投資銀行(AIIB)を中核とした中国の「一帯一路」政策は、巨大化しているようだが、かなり粉飾されているように見える。実際に、AIIBによるインフラ中心の投資額は、日本が主導するアジア開発銀行(ADB)の融資額に比べてまだまだ劣る。 だが、他方で最近、欧州の政策担当者たちから指摘されているように、AIIBのガバナンス(組織統治)が中国本位であるという批判は正当なものだろう。既にADBとAIIBは協調融資を実施している。2018年5月、マレーシア下院選勝利を受け、記者会見するマハティール元首相=クアラルンプール それでも、日本の政策当局者は「一帯一路」、そしてその手段の一つであるAIIBによる中国本位の融資の動きを常に監視し、警戒していく責務があると思う。また、それがアジアや中東などのインフラ需要を、中国本位ではない、それぞれの国民にとっての生活本位として満たすことにつながるだろう。 特に、ただ単に巨額の融資額に目がくらむようではダメだ。インフラ投資は、きちんと行えば経済成長に寄与し、国民の福祉を向上させる。だが、インフラ投資は投資先の国や地域の権力と結託することで、汚職の温床になったり、非効率的な投資につながることで、かえって経済成長を阻害することがある。 中国の政策当事者たちに、各国本位に立った政策構築を求めることは、度のすぎたジョークに等しいだろう。その意味でも、マハティール政権が中国資本による高速鉄道計画の見直しを表明していることは、国民本位のインフラ整備なのかどうかを再考するいい機会ではないだろうか。対案よりも「消費税廃止」 さらにマハティール政権の政策で注目すべきなのは、消費税の廃止である。今後の日本経済における最大の不安定要因は、2019年10月に予定されている消費増税である。現状の経済政策をざっとみれば、金融政策は緩和を継続する一方で、財政政策は積極的とはいえない状況である。今の国際情勢や経済情勢が運よくこのまま継続すれば、来年前半にはインフレ目標2%台に何とか到達し、そのときに雇用も最大化しているだろう。 しかし、情勢が運よくこのまま継続する保証などみじんもない。要するに、「2%台」も「雇用の最大化」もバカげた予測にすぎないのである。だからこそ、実際に経済が安定化するには、最大の国内障害である消費増税を凍結するか、もしくは廃止するのが理想的である。 そもそも現状の消費税のあり方についても、筆者は反対である。ただし今回は、来年の消費増税のみに議論を絞りたい。最近、財務省の宣伝工作と思われるが、新聞などで消費増税による悪影響への対案が報じられている。 このような悪影響がはっきりしているのであれば、対案を出すよりも、まず消費増税をやめることが第一である。ところが、財務官僚とそのパートナーである「増税政治家」と「増税マスコミ」には、そんな常識は通用しない。彼らにとっては「増税ありき」であり、理由などもはやどうでもいいのだ。 経済が安定化しつつある現状でさえ、税収の増加が顕著である。それをさらに軌道に乗せ、税収も安定すれば、財政再建の必要条件が満たされるだろう。だが、増税政治家と財務省にとってはそんな理屈はどうでもいいのだろう。消費税を上げるのは偏狂的な政治的姿勢が生み出した妄執であろう。そんな妄執は、国民にとって「経済災害」以外のなにものでもない。 与党だけではなく、対抗勢力である枝野幸男代表率いる立憲民主党、支持率が1%にも満たない国民民主党などの野党も含め、国会議員の大半がこの「消費増税病」にかかっている。ちなみに、日本共産党は消費増税に反対だが、経済回復の大前提である金融緩和に否定的なのでお話にならない。このように、国会議員ほぼ全員が消費増税病という事態は、本当に日本の深刻な危機である。2018年5月、立憲民主党の枝野幸男代表(右手前から4人目)ら幹部にあいさつする国民民主党の(左手前から)玉木雄一郎、大塚耕平両共同代表 最近、自民党のLINEを使ったアンケート結果を見たが、そこには経済対策を求める声が大きい。だが、その対策に消費増税が入っているとは思えない。ということは、自民党議員の多くは支持者を裏切るスタンスを採用しているともいえる。 そのような支持者たちを裏切る政治的背反はやめたほうがいい。そして何よりも、経済が安定化していない段階での消費増税は過去の失敗を見てもわかるように、いいかげん放棄すべき愚策である。 それを理解できない議員を政治的に排除していくことこそ、国民が選挙などで求められる視線かもしれない。その意味では、マレーシアのように、消費増税廃止を公約に掲げて国政選挙を行ってもいいぐらいだろう。 現状では、安倍晋三首相もこの消費増税路線を堅持している。首相の本音がどこにあるのかはわからない。過去2回延期したという貢献があるにせよ、今のところ消費増税路線を維持している限り、安倍政権もまた批判を免れることはできない。安倍政権には経済を安定化させる義務がある。それが対中安全保障を含め、この長期政権に今までも求められてきた最重要課題だからである。

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    現金大国ニッポンが「一万円札を廃止」したらどうなるか

    加谷珪一(経済評論家) 量的緩和策の導入から5年が経過したが、残念ながら十分な効果を発揮したとはいえない状況が続いている。一部ではこうした現状を打開するため、高額紙幣を廃止するという、いわゆる「1万円札廃止論」がささやかれている。では、1万円札を廃止することにどのような意味があるのか、そしてこの施策が量的緩和策の効果を増大させることができるのかについて考えてみたい。 量的緩和策は、日銀が積極的に国債などの資産を購入することで大量のマネーを供給し、市場にインフレ期待を発生させる施策である。インフレ期待が生じると実質金利が低下するので、企業の設備投資が促進され、これが経済成長を促すというメカニズムである。 量的緩和策がスタートした当初は、消費者物価指数がすぐにプラスに転じるなど、順調に物価が上昇するかに見えた。ところが消費税が8%に増税された直後から物価上昇率の鈍化が始まり、2015年2月には0%まで低下。16年7月にはマイナス0・5%にまで落ち込んだ。  日銀は量的緩和策を補完する目的で、16年1月にマイナス金利政策を導入したが、タンス預金が増えるなど完全に逆効果となってしまった。日銀はその後、「イールドカーブ・コントロール」という聞き慣れない手法の導入に踏み切り、マネー供給の量を追い求める政策は事実上、撤回した状態にある。 日銀はこれ以上前にも進めず、かといって明示的に量的緩和策を縮小することもできないという、非常に難しい立場に置かれている。このような中、専門家の一部でささやかれているのが1万円札廃止論である。 量的緩和策は本来、市場にインフレを発生させることを目的としている。インフレになった場合、現金を持っている人は損失を抱えてしまう。中央銀行がインフレを起こそうとしていると知れば、消費者はお金をモノに替えようとするはずである。つまりタンス預金というのは、インフレ政策の下ではまったく非合理的な行動ということになる。 だが、現実には多くの日本人が、マイナス金利政策の導入と同時にタンス預金を増やすという、全く逆の行動に出ている。タンス預金をした人の多くは、量的緩和策のメカニズムを理解していないものと思われるが、何よりも不安心理が先に立ち、これが現金保有を加速させた可能性が高い。2018年3月、金融政策決定会合に臨む日銀の黒田総裁 こうした状況から専門家の一部は、高額紙幣を廃止してしまえばタンス預金が減少し、市場にもっとお金が出回るのではないかと考えている。これが1万円札廃止論である。 確かに1万円札を廃止すればタンス預金は難しくなるので、現在、タンスに眠っているお金の一部は市場に出てくるかもしれない。だが高額紙幣の廃止が紙幣流通の拡大につながるのかは微妙なところだ。 そもそも日本の場合、先進諸外国と比較して現金の流通高が突出して高いという特徴がある。2016年末における日本国内の紙幣と硬貨の流通総額は約100兆円となっており、この金額は国内総生産(GDP)の2割近くに達する。タンス預金は消費低迷の「結果」 米国や欧州では7~10%程度の水準が標準的で、現金はあまり流通していない。しかも米ドルとユーロを現金で持っているのは、何らかの理由で資産を保全したいと考える外国人であることが多く、自国民はほとんど現金を持っていないというのが実情である。 つまり日本の場合、手元に大量の現金が存在するにもかかわらず消費が停滞しているという状況であり、タンス預金は消費低迷の結果として生じた現象にすぎない。したがって、ここで高額紙幣を廃止したとしても、すぐに景気の浮揚効果が生じる可能性は低いと考えられる。 ただ、日本の場合、現金決済の存在が社会全体の生産性を引き下げている可能性があり、高額紙幣の廃止をきっかけに電子決済への移行が進めば、経済にとってプラスの効果が生じる可能性はある。 先にも述べたように日本は先進国では突出した現金大国であり、現金流通を維持するためのコストがバカにならない状況となっている。もっとも大きいのは、現金自動預払機(ATM)網の維持コストと、店舗で働く労働者の負担である。 現在、国内では20万台ものATMが稼働しており、これが社会の現金決済を支えているが、金融機関が負担するコストは年間2兆円に達するといわれる。このコストは手数料などの形で消費者が負担しており、実は家計に見えない形で負担をかけている。 昨年末、メガバンク各行が大規模なリストラ計画を打ち出して話題となったが、その中には、実は店舗とATM網の縮小が盛り込まれている。銀行がこの負担に耐えきれなくなりつつあるのだ。 また、店舗における労働者の負荷も限界に達しつつある。飲食や小売りの業界では、深刻な人手不足から、できるだけ少人数で業務を回せるよう日々工夫を重ねているが、その大きな障壁となっているのが現金のやり取りである。店舗では現金を切らさぬよう、常に大量の現金を管理しており、これが従業員の生産性を大きく引き下げている。大阪市内の遺品整理で、タンスから見つかった一万円札の札束(エクシア提供) 昨年11月にファミリーレストランを展開するロイヤルが「現金お断り」の店舗を試験導入したが、その理由は従業員の負担を軽減するためである。  欧米各国や中国はすでにほぼ完全なキャッシュレス社会に移行しており、街中で現金を見かけるケースは極端に減った。日本でも電子マネーによる決済が増えれば、サービス業の生産性が向上し、その分の労働力を別なサービスの開発などに充当することができる。 1万円札の廃止は、タンス預金対策や金融政策的な景気浮揚策としてではなく、日本全体の生産性向上策と考えれば、検討に値するかもしれない。 日本はこれから空前の人手不足社会となり、従来の常識では社会システムが回らなくなる。現金と電子マネーのどちらが好きかといった牧歌的な議論ができる段階はすでに過ぎ去ったと考えるべきだろう。

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    「一万円札廃止論」のウラ側

    日本の一万円札は本当に必要なのか。こんな議論がにわかにささやかれている。表向きはタンス預金解消や電子決済の普及、マイナス金利政策との相乗効果などと言われるが、むろん高額紙幣廃止にはデメリットもある。いや、そもそも現金至上主義の日本人に受け入れられるのか。議論のウラ側を読む。

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    「一万円札廃止論」に隠された安倍政権のどす黒い意図

    なくなると金利正常化でタンス預金はなくなる。高額紙幣廃止論はタンス預金が問題ではなく、あくまで財政・金融・経済が問題なのである。

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    一万円札より硬貨廃止が先、世界の潮流「キャッシュレス経済」の衝撃

    小黒一正(法政大経済学部教授) 4月3日の衆院財務金融委員会で、日本銀行の宮野谷篤理事の発言がインターネット上で話題となっている。それは、日本維新の会の杉本和巳議員が高額紙幣廃止の必要性を質問したことに対して、宮野谷理事が「わが国における高額紙幣廃止の議論については、現時点で慎重に考える必要がある」などと答弁したのである。 「現時点で慎重に考える必要」とは、官僚答弁で「当分の間、廃止する予定はない」という否定的な側面を持つものだ。しかし、その発言に対して、ネット上では賛否両論で盛り上がっている。 否定的な側面を持つ証拠としては、宮野谷理事が、この答弁で「(高額紙幣である1万円札は)日本の現金流通システムにおいて非常に重要な役割を果たしている」と指摘したことからもうかがい知れる。また「諸外国の高額紙幣に比べると、1万円という額面金額はそれほど大きくない」という発言も行っている。 日銀が現在発行している発行銀行券には、1万円札、5千円札、2千円札、千円札がある。確かに、このうち1万円札の発行枚数は全紙幣の約6割、発行残高の約9割を占めている。 また、世界には、スイスの1000フラン紙幣、カナダの1000ドル紙幣、スウェーデンの1000クローナ紙幣、サウジアラビアの500リヤル紙幣といった高額紙幣もあり、日本の1万円札が突出して高くないという発言も正しい。 ただ、以前「iRONNA」でも指摘したように、情報通信技術(ICT)革命の次に起こるのは「データ産業革命」である。この「本丸」が金融、中でもデジタル通貨であるという認識が世界で広まる中、現金決済中心の経済では今後のグローバル競争に日本が敗北してしまう可能性も否定できない。 データ産業革命の本丸である「キャッシュレス経済」に向けて、スウェーデン、エストニア、インド、ベネズエラ、トルコ、ロシアなどのほか、中国もデジタル通貨の発行を検討しているとの噂もある。 また、企業レベルの動きだが、デジタル通貨の可能性に最も早く気づき、既に動き出している企業の一つが、中国の電子商取引最大手、アリババであろう。アリババが展開する電子決済サービス「支付宝(アリペイ)」の利用者は既に5億人を突破した。2013年が約1億人であったから、急成長を遂げている。(iStock) アリペイは「微信支付(ウィーチャットペイ)」や「騰訊控股(テンセント)」などの電子決済サービスとの激しい競争を繰り広げつつ、日々の取引で蓄積される膨大な決済のビッグデータを武器に利用して、融資や信用評価といった新たな事業領域にも進出し始めている。 融資は、決済データとリンクする個人の信用力に関する評価を利用している。その中核を担うのは「芝麻信用(セサミ・クレジット)」と呼ばれる信用評価システムだ。評価は毎月1回更新され、支払期日をしっかり守る高評価の利用者は融資の際に金利優遇や与信枠の拡大などの特典が受けられる。紙幣とデジタル通貨の決定的な「差」 この評価は、利用者がいつでも確認可能であり、ホテル利用時の保証金が不要になるケースもある。また、評価基準には学歴や職歴、交友関係なども設けられ、利用者がアリババに自らの個人情報を提供することで高い評価を得ることもできる。 そして、アリババは、この信用評価や蓄積する膨大な電子決済のビッグデータを利用して、人工知能(AI)の予測モデルで資金回収の不確実性などを判断し、融資を行う。なお、融資判断を行うのはAIの予測モデルであるため、融資業務の担当者は不要だ。しかも、利用者が融資申請に掛かる時間は3分、AI融資に至っては1秒という速さである。 以上から明らかなように、もし国家主導でデジタル通貨を導入することができれば、そのインパクトははるかに大きいことが予想できる。 ただ、デジタル通貨の導入にあたって、最も大きな問題となるのはプライバシー保護である。紙幣のすごい点は「紙」であるために、「誰が何を買ったか」、あるいは「誰が紙幣をどのくらい保有しているか」といった情報について、政府を含めて第三者が把握しにくいということである。このため、消費者は安心して買い物ができるし、人々や企業も安心して現金を保有できる。 この解決のために、何かいいアイデアはないだろうか。ブロックチェーン(分散型台帳)技術を利用する仮想通貨の中には、取引を行ったときにデータをシャッフルすることなどにより、仮想通貨の受け取り側と受け渡し側を匿名で行うことができるものも存在する。 そこで、これは筆者のアイデアであるが、日銀が発行するデジタル通貨にもこの技術を適用したらどうか。50万円未満など一定以下の金額の取引で、10%程度の追加手数料を支払えば、この技術を利用して匿名での取引を選択できるようにするのである。 取引を完全に透明化すると、息苦しい社会になってしまう。だから、取引全ての透明化が必ずしも「善」だとは限らない。そこで、一定のコストを支払うことで匿名化を許容し、追加手数料は国の収入とするのである。 ここで気をつけなければならないのは、デジタル通貨の受け取り側は「売り手(企業)」が多いことから、受領側のプライバシー保護をあまり気にする必要はないことである。だから、デジタル通貨を受け取った側のデータは蓄積しても、デジタル通貨を渡した側のデータを蓄積しないようにする対策も考えられる。(iStock) なお、クレジットや小切手による決済が主流の欧米と異なり、日本で現金決済が多いのは、日本の治安が極めて良い、という側面も忘れてはならない。このような状況の中では、高額紙幣である1万円札を廃止しようとしても、国民があまり利便性を感じないかもしれない。むしろ、このデジタル時代において、1円や5円、50円、100円、500円といった硬貨の持ち運びの方が財布もかさばり、面倒だと考えている国民も多いのではないか。 また、日銀が異次元の金融緩和を行う中で、デジタル通貨の導入が金融政策や金融セクターに及ぼす影響についても、一定の実験を行いつつ、十分に検討する必要がある。このため、デジタル通貨の導入にあたっては、高額紙幣である1万円札の廃止ではなく、まずは硬貨の廃止から議論や実験を進めることをおすすめしたい。

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    イオンはキャッシュレス化邁進 レジ現金引き出しサービスも

     今年のゴールデンウイークは日並びも良く、有給休暇をうまく使えば9連休かそれ以上、という方もいるだろう。行楽地や商業施設、飲食店が潤う時期だが、混雑の大きな原因にもなっているのが“レジ待ち”だ。海外に比べると、日本はまだまだキャッシュレス社会とはほど遠いのが実情で、いまだ「現金以外はお断り」といった飲食店も少なくない。 そんな中、去る4月16日にイオンがビザ・ワールドワイド・ジャパン(以下Visa)とタッグを組み、国際標準規格の非接触決済(以下タッチ決済。サインも暗証番号も不要)導入を発表した。 Visaの安渕聖司社長によると「日本では5000円以下の決済市場は100兆円規模だが、いまだ91%が現金支払い」で、この部分でのキャッシュレス化を推し進めたいという。 後払いのクレジットカード、今払いのデビットカード、電子マネーなど先払いのプリペイドカードがあるが、クレジットカードは比較的高額の商品を、デビットカードでは3000円から5000円ぐらいの買い物、1000円以下の商品は電子マネーで、といった使い分けが消費者の間では一般的だが、今回のタッチ決済はそのすべてで使えるサービスだ。 前述したように、日本では現金社会から脱していないのが現状だが、そうした実情に照らすと、イオンやイオンモールでの消費者の買い物は7割がキャッシュレスというから、意外に進んでいる印象で、「7割の内訳は4割がイオンカード、3割が(イオン系電子マネーの)WAON」(岡崎双一・イオンリテール社長)だと言う。 キャッシュレス化が進めば、消費者側から見ればレジの混雑というストレス緩和につながり、企業側もレジ関連の人件費削減につながっていくわけだが、今回のタッチ決済導入について、岡崎氏はこう続けた。「2019年3月より順次導入し、1年後の2020年3月末までに整備して、イオングループのレジ10万台にVisaタッチ決済を導入していきます。また、今年9月からVisaマークの付いたイオンカードをお持ちの方は、タッチ決済用のカードに順次切り替えていく。 今後はスマホでも決済できるよう、スマホアプリの搭載も今年度中にはできるように取り組みたい。ただ、タッチ決済用のカードならお買い物で何%かオフにするとかまでは、まだ考えていません」(iStock) 要は今後2年かけて新カードへの移行を促進し、訪日外国人数がピークを迎えるであろう、2年後の東京五輪に間に合わせたいというわけだ。 ちなみに、イオンのライバルであるセブン&アイ・ホールディングスでも今夏にはグループ横断のスマホアプリをリリースし、来春にはセブン銀行が主導する形の決済アプリと紐付ける計画だ。2019年春以降、決済シーンでもセブンvsイオンの対決は新たなステージに入る(イオンのWAONとセブンの電子マネーnanacoも同じ2007年にサービスを開始している)。 また、岡崎氏はスピーチの冒頭、「おかげさまでイオングループの営業収益(=売上高と同義)は2018年2月期、8兆3900億円と過去最高を更新し、日本の小売業でナンバーワンです」と語っていたが、この売り上げスケールを武器に、タッチ決済導入では他の大手小売業より導入コストも有利にはなるだろう。“二刀流”企業が増えそうな理由 岡崎氏は、タッチ決済導入による効率化についても、次のように言及していた。「我々にとって現金の準備が減ります。これまでは、釣り銭用として、レジには相当な額のお金を充当してきましたから。大きなお店でレジの数が多いところならなおさらです」 タッチ決済の導入により、あらかじめレジに置いておく硬貨や紙幣の現金が少なくて済むようになるというわけだが、一方でイオンでは去る4月2日から、キャッシュレス化とは逆行する、あるいはレジの現金を減らすこととは真逆のサービスもスタートさせている。 キャッシュアウトと呼ばれる、欧米では日常風景になっているサービスで、要はレジでデビットカードを渡し、5000円とか1万円の現金をレジで出してもらい、その出金した金額分を、デビットカードの残高から即時に引き落とすというもの。再び岡崎氏の弁。「キャッシュアウトの需要はあるんですよ。このサービスを始めてからまだ日が浅いですが、ご利用データを見ると、そんなにびっくりするほどキャッシュアウトのご利用は多くはありませんが、確実に需要はある。無理やりキャッシュレス一辺倒に、という時代ではまだないと思います。 逆に、現金でお支払いする方々を我々のほうから敬遠してしまうと(売り上げにも)すごく影響が出てしまうので、強制的に全部、キャッシュレスの時代だから、全部そっちでやっていきますよというのはちょっと強引かと。 いまだ、銀行に振り込まれた給与から生活費分を引き出して封筒に入れ、そこから一万円札や千円札の1枚1枚を大事に使って生活していかれる方もいらっしゃいますから。もちろん、我々の努力でキャッシュレスのほうに誘導していくことでウチも効率的な店舗運営ができますので、早くそちらのほうに行けばいいなとは思いますし、キャッシュレス化の後押しはどんどんしていこうと考えています」イオンモール京都(iStock) イオンは、同業他社に比べて地方や郊外に店舗を持つ比率が高い。地方や郊外では当然、大都市部に比べると商業施設の密度が落ち、住民の高齢化も進んでいることが多く、そうなるとキャッシュアウトのようなサービスは必要というわけだ。レジでの混雑緩和には逆行して手間暇もかかるものの、イオンでは当面、レジで現金を引き出すサービスに手数料を課すことはないという。 最近はマイナス金利の余波で収益が厳しくなった銀行も増えており、コンビニ等にあるATMから現金を引き出す場合、引き出し手数料の無料回数を減らしている銀行が増えている。そういう意味では、イオンのレジでの現金引き出しが現状のまま無料なら、確かに今後も需要はありそうだ。 しかもサービスカウンター内のレジに限定し、通常のレジでは現金引き出しサービスは行っていない。また現金払いオンリーの人に比べ、レジでの引き出しにはデビットカードが必須であることから、結果的にデビットカード利用へ誘導していく機会にもなるとする向きもある。 そう考えれば、イオンを皮切りにキャッシュレス化とレジでのキャッシュアウトという“二刀流”の実施企業がこれから増えていきそうで、キャッシュレスに慣れた若年層はともかく、シニア層以上にはまだまだ二刀流が効きそうだ。●文/河野圭祐(ジャーナリスト)関連記事■ イオンのアジア出店加速 海外でも「イオニスト」増やす戦略■ イオン 郊外モールはイオニストで盛況なのに業績不振の理由■ イオンはアウトレットでも「新イオニスト」を生み出せるのか■ イオンで一日過ごす「イオニスト」増殖で消費の定石変わった■ クレジットカード ポイント還元で生涯600万円得することも

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    中国でキャッシュレス化が爆発的に進んだワケ

    高口康太 (ライター・翻訳家) 最近、中国のキャッシュレス社会化が話題となっている。・中国人の眼に映る今の日本は「20世紀」のままだった…|現代ビジネス(2017年6月13日)・中国「超キャッシュレス社会」の衝撃、日本はもはや追う側だ|ダイヤモンド・オンライン(2017年7月10日)・スマホ大国・中国、日本のはるか先を行くワケ|読売新聞(2017年8月16日) 中国の先進的なキャッシュレス社会、スマートフォン活用に驚き、日本社会に警鐘を鳴らす報道も少なくない。メディアだけではない。実際に中国を訪問した人の多くがその利便性に衝撃を受けている。 一方で中国を訪問したことがない人からは、報道を見てもぴんと来ないという声を聞く。「Suicaやおサイフケータイとは何が違うのか?」「QRコードだと何がそんなに便利なのか?」「スマートフォンのバッテリーが切れたら支払いができなくなるのって不便じゃないの?」「現金と比べて何が便利なの?小銭が不要になるから?」「中国は偽札が多いからモバイル決済が流行ったそうだけど、日本はそんな心配はないから不要なのでは?」などなど、根本的な疑問を聞かれることが多い。 中国のキャッシュレス革命を褒めたたえる記事はあっても、こうした根本的な疑問に答えたものは少ないように思う。そこで本稿では今、中国で何が起きつつあるのか、その全体像をお伝えしたい。 「一口にモバイル決済と言っても、中国と日本では状況が異なります。中国ではパソコンが先進国ほど普及しませんでした。いわばパソコンとインターネットの時代を跳び越えて、スマートフォンとモバイルインターネットの時代が到来したのです。日本ではパソコン向けのサービスがいろいろあるでしょうが、中国ではすべてがスマートフォンに集中している状況です」 筆者は7月、中国IT大手アリババ集団の関連会社で、モバイル決済アプリ「支付宝(アリペイ)」を展開するアントフィナンシャル(浙江省杭州市)を訪問した。上記の説明は同社広報担当である楊昕韻さんの発言だ。2017年7月10日、第2回世界女性創業者大会に登場したアリババの創業者ジャック・マー(馬雲)氏 最初に用語について説明しておこう。キャッシュレスとはクレジットカードや電子マネーを含む、現金以外の手法による決済を指す。一方、モバイル決済とはスマートフォンを使った決済を意味する。近年、中国で急成長を遂げているのはモバイル決済だ。モバイル決済は便利なスマホ利用の入り口 2012年以後、中国では爆発的にスマートフォンが普及した。モバイルインターネットユーザーは今年6月末の時点で7億2400万人に達している(『第40回中国インターネット発展状況統計報告』、2017年7月)。 モバイルインターネットの成長に伴い、すべてのサービスがスマホファーストを目指すようになった。日本では専用スマホアプリがないネットサービスも多いが、中国ではまずスマホアプリが第一だ。その結果としてスマートフォンの利便性は他国にないほどのレベルに達している。 モバイルインターネット活用のハード的インフラがスマートフォンならば、モバイル決済はソフト的インフラである。モバイル決済を利用することで、さまざまなサービスを平易に利用することができるわけだ。 各種アプリを利用するたびに信頼できる会社なのかと不安に思いながらクレジットカード番号を打ち込む日本とは手間が違う。モバイル決済は便利なスマホ利用の入り口だ。これが「日本と比べて何が便利なのか?」との問いの回答となる。 モバイルインターネットで便利になったジャンルは無数にあるが、我々外国人旅行者にとってもっとも印象的なのは鉄道切符の購入ではないか。かつては鉄道切符を買うのにも半日がかりだった中国だが、今では数分間、スマホを操作するだけで予約から決済まで終了してしまう。さらに先日から駅弁のスマホ予約も始まるなど、サービスは充実する一方だ。 中国ではなぜパソコンの時代をスキップして、モバイルインターネットの時代が到来したのか。 リープフロッグ(カエル跳び)という言葉がある。アフリカで固定電話が普及する前に携帯電話が普及したという事例が代表的だが、先進国の技術導入ステップと比較して一足飛びに新たな技術が導入される現象を意味する。中国においてはパソコン=インターネット時代が成熟する前にスマートフォン=モバイルインターネット時代が到来したというわけだ。杭州地下鉄の切符販売機 ちなみに中国のモバイル決済(携帯電話端末を用いた決済)利用者数は5億185万人。13億7900万人の国民のうち、38%が使っている計算となる(2017年6月時点、『CNNIC報告書』を参照)。日本や米国など先進国をはるかに上回っているが、ケニアでは全国民の70%超とさらに高い数字を示している(報告書『2017智慧生活指数報告』を参照)。 中国国内でもむしろ経済的に遅れた地域のほうがモバイルインターネットの成長率が高いという。 「中国でもモバイル決済の成長率が最も高いのはチベットです。パソコンの普及率がきわめて低かったので。スマートフォンならば様々な価格帯がありますし、すべてのサービスが集中するようになって利便性は大きく高まっています。中国のモバイル決済は現金を使わなくなったという意味ではなく、日常生活に伴うすべてがスマートフォンに集中することで、生活が便利になる、日常生活に伴うコストが下がることを意味しています」と楊さんは言う。中国でモバイル決済が普及した背景 モバイルインターネットの入り口として普及したモバイル決済だが、2014年からオフラインでの利用、すなわち店舗での決済が始まった。それからわずか3年で大都市では現金を持ち歩かなくとも生活できるレベルにまで普及している。 この爆発的な普及の背景について、楊さんは次のように説明する。 「中国の若者は新しいサービスを受け入れる能力がきわめて高かったのです。オフラインでのモバイル決済はちょうどスマートフォンの普及と同じタイミングだったので取り入れやすかったという側面もあります。中国だけではなく、インドもスマートフォンの普及期にQR決済が普及したので、爆発的な成長を見せました。アントフィナンシャルが提携するPaytmはすでに500万の加盟店を擁しています。一方で先進国ほど新しいQR決済の受け入れは難しいというのが実感です」 上述のリープフロッグ現象に加えタイミングがよかったとの分析だが、私見を付け加えるならば、莫大なマーケティング費用が投下されたことも大きい。「アリペイ払いで代金をキャッシュバック」といったキャンペーンが大々的に展開されたのだ。今年8月1日から8日まで行われた「無現金週間」のキャンペーンでは、毎日88万人に抽選で純金がプレゼントされた。 また決済手数料の安さも拡大の要因だ。代理店経由の契約では業種ごとに違うものの平均で0.6%未満だ。小店舗や屋台などで使われるユーザースキャン型では、決済手数料は無料である。(銀行口座振り込み時に0.1%の手数料)。 上述したとおり、日本では「中国は偽札が多いからモバイル決済が流行った」との説が広がっているようだ。偽札リスクがないのはもちろんメリットだが、それ以上に利便性の高さが普及を牽引したことをおわかりいただけただろうか。 ここまでモバイルインターネット、モバイル決済がなぜ爆発的に普及したのか、利用者にはどのような利便性があるのかを見てきた。では運営会社にとっては莫大なマーケティング費用を投じた価値はどこにあるのだろうか。杭州市のレストランにある音声式アリペイ決済機能を備えたレジ その答えは『ビッグデータ」にある。もはやバズワードとして聞き飽きた感のあるビッグデータだが、中国IT業界ではスマートフォンを通じて収集された大量のデータによって次々と革新的サービスが生み出されつつある。次回はその実情をリポートする。(※写真はすべて筆者撮影)たかぐち・こうた ライター・翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ライター、翻訳者として活動。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか 人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

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    タンス預金が増加、盗難リスクにはどう備えるべきなのか

     各種統計により「自宅に置かれる現金」の急増が明らかになってきた。第一生命経済研究所の推計によると、総額約43兆円にのぼるという。それに伴い、金庫も昨今よく売れているという。ただし、自宅に大金を置くことにはリスクもある。盗難リスクにはどう備えるべきなのか。安全生活アドバイザーの佐伯幸子氏はこういう。「現金や貴重品を入れる金庫は常時カギをかけるのが当たり前ですが、家そのものについても同じ発想をしてほしい。たとえば風呂場の窓は格子があるから大丈夫だろう、と換気のために開け放す家が少なくありませんが、格子のビスを外せば簡単に入られてしまいます。侵入を許すような住まいでは頑丈な金庫も意味は半減します」 佐伯氏は金庫の隠し場所を一生懸命考えることよりも、自宅の施錠を徹底することを優先すべきだと強調する。さらに「情報を漏らさない」ことも重要だと付け加える。「2009年に東京都板橋区で資産家の夫婦が自宅で強盗に遭い、放火・殺害されるという事件が起きました。地元で有名な資産家だったといいます。“あの家には多額のお金がある”という情報、噂が広がることが一番のリスクです。 たとえば近所のファミレスやコーヒーショップなどで何気なく世間話をする中で、『金利が低いから、全部家に置いてあるのよ』などと話すのは御法度。たとえ周りにいる人が信頼できる人でも、情報がどこをどう巡って悪意のある人にたどり着くかはわかりません。現金を家にどのくらい置いてあるかは、外では絶対に口にしないことです」 災害リスクもある。地震や水害、火災などに遭った際、家に置いていた現金はどうなるのか。金庫メーカー大手の日本アイ・エス・ケイの広報担当者はこういう。「お客様が耐火金庫を求める理由の一つとして、東日本大震災があります。当時、津波で流されてしまった耐火金庫5700個が持ち主の手元に返ってきて、戻ってきた金額は総計22億円にのぼったという報道がありました」(iStock) それらのケースでは、現金以外に通帳や印鑑などが中に入っていたため、持ち主の特定につながったという。 まとまったお金は銀行に預けるのが当たり前──そんな常識は壊れつつある。政府も銀行も信用せず、「自分のお金は自分で守る」という決意を持った国民は、確実に増えている。関連記事■ ゼロ金利で注目 正しい「タンス預金」の方法■ 「タンス預金用」に売れる金庫 本当に買う意味はあるのか■ 金庫バカ売れ 富裕層が定期預金を解約・減額しタンス預金に■ 富裕層のタンス預金増加、銀行に預けるデメリットとは?■ 上原さくら 別居中の夫が自室侵入したと判断し110番通報

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    「ウナギが食べられない」歴史的不漁より影響が大きい噂の経済効果

    田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授) ゴールデンウイークの始まりとともに、今年のシラスウナギの採捕期間が終わる。ニホンウナギの稚魚であるシラスウナギは、12月から翌年4月末までが漁期である。この期間中、シラスウナギの劇的な減少が話題になった。 昨年末、国内の養殖池で育てるために主要取引先の香港から輸入されたシラスウナギの量が、前年同時期の92%減となった。この歴史的な不漁が明らかになり、インターネット上でも「ウナギが食べられなくなる」「ウナギを食べるのをやめよう」といった発言が活発化した。 その後、3月に入って採捕量が増加し、シラスウナギを養殖池に放流する「池入れ」の量は回復していったようだ。それでも、報道によれば、平年の6割程度の池入れ状況だという。 シラスウナギの不漁の原因にはさまざまな理由があり、海流の変化、乱獲、環境の悪化などが挙げられている。だが、回復への決定打はないようで、わかっているのは、シラスウナギの採捕量が毎年減少傾向にあるということだけである。 ところで、「土用の丑(うし)の日」にウナギを食べるというのはいつから始まったのだろうか。記憶が曖昧でなければ、筆者の子供のころである昭和30年代から40年代は、あまり一般的な風習でもなければ、巷で広まってもいなかったように思える。バレンタインデーや恵方巻きがいつの間にか季節の風物詩になったのと同じように、業界の思惑が見え隠れしている。 いずれにせよ、通説では江戸時代後期に、平賀源内が夏の売り上げ不振に悩む鰻(うなぎ)屋のために、「土用の丑の日」にウナギを食べることを宣伝文句として考え出したといわれる。これも真偽については諸説あるようだ。ウナギの稚魚シラスウナギ(第11管区海上保安本部提供) ただ、PR戦術としては、かなりうまい工夫だと思う。最近でこそ、「今日は××の日」などと記念日が連日あるように、特定の財やサービスの消費を促す仕組みには困らない。それどころか、同じ日にいろいろな名目の記念日が並ぶことさえも珍しくない。 例えば、7月7日は、ラッキーナンバーの「7」が並ぶせいか、記念日の「猛ラッシュ」である。七夕はもちろん、国土交通省が便乗した「川の日」、ポニーテールの日、乾麺デー、サマーバレンタインデー、冷やし中華の日、カルピスの日、ゆかたの日、果てはギフトの日まで、軽く2桁に届いてしまう。「ウナギ好き」を後押しした相乗効果 多くは関連業界の販促目的であり、いわば「現代の平賀源内」が活躍した成果でもある。ちなみに筆者の誕生日の9月7日は、オーストラリアでは「絶滅危惧種の日」だそうだ。 このように「今日は××の日だから」××を食べよう、着よう、買おうと促されると、ついつい財布のひもが緩んだりする消費者も少なくないだろう。これを経済学では「フレーミング効果」と名付けている。フレームとは「参照される枠組み」ということであり、つまり、何かにかこつけることができる人は不合理な行動に出てしまうというものである。 例えば、フェイスブックに「友達」というカテゴリーがある。私もこの「友達」に何人ものユーザーを登録している。そしてフェイスブックでは「友達」だけが、自分の書いた投稿を閲覧できる、公開範囲の設定機能がついている。つまり、「友達」というフェイスブック内のフレームが、ユーザーに一種の安心感を与えているのである。そのため、「友達」向けに書く内容は、一般に公開される投稿よりもプライベートな情報が多くなりやすい。 でも、その「友達」が本当にプライベートな情報について他に漏らさないことを、フェイスブックはもちろんのこと、誰も保証してはくれない。そのため、重要な情報が「友達」の外に漏れてしまい、ネットで炎上するなど思わぬ損害を招く可能性がある。 このように、フレーミングには人に合理的な判断を不可能にさせる心理的な効果がある。もちろん「友達」のフレームを信じて、「友達」同士がより親しくなり、信頼関係を強化していく効果もある。フレーミングは、非合理性が人の不幸にも幸福にも貢献することを示しているともいえるだろう。 さて、「土用の丑の日」にウナギを食べるというフレーミング効果が、かなり発揮されていることに疑いはない。しかも、個々人がフレーミング効果の「とりこ」になっているだけではなく、相乗効果もある。台湾から空輸されたウナギ。漁獲量の減少から絶滅危惧種に指定された=2017年7月、成田空港 みんなが「土用の丑の日」でウナギを食べているので、私も便乗して食べよう、という判断も生じるからである。これを「バンドワゴン効果」という。バンドワゴンとは、カーニバルなど行列の先頭に登場する巨大な楽隊車を指す。つまり、みんながお祭り気分になる効果である。これもまた合理的ではなく、非合理的な消費態度だといえるだろう。 日本人は20世紀まで世界のウナギ消費量の3分の2を占めていた。まさに平賀源内のフレーミング効果と、バンドワゴン効果の「合わせ技」がフル回転していたわけである。その消費量は15万トンに及んでいた。ところが、21世紀に入ると、日本の消費量は急減してしまう。2012年には3万7千トンにまで落ち込んでいる。21世紀中に、世界全体のウナギ消費量が中国などの需要増の影響で微増しているにも関わらずである。 他方で、ウナギが、国際自然保護連合から絶滅危惧種の指定を受けたことも記憶に新しいだろう。絶滅危惧種の指定自体は、ウナギの消費動向や捕獲に関する罰則付き規定の導入に直ちに結び付いているわけではない。ただ一部の論者の中には、この絶滅危惧を重大視し、水産庁の対応不足などを指摘している。つまり、規制を強化すべきだと主張しているのである。「噂」の経済効果の影 研究者や企業も、ウナギの完全養殖や代替可能な食品の製造などに取り組んではいるが、まだまだ道半ばである。その意味では、絶滅危惧種指定を重大視すれば、この種の規制が重要になるかもしれない。では、21世紀に入ってからの日本のウナギ消費の急減は、この環境意識の芽生えが貢献しているのだろうか。 だが、答えはどうも違うようである。実は、日本における21世紀のウナギの消費量急減の背景には、中国産ウナギについての評価が影響を及ぼしているという指摘がある。一説によれば、中国産のウナギについて、一時期話題になった残留薬物問題や産地偽装問題がいまだに尾を引いたために輸入が急減し、そのことがウナギの消費自体まで減少させたという。 もちろん明言しておくが、現在の中国産ウナギには厳格な管理・検査態勢が敷かれているので、不適当な食材として流通する可能性は皆無に等しいだろう。だが「噂」の経済効果はばかにはできない。これはフレーミング効果が反対に作用し、消費を減らす効果を持ったといってもいいだろう。 要するに、「中国産」というフレーミングの、消費に対するマイナス効果が、「土用の丑の日」というフレーミングのプラス効果をかなり打ち消してしまったのだろう。さらに、多数の人間がそのような嗜好(しこう)に変わってしまったことで、バンドワゴン効果も消費を減らすことに大きく貢献しまったのである。 中国産ウナギの安全性が保証されても、マイナスのフレーミングとバンドワゴン効果を打ち消すことがなかなかできない。人間の非合理性のやっかいなところでもある。 それでは、日本産ウナギの方はどうだろうか。これについてはそもそもの捕獲量の減少も加えて、21世紀になって高価格帯を推移している。冒頭にも書いたように、今年は例年にない高値になりそうだ。 今までのウナギのかば焼きの価格推移をみると、中国産ウナギの消費が好調であった90年代は、1匹当たり500円台から600円台で推移していた。それが21世紀に入った現在は、日本産ウナギの価格が急上昇し、1000円台になっている。ウナギのかば焼き この価格上昇が、日本のウナギ消費量を抑制する一因にもなっているだろう。ただし、消費抑制の一方で、ウナギの供給者にとっては、完全養殖ウナギの開発や、ウナギに近い触感や味わいを持つ食材の開発を刺激する効果も持つかもしれない。これは消費者にとって供給を増加させるから好ましい動きともいえる。 実は、筆者もウナギが大好物である。だから、絶滅の危険がさらに高まって、消費そのものが禁止されてしまうと非常に困る。ウナギの未来は、複雑な経済の動きにかかっているのである。