「女帝」アーモンドアイを侮るな

「女帝」アーモンドアイを侮るな

「即位礼正殿の儀」の直後の開催で、例年以上に注目を集める天皇賞・秋。皇室と競馬の関わりは長く、天皇賞の前身である「エンペラーズカップ」は明治38年に始まった。史上最多となるGI馬10頭が出走するが、主役は他でもない、世界にその名を知らしめ、まさに「女帝」の称号がふさわしい最強牝馬、アーモンドアイだ。

「即位礼正殿の儀」の直後の開催で、例年以上に注目を集める天皇賞・秋。皇室と競馬の関わりは長く、天皇賞の前身である「エンペラーズカップ」は明治38年に始まった。史上最多となるGI馬10頭が出走するが、主役は他でもない、世界にその名を知らしめ、まさに「女帝」の称号がふさわしい最強牝馬、アーモンドアイだ。

「新種」の走り

衝撃に彩られた歴史

アーモンドアイが最強である理由

まさに「才色兼備」

 担当者に手綱をひかれながら、とろんとした寝ぼけ眼(まなこ)でのんびりと厩舎内を歩く一頭の馬。朝の調教を終え、トレードマークのシャドーロール(下方の視界を遮る馬具)とメンコ(覆面)を外したアーモンドアイ(4歳牝馬)は、まるで別の馬のようだった。国枝栄調教師から「オンとオフの切り替えがしっかりしている」という話は聞いていたが、その変貌ぶりに驚かされた。
 およそ2週間後に天皇賞(GI)を控えた今月中旬、調教を取材したが、ジョッキーを背に「ルンルン」という鼻歌が聞こえてきそうなほど、無駄な力を使わないリズミカルな軽速歩やキャンター(駈歩)を見せ、2頭の馬をコースで追走する調教では、スッとクールに他馬を追い越していく姿がとても印象的だった。
アーモンドアイと担当の根岸真彦調教助手(本江希望撮影)
アーモンドアイと担当の根岸真彦調教助手(本江希望撮影)
 武術をはじめ、さまざまなスポーツにおいて、力を抜くことが大切とされる。アーモンドアイは、それを知っているのかもしれない。そして、何よりも彼女がリラックスできる環境が整っているという証拠だろう。厩舎内ではスタッフの明るい話声が聞こえ、馬房にいるアーモンドアイもまるで会話の輪に入りたそうな表情で顔を出し、キラキラした目で周囲を眺めたり、もくもくと食事をしたりしている。
 例えば、人間関係などで厩舎内がギスギスしていたら、馬にも伝わってしまうのだろうか。
 「厩舎内の雰囲気は馬に伝わりますよ。危険を察知するというか、そうでないと生きていけないですからね。馬が快適に、前向きになってもらうことを考えると、まずそこにいる状況、人間が気分よくいないといけない」と、国枝調教師が教えてくれた。
 フランスで開催された凱旋門賞で史上初の3連覇を狙うも、2着に敗れた英国の最強牝馬エネイブルが引退を撤回し、現役続行することが10月15日に発表された。アーモンドアイの凱旋門賞出走回避により、幻になったかと思われたエネイブルとアーモンドアイの対決の可能性が再び浮上したのだ。それが実現すれば、世界中が注目するだろう。ただ、その対決の場がどこなのか、となると頭を悩ませることになる。
 欧州で使われている「洋芝」は密度が濃く、力が必要となるためスピードが出にくく、雨で重馬場になると、さらにタフさが必要となる。一方、日本の競馬場の芝は、古来から自生していたとされる「野芝」が主に使われており、さらに管理も徹底され、スピードが出やすいという。最近、日本のレースでレコードタイムの更新が相次いでおり、「高速馬場」という言葉を聞くことが多くなった。
 「馬を出す側であるわれわれや、馬主からすれば、これだけ速い数字が出てしまうと、やはり心配になりますね。個人的に思うのは、例えば、車で言えば、60キロで走っているのと、100キロで走るのとでは、タイヤや、いろんな部分でダメージを受けますよね」と国枝調教師も不安を口にする。
 毎年11月に行われるジャパンカップは国際招待競走だが、昨年は海外から2頭しか出走しなかった。10月6日に行われた凱旋門賞は昨年のジャパンカップより10秒以上、タイムが遅い。日本の高速馬場に対応するために生産・育成された日本馬が凱旋門賞で勝つのが難しいのと同様に、エネイブルがいくら強くても、日本の馬場に対応できるかどうかは未知数だ。こうした世界とのギャップが日本競馬の「ガラパゴス化」を招いている。
 1999年、1着と半馬身差で凱旋門賞制覇に最も近づいたエルコンドルパサーは「欧州仕様の馬」になるために、半年間もの長期遠征を敢行した。日本中央競馬会(JRA)が発表したJPNサラブレッドランキング(2019年1月1日~10月6日)を見ると、アーモンドアイをはじめ、18頭中11頭が一口馬主の馬だった。アーモンドアイの一口馬主で、ハッピーグリンの個人馬主でもある会田裕一氏は、「勝つためにはやはり長期滞在を行うのが理想ですが、一口馬主は金融商品でもあるので、長期滞在は難しいかもしれません。どこかフェアな場所でエネイブルとアーモンドアイが対決できたらうれしいですね」と期待を寄せた。現に、国際招待競走が行われているアーモンドアイが出走したドバイのほか、香港の競馬場は欧州より軽めの馬場であり、これまで多数の日本馬が出走している。
 そして10月27日に開催される令和元年の記念すべき天皇賞には、史上最多となる10頭のGI馬が出走する。先に日本のガラパゴス化の課題に触れたが、今回の天皇賞はスピードを追い求め、独自の進化を遂げてきた日本競馬の神髄を楽しめるレースとも言える。並みいる強豪の中でアーモンドアイがどのような走りを見せるのか。胸が高まる。(iRONNA編集部、本江希望)

「男勝り」はもう古い?

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