「一国二制度」台湾は逃れられるか
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「一国二制度」台湾は逃れられるか

先の台湾総統選は、中国との対決姿勢を訴えた現職の蔡英文氏が圧勝した。香港やマカオに続き「一国二制度」による台湾統一を狙う中国にどう立ち向かうのか、蔡総統は難しいかじ取りを迫られている。一方、軍事的脅威や経済的影響は他人事ではない日本も、中国にどう対峙すべきなのか。(写真は共同)

先の台湾総統選は、中国との対決姿勢を訴えた現職の蔡英文氏が圧勝した。香港やマカオに続き「一国二制度」による台湾統一を狙う中国にどう立ち向かうのか、蔡総統は難しいかじ取りを迫られている。一方、軍事的脅威や経済的影響は他人事ではない日本も、中国にどう対峙すべきなのか。(写真は共同)

踏んではならぬ香港の轍

「前提」を見逃すな

国際政治の非常識

独立か統一か、複雑な思い

 台湾総統選投票日の2日前、私は高雄市にある市立歴史博物館を訪れた。日本統治時代に高雄市役所庁舎として建てられ、終戦後の1947年に起きた中国国民党政府による弾圧事件「2・28事件」の現場の一つでもある。台湾海峡に注ぐ愛河のほとりに立つ庁舎は、清水組(現在の清水建設)によって施工された和洋折衷の近代建築で、大理石の大階段や装飾など随所に見られる重厚さと精巧さもさることながら、台湾の人々の手によって大切に保存されていることにも心動かされる。2階にある展示室では、2・28事件に関する解説とともに、この場所で起きた凄惨(せいさん)な虐殺の様子がジオラマで再現されていた。
 2・28事件は、役人が闇タバコを売る女性に暴行を働いたことをきっかけに、中国大陸から来た国民党政府の官民による汚職や腐敗、経済破綻などに不満を持つ市民による抗議行動に発展し、政府軍による市民への大量虐殺が行われた。日本統治時代に高等教育を受けたエリート層に対する粛清も行われ、犠牲者の総数は2万人以上とされる。49年に公布された戒厳令は38年続き、その間、事件は封殺されたが、民主化が進んだ92年に政府による事件報告書が公表された。この事件が台湾人のアイデンティティーを構築する契機になったとの見方も多い。
 多民族国家であり、さまざまな先住民族が暮らしていた台湾は、オランダ東インド会社、鄭成功、清朝、日本、国民党による統治を経て、90年に台湾出身の国民党議員、李登輝氏が総統に就任し、民主主義政治が推し進められた。こうした歴史を経て1月11日に行われた15回目となる総統選は国内外で大きな注目を集め、投票率は前回の66%を上回る74・9%となった。その要因に、中国が強める覇権主義と「一国二制度」の矛盾に揺れる香港での大規模デモがあるのは言うまでもない。
民進党の集会で台湾独立の旗を掲げる若者=2020年1月10日、台北
民進党の集会で台湾独立の旗を掲げる若者=2020年1月10日、台北
 総統選は与党民進党の蔡英文総統と最大野党である国民党の韓国瑜高雄市長の事実上の一騎打ちとなり、蔡総統が過去最多の817万票を獲得して圧勝した。民進党は党の綱領に「独立」を掲げており、蔡総統は「一国二制度」による台湾統一を拒否する姿勢を示していた。韓氏も同様に「一国二制度」に否定的な主張をしていたが、「親中派」のイメージを払拭することはできなかったようだ。
 では、両者の勝敗を分けた背景に何があったのか。投票日前日、台湾市民を取材して感じたのは「世代間ギャップ」だ。国民党の集会会場にいた親子に話を聞くと、父が国民党支持、高校3年の娘は民進党支持、そして母親が中立派だという。娘は「国民党は蔡総統が進める同性婚の合法化に反対するなど、若者の考えとの食い違いを感じる。香港でデモが続いているように、中国が求める『一国二制度』は信用できず、選挙権はないけれど、中国に対して毅然(きぜん)とした姿勢をとる民進党を支持したい」と語った。一方、父親は娘の主張に首を傾げるしぐさを見せつつも「オープンマインドが大事。自分の考えを持つことは重要だ」と娘の肩をたたき、目を細めた。この後は共に民進党の集会に向かった。
 民進党の集会で出会った民進党支持者の40代男性も、父親が国民党の熱心な支持者だという。「父は日本統治時代に日本の教育を受けた世代。私は米国での留学経験もあり、仕事の関係でもさまざまな国を訪れたことから、台湾人としてのアイデンティティーを考えるようになった。中国もよく訪れるが、人への接し方など台湾人とは全然違う。台湾よりインフラ整備が進み、豊かな国はたくさんあるが、私にとって台湾が一番の国だ。自分たちの利益のために、台湾人に分断をもたらすことは許されない」と目を潤ませた。
 民進党の集会では、香港から来ていた男性(40)の姿もあった。「これ以上、若者が血を流すことがあってはならない。中国に操られてしまうような政党が政権を握れば、台湾の若者だって、どうなってしまうか分からない」と語気を強めた。昨年、私も香港を訪れ、7月1日の香港返還記念日に行われたデモを取材していただけに、この男性の思いは理解できる気がした。あらゆる年齢層の55万人が参加したデモ行進は、炎天下で倒れる人もいる中、助け合いながら進む市民の姿が印象的だった。ただ、その日の夜、立法会(議会)前に集まった若者たちは殺気立っていた。ヘルメットをかぶり、暴徒化した彼らは、昼間のデモとも、2015年の夏に国会前で見た安保法制の廃案を求めた日本のデモとも全く違う。現状を打破する方法は暴力的な「革命」しかないのか。これほどまでに若者を追い立てる中国の脅威を知る日本人は少ないだろう。
 香港から台湾に移住した「銅鑼湾書店」店主の林栄基氏によると、香港デモで指名手配された若者が多数、台湾に来ているという。「国民党は香港デモ参加者の受け入れを問題視していました。彼らが政権をとった場合、香港の若者がどうなるか分かりますか。香港への強制送還だけでなく、中国に連行される可能性もあるのです」と聞き、衝撃を受けた。それだけに蔡総統勝利の報に触れた際、すぐに林氏の話を思い出し、胸をなでおろした。
 総統選は、中国との対決姿勢を鮮明にする蔡総統の圧勝に終わり、多くの台湾の人々が安堵の表情を見せた。しかし、中国による「統一」か「独立」かという、その問いに答えるのは簡単ではないようだ。対中政策を主管する台湾の大陸委員会は昨年10月、中国が主張する一国二制度による台湾統一について「賛成しない」が89・3%に上ったとの調査結果を発表したが、その内訳を見ると、台湾人の複雑な思いが読み取れる。

「現状を維持しながら、独立か統一かを決める」31%
「現状を永遠に維持する」25・8%
「現状を維持しながら独立をめざす」21・7%
「現状を維持しながら統一をめざす」8・9% 
「できるだけ早く独立」6%
「できるだけ早く統一」1・4%


 このように早急な独立に不安を抱く台湾人は少なくないのが現状だ。そして、蔡総統は14日に英BBCのインタビューで「台湾はすでに独立国家だ」と宣言し、独立主権国家だと宣言する必要性はないとしている。当然だが、この発言を受け、中国政府は「世界には一つの中国しか存在しない」といつもの主張を繰り返した。北京出身のジャーナリスト、王進忠氏は、中国が「一つの中国」にこだわる理由について「中国にとって台湾(中華民国)との戦争はまだ終わっていない。共産党の軍隊がいまだに人民解放軍と称しているのは、まだ台湾の解放(武力統一)が終わっていないからだ」と語る。王氏によると、中国は3隻目の空母を建造しており、尖閣周辺に配備された場合、台湾だけでなく、日本にとっても大きな脅威になると警戒する。
 一方で、中国は台湾の学生向けに大学の一部試験の免除や奨学金を用意。上海で働く台湾の若者のために公営賃貸住宅を用意するなど、台湾の若者を取り込むためのさまざまな施策も行っている。ほかにも、台湾メディアの買収や台湾に浸透する中国仏教による交流など、さまざまな分野で台湾への影響力を強めようとしているのも確かだ。こうした台湾が直面する中国の脅威や影響力は、今後の日本にとっても他人事ではない。だからこそ、長く友好関係を築いてきた日本と台湾、その他の友好国と連携し、中国に対峙していくことが求められるのではないだろうか。(文と写真、iRONNA編集部・本江希望)

大勝利「三つの伏線」

大陸からの見えない戦争

脅かされる人々の自由

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