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私の作品ってワイセツですか?
自分の女性器をモチーフにした作品をつくってきた漫画家、ろくでなし子さん。昨年7月の逮捕を機に、刑法175条の「わいせつ」の定義をめぐる議論に注目が集まった。女性器アートは「わいせつ」なのか。東京地裁で彼女の初公判が行われた4月15日、この問題をいま一度考えたい。
自分の女性器をモチーフにした作品をつくってきた漫画家、ろくでなし子さん。昨年7月の逮捕を機に、刑法175条の「わいせつ」の定義をめぐる議論に注目が集まった。女性器アートは「わいせつ」なのか。東京地裁で彼女の初公判が行われた4月15日、この問題をいま一度考えたい。
注目の初公判
起訴状によると、五十嵐被告は平成25年10月と昨年3月、自分の性器と同じ形のものを3Dプリンターで作れるデータをインターネットを介して配ったほか、昨年7月に都内のアダルトショップで女性器をかたどった作品を展示したなどとされる。
五十嵐被告は昨年7月の逮捕後、いったん釈放されたが、同12月に再び逮捕、起訴された。共に逮捕されたアダルトショップ経営の作家、北原みのり(本名渡辺みのり)さん(44)は罰金30万円の略式命令を受けた。(産経新聞 2015年4月15日)
■「ろくでなし子」さん初公判「女性器から卑猥なイメージを払拭したい」(意見陳述全文)(弁護士ドットコム 2015年4月15日)
■江川紹子寄稿(前編)あの作品は「性欲を興奮せしめ…」るのか(日経ウーマンオンライン 2015年1月15日)
■「ろくでなし子」さん初公判「女性器から卑猥なイメージを払拭したい」(意見陳述全文)(弁護士ドットコム 2015年4月15日)
■江川紹子寄稿(前編)あの作品は「性欲を興奮せしめ…」るのか(日経ウーマンオンライン 2015年1月15日)
■象徴としてのわいせつ——ろくでなし子と赤瀬川原平(ART iT 2014年12月22日)
わいせつとは何か
刑法第175条 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。
わいせつな文書や図画、映像などの頒布や販売を取り締まる刑法175条。表現の自由の保障を規定した憲法第21条第1項の「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」を引き合いに出し、違憲とする意見もあり、わいせつをめぐる過去の裁判でも繰り返し論点となっている。また、そもそも何がわいせつで、わいせつでないのかという判断基準があいまいであり、その時々の社会状況によっても左右される。

「チャタレイ夫人の
恋人」 翻訳者の伊藤整 わいせつをめぐる裁判で有名なのが「チャタレイ事件」。イギリスの作家D・H・ローレンスの『チャタレイ夫人の恋人』を翻訳した作家・伊藤整と、版元の小山書店社長に対して刑法第175条のわいせつ物頒布罪が問われ、1957年に有罪判決が出た。最高裁では「わいせつとは徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう」と定義した上でわいせつにあたるかどうかは、社会通念に基づいて判断し、その社会通念がいかなるものかは裁判官が判断するとし、さらに「わいせつの三要素」として下記を提示。後の裁判にも影響を与えた。

恋人」 翻訳者の伊藤整
1、性欲を興奮または刺激させる
2、性的羞恥心を侵害する
3、善良な性的道義観念に反する
■「わいせつ」とは何か? 参考にすべき3つの最高裁判例(弁護士ドットコム 2014年8月17日)
■「わいせつ」とは何か? 参考にすべき3つの最高裁判例(弁護士ドットコム 2014年8月17日)
覚悟と信念
裁判日記、5月スタート

自身の創作活動を支援してくれた人に、自分の女性器の立体的データをメールで提供したなどとして、わいせつ電磁的記録頒布の罪などに問われた公判は、「わいせつ」の定義を考える議論のきっかけにもなっています。
わが国の社会通念に対する「挑戦」ともいえる彼女の公判を通して、「わいせつ」とは何かを考えてもらえればと思います。(iRONNA編集部)