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北朝鮮グアム攻撃「8月危機」の現実味
北朝鮮の最高指導者、金正恩が米領グアムへのミサイル発射計画を突如ぶち上げ、米朝間の緊張が再び高まっている。米韓合同軍事演習を念頭に置いた威嚇との見方が支配的だが、強硬姿勢を貫くトランプ米大統領との駆け引きは続く。朝鮮半島有事は起こり得るのか。「8月危機」の現実味やいかに。
北朝鮮の最高指導者、金正恩が米領グアムへのミサイル発射計画を突如ぶち上げ、米朝間の緊張が再び高まっている。米韓合同軍事演習を念頭に置いた威嚇との見方が支配的だが、強硬姿勢を貫くトランプ米大統領との駆け引きは続く。朝鮮半島有事は起こり得るのか。「8月危機」の現実味やいかに。
対話路線は期待薄
8月15日で終戦から72年となったが、北朝鮮の核・ミサイル開発など緊張が高まるなかで、国民や国土を守るために、どのような政策が必要だろうか。
国際政治学では、平和達成について(1)同盟と(2)軍事力から説明する「リアリズム」の立場と、(3)民主化(4)経済依存度(5)国際機関加入から説明する「リベラリズム」がある。
以前の本コラムでは「リアリズム」も「リベラリズム」もともに正しく、これら5つは、いずれも平和への貢献が大きいことが定量的に知られていることを紹介した。なお、(3)民主化(4)経済依存度(5)国際機関加入の3点は、哲学者カントが唱えていたことから、「カントの三角形」といわれている。
相手が北朝鮮の場合、こうした国際政治学の理論を使うと、できることが限られることが分かる。リアリズムの立場から、日米同盟や一定の自衛力は不可欠だ。一方、リベラリズムの立場では、北朝鮮が民主化することや国際機関に積極的に参加することは現状では考えられないので、平和構築は至難の業になる。北朝鮮と経済依存度を高めることも、今の国際情勢では不可能である。
ということは、北朝鮮との平和を築こうとする場合、リアリズムの日米同盟や一定の自衛力のもとで、リベラリズムのアプローチにより北朝鮮の民主化を促し、まずは国際社会に参加させるような国際会議への出席を目指し、段階的に北朝鮮に課している経済制裁を解除していくという方法がありうる。
そのための方策としては、2003~07年に開催された米国、韓国、北朝鮮、中国、ロシア、日本の6者協議があったが、結果として平和的な話し合いは失敗した。その失敗と前後して、北朝鮮は核・ミサイル開発を進め、12年に金正恩(キム・ジョンウン)体制になってから、一層加速している。それに対して国連の非難も累次に及んでいる。この展開はフセイン政権下のイラクと似ている。イラク問題は平和裏に解決されず、結局、多国籍軍の軍事行動によって政権が壊滅した。

現在、北朝鮮は、グアムの名前を明示して、ミサイル攻撃を示唆した。これに対して、トランプ米大統領も攻撃の可能性を否定せず、これまでない言葉で非難している。北朝鮮と米国の間にはホットラインもない。米ソのホットラインは、キューバ危機以降に設けられたが、今はそれ以前の状態だ。この意味で、偶発的な武力衝突の可能性も残念ながら否定できない状況だ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一 zakzak 2017.08.16)