大川村はニッポンの縮図ではない
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大川村はニッポンの縮図ではない

年末年始を故郷で過ごす人も多いだろう。2017年もまた人口減、超高齢社会、地方消滅といったキーワードが躍ったが、中でも人口全国最小400人の高知県大川村が「村民総会」を検討したというニュースに衝撃が広がった。ニッポンはこのまま縮小するしかないのか。年の瀬だからこそ、過疎自治体の在り方を考えたい。

年末年始を故郷で過ごす人も多いだろう。2017年もまた人口減、超高齢社会、地方消滅といったキーワードが躍ったが、中でも人口全国最小400人の高知県大川村が「村民総会」を検討したというニュースに衝撃が広がった。ニッポンはこのまま縮小するしかないのか。年の瀬だからこそ、過疎自治体の在り方を考えたい。

変革は辺境の地から

「必要悪」になっていないか

輸入物の「議会制」はガタがきた

「市町村は永続的」は幻想

400人の村民を守りたい

大川村は「つくられた過疎」

 深緑の山あいに広がる水面に目を凝らすと、渇水で水位が下がった巨大ダムの底に沈む村役場庁舎が今にも見えてきそうだった。
 四国をほぼ縦断するJR土讃線大杉駅から車で約50分。今年6月、愛媛県との県境の山間部にある高知県大川村を訪れた。巨大ダムとは村の中心部につくられた早明浦(さめうら)ダムの一部だ。1977年、高知、愛媛両県境に西日本一の貯水量を誇るダムとして建設され、水底にはその際に水没した村役場の旧庁舎が眠っている。かつてこのダムの建設をめぐり、村を挙げた大規模な反対運動が行われたという。
旧大川村役場=2016年9月3日、提供写真
水位が低下した早明浦ダムに出現した旧大川村役場=2016年9月、提供写真
 「水没した旧庁舎は早明浦ダム建設が持ち上がった後に建てた鉄筋コンクリート3階建てで、当時の村民にとってはダム建設反対の砦だったんです。それがいまでは渇水のシンボルとして有名になってしまった。皮肉なものです」。和田知士村長はこう語り、自身が生まれ育った家も、このダムの下に沈んでいることを教えてくれた。
 「父はダム建設反対の急先鋒でした。交渉が妥結した後も私たち家族は最後まで残っていたのですが、下流域に堰ができたことで雨の水が溜まり始め、ついには家の前に水が迫ってきたんです。父と私は手ぶら。長女が炊飯器を、母は風呂敷を持って慌てて逃げました」。当時、周辺町村の387世帯の住宅をはじめ、役場や駐在所、農協、学校を含む、村の中心集落がダムの底に沈んだ。大川村には白滝鉱山があり、最盛期の人口は約4千人だったが、1972年に閉山。ダム建設による離村と相まって人口は4分の1になる。ダム本体(堰堤)が大川村にないため税収はなく、人口減で地方交付税も減少した。大川村にとってダム建設は何のメリットもなかったという。そして大川村の人口は現在約400人にまで減少した。離島や東日本大震災の被災地を除き、日本で最も人口が少ない村になった。今年5月、議員のなり手不足に悩む同村が議会を廃止し、村民が予算などの議案を審議する「村民議会」設置の検討を始めると報じられ、全国の注目を集めることになった。
 こうした事態について、議会議長の朝倉慧氏は大川村を「つくられた過疎」だと表現する。「早明浦ダムの補償金には遠隔補償があり、遠くに出て行くほど多くの補償金が出ました。早明浦ダムは、村から出て行ったもの、村に留まったもの両方に心の過疎をもたらした。一方で、どんなことがあっても村を守り抜くという強い決意を持ち続けられたのも事実です」
 ただ、大川村をめぐるこの騒動が高齢化や地方衰退などの象徴として報じられたことで、総務省が町村総会の研究会を設置した。これを受けて9月11日の村議会で検討作業の中止が正式に発表された。とはいえ、大川村議会の「危機」がなくなったわけではない。大川村の議員定数は6人だが、平均年齢が71歳に達し、今期限りの引退を希望する議員もいる。次回の村議選は2019年に行われるが、議員定数の6分の1を超える欠員があった場合、再選挙を行うことが公職選挙法で義務付けられており、行政の停滞が不安視されている。(iRONNA編集部 川畑希望)

大川村の「現実」

再生の「起爆剤」はあるか

大川村から始まる「改革」

 そもそも村議のなり手不足の要因は高齢化と人口減だけではない。大川村の議員報酬は県内の自治体で最も安い月15万5千円で、生活するのに十分な額とは言えないからだ。さらに、地方自治法による議員の兼業・兼職禁止規定により、公務員や教育委員だけでなく、村から仕事を請け負う第三セクター、森林組合の役員などと接触する可能性がある職業では立候補できない。逆に立候補可能な世代は100人程度にとどまるという。ふるさと村公社の職員として働く谷真吾さん(29)は「村議になりたいと思う気持ちはありません。一番の理由は15万円という議員報酬です。それだけで生活はできないし、片手間でできる仕事でもないですから」と話す。中学生当時、滋賀県大津市から大川村に山村留学したことがきっかけとなり、大川村で就職した谷さん。村民の温かさに魅力を感じ、この先も住み続けたいというが、村議になるつもりはない。
 では、一度は検討した「村民総会」に現実味はあるのだろうか。地方自治法94条に「議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる」との規定があり、1951年に東京・八丈小島の旧宇津木村で前例があるが、同村の有権者はわずか30人だった。大川村の有権者は約350人。従来のルールでは有権者の半数以上の出席が必要となるため、高齢者を含めた住民が一同に集まり、意見をまとめることができるのか、課題は多い。
 ゆえに村議会を存続させる制度づくりを検討する動きがある。高知県の尾﨑正直知事はiRONNAの取材に対し、議会存続の必要性を強調した上で、「議員の兼職兼業規定や夜間休日の議会開会など制度面の課題についても議論を深めていきたい。その中で改正が必要な内容が出てくれば、国にも提言していきたい」と回答した。実際、高知県と大川村は12月、議員のなり手不足の要因となっている地方自治法に定められた議員の兼業規則の見直しなどを国に提言した。
集落支援センターで働く和田将之さん。ショップや食堂運営、学校の給食、イベントなどに関わっている=2017年6月19日、高知県大川村
群馬県から移住した和田将之さん。現在は集落支援センターでショップや食堂運営、学校給食、イベントなどに関わる=2017年6月19日、大川村
 一方、大川村も現状に甘んじているわけではない。大川村は離島や被災地を除けば日本一人口が少ないが、国や県のバックアップを受けた若者の移住促進政策も実を結び、最新の国勢調査では15歳未満の人口比率が増加し、人口減少を食い止めている。また、今年8月には総工費4億円をかけた特産地鶏の処理・加工施設を開設するなど産業振興にも力を入れている。ただ、人口減少や過疎化による議員のなり手不足は大川村だけが抱える問題ではない。今年だけでも、北海道では、中札内村、占冠村それぞれの村議補選で立候補者がゼロとなるなど、同様の「危機」は各地に広がっている。
 鉱山の閉山とダム建設という2つの危機を乗り越えた大川村。取材を通じて感じたのは、村民の「村を守る」という強い意思だ。だが、その一方で押し寄せる現実がある。今年は奇しくも地方自治法の施行から70年の節目だ。今回、議会廃止の危機が大川村から発信され、改革が始められようとしていることに大きな意味を感じる。待ったなしの少子高齢化と過疎。差し迫った問題として打開策を見い出すことができるか、そこに日本の未来がかかっている。(文と写真、iRONNA編集部 川畑希望)
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