「現代の始皇帝」習近平の野望
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「現代の始皇帝」習近平の野望

中国の春秋戦国時代、秦王政が史上初の中華全土を成し遂げたのは紀元前221年のことである。それから2千年余り。現在の最高指導者、習近平氏が国家主席の任期制限を撤廃する憲法改正案をぶち上げた。「終身独裁」の始まりである。なぜ強権化を急ぐのか。「現代の始皇帝」習近平の野望を読み解く。

中国の春秋戦国時代、秦王政が史上初の中華全土を成し遂げたのは紀元前221年のことである。それから2千年余り。現在の最高指導者、習近平氏が国家主席の任期制限を撤廃する憲法改正案をぶち上げた。「終身独裁」の始まりである。なぜ強権化を急ぐのか。「現代の始皇帝」習近平の野望を読み解く。

「遺産」を受け継ぐ使命

世界から総スカン

政府批判も「今は昔」

一枚岩ではないアメリカ

現実化する「父の憂慮」

 毛沢東はカリスマ的支配の重要性を認識していた。弱小の紅軍を率いて、国民党軍の掃討から逃亡しようとして南国江西省を発(た)ち、北部・延安を目指した途中に、彼は神話を次から次へと創りあげた。「毛は不死身だ」「毛は救世主だ」といった伝説を広げながら一路、北上した。延安に落ち着いたときには、不名誉な逃避行も「長征」や「北上抗日」との美談に作り替えた。
 ほとんど字も読めない大衆を相手に、自らの権威を確立しようとした毛は、歴代皇帝と同じように民謡を利用した。陝西省北部の民謡に革命的な歌詞を吹き込んだ『東方紅』である。
 「東方は紅色に染まって太陽が昇る。中国には毛沢東という男が現れた。彼こそ人民のために幸せをもたらし、彼こそが人民の救いの星だ」
 毛の宣伝はライバルの蒋介石を遥(はる)かに凌(しの)いだ。日本にも留学した経験を持つ蒋は『中国の命運』という著作をしたためて国民の団結を呼びかけたが、ごく一部の秀才階層の範囲内でしか読まれなかった。毛の方が最終的に勝ち、北京入城を果たして権力を掌握した。
 共産党の神話作りに協力したのはアメリカのジャーナリスト、エドガー・スノーだ。毛自身の加筆と検閲を経て出版した『中国の赤い星』は世界中にユートピアのような共産党のイメージを伝えた。最も深刻な「中毒症状」に陥ったのは日本の中国観察者たちだ。毛の強力な“家臣団”は建国後もカリスマ性の維持を怠らなかった。「毛主席の一言は他人の1万句よりも威力がある」「毛沢東思想はマルクス・レーニン主義の頂上だ」と宣伝を繰り返した。
天安門に掲げられる故毛沢東主席の肖像画前
に立つ衛兵。=2010年10月1日、
中国(長谷川周人撮影)
天安門に掲げられる故毛沢東主席の肖像画前
に立つ衛兵。=2010年10月1日、
中国(長谷川周人撮影)
 毛沢東が死去しても、カリスマ的統治にすがろうとする中国流の政治は衰えない。昨年秋に開催された中国共産党大会の期間中に現れた歌は、次のように習近平氏を称賛している。
 「至るところにあなたの声が聞こえ、全国はあなたの光芒(こうぼう)に照らされている。…習大大(シーターター)(=習近平)は世界人民に愛されている。習大大は正義感にあふれ、虎と蠅(はえ)を共に撲滅している」
 歌の旋律と歌詞は『東方紅』を猿まねしている。北京だけでなく、貧しい農村の児童たちも粗末な椅子に座って、習近平氏を礼賛するこの歌を歌わされていた。時計の針が文化大革命期に逆戻りしたかのようなキャンペーンは各地で見られた。貴州省の『黔西南日報』は習近平氏を「偉大な領袖(りょうしゅう)」、北京市の蔡奇党委書記は「英明な領袖」と呼んだ。遼寧省の李希党委書記(当時)は「習近平思想はわれわれの灯台だ、進むべき道を指し示す北斗星だ」と表現し、常万全国防相は「総書記の演説は天地を感動させる力を持ち、大愛無疆だ」と持ち上げた。
 カリスマ的支配は、古くから行われてきた権威に基づく伝統的支配と、成文化された秩序による合法的支配と鋭く対立する。伝統は前例にこだわるし、官僚支配は規則に束縛されるからだ、とウェーバーは喝破している。案の定、毛沢東治下の中国は1958年から人民公社の公有制を導入した際に経済の破綻をもたらし、およそ「3千万人」が餓死した。続く66年からの文化大革命期でも数百万人が政治的テロの犠牲となった。国内だけではない。北京は「世界に革命思想を輸出」して、各国の内政に干渉した。一例を挙げると、カンボジアでポル・ポト派による大量虐殺が発生したのは、まさに毛沢東の暴力革命が導入された結末である。
 毛沢東流の統治は世界にも被害を与えたため、その弊害を清算しようとして中国は82年に憲法を改正した。「毛沢東のような人物が再び現れたらどうするのか」と深く憂慮し、個人に権力が極端に集中するのを是正しようと提案したのが習仲勲という政治家だった。今日、習仲勲の憂慮は現実化しつつある。権力を一身に集めるだけでなく「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」を憲法に書き込み、国家主席の任期制限を撤廃し、毛沢東以上の野心をのぞかせているのが、他でもない彼の息子である。戦乱を生き抜いた毛沢東はカリスマ性の確立に成功したが、戦功のない習近平氏にその可能性はあるのだろうか。(文化人類学者、静岡大学教授・楊海英、産経新聞「正論」 2018.03.01

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