「恐怖の独裁者」プーチンが望む世界
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「恐怖の独裁者」プーチンが望む世界

ロシアのプーチン大統領が再選を決めた。任期満了の2024年まで務めると、四半世紀近い長期政権となる。「大国ロシア」の復権を掲げ、なりふり構わぬ強権ぶりを誇示するプーチン氏。米欧との対立を深め、新冷戦時代に突入した世界はどこへ向かうのか。「ロシアなき世界は不要」とまで言い放つプーチンの野望を読み解く。

ロシアのプーチン大統領が再選を決めた。任期満了の2024年まで務めると、四半世紀近い長期政権となる。「大国ロシア」の復権を掲げ、なりふり構わぬ強権ぶりを誇示するプーチン氏。米欧との対立を深め、新冷戦時代に突入した世界はどこへ向かうのか。「ロシアなき世界は不要」とまで言い放つプーチンの野望を読み解く。

「ロシアなき世界は不要」の意味

 「私は解任されました。首相代行はプーチンが務めます」。1999年8月、当時のロシア連邦首相、セルゲイ・ステパーシンの電撃解任に世界は騒然となった。初代大統領、エリツィンは無名に等しいプーチンを首相代行に抜擢し、わずか一週間後にロシア下院の賛成多数で首相に任命されたのである。
 当時、彼の名は日本でもほとんど知られておらず、当時の新聞報道では陰の権力者という意味を込めて「灰色の枢機卿」と形容され、「元スパイ、陰の素顔 冷徹? 推進役? ロシアのプチン首相」という見出しをつけて報道したメディアもあった。旧ソ連崩壊後、秘密警察の国家保安委員会(KGB)を引き継ぎ、治安維持のために防諜(ぼうちょう)や犯罪対策を担った「ロシア連邦保安庁(FSB)」の長官を務めたプーチンは、こうして国際社会の表舞台に現れたのである。
 エリツィンが絶大な信頼を寄せ、首相代行当時に異例とも言える大統領の後継指名を受けたプーチンは、今回の大統領選で通算4選となる。76・6%という過去最高の得票率で再選を果たし、任期満了となる2024年まで務めれば、首相時代を含め四半世紀に及ぶ長期政権となる。
 「結果は高い信頼の表れだ」と勝利宣言で誇示したとはいえ、反体制派指導者のナバリヌイの立候補を最後まで認めなかった。本来であればナバリヌイが出馬した選挙で圧勝した方が権力の正統性は高まったはずだが、専門家の間ではプーチンが2012年の選挙公約の実現にことごとく失敗し、求心力を失いつつあるという指摘もある。プーチンにとっては、選挙の公平性よりも圧倒的勝利を演出する方が重要だったのであろう。
 私が2年前にモスクワ大学を訪れた際、興味深い世論調査をみせてもらった。ロシアの全国紙「コメルサント」が毎年実施している世論調査で「マスメディアは完全に自由であるべきである」という質問に対し、肯定的な回答が圧倒的に少なかったのである。このときの具体的な数字は思い出せないが、昨年度の同調査の数字をみると、同じ質問に対して「マスメディアに自由が必要である」と考えている国民はわずか25・8%。学生の間では、報道の自由があっても国益が損なわれる可能性があれば、国家は報道の自由を制限してでも危機に対処すべきだという意見も聞かれた。
 こうした国民感情の上に成り立つ体制であれば、これも形を変えた「民主主義」と表現することもできるかもしれない。だが、米欧との対立を深め、なりふり構わぬ強権ぶりで安定政権を実現したプーチンの手法は、民主主義を形骸化させ、内外に影を落とす。英国で起きた元ロシア諜報機関員の暗殺未遂事件や、戦略核兵器の増強などは「力による支配」を世界に誇示し、いたずらに緊張を高めるどころか、一層孤立を深める事態になりかねない。
 自由主義と民主主義が衰退する時代にあって、「ロシアなき世界は不要」とまで言い放ったプーチン政権はどこへ向かうのか。注目したい。(山本みずき、文中敬称略)

なぜ長期政権を欲したのか

平然と嘘をつける指導者

暗殺は「通常業務」

遅かれ早かれレームダック化

「誰も耳を貸さなかった」

プーチンの「コンプレックス」

ロシア・トゥワ共和国で、上半身裸で釣りを楽しむプーチン大統領(ロシア大統領府提供・タス=共同)
 ロシアのプーチン大統領は元ソ連国家保安委員会(KGB)のメンバーであり、柔道も黒帯の腕前だと聞く。閣僚会議では「太った閣僚は減量するように」と指令を発する一方、トラ狩りに出掛け、自身は上半身を裸になって写真を撮らせる。とにかく、プーチン大統領は「強い」というイメージに非常に拘(こだわ)る。フロイト流の精神分析をするならば、プーチン氏は自身の弱さをカムフラージュするために「強さ」を演出し、「自分が強い」ことを自他と共に認めさせようと腐心している、ということになるかもしれない。
 もう少し考えよう。プーチン氏はどうして「強さ」に異常に拘り、「強さ」を誇示することに時間と努力を費やすのだろうか。彼は決して単なるナルシストではない。プーチン氏は自身が弱く、ロシアが弱いことを誰よりも知っている。だから、強くありたい、ロシアは強くあるべきだ、という政治信念が生まれてくる。自身の弱さを本当に熟知しているから、「強さ」にあれほど憧れるのだろう。
 ソ連共産党時代の多くの共産党幹部たちは今でも最後のソ連大統領だったゴルバチョフ氏を憎悪している。「あいつがソ連を崩壊させた」「あいつが全てをダメにした」と吐き出すように呟(つぶや)く。最後のソ連大統領だったゴルバチョフ氏は冷戦を平和裏に終焉(しゅうえん)させた政治家として欧米では高く評価されているが、旧ソ連、特にロシア国内では、むしろ嫌われている政治家の一人だ。同氏への評価は国内外で大きな格差がある。
 ゴルバチョフ大統領はその伝記の中で「冷戦時代の軍需拡大路線でわが国は米国の強さに敗北を喫した」と告白している。ソ連が米国に敗北宣言をしたわけだ。ソ連の解体を体験したプーチン氏は弱い国家の運命を肌で感じてきたはずだ。旧ソ連の後継国家、ロシアの大統領となったプーチン氏が機会ある度に自身の「強さ」やロシア民族の大国意識を表明するのは、“冷戦コンプレックス”のなせる業だろう。知人のロシア人は「プーチン氏はとにかく強さを愛する。弱さを認めたくないし、他者に対しても強さを要求する」と証言する。
 北方領土問題でロシアと対立する日本は、強さを愛するプーチン氏を相手にしていることを忘れないことだ。同氏は自分を知っている。自分が誰かを知らずに吼(ほ)えている俗人ではないのだ。(長谷川良「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2012.08.21

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