
151
「引っ越し難民」もアマゾンのせい?
「何千もの小売業者を倒産に追いやっている」。米インターネット通販最大手、アマゾンについて、トランプ大統領の「口撃」が止まらない。日本でもアマゾンの台頭でさまざまなサービスが打撃を受けて久しいが、この春急増した「引っ越し難民」の背景にもアマゾンの影響があるという。なぜか。
「何千もの小売業者を倒産に追いやっている」。米インターネット通販最大手、アマゾンについて、トランプ大統領の「口撃」が止まらない。日本でもアマゾンの台頭でさまざまなサービスが打撃を受けて久しいが、この春急増した「引っ越し難民」の背景にもアマゾンの影響があるという。なぜか。
危機的なドライバー不足
高齢者の中には店舗が近くにあっても自宅が高台にあったり、エレベーターのない集合住宅に住んでいたりして、「重い荷物を持って階段を上るのは大変」といった悩みを抱える人は少なくない。商品を自宅の玄関先まで運んでくれるサービスは魅力的というわけだ。

だが、インターネット通販が少子高齢社会の「買い物弱者」問題の切り札になるのかといえば、疑問である。当然のことながら、いくらインターネット通販が充実しても、商品を運ぶには人手が必要だ。ところが、トラック運送業界は、少子化による若者不足に加えて、規制緩和による競争激化もあり、危機的ともいわれる運転手不足に直面している。ドライバーの高齢化も進んでいるのだ。国土交通省の資料によれば、2014年時点で40~50代前半の占める割合は44・3%にのぼり、全産業の平均34・1%に比べて高い水準となっている。平均年齢でみても全職業(42・2歳)に対し、大型トラックは47・5歳、中小型トラックは45・4歳だ。これでは、中長期的に若手・中堅層が極端に少ない「ゆがみ」が生じる可能性が大きい。人手不足の背景には、インターネット通販の拡大に伴うきめ細かなサービスを求められ、負担が大きくなっている側面もある。
今後、「買い物弱者」対策として普及すればするほど需要が掘り起こされ、ドライバー不足がさらに深刻化しかねない。結果として、少子高齢社会の「切り札」として期待するインターネット通販が行き詰まるという皮肉を生むことになる。ドライバー不足を見込み、無人運転の自動車開発も進められてはいる。近い将来、普及が進むかもしれない。だが、トラック自体が荷棚から個別の配達商品を選別し、重い荷物を階段の上の玄関先まで運んでくれるわけではないだろう。
政府内ではトラック輸送に代えて、ドローンによる配送も検討されているが、どれだけの重量のものを運べるのか疑問だ。そもそも大規模な数のドローンが頭上を飛び回るようになったのでは、危険で外出するのも困難となろう。自動車事故を誘発しないかという懸念も出てくる。少子高齢社会においては、インターネット通販に過度に依存するのは難しいということである。インターネット通販を「買い物弱者」対策に生かしつつも、ドライバーが少なくなっていく状況に対応するには賢く立ち回るしかない。
例えば、日用品は、なるべくインターネット通販に頼らないよう心掛けるだけで随分違ってくるだろう。商店が無くなった地域には、いくつかの個人商店からなる「巡回型商店街」を都道府県が主導する形で創設し、日にちを決めた移動マーケットを開く。地域ごとに荷物を受け取る物流拠点を定め、そこまで取りに行けばドライバーの負担は軽減される。取りに行けない高齢者には、住民ボランティア組織「地域配送隊」を結成し、サポートすることを考えてもよいだろう。働き手世代が少なくなる中で、なるべく便利なサービスを残していくには、これまでとは違う工夫がいる。(河合雅司「日曜講座 少子高齢化」産経ニュース 2018.3.18)