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通信の自由か、ブロッキングか
海賊版サイトへの接続を強制的に遮断する「ブロッキング」をめぐり、政府の有識者会議が紛糾した。著作権保護か通信の自由かで意見が分かれ、ネット上では「場外乱闘」も続く。結局、有識者会議は流会となったが、法制化の思惑をよそに揉めに揉めた議論の続きをiRONNAでお届けしたい。
海賊版サイトへの接続を強制的に遮断する「ブロッキング」をめぐり、政府の有識者会議が紛糾した。著作権保護か通信の自由かで意見が分かれ、ネット上では「場外乱闘」も続く。結局、有識者会議は流会となったが、法制化の思惑をよそに揉めに揉めた議論の続きをiRONNAでお届けしたい。
規制は新法が望ましい
「漫画村」などの海賊版サイトについて、政府がインターネット接続業者(ISP)による自主的な「サイト・ブロッキング(遮断)」を促すなどの緊急対策を決めた。NTTは接続遮断を発表した。ブロッキングには、どのような問題があるのか。そして違法サイト対策はどのような手法が望ましいのだろうか。
ブロッキングとは、インターネット接続業者がインターネットを通じて出入りする情報を監視し、アクセス先への接続を拒否、遮断する技術である。ブロッキングを行うことは、憲法で定められている通信の秘密を侵害する恐れがあることから、しっかりとした法的根拠が求められる。政府は、一定の緊急避難の要件があればいいとしているが、日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)などから反対声明が出されている。

政府がいう緊急避難は、(1)現在の危難(2)補充性(3)法益権衡である。それぞれ、(1)危難が差し迫っている状況があり(2)その危難を避けるためやむを得ない場合で(3)生じた害が避けようとした害を超えない場合である。なお、児童ポルノについてはすでにブロッキングが行われている。具体的には、警察庁の委託団体であるIHC(インターネット・ホットラインセンター)が、ネット利用者らから通報を受けた違法情報等(児童ポルノや違法薬物広告など)について、警察への情報提供やサイト管理者への削除依頼を行う。その次に、サイト管理者らへの対応依頼では削除されない児童ポルノ情報について、民間団体であるICSA(インターネットコンテンツセーフティ協会)が、ISP、検索事業者、フィルタリング事業者らに通知してアクセス・ブロッキングなどを実施している。
ただ、今回は対象を児童ポルノ以外にも広げる措置であり、当初児童ポルノのみに限定してブロッキングするとしていた政府の運用拡大に疑問を持つ人も少なくない。ブロッキング技術については、それを回避する手段もあり、それほどアクセス禁止の実効性は高くないとする意見もあるが、世界各国では実際にいろいろな分野でブロッキングが行われているのは事実だ。
もっとも、検閲が平然と行われている中国などは別として、先進諸国では通信の自由や検閲禁止が憲法などで定められていることが多いので、ブロッキングは立法措置や裁判所の許可のもとに行われるのが普通である。英国ではサービス提供者への差し止め命令が制度化されている。米国では行政によりドメイン差し押えが行われ、ドイツではブロッキングに対する最高裁判決が出ている。日本でも、政府による検閲となれば、憲法議論が避けられない。何らかの規制はやむを得ないというのも理解できなくはないが、その手続きが問題だ。新規立法措置か裁判所の関与の下で規制が行われるのが望ましいだろう。(「日本の解き方」元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一 zakzak 2018.04.27)